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348話 昭和48年1月3日 初春押しかけ女房 沢田雅美 山田太郎

お正月。三河漫才、羽根つき、獅子舞八五郎は楽しそうに往来を走り回っている。平次は年始の挨拶に樋口宅へ。しかし、にせ一分銀が出回っているとのことで、正月から御用。そんなとき佐倉から来たという娘、おたみが平次を訪ねてきた。なんと平次の妻になるためだという。驚いたのはお静。人違いとわかったものの、平次の名を騙り、朱房の十手を振り回されては放ってはおけない。平次はにせ平次、飾り職の半次を見つけたが、半次はなんとにせ一分銀を持っていた

 ゲスト 沢田雅美さん(おたみ)、山田太郎さん(半次)

 にせ平次が出てくるエピソード。#25「ふたり平次」、#644「にせ平次奮戦記」がにせ平次がでてくる話として記憶にあります。

 平次の紋付(違い柏)袴姿がみられます。八五郎は親分からお年玉をもらっていたのですね。大人なのに?

 何と言っても、平次が商人のふりをして、にせ平次に近づき、いろいろ情報を仕入れていく会話が面白かったですね。調子のいい商人と岡っ引きとの話し方、仕草の違いにご注目。

 にせ平次といえども、「十手はみだりに振り回しちゃいけない」とか「人のおごりは受けない」とか一応、岡っ引きの心得はあって、可笑しかったです。

 ラストの立ち回りでは、にせ平次がいきなり、敵の懐に飛び込んだので、平次は着物をはしょる暇もなく、着流しのままでの立ち回りでした。

 お縄になった半次。樋口と平次の粋なお裁きで解き放ちになりました。

 半次役の山田太郎さん、「新聞少年」の歌が懐かしく思い出されます。

 半次の持っていた特製の長い十手普通、肘と拳骨を足した長さのようです。平次のも見栄えをよくするため、橋蔵さんが長めにしたとか。

 

※押しかけ女房、来る。

 平次の家。

おたみ「ごめんください…ごめんください」
お静「はい」
おたみ「神田明神下の銭形平次親分のうちって、こちらでございますか」
お静「はい」
おたみ「あ〜、やれやれ、随分捜しちまってね、あの人ったらね、江戸で銭形平次って言ってくれりゃ、野良犬だって知ってるなんて…それほどでもないわねぇ」
お静「あのぅ」
おたみ「出かけたの?親分は」
お静「ええ」
おたみ「あっそう、それじゃ悪いけど上がらせてもらうわ」
お静「あら、ちょっと、ちょっと、あのぅ」
おたみ「いいの、いいの、どうぞおかまいなく。足なんてちゃちゃっと拭けばそれでいいんだから」
お静「あのぅ、失礼ですけれども、どちら様でしょう」
おたみ「あたし?あたし、あのぅ、佐倉のおたみですよ」
お静「佐倉のおたみさん?」
おたみ「ええ、そう言うあなたは誰?」
お静「私は平次の家内ですけど」
おたみ「おかみさん?」
お静「ええ」
おたみ「うそだァ〜」
お静「うそ?」
おたみ「だって私が平次のおかみさんだもん」
お静「え〜っ」
おたみ「なんてまぁ、図々しい、平次のおかみさんだなんて!よくもまぁ、そんな白々しいことを」
お静「あっ…あのひょっとしたら、あなたどこかこの辺(自分の頭を指差して)の具合が悪いんじゃないかしら」
おたみ「まぁ、私のこと気違いだなんて!くやし〜い!」

 おたみ、お静に掴みかかる。お静が押しやったところへ八五郎が入ってくる。

八「ど、どうしたんです?こりゃ」

 平次の家の中。

八「ふ〜ん、なるほど。そいつはね、おまえさん、その男に騙されたんだよ」
おたみ「騙された?」
お静「そうよ、そうに決まってますよ」
八「ええ、一体どんな男だ?えっ?顔つきくらい覚えてんだろう」
おたみ「当たり前ですよ。夫婦約束までした人を忘れたりするもんですか」
八「だからよ、どんな男かって聞いてんだよ」
おたみ「ええ、口元がこう、きりっと締まっていて…」
八「ふ〜ん、…なるほど」
おたみ「まるで役者にしたいような、いい男で」
八「ふ〜ん、その辺は、まぁ、ぴったりだなぁ」
おたみ「年はたしか、辰って言ってたから、二十三」
お静「二十三?」
八「あっ、いけねぇ、いけねぇ、いくら、うちの親分が図々しくたってなぁ、とても二十三じゃ通らねぇや、ねぇ、姐さん?」
お静「あら、そうかしら(プイと横を向く)」
八「そうかしらって…困っちゃうな、こんなところで惚気られちゃったら…」
お静「うふふ、まぁ、とにかくね、そろそろうちの親分も帰ってくるから本人をとっくり、その目で見て、で、納得がいったら、引き上げてもらいましょ、わかったわね」
おたみ「はい…」

* 平次とにせ平次

 飲屋。

半次「(平次の酌を受け)しかし、おめぇも随分物好きな男じゃねぇか」
平次「いえね、親分ね、どういうわけかね、私(わたくし)は好きなんですよ、ええ、生涯で一度でいいからね、あの朱房のついた十手をこう(十手を持つ仕草)こう持って御用だ!なんてやってみたくてしょうがないんですよ」
半次「そうは言ってもな(腰から朱房のバカでかい十手を取り出す)こつは、そうみだりに振り回しちゃならねぇもんなんだぜ」
平次「すごいねぇ〜、ちょいと(十手を手に取る)こりゃまた、立派な十手だ。彫り物入りですね」
半次「御用聞きといってもな、八丁堀の旦那から頂くお手当てはしれたものなんだ。そこでみんな、それぞれ手に職を持ってるんだ。おりゃな、昔から手先が器用なもんで表看板は飾り職人ってことになってるんだよ」
平次「なるほど、それじゃ、これは親方がご自分で?」
半次「まぁな、言っちゃ何だが(平次から十手をとる)この江戸中でこれだけの代物を持っているのはこの俺ひとりくらいだぜ」
平次「ふ〜ん、親分、聞こう、聞こうと思っていたんですがね、去年の十月ごろ、佐倉の方におめぇさん、行っちゃいませんか」
半次「佐倉?」
平次「ええ、確か、吉野家という旅籠で…」
半次「なんでぇ、なんでぇ、おめぇ、それを知ってるんでぇ」
平次「いや、やっぱり、こりゃ驚いた。世間は狭いねぇ。いえね、私もね丁度そのとき吉野屋に泊まりあわせていたんですよ」
半次「何、おめぇも!」
平次「へぇ、銚子の商売へ行った帰りに」
半次「あぁ、そうかい、いやね俺もあんとき、ちょっと鹿島の方へな…」
平次「やっぱり、あの…御用の筋で?」
半次「いやいや、おらぁ、ちょっと飾りの方の仕事でな」
平次「はぁ、待てよ、すると親分?飾り職人の半次というのは世を忍ぶ仮の名、実はおまえさんは銭形の平次親分だね?」
半次「えっ」
平次「そうだ、忘れもしないねぇ、吉野家で土地の博打打ちがあばれたとき、おまえさん、神田明神下の銭形平次だって、確かにこの耳で聞きましたよ」
半次「なんでぇ、そこまでお見通しじゃ、嘘のつきようもねぇや」
平次「えっ!じゃやっぱり」
半次「あぁ、いかにも俺は銭形の平次よ」
平次「アハハハ、嬉しいねぇ、親分さん、さささ、いかがです(酌をする)私もね、かねがねお噂はお聞きしてたんですよ、ええ。そうですか、おまえさんが、かの有名な銭形の…たいしたもんだねぇ、…え〜待てよ、親分のお住まいは上野広小路裏と…神田明神下とはだいぶ見当違いで…」
半次「あ、う、うん、あのな、素人衆はご存知ねぇがな、俺くらいの御用聞きとなるとな、江戸中のあちこち、それぞれ足場ってものをもってるんだ」
平次「なるほどねぇ、例の隠し宿って奴ですね、いやぁ、恐れ入った。さすが銭形の親分だ。いいお方とお近づきになれました。さぁ、さささ、え〜ぐっとね、遠慮なしで空けておくんなさいよ、え、へへへ…おっ、ねえさん、酒がきれたよ」
店の娘「すいません、もうおしまいなんですけど」
平次「おしまいだ?」
店の親爺「申し訳ございません。松の内は早仕舞いにしておりますんで」
平次「なんだい、せっかく話が面白くなってきたのに。しょうがないね、いくらだい?」
半次「おっとっとっと、勘定は俺に任せてくんな」
平次「そんな、親分」
半次「いいから、いいから、俺もね十手を預かってる男だ、めったなことで人のおごりは受けねぇことにしてるのよ…親爺、これで足りるかい?(一分銀を三枚おく)」

 平次、その一分銀を見て目つきが変わる(岡っ引きの目!)

親爺「ありがとうございます」
平次「ああ、ちょっと待った!(一分銀を手に取る)」
半次「な、なんでぇ」

 平次、そばにあった薬味入れ(?)で一分銀を手のひらの上で割り、半次に見せる。

平次「こりゃ、にせ金だ」

 驚く半次。

 

* ラストシーン

 平次の家。

お静「えっ、それじゃ半次さん、島送りに!」
平次「島送りか、獄門か、そいつは俺たち岡っ引きの決めることじゃねぇ」
お静「でもそれじゃ、あんまり、あんまりですよ」

 平次が出かけようとするとおたみが帰ってくる。

おたみ「ただいまぁ」
平次「おぅ…おたみさん、おめぇもよく聞いてくれ。半次って奴は決して悪い奴じゃねぇ。あの清六のうちで、てめぇの恐さも忘れて飛び込んでいったあの姿を見て、俺は奴の気性に感心した。けどな、おたみさん、お上もはばからず、にせの十手を振り回した罪は俺一人の手じゃ、どうにもならねぇ…また俺たちが預かってる十手というものはそれだけ重いものなんだ。だからよ、そこんとこはわかってくれ、なっ」
おたみ「親分さん、それを承知でお願いします。半次は私の手できっと真人間にしてみせます。どうぞ、今度だけはお見逃しを」
お静「おまえさん…」
平次「出かけるぜ」
お静「おまえさん」

 黙って出て行く平次。

 番屋。

万七「しかしよォ、平次の奴も気がきかねぇじゃないか」
清吉「そうそう、何たって野郎がいなかったらね、にせ金の糸口は掴めなかったんですからね」
万七「まっ、俺だったらよ、手柄に免じて十手の方は帳消し、それがおめぇ、お上のお慈悲ってもんだ」
八「だけどね、親分、うちの親分だって腹が立ちますよ。平次の名前で女までひっかけちゃったんですからね」
清吉「いいじゃないか、うちの親分なんて男もひっかからねぇ」
八五郎と清吉「アハハハ…」
万七「なんだい!」

 樋口と平次が入ってくる。

平次「おう八、…連れて来な」
八「へぃ……(牢屋の前で)おい、半次、お取調べだ。立て……親分」

 半次、樋口の前に座る。樋口の脇に平次。

樋口「飾り職人、半次だな?」
半次「へぃ」
樋口「(朱房の十手を差し出す)こいつに見覚えはあるか?」
半次「へぃ」
樋口「おまえが作ったものか?これは何だ?」
半次「へっ?」
樋口「何に使うもんだ?」
半次「いやぁ、ごらんの通り十手でござんす」

 平次、ニタッと笑う。

樋口「十手だと?黙れ!十手にはお上で決めた寸法、規格がある」

 樋口、平次の十手と比べる。

樋口「これが、十手というものだ。おまえの作ったものはみかけはバカに派手だが、十手でも何でもない。だだの金棒だ」

 万七、清吉、八五郎、樋口の意図がわかった様子。

樋口「どうだ、平次、こいつはだだの金棒と思わんか?」
平次「へぇ、ひょっとするとこいつはただの火箸かもしれません」
樋口「はっ、火箸か、ハハハ、たいそう風変わりな火箸だな」

 皆、大笑い。半次だけがバツの悪そうな顔。

 平次の家。

 おたみ、旅仕度をし、出て行こうとしている。

お静「おたみさん、ねぇ、お待ちなさいったら」
おたみ「いいえ、もうほっといてください。あぁ、もうあたし、二度と江戸なんかに来る気しない!こんな冷たいところ、とっても暮らせやしませんからね」

 おたみ、玄関を出る。

お静「おたみさん(おたみに続いて出る)」

  平次、八五郎、半次が来る。

おたみ「あんた…」
お静「おまえさん」
平次「おぅ、どこへ行こうってんだ、おたみさん」
おたみ「……」
半次「……」
平次「おぅ、おい、おめぇも何とか言ったらどうだい」
半次「俺んちはな、銭形の親分が知ってらぁ、あとで寄ってくんな」

 半次、急に走り去る。

平次「おぅ、おい」
おたみ「おまえさん!(半次の後を追う)」
お静「うふふ、おまえさん(平次に寄り添う)」

 八五郎、目のやり場に困っている様子。
 半次、おたみの肩を抱き、通りを歩いていく。


349話 1月10日 わんぱく純情 磯村みどり 三島ゆり子

 

今日も庄太は近所の人たちにいたずらをして回っている。万七親分まで庄太の嘘に騙されて怒り心頭。母子家庭の庄太。その母お島も遅くまで料亭で働いているので、寂しさからくるいたずらなのだろう。ある日、庄太は殺人事件を目撃する。日頃が日頃、おおかみ少年よろしく、誰も庄太の言うことを信じようとはしない。しかし、平次だけは庄太を信じた。がその庄太がかどわかされてしまう。

 ゲスト 磯村みどりさん(お島)、三島ゆり子さん(お滝)、小松陽太郎さん(庄太)

 大人だけでなく、子供の心もしっかり理解できる親分。子供を信じたことが下手人逮捕に繋がります。子供も平次のあたたかさがわかり、信頼します。平次の説得のある意見が光ります。

 万七は平次に土下座をしてまで手柄を譲ってもらいます。平次は三輪だってたまにはいいとこを見せたいだろうと快く伝次を渡します。でも伝次は牢破りしてしまい、せっかくの手柄もおじゃん。下手人の前で手柄を譲ってもらうなんて、万七親分かっこ悪いですよ。

 もと軽業師の嘉藤次と平次との対決。平次のバック転が見られます。

 伝次の手配書に「甲比丹(カピタン)の伝次」とふたつ名になっていました。カピタンとは英語のキャプテン(船長)のこと。南蛮船の船長を意味するようです

 

※平次と庄太の出会い。

 夜、往来で庄太とあんまの富ノ市が揉め、平次が仲裁に入る。

平次「おい、坊や、目の不自由な人を怒らすなんて、よくねぇぞ」
庄太「うん、でもほんとうに知らねぇでやったんだよ」
平次「あ〜、わかった、わかった、坊やの家はどこだ?近くまで送ってやるよ」
庄太「(平次の腰の十手を見て)おじちゃんも目明しの親分だね」
平次「ハハハ」
庄太「それにしちゃ、優しいんだなァ、万七親分とは段違いだよ」
平次「三輪の親分を知っているのか?」
庄太「ああ、近くなんだ」
平次「ほ〜う」
庄太「夕べ、あの親分が手柄を立てたって嘘だろう?そんなことないよね」
平次「いやぁ、本当だよ」
庄太「やっぱりちぇっ、面白くねぇな」
平次「どうして」
庄太「だって、あの親分、おっ母に変なことばっかりおいらのちゃんになってやるだの冗談じゃねぇ!」
平次「アハハハ」
庄太「笑い事じゃねぇよ、おじちゃん」
平次「あぁ、すまねぇ、そうとも笑い事じゃねぇよな。おっ母が心配しているぞ、早く行こう、なっ、え(庄太の元気が無い)どうしたんだ?なんだ男のくせにしっかりしろよ」
庄太「(平次の顔をみつめ、いきなり平次の胸に飛び込む)おじちゃん!」
平次「アハハ、元気を出すんだい、え(優しく庄太の肩をたたきながら)」


* 平次の願い。庄太の母へ。

 料理屋「ひさご」の裏口。

平次「女手ひとつで坊やを育てていくのは、生易しいことじゃねぇ。だが、おめぇさんにはおめぇさんの思案があってのことだろうがどうだ、出来ることなら、せめて夜だけは坊やのそばについててやることが出来ねぇかい?あの子はいい子だ。それだけに傷つきやすい。子供心についた傷やしみは先にいって大変なことになりかねねぇ。今が一番大切な時なんだ。おめぇさんがついててやらなきゃいけねぇ。なっ、まぁ、余計な差し出口と思わねぇで坊やの為に考えてやってくれ。何かの折にゃ、俺が力になる。じゃ、あの子が気になるから、これでな」
お島「あ、あの庄太の身に何か、間違いでも
平次「そんなことがあってたまるかい!」

 

* ラストシーン

 櫓の上に庄太がいる。地面に布団が敷き詰められている。

平次「さぁ、坊や、もうでぃじょうぶだ。気をつけて降りてくるんだ」
庄太「うん」

 庄太が梯子段に足をかけると朽ちていたため梯子段が落下。

お島「庄太!大丈夫かい!」
庄太「うん、(恐くなり、降りられない)」
平次「さぁ、庄太、ここへ飛び降りるんだ!わかるな、布団の上だぞ」
庄太「こわいよ〜」
平次「目をつぶっちゃいけねぇ、さっ、目をあけてこいつをめがけて飛べ!」
庄太「飛べないよ、降りられないよぉ」
平次「おじちゃんが見ててやる。おじちゃんがついててやるぞ庄太、さぁ、来い!」

 庄太、飛び降りる。

お島「庄太、庄太」
庄太「おじちゃん!(平次に抱きつく)」
平次「庄太」
庄太「おじちゃん、ほんとだったろう?嘘じゃねぇだろう?わかってくれたかい?おじちゃん」
平次「とっくにわかっていたさ、おぅ、俺は坊やを疑ぐったりしねぇ」
庄太「さ〜すが〜」
平次「坊や、見たか、悪い奴は全部捕まったんだ」
庄太「うん」
平次「(万七をはじめ、岡っ引き、捕り方に向かって)見ろ、みんな、子供の心は鏡みてえなもんだ。こっちが歯をむきゃ、向こうも歯をむく。笑いかけりゃ、笑い返してくる。どうしてそれがわからねぇ!わかってやろうとしなかったんだ」

 万七、清吉、喜造(岡っ引き)のバツの悪い顔のアップ。見つめ合う母子。母子を優しく万七たちが囲む。

350話 1月17日 三人の牢破り 森次浩司 森秋子

 

小伝馬町の牢から三人の咎人が逃走。その中のふたり、政吉と仙次は隼組の一味だった。鉄砲傷を負った政吉が飛び込んだのは飲み屋「一福亭」。おかみのおちかは咎人と知りながら、政吉を匿う。隼組だからと謎めいたことを言う。平次は神田界隈に隼組の頭目吉三がいると確信。小間物屋相模屋の裏口から逃走したもうひとりの咎人、五郎吉が出てきたことから相模屋を疑う。一方、おちかの心の中に政吉に対する思いが芽生えていた。

 ゲスト 森次浩司さん(政吉)、森秋子さん(おちか)、外山高士さん(相模屋)

 久々の夫婦水入らずの平次とお静。晩酌をする平次の顔をお静が色っぽい目でみつめていました。

 八五郎は卵とじも好物なんですね。

 万七は政吉の手がかりを掴むため、片っ端から医者を当たってへとへと(政吉が怪我をしていることから)。しかし、手がかりなし。平次は医者でなければ薬を買っているのではと推理。万七は薬屋まで当たるのはもうたくさんと平次に食って掛かります。「俺をうろうろさせて、その隙に手柄を独り占めする魂胆だろう。そうは問屋がおろさねぇ!」と。
 清吉が助け舟。「平次親分がそんなケチな真似をするわけはない。どうもこのごろ(万七親分が)ひがみっぽくていけねぇ、年のせいかな?」ですって。結局、万七は薬屋巡りからとんずら!

 

        久々の夫婦水入らず。

 

 平次の家。平次が晩酌をしてる。

お静「じゃ、今夜はもう出かけなくっていいんですか?(平次に酌をする)」
平次「あぁ、八の奴が見回りをひとりでやってくれると言ってくれたんでな。まっ、このところ、俺がけぇらねぇんで、おめぇが寂しい思いをしてるんじゃないかってんで、奴としては気を遣ってんだい」
お静「まっ、ふふふ、八っつあんたら
平次「おぅ、明日の朝、見回りからけぇったら、奴の好物な卵とじでもこしらえといてやんな」
お静「えぇ、そりゃもう(平次の顔を色っぽく見つめる)」
平次「久しぶりだな。こうやって、おめぇの酌でよ、酒を飲むなんてひと月前、隼組が札差の三河屋を襲って五千両盗み出したあの一件以来だあ〜」
お静「あれから、毎晩、毎晩、見回りに駆り出されて家でゆっくり夕飯をとることもありませんでしたものね」
平次「う〜ん、三河屋が襲われた夜、お縄にした一味のふたりは伝馬町送りになったものの頭目、隼の吉三を初め他の連中の手がかりは今だに何ひとつ掴めねぇ。この三年あまり、関東一円を荒らしまわった奴だ、いつ何時また、動き出さないとも限らねぇ。まぁ、当分見回りを続けなくっちゃなるめぇ」
お静「そうですか(がっくりしたように)。ふふ、でもよかった。今夜は帰ってきてくれたんだし、八っつあんにお礼を言わなくっちゃ。風はひどくなる一方だし、何だか私ひとりじゃ、とても心細くって
平次「おいおい、目明しの女房がそんなに頼りなくてどうすんだい」
お静「だってすみません」
平次「ハハハ、何も謝らなくたっていいんだよ」

 盃を空けたとたん、玄関の開く音。

八の声「親分!たいへんだぁ〜」

 八五郎が飛び込んでくる。

平次「どうしたい?」
八「ろ、牢破りだ!」
平次「何、牢破りだ?!」
八「へぃ、鍵番の旦那を殴り倒して、咎人が三人逃げたんですよ!その中のふたりは例の隼組の片割れ、政吉と仙次なんでさぁ」
平次「何!政吉と仙次!」

 

        ラストシーン

 

 一福亭。政吉とおちかが店から出てくる。見つめ合うふたり。政吉、無言で去っていく。おちかも無言で政吉の後姿を見送る。そこへ平次と八五郎。

八「政吉はどこへ?」
平次「戻っていくのさ」
八「えっ?」
平次「逃げだしてきた所へ。自分の足でな」

 平次の家。

お静「(お茶とお菓子を運んでくる)どうでした?政吉さん」
平次「おぅ、すっかり傷もよくなって、思ったより元気そうだった。あれなら、八丈島までの船旅は耐えられるだろうよ」
お静「八丈に着くのはこの月末ですね」
平次「あぁ」
お静「何年たったら戻って来られるんです?」
平次「んまず、三年か五年は戻れめぇな」
お静「そうおちかさん、見送りに?」
平次「来ていたよ。船が沖の方に見えなくなっても、まだじっと見送っていたよ」
お静「でも、おちかさんなら待てますね。たとえ三年が五年になっても」
平次「あぁ、待てるだろう。きっとな」

 平次、お静と顔を見合わせ、庭に降り、盆栽のチェック。

351話 1月24日 女将棋指し 早瀬久美

 

旅の将棋指し、松尾の文吉が殺された。平次は野次馬の中に気になる娘を見つける。文吉の遺品の中に高価な虎斑の駒があり、それは、先の娘、お香代の父の形見だった。将棋指しだった父親は同じく将棋指しの鬼殺しの大五郎に騙され、殺されたのだ。文吉が大五郎なのか?お香代な廻船問屋浜田屋のお抱え将棋しだが、平次は浜田屋の将棋の指し方から浜田屋に疑いを持つ。

 ゲスト 早瀬久美さん(お香代)、河村弘二さん(浜田屋)、村上不二夫さん(山口屋)

 捕り物では名人の平次ですが、こと将棋となると八五郎にもお静にもかないません。平次が将棋の師匠市川太郎松から素人泣かせの鬼殺し戦法を教えてもらい、嬉嬉として帰宅しますが、とっくにお静は知っていて平次はがっくり。親分、無邪気で可愛かったですね。

 お静は鬼殺し戦法は将棋のひとり稽古に必ず載っていると言います。平次はよく本を見ながら詰め将棋をしていますよね、気がつかなかったのかしら。

 

        平次は将棋がからっ下手?

 

 平次の家。平次とお静が将棋を指している。傍らに八五郎。

平次「これで、角で王手とへへへ王が逃げるやな」
お静「いいえ、逃げませんよ」
平次「どうして?」
お静「飛車がきいてます」
八「プーッ」
お静「ただですよ。こんなところに角なんかうったりしたら、うふふ」
平次「あ〜そうかぁ、ただなんだなぁ」
八「あの親分?」
平次「なんだい」
八「ちょっとお尋ね申しますがね、あなた様は本当に銭形平次親分でいらっしゃいますか?」
平次「なんだと」
八「いえね、将棋を見てますと別の人がうってるんじゃないかなぁと心配になってくるんですよ。たとえばですね、この金、これね、これはほんとのバカ金って言うんですよ。バカ金、いやここまでくりゃりっぱな
お静「もう、八っつあん、いい加減にしなさいよ、ふふふ」
八「こりゃもう、ちょっと言いすぎちゃって、アハハあのね、親分、この金はね

 八五郎が将棋に手出しをしようとすると平次が八五郎の手をはたく。

平次「あぁ、もう余計なことすんな!やってんのは俺だい」
八「知ってますとも
平次「へへ、王手だ!どうだ!アハハハ」
八「おっとこんなとこに桂馬、うっちゃって、こりゃとても見ちゃいられませんな、こりゃ」

 八五郎、去る。

平次「何言ってやがんでぇ、畜生、この一手だい!」
お静「桂、ですか
平次「ハハハ、どうだ、決まりだろう」
お静「じゃ、こう逃げたら?」
平次「えっ、逃げんのか」
お静「だって、取ったら詰みだもの」
平次「う〜ん(腕組みをして考えこむ)」
お静「もし親分さん、ちょいとばかり往生際が悪いんじゃござんせんかねぇ。ここまできたら、たとえ太郎松師匠がお見えになっても
平次」あ〜、わかった、わかったよ〜、あ〜しょうがねぇ、負けだ!」

 平次、持ち駒も盤の上に放る。

お静「ほんと、ねっ、ほんとに私の勝ち?」
平次「あぁ、まあな」
お静「それじゃ、宮重のうなぎ、おごってくれるのね?」
平次「あぁ、うなぎでもお寿司でもどこでもおつきあいしますよ」
お静「わぁ〜嬉しい!だってさ、本当に久しぶりなんですもの、ふたりしておもてに出るの。(縁側に行く)私だってたまには人に言われてみたいわよ『おや、おふたりお揃いでどちらへお出かけで?』『え、ちょっとそこの宮重さんまで』な〜んて(大はしゃぎ)」
平次「なんでもいいから、早くしな、ぐずぐずしてやがると、もう八の野郎が
八の声「親ぶ〜ん、たいへんだ〜」
お静「あら〜ん、(がっくりする)」

 

        古女房

 

 平次の家。

平次「浜田屋も将棋を指すのかい?」
八「へぇ、それが親分と同様にね、からっぺたで」
平次「余計なことを言うなぃ」
八「へぃ」
お静「うふふ」
八「どうです?そろそろ、しょっぴいてたたいてみたら三輪の親分も嗅ぎまわってますよ」
平次「な〜に、そのうち女の方からすがって来るよ。あの眼つきは、ど〜もそういう眼つきだぃ」
八「またまた、うちの親分はど〜してこう女に甘いんだろうなぁ」
お静「あら、私には甘い顔ひとつ見せたことないのに」
平次「(ひとりごとのように)古女房に今さら甘え顔ができるかい」
お静「まっ、何ですって、おまえさん」
平次「ん、アハハ、いや何でもねぇ、おめぇはいい眼つきだ」
お静「うふふふ


* 捕り物と将棋

市川太郎松「将棋もね、ここぞと思ったときに攻めそこねるとあとが、なかなかやっかいなものですよ」
平次「師匠、お言葉を返すようですが、捕り物は将棋じゃねぇ、あっしたちの動きひとつで、ひとりひとりの命に係わるかどうか、そういう駒を動かしてるんで

 

        ラストシーン

 

 市川太郎松宅。

平次「やってますね、お香代さん」
太郎松「いやぁ、お香代さんが稽古をつけるようになってから、大変な評判でな、わざわざ遠くから指しに来る天狗連で大賑わいですわ、アハハ」
平次「そうですかい」

 太郎松、天袋から虎斑の駒を出し、盤の上に並べ始める。

平次「おぅ、こりゃ、虎斑の駒ですね」
太郎松「はい。この駒が、考えてみると鬼殺しの大五郎を捕まえたようなもんですよ。金に困った大五郎がこの駒を手放す。将棋好きの間を転々と渡ったこの駒を恐らく賭け将棋で松尾の文吉が手に入れてそしてこの駒を証拠に大五郎を強請ろうとした文吉が殺される。人ふたりの恨みがこもって大五郎が捕まったようなもんでさ。恐ろしいもんですな」
平次「(声を潜めて)おっ、師匠」
太郎松「えっ?」
平次「すいませんが、その素人泣かせの鬼殺しって手を教えちゃくれませんか」
太郎松「え〜、鬼殺しを?」

 平次の家。

 平次、嬉しそうに帰宅する。

平次「(玄関の戸を開け)おぃ、お静!」

 部屋に入る。

平次「おぃ、お静!」
お静「はい」
平次「将棋、将棋」
八「(将棋盤を出して)久しぶりに親分とひとつ
平次「相手はおめぇじゃねぇんだ(平次、八五郎をどける)」
お静「じゃ、あのぅ、私ですか」
平次「おぅ、当たりめぇよ、この間の仇討ちだ。今度俺が負けたらな、寿司でも天ぷらでもなんでも付き合ってやるぜ。さっささへへへ」
お静「おまえさん、妙に張り切ってるみたいだけど、まさか鬼殺しで私をはめようってんじゃないでしょうね」
平次「はっ?おめぇ、鬼殺しを知ってんのか」
お静「ふふふ知ってますよ。角道をあけて、いきなり桂をあげていくでしょ?そんな手、将棋のひとり稽古に必ず載ってますよ」
平次「ちぇっ、何だ、これだからやりにくいよなぁ、全く」
八「へへへ、さぁ、姐さん、代わりましょ」
お静「そう、じゃぁ、私、お茶でもいれましょうね」
八「へへへ、じゃぁ、あっしがね(八五郎がお静の代わりにすわる)」

 平次、ふてくされてゴロ寝。



352話 1月31日 谷中河童横丁 ミヤコ喋々 東三千 任啓子

お仲は大坂から我が子を捜しに江戸へとやって来た。その昔、事情があって小間物屋和泉屋の店先に娘を捨てたのだった。娘を捜すうちに三人のぐれた娘たちと出くわす。その娘たちのした悪さのために羅漢の甚八というヤクザの家に乗り込むはめとなる。そこで何と亭主だった島抜けの仙造と出会ってしまう。仙造は我が子が和泉屋の娘お京と知るや、和泉屋を強請る手段に出る。

 ゲスト ミヤコ蝶々さん(お仲)、土田早苗さん(お市)、東三千さん(おきん)、任啓子さん(おけい)

 かどわかされた娘たちを取り返そうとお仲は羅漢の甚八のところへ乗り込み、啖呵をきります。江戸っ子の啖呵もいいけど、浪花っ子の啖呵もまたいいですね。

 和泉屋の娘お京の祝言に平次、お静、八五郎が呼ばれていますが、八五郎が紋付袴を着ているのは珍しいですね。羽織だけということはあったけれど。

 平次は祝言の途中で抜け出して和泉屋の裏木戸をそっと開けておきます。お仲がそこから庭に入って陰ながら、娘お京の花嫁姿を見られるようにと。情け深い親分です。

 お静が洗濯物を干しているシーンがありました。親分のパッチが二本、竿に干してありましたが、何となく恥かしかった

 「がたろ(河太郎)」とは河童のことを関西でこう呼ぶようです。

 

        大事な務めのひとつ

 

 平次の家。長火鉢の前に平次。お静はお勝手で後片付け。

平次「(みかん大きいので伊予柑などの類?をひとつとって)任せてくれって、胸をたたきやがったい」
お静「えっ?」
平次「いや、夕べ話したあの三人娘よ。(みかんを剥きながら)」
お静「あ〜ぁ」
平次「まぁ、とっ捕まえたところで、へたをすると一生、ひねくれるかも知れねぇ。そう思って、そのお仲というのに預けてみたんだがな」
お静「難しい年頃ですからねぇ」
平次「(みかんを食べながら)あの三人がぐれたについちゃ、わけがあるんだ。親爺が妾狂いをしたり、まっ、義理のおっ母さんと折が合わなかったりおもしろくねぇってんで、誘い合わせて家を飛び出したんだ。暮らしの入り用は家の方から送ってくれるんで、困らねぇにしても、いつまでもあんなことしていたんじゃ、ろくなことになるめぇよ、ん、そこで何とかしてやらなきゃと思ったんだがな」
お静「おまえさんも大変ですね。咎人だけでなくてそんな心配までしなくちゃならないんだから」
平次「あたりめぇさ、罪人を捕まえるだけが、御用じゃねぇよ。ほっとけばどうなるかわからねぇそいつを何とかしてやるのも大事なおいらの務めなんだ」

* 平次の気がかり

 平次の家。平次、長火鉢で煙草。お静、床の用意。

お静「じゃ、さすがの銭形の親分も形無しだったわけですね」
平次「いや、亭主の方はともかくも、おかみさんの方にはなぁ、いやぁ、おふくろってぇのは強ぇからなぁ」
お静「そのお京さんっていうのは、おかみさんがお腹を痛めた
平次「いや、そいつは今、八五郎に他の方を当たらしているんだが、もしかしたらお市の言った通りかもしれねぇ」
お静「やっぱり、捨て子だったんですか?じゃ、実のおっ母さんは
平次「あぁ、和泉屋のおかみさんだよ」
お静「えっ?」
平次「わからねぇか、実も何もたとえ、捨て子だったにしてもお京さんのおっ母さんは和泉屋のおかみさん、ひとりしかいねぇ。他の者が差し出る幕じゃねぇ。まぁ、そいつは当人もわかっていることだろうがな」
お静「当人って、お仲さん?」
平次「うん、だがな、俺の気がかりは島抜けの仙造がもし、こいつを知ったらどう動きやがるか和泉屋夫婦にお京、お仲、仙造、この五本の因縁の糸がへたに絡んでもつれなきゃいいんだが

 

        ラストシーン

 

 和泉屋の庭。雪が降っている。庭に立ち尽くすお仲。そっと傘をさしかける平次。

平次「見たかい?」
お仲「お陰さんで。おおきに」
平次「いい花嫁だったな」
お仲「親分さん、申し訳ございません。ご親切な方に拾って頂いたら、あの娘(こ)は幸せになれるやろと思ってよくよく考えた上のことです。子供を捨てたむごい親には違いございません。泣く資格もございません。でも親分、今日だけは泣かしてもらいます。嬉しいんです。嬉し泣き嬉し泣き泣かしてもらいます」

 お仲、泣く。平次、お仲の顔を見つめ、そして和泉屋の家を見る。「さぁ」とお仲を促しふたり、相合傘で去る。

 日本橋の袂。青空が広がっている。旅姿のお仲、おきん、おけい、お市が居る。見送る平次、八五郎、長屋の人々。

お仲「親分さん、いろいろお世話になりました。ほな、みなさん、これで(お仲たち頭を下げる)」
平次「もう、思い残すことはねぇだろうな」
お仲「はい、お陰さんで。あの娘の代わりにこんな極道娘の三人も出来てしもてこの娘たちをまともにして、親御さんのところへ返すというのは頭の痛いことですわ」
平次「(三人娘に)聞いたかい?あんまり世話をやかせるんじゃねぇぜさぁ、ゆきな」
お仲「どうも」

 河内音頭を唄いながら、お仲と三人娘が日本橋を渡っていく。長屋の人々も河内音頭を唄っている。かなりの大声なのだろう、八五郎が片耳を塞ぐ。お仲たちのアップ。


353話 2月7日 狙われた町奉行 吉田輝雄 桜井浩子 江見俊太郎

屋台で一服していた平次と八五郎。島帰りの又造がいきなり転がりこんできて「町奉行が殺される」と言って息絶えた。町奉行が殺されるという瓦版まで出回る。咎人の奉行に対する逆恨みか。平次は妙に町方に挑戦的な火盗改めの川辺英ノ介が気にかかる。

 ゲスト 吉田輝雄さん(川辺英之介)、桜井浩子さん(お兼)、江見俊太郎さん(鳥居内膳正)

 クレジットでなんと武田てい子さんと小笠原町子さんの役名が抜けていました。びっくり。

  川辺英之介が下手人かと平次親分同様思ってしまいましたが、違っていました。吟味役から降格させられた服部半左ヱ門の奉行に対する逆恨みと町奉行のポストを狙って鳥居を失脚させようとした竹内信之進の共謀でした。

 川辺の内情を探るため、八五郎は小間物屋に扮して川辺宅に潜入。八五郎の考えで小間物屋に扮したらしく、親分が褒めていました。

 

        お兼の本心。

 

 平次の家。平次が帰宅。

平次「ああ、一日一遍、墓参りをしねぇと飯がまずいっていう、あの隠居親爺?」
お静「ええ」
平次「ふ〜ん」
お静「で、今日、その無縁墓地で水商売みたいな女の人が新しい卒塔婆の前で三年も島で我慢したのに殺されてしまうなんてバカな男だって。その卒塔婆にお酒をかけていたんですって」
平次「何?島帰りの新しい卒塔婆?」
お静「ええ、昨日のご赦免船で帰ってきたんですって」
平次「ふ〜ん、又造しかいねぇ」
お静「えっ」
平次「その女、お兼だな、又造のこと噛んでくだすように言ってやがった」

* 平次に負けた

 ひょうたん。

川辺「平次、おまえ、俺を疑っていたな。疑われても仕方ない。だが、俺はあせっていたのだ。町方のおまえたちより、先に何とか糾明したいと思ったのだ。だが、悲しいことだがおまえの動きをつけるしかほかに手はなかったそして今夜の不始末だ。平次、おまえ、俺を笑っているだろう」
平次「どんでもごさいません、川辺様。たしかに最初はお疑い申し上げておりました。しかし
川辺「しかし?」
平次「口幅ったい様ですが、最後の一分までは疑ぐっちゃおりません。旦那とお奉行は*講武所のご同門。役目を離れりゃ、おまえ、俺の心の通い合いがあったはずだ。あっしゃ、それが信じたかった
川辺「平次、そこまでおまえは負けた、俺はおまえに負けた」
平次「そう、おっしゃられては困ります、川辺様。今度の一件はもうてまえ共の手の届くお裁きではありません」
川辺「竹内のことか?」
平次「それもありますがもうひとり」
川辺「もうひとり!」

*講武所  江戸時代後期の幕末に江戸幕府が設置した武芸訓練機関。旗本、御家人および、その子弟が対象で剣術をはじめ、洋式兵学、砲術などを教授した。(ウィキペディア HPより)

 

        ラストシーン

 

 夜道。平次、服部半左ヱ門と出くわす。刀を抜く服部。

平次「服部様、私をお斬りになさいますか」
服部「斬る(刀を構える)」
平次「服部様、樋口の旦那はあなたのことをまだ、お奉行様の耳には入れてねぇんで」
服部「何!」
平次「せめて侍らしく、身を処してほしいと願っている。その願いはあっしも一緒だもう申し上げることはありません。それでもとおっしゃるなら、この平次、お手向かいいたしません。どうぞお斬りなさいまし」

 平次、服部に目を据えたまま、一歩一歩服部にせまっていく。後ずさりする服部。とうとう刀を下げる。なおもせまる平次。服部、平次に背をむけ、走り去る。途中で立ち止まり、思い詰めた様子。

 番屋。 樋口、落ち着かないようすで番屋の中をうろついている。そこへ平次。

樋口「あっ、平次!服部さん、やっぱり侍らしく奉行所の門前で切腹したぞ」
平次「服部様が!」
樋口「いいにくい事だが、よくその気になってくれた。平次、一件落着とも手向けの酒ともつかねぇが、一杯やるか」
平次「お付き合いさせていただきます」
樋口「そうだ、川辺さんも誘おう」


 ひょうたん。  川辺英之介、樋口一平、平次が卓を囲んで酒を飲んでいる。お互い無言でなんとも静かな酒盛り。

樋口「おい、酒」
おゆき「はい、ただいま」

354話 2月14日 万七子連れ唄 弓恵子 穂積隆信 堺左千夫

江戸を荒らしまわっている疾風組。その一味、松造の隠れ家を突き止めたものの、松造は刺されていて虫の息。平次はどうも情報が漏れている気がしてならなかった。そんなとき、万七は身投げ女、おとよを助け、自宅に預かっていた。しかし、おとよは、昔、疾風組の弥助の女だったのだ。万七から情報を得て、疾風組に流したのだろうか。そして、疾風組の源兵ヱを捕えたが、万七の息子、万助がかどわかされた。源兵ヱを解放さなければ、万助の命が危ない。おとよは万七の気持ちに報いるため、単身、弥助のもとへ乗込んだ。