回数 放送日 サブタイトル ゲスト出演者
452話 昭和50年1月8日 晴姿女岡っ引き 岡崎友紀 佐々木剛

 呉服問屋加賀屋の娘、お駒、その奔放さにお守役の手代安吉は振り回されている。なんと今度は平次親分の格好よさに岡っ引きになりたいと平次の家を訪ねる始末。困惑する平次だが、少しの間預かることに。一方、押し込み強盗黒手の紋次一味が江戸を荒らし回っていた。ひょんなことからお駒の素性を知った手下の米次郎がお駒をかどわかし、安吉までも囚われてしまう。二人を助けに行く平次と八五郎。捕り物が終わってみるとお駒と安吉に幸せの花が咲いていた。

 ゲスト 岡崎友紀さん(お駒)、佐々木剛さん(ちょろ吉こと安吉)

 久々に親分の紋付姿が見られました。もちろん、違い柏の紋です。お静も八五郎もお駒と安吉の祝言に呼ばれました。

 偶然、お駒は町中で平次たちの捕り物の場面に出くわし、その格好よさから岡っ引きに憧れ、岡っ引きになりたいと平次に頼みます。平次は「女の岡っ引きというのは、例のねぇ話だ」といいますが、石原の父つあんの娘、お品さんが女岡っ引きでしたね。#211「おぼろ駕篭」を最後に出ていませんが。

 平次親分、キューピッド役までかってでて、たいへんですね。娘心もよくおわかりのようです。

* お駒の気持ち

 茶店。

茶店の女「いらっしゃいませ」

 平次、安吉に縁台に座るよう勧める。

安吉「あの…お話っていうのは…」
平次「ん…確かとはいえねぇ話なんだが、安吉さん、お駒さんは、かどわかされたかもしれねぇ」
安吉「そんな!(思わず、立ち上がる)」
平次「(安吉の袖を引っ張って)待ちなよ、どこへ行く気なんだぃ」
安吉「どこって…番所へ知らせに…」
平次「あわてなさんな、(腰の十手を叩いて)十手持ちならここにいるよ」
安吉「そうでございました。でも親分さん、それは一体どういうことなんで…お嬢様はただ、絵師の米次郎さんと一緒に…」
平次「その米次郎さんが、とんでもねぇ悪党らしいってことに今しがた、気づいたんだ」
安吉「えっ(また、立ち上がる)」
平次「まぁ、待てったら」
安吉「いえ、すぐにでも、あの絵師を捜し出しませんと…」

 店の女、お茶を置いていく。

平次「あ〜ん、捜したところで、おめぇにかなう相手じゃねぇ」
安吉「でも、じっとしてるわけには参りません」
平次「まっ、いいから聞くんだい」
安吉「でも」
平次「安吉さん!おいらの目に狂いがなけりゃ、安吉さん、お駒さんはおめぇを好いてるよ」
安吉「えっ、何をおっしゃいます!お嬢さんが、そんな…」
平次「お駒さんだけじゃねぇ、おめぇもお駒さんを好いている」
安吉「とんでもございません。お嬢様に懸想するなんて、奉公人の私がどうして、そんな…」
平次「主従の掟に厳しく縛られてきたおめぇさんだ。そう思うのは無理はねぇ。だがな、安吉、男と女の仲は、こいつは別だ。好きな人を好きだと言って何が悪いんだ」
安吉「親分さん…」
平次「確かに、お駒さんは気の強い娘だ。だがな、お駒さんがおめぇの目の前で次から次へと無茶をやらかすのは、ありゃな、安吉さん、おめぇに引きとめてほしいんだよ。思い切っておめぇが本心をぶちまけていたら、お駒はな、こうまで無茶することはなかった。おいら、そう思うんだが…どうだ、違うか?」
安吉「そ、そんなことは、言えません。たとえ私が死ぬほどお嬢さんを好いていたとしても…」

 八五郎が走って来る。

八「あっ、親分」
平次「おぅ、八、わかったか?」
八「へぇ、それが親分、あの野郎、やっぱりくわせもんでしたよ。大所の版元をあたってみたんですがね、この江戸には米次郎なんて絵描きはいねぇって言うんですよ」
平次「やっぱりそうか」
安吉「親分さん、私は一体どうすれば…」
平次「お、おぃ、こんなことで気落ちしちゃいけねぇよ。お駒はな、おいらがきっと助けてやるから、おめぇは店へ帰ってじっとしてりゃいいんだ」
安吉「でも…」
平次「いや、へたに動きゃ、おめぇまでも無事じゃすまねぇかもしれねぇ。いいな、安吉、お駒さんの気持ちを考えたら、おめぇだってそうそうてめえの身を粗末にできねぇはずだ」


* ラストシーン

 悪党の隠れ家。平次と八五郎、悪党をやっつけた後。

八「あぶねぇとこで」
平次「うん」
八「安吉さんに、お駒…(安吉たちの方を見る)」

 安吉とお駒が向かい合っていいムード。

お駒「安吉」
安吉「はい、お嬢様。思わず殴ったりして、本当になんと言ってお詫びしたらいいか…」
お駒「お詫びなんかいらないわ」
安吉「お嬢様…」
お駒「お詫びなんかいらないから、安吉、私をおまえのお嫁さんにして…」

 驚く安吉。八五郎も呆気にとられる。平次はほほえましく見ている。

お駒「いいわね、これは命令よ。絶対嫌と言わせないから」

 加賀屋。安吉とお駒の祝言。

 ♪高砂や この浦舟に帆をあげて この浦舟に帆をあげて 月もろともに出て潮の 波の淡路の島影や 遠く鳴尾の沖過ぎて はや住の江の着きにけり はや住の江に着きにけり

 平次一家も列席。安吉、お駒、加賀屋徳兵ヱが平次に会釈。

お静「おまえさん、本当に幸せなご夫婦になりそうね、あのふたり」
平次「ならねぇでどうするんだぃ。なんせ出雲の神はこの俺たちだからな」
お静「うふふ」
八「親分、あっしにも出雲の神様、回してくださいよ、へへへ頼みます(平次に手を合わす)」


453話 1月15日 過去の重さ 有島一郎 立木悠子

 連続して起きる放火事件。あっちと思えば、こっち…呉服屋ばかり。今宵も半鐘がけたたましく鳴る。今度は奉行所に炎がせまる。調書の入った御用箱を安全な場所に運び出す役目を負った髪結いの男達。運ぶ途中で鶴床の鶴吉が襲われ、一冊の調書が盗まれる。平次は銀助が犯人だとして、切り捨てた役人早瀬源三郎に不審を抱く。一方、娘お加代の幸せを願って己の過去を消したいと思い詰めている仁兵ヱの姿があった。

 ゲスト 有島一郎さん(仁兵ヱ)、立木悠子さん(お加代)、松川勉さん(鶴吉)

 髪結いに来ている平次。馴染みの店で鶴吉たちと冗談を言ったり、和気藹々。いい場面です。御用箱の話が出て、平次が「おととしの文政2年の調書」と言っているので、今は文政4年(1821年)でしょうか。

 提灯を取り違えたり…ちょっと複雑で私、理解するまで、時間がかかってしまいました(笑)。仁兵ヱは自分の調書が入っている「にー5」の御用箱を亀床が運ぶと(平次がうっかり、言っちゃった)わかり、その調書を盗もうと襲ったけれどなかったのです。提灯を間違って亀床が鶴床のを持っていったからです。亀床の提灯を持っていたのは鶴床で「にー6」の御用箱を運んでいたのです。でも「にー6」から調書が一冊なかったのです。これは悪役人早瀬が前科者を強請る為、自分が持っていました。早瀬は罪がばれるのを恐れて、強請っていた銀助にぬれぎぬをかぶせて斬ってしまいます。銀助はアリバイがあったし、「にー6」の御用箱に自分の調書があるのを知らないわけで、そこを平次が?と思ったのです。

☆髪結い…男性が髪を結ってもらうのが「浮世床」と呼ばれるお店です。夜明けとともに開店して、日が沈んでからも二時間ばかり営業します。また、大晦日などは夜通し仕事です。サロン化していて、お喋りだけに来る男性もいます。様々な情報が集まるので親方が
十手持ちを兼ねていることもありました。…女性の髪結いが髷を結うのが一般的になったのは江戸時代中期以降です。(杉浦日向子 「お江戸でござる」から)

 髪結い床があるのは、おもに橋詰、辻、河岸端などである。これは職人に、橋の見張り番や出火の際の役所への駆けつけなどが、役として課せられていたためである。そのせいで、客は通りのほうと向いて座るようになっていた。こうした髪結い床のほかに鬢盥という道具を持って特定の顧客をまわって商売する廻り髪結いという営業形態もあった。
料金は「一梳き」二十八文の時代が長かった。(「大江戸見聞録」から)


* 髪結い床屋でリラックス

 鶴床。八五郎、客同士が将棋を指しているところに手を出して、叱られている。平次は髪を結ってもらっている。

鶴吉「へぃ、親分さん、終わりましたぜ(手鏡を平次に渡す)」
平次「おぅ、へへへ(合わせ鏡をして)お陰でさっぱりしたぜ。あ〜あ、やっぱり、おめぇにかぎらぁな。元結(もっとい)が、こうきゅーっと締まって、おめぇ、頭の芯まで、つ〜んと張らやがる」
鶴吉「親分、おだてたって、床代はまけませんぜ」
平次「あ〜あ、わかってらぁな」
八「あら、親分(平次のそばに来る)これで、湯屋の番台にすわりゃ、女湯は札止めってとこですな」
平次「ばか言ってやがる」
八「アハハハ」
お加代「親分さん、お茶どうぞ」
八「すいませんね」
平次「すまねぇな、店じまいのところ、無理言ってすまなかったな」
鶴吉「な〜に、親分さんなら、嫌とは言えませんよ。いつもお世話になってることだし…」
平次「へっ、うまいこと言ってやがら(八五郎の顔を見ながら)帰ぇったあとで何を言われてるか、わからねぇもんな」

 皆、大笑い。

お加代「八五郎さん、顔だけあたりましょうか」
八「顔?お加代さんが?」
鶴吉「そうだ、せっかくだから、八五郎さんに試し台になってもらうといいや」
八「試し台?じょ、冗談じゃねぇや。面(つら)が看板の八五郎さんだよ。傷だらけにされたら、たまったもんじゃねぇや、へへへ」
平次「おぅ、八」
八「へぇ」
平次「造作が変わって丁度いいじゃねぇか」
八「ひどいよ、親分まで」

 皆、大笑い。


* ラストシーン

 船着場の休憩所。寄せ場送りになる仁兵ヱを樋口、平次、八五郎、お加代、鶴吉が見送りに来ている。

平次「父つあん、御用箱を襲った罪は赦されねぇ、だが、お奉行の情状を汲んでのお裁きで寄せ場送りも半年だ。わきゃぁねぇさ」
仁兵ヱ「へぃ」
平次「今度帰ぇってきたら、おめぇさんの望みどおり幸せになれるぜ」
仁兵ヱ「へぃ、いろいろご面倒かけて申し訳ございません」
平次「う〜ん」
お加代「お父つあん…体に気をつけてね」
仁兵ヱ「あ〜あ、な〜に、心配ねぇさ。おめぇもな、鶴吉さん、おめぇさんにも何とお詫びを言ったらいいかわからねぇ。すまなかった」
鶴吉「父つあん、心配しねぇでもいいんだ」
仁兵ヱ「鶴吉さん、おめぇさんに頼みてぇことがあるんだが…」
鶴吉「何でも言っとくんな」
仁兵ヱ「俺が帰ぇってくるまで、お加代のこと…」
鶴吉「あぁ、引き受けるとも。お加代ちゃんのことは安心してくれ」

 「船がでるぞォ〜」

平次「それじゃ、父つあん」

 皆、立ち上がる。

仁兵ヱ「それじゃ(平次たちに頭を下げる)」

 仁兵ヱ、船番所の門をくぐっていく。見送る平次たち。

お加代「お父つあん…(鶴吉に倒れ掛かる)」

 平次の心配そうな顔のアップ。

 平次の家。 平次、煙草をふかしている。八五郎、縁側に座っている。

八「ねぇ、親分、鶴吉とお加代さんは夫婦(めおと)になるんじゃありませんかね」
平次「そうよな、そりゃ似合いの夫婦(ふうふ)だ。なぁ、お静」

 お静、ブスッとしている。

平次「どうしたんだ?」
お静「どうしたも、こうしたも…考えると腹が立って!」
平次「あん?」
お静「そうじゃないの!お役人のくせに前科を暴いて食いものにするなんて、あんまりじゃないの!人間の皮を被った鬼ですよ。そんな奴がいるなんてひどすぎますよ!(畳を手で叩く)」

 呆気にとられる平次と八五郎。

平次「そんな、まるで俺が怒られてるみたいだな、全く」
お静「あっ、あら…」
八「イヒヒヒ…」
お静「い、いえ私は別に…おまえさんのこと…うふふ」

 平次、しょうがねぇなというような表情。


454話 1月22日 地獄河岸 水谷豊 南利明 堀越陽子

 岡っ引き、浜町の辰造が殺された。息子の船大工の巳之吉は下手人は廻船問屋灘屋に違いないと灘屋に乗り込む。巳之吉のピンチに度々手助けをする新内流しの正体は?
 平次は辰造の残した煙草入れから極楽香(アヘン)の密売を知り、探索に乗り出す。巳之吉は親の仇をとるべく、父の十手を継いで平次と共に悪の巣窟へと乗り込んでいく。

 ゲスト 水谷豊さん(巳之吉)、南利明さん(金八)、堀越陽子さん(小花)

 新内流しに扮して灘屋を見張る平次。粋な格好が本当にお似合いというか、橋蔵さんが扮すると何でも粋に様になります。三味線もチラッと披露。唄も聞かせてほしかったですね。
 三味線片手の殺陣もよかったです。三味線を体から離さずに。三味線を放り出すか、三味線で相手を殴ったほうが合理的だと思うけれど、これだと野暮になってしまうんでしょうね。

 仮面(顔半分だけ隠すもの…博多名物にかわ煎餅みたいな)をつけて、頭巾を被って組屋敷に紛れ込む平次。仮面の顔がユニークでした。

 ラストの立ち回り。組屋敷の庭。平次は転げまわったりして、着物は泥だらけでした。

 やんちゃな巳之吉だけどどこか憎めない。そんな彼を見守る平次親分がよかったです。

* 平次、巳之吉を叱る

 番屋。

巳之吉「何がいけねぇんだ!おりゃ、ただ吐かないからやったまでじゃないか!」
八「親分に向かって何てこと言うんだ!だいたいてめぇはな…」
平次「八!」
八「へぇ…ちぇっ」
平次「俺は今さら済んじまったことをとやかく言ってるんじゃねぇ。二度とバカな真似はするなと言ってるんだ!」
巳之吉「何がバカなんでぇ!」
平次「おめぇのやったことは、人殺しと同じことだからだ」
巳之吉「人殺しだと?」
平次「そうだ、無理に吐かせた結果、金八は殺された。おめぇには自分のやったことがわからねぇのか!」
巳之吉「どうせ悪いことをやってる奴だい、死んだってかまうもんかい!」
平次「巳之吉、おめぇには人の命が虫けらとしか思えねぇのか」
巳之吉「あぁ、思えねぇよ」
平次「甘ったれるのもいい加減にしろ!」

 ガ〜〜ン!(効果音)平次の怒り爆発という感じ。

平次「(巳之吉の腰から十手を抜き取って)この十手の重みは尊い人の命の重さが、かかってるんだ。もし十手一筋にかけたおめぇの親爺が生きていたなら、きっとこの俺と同じことを言ったにちげぇねぇ。いいか、巳之吉、おめぇ、浜町の二代目を継ぐのなら、もっと性根をすえて、人に笑われねぇ十手持ちになるんだ。でなきゃ、浜町だって浮かばれやしねぇぜ」

 平次、十手を見つめ、それから巳之吉に鋭い視線を向ける。巳之吉、思わず、番屋から逃げ出す。


* ラストシーン

 平次の家。八五郎と清吉、料理を運んでいる。

清吉「おいしそう」
八「へへ」

 お静、酒の用意。

八「それにしても遅いですね」
平次「うん」
万七「巳之吉の奴、さんざん気を揉ませやがったが、どうやら落ち着きそうだぜ」
八「本当ですねぇ、二代目は継ぐし、小花ちゃんとは一緒になれるし、ハッ、羨ましいな、畜生」
お静「八つあんも早くいい人見つけなきゃね」

 引き戸が開く音。

巳之吉の声「遅くなりまして〜」
お静「(玄関に出て)皆さん、もうお待ちかねよ。さぁ、どうぞ」

 巳之吉、小花を連れ、部屋の中へ。

巳之吉「ここに来る前に八幡様にお礼参りしてたもんですから」
平次「あ〜ぁ、そうか、そりゃよかったな。まっ、こっちに来て座ってくんな…さっさ、まぁこっちに来な。よかったな。さぁ今日から二人仲良く助け合っていい夫婦(めおと)になるんだぞ」
巳之吉「へぃ」
万七「エヘへへ、まっ、仲がいいのは平次のところを見習ってな」
お静「(酒を運んでくる)まぁ」
平次「さっ、心ばかりの盃だ。みんなで祝ってやってくんな(万七に酌)」
お静「おめでとう、巳之吉さん(巳之吉に酌)、小花さん(小花に酌)」

 皆、酌をし合い、盃を持つ。

平次「さぁ、いいか、おめでとう!」

 皆、盃を空ける。

八「♪高砂や〜この浦舟に帆をあげて〜この浦舟に帆をあげて〜」

 巳之吉、小花、照れくさそうにしている。


455話 1月29日 深川なさけ唄 花沢徳衛 中條節子

 境内で一人の男が殺されていた。それを目撃した寄せ場帰りの元岡っ引き、木場の利三郎。だが、知らぬ存ぜぬの一点張り。自分をお縄にした万七や平次を逆恨みしているのだ。一方で、利三郎は行方のわからない娘おしのを捜し回っている。が娘恋しさからではなく、娘に稼がせるためだ。そんな利三郎におしのの居所を教えられないと今度は平次が知らぬ存ぜぬ。
 そして、殺しを目撃された悪党どもが利三郎を狙うが、そこはもと岡っ引き、逆手にとって平次を狙わせようと悪知恵を働かせるが…。

 ゲスト 花沢徳衛さん(利三郎)、中條郷子さん(おしの)

 逆恨みされた平親分、悪態はつかれる、酒はぶっかけられる、手土産の佃煮は投げつけられる、挙句は命まで狙われ、さんざんでした。

 利三郎が事件のことをしゃべったから、娘の居所を教えろとせまっても平次は「知らねぇな」の一点張り。毅然とした態度がよかったです。

 ラスト、平次の情けに気づいた利三郎。平次がおしのについた方便は利三郎でなくても泣かせますね。


* 知らねぇ!

 平次の家。

利三郎「万七に聞いたよ。おめぇを恨んでたのは、俺のまちげぇだった。勘弁してくんな(土下座)、この通りだ」
平次「(腕組をほどいて)いやぁ、わかってくれりゃそれでいいんだ。さっ、父つあん、手をあげてくんな」
利三郎「夕べ、小屋に帰ぇってから考えたんだ。おめぇたちを困らせて何の得があるんだってな。それで来たんだ。俺の知ってることは何でも言うよ」
平次「やっぱりあの仏は殺しの相手だったのか」
利三郎「そうだ、それだけじゃねぇ、あと仲間が三人いるんだ」
平次「三人?一体何で殺したんだ」
利三郎「仲間割れだぃ。殺された奴が盗んだ金の分け前のことで、いちゃもんをつけたもんだから、それで消されたんだ。暗闇で人相はよくわからなかったが、殺されるところははっきり見た」
平次「すると父つあん、まだ奴らに狙われてるわけだな」
利三郎「いや、おりゃ、大丈夫だぃ。油断はしねぇから」
平次「う〜ん、いや、ありがてぇ、よくそういう気になってくれた」
利三郎「ところで、平次、いや銭形の親分、ひとつ是非聞きてぇことがあるんだが…と言や合点してもらえると思うが…おしののことだ」
平次「……」
利三郎「おめぇ…さんは本当はおしののいる所を知ってるんだろう?」
平次「……」
利三郎「なっ、そうだろう?頼む。教えてくれ、教えてくれ、なっ、親分」
平次「(険しい顔つき)知らねぇな」
利三郎「(手を合わせ)この通りだ。なっ、親分」
平次「(腕組をして)どう言われようと知らねぇものは、教えられねぇ」
利三郎「俺に知っていることはみんな言わせておいて…てめぇ!」
平次「知らねぇ」

 隣室で話を聞いていたお静、思わず立ち上がり、襖を開けようとするが、八五郎に止められる。

利三郎「平次!」
平次「(キッと睨みつけ)しつけぇな!」
利三郎「わかったよ。もう頼まねぇや。きっと俺の手で捜し出してみせるからな!」

 利三郎、襖を開け、出て行く。

お静「(利三郎の後を追って)あのぅ〜」
平次「(座ったまま)お静!!」

 お静、立ち止まり、利三郎が出て行くのを見送る。すぐさま、平次のところに来て座る。隣にハ五郎。

お静「利三郎さんが正直に何もかも話してくれたんじゃないの!あの年でひとりぼっちで寂しいのよ。ねっ、もう本当の事話してあげてもいいでしょう?」
平次「(腕組をしている)…」
お静「あんなにおまえさんのこと悪態ついていた人が心を入れ替えたからこそ、自分の知ってることをみんな話しにきたんじゃないの!会わせてあげてよ、おまえさん」
平次「あの親父は娘恋しさに捜し回ってるんじゃねぇ」
お静「えっ!」
八「そういう親父なんですよ」

 お静、合点のいかない顔。


* ラストシーン

 医師、仁斎の家。悪党の撃った玉に当たり、摘出手術を受けた利三郎。眠っている。見守る平次、お静、八五郎、おしの、仁斎。

仁斎「どうやら峠を越したようだ」

 ほっとするおしの。平次も安堵の表情。

お静「よかった…よかったわねぇ(おしのの肩を抱く)おしのちゃん」
平次「おしのちゃん、今までお父つあん、まだ佃島から戻ってねぇと騙したりしてごめんよ。いや実はなお父つあん、おめぇさんの嫁入りまでにまともな職について、箪笥の一棹もやりてぇとその日まで黙っててくれと頼まれたんだよ」

 おしの、涙を拭き、利三郎が涙を流しているのに気づく。

おしの「お父つあん」

 利三郎、目を開け、おしのを見て、平次を見る。

平次「父つあん、よかったな」
利三郎「平次…」

 平次、笑みを浮かべ、頷く。仁斎に会釈。

平次「おぅ、お静、こっちも引き上げようか」

 頷くお静。部屋を出て行く平次、お静、八五郎。廊下で平次とお静、立ち止まり、顔を見合わせ、一言二言話してから歩いていく。続いて八五郎。


456話 2月5日 浮世絵女双六 小林芳宏 北城真記子

当たり屋のおゆみが殺された。絵師、高津了斎の描いたおゆみの浮世絵がこの事件から飛ぶように売れる。一方、絵師岸川春太郎は、母親の期待とは裏腹になかなか売れない。そんな折、春太郎の描いた女たちが次々と襲われ、浮世絵も売れるようになる。とまどう春太郎。平次が捜査を勧めていくとそこには歪んだ母の子を思う愛情があった。

 ゲスト 小林芳宏さん(岸川春太郎)、北城真記子さん(岸川まさ代)、小林勝彦さん(銀次郎)

 スキャンダルで物が売れるようになったり、我が子のためとはいえ、間違った手段を取った母親など現代に通じるものがありますね。

 ラストで母親は自分は満足、子供にはもっと有名にもっと偉くなってと言い残して連行されていきます。これを聞いた春太郎はどう思ったのでしょうか。咎人の息子という荷物を背負って…がんばって、絵を描き続けるのか、筆を置くのか、春太郎の行く末を知りたいです。

☆浮世絵…浮世絵は「売ってなんぼ」のもの。芸術ではなく、娯楽に徹したものです。遊里や芝居町の遊女や役者を描いたのが、浮世絵のはじまり。いわば、江戸のブロマイドです。「当世風」「有楽的」「享楽的」などの意味で「浮世」の言葉が使われました。
 多色刷りが主流となる明和以降は「江戸錦絵」と呼ばれ、江戸の特産品として発展しました。
 浮世絵は、ひとつのプロジェクトチームで作られていきます。絵師はその一員として、「版下絵」を担当します。「絵師」というより、しばしば「画工」と呼ばれました。「版元」(出版社)があって、プロデュースをする「案じ役」がいて、画工がいて、「彫り師」がいて、「「刷り師」がいて、みんなが集まってできていくのが、浮世絵です。モデルは誰にしようかとか、色はどうしようかとかいうことも、皆で頭を寄せ合って決めます。 (杉浦日向子 「お江戸でござる」 から)


* 八ったら…

 番屋。

八「これじゃ全く手がかりはねぇな。ねぇ、親分、いつものようにこう、パッパッと事件が解決するわけにはいかないんすか?」
平次「う〜ん、よし、八、方角を変えてやってみるか」
八「方角?」
平次「うん」
八「方角…(体の向きをあっちこっち変えている)」
平次「何やってんだ、春太郎が描いた女、あと三人残ってるんだ。そっちの方だよ」
八「あっ、そうか」

* ラストシーン

 春太郎の家。仏壇の前でまさ代が短刀を喉に突き刺そうとしている。そこへ平次。

平次「ならねぇ!(短刀をもぎ取る)おかみさんは、おめぇは最初、当たり屋のおゆみが殺されて、了斎の絵が飛ぶように売れるのを見て、自分の息子も売れっ子にしようと思いついたんだろう。銀次郎の裏へ回って糸を引いていたのは、おめぇだ。佐野屋みてぇに商売もさせてやる、金も出してやるとけしかけたに違ぇねぇんだ。そうだろ!」

 まさ代、泣き崩れる。

平次「誰だって自分の子供を偉くしたいのは、親の常だ、だがな、人を傷つけ、その上一服盛るとは身勝手すぎるぜ。このまま、死なせてやるのが慈悲かも知れねぇが、子供の出世のためにむごいことをするとは赦せねぇんだ。さっ、お裁きを受けに行くんだ」

 平次とまさ代、部屋を出る。八五郎が廊下で捕り縄を持って待っている。

平次「おぅ、八、よしな、息子がいるんだ。母親の縄付きを見せるんじゃねぇ」

 春太郎が走ってくる。

春太郎「おっ母さん!」
まさ代「春太郎、こんなおっ母さんを赦しておくれ。でもね、これであなたも世間に名前を知られるようになった。おっ母さんは満足です。喜んでお仕置きを受けに行きます…あの世に行って春太郎はりっぱな絵描きになったってお父様に報告ができます。春太郎、もっと有名に…もっと偉くなるんですよ」
春太郎「おっ母さん!」
まさ代「私はこれでいいんです。これで…(平次に)どうぞ、お連れくださいませ」
春太郎「おっ母さん、おっ母さ〜ん」

 まさ代、春太郎に一瞥して八五郎と去っていく。

春太郎「おっ母さ〜ん(泣き崩れる)」
平次「春太郎さん、おっ母さんに何かうめぇものを差し入れてさしあげるんですね、歪んでいても子供を思う親心を忘れちゃいけませんぜ」

 家の外。平次、木戸から出てくる。八五郎とまさ代、が先に行く、あとから平次。

457話 2月12日 赤い犯科長 佐藤慶 伊達三郎

薬種問屋茨木屋佐兵ヱが殺された。万七が偶然捕えた地獄政が茨木屋の秘密を握って強請ろうとしていたことが明るみに出る。このことから三年前の未解決事件が浮上し、平次は再捜査に乗り出す。この赤い犯科帳(未解決事件帳)の事件に係わっていた火盗改め菊池十蔵は平次の動きに苛立っていた。

 ゲスト 佐藤慶さん(菊池十蔵)、伊達三郎さん(地獄政)

 久々に平次はお静のひざまくらで耳掃除をしてもらっています。相変わらず、お熱いですが、夫婦のやりとりも、ベテランになってきました。

 水桶のトリックは平次は寝言で「水桶、水桶」というほど平次にとっても難しいものでした。このトリックを考えた菊池十蔵は切れ者ですが、ひとつ間違えたら自分の命も危ないですよね。誰かが菊池が水を飲むまえに柄杓でかき回しちゃったりしていたら…。

* 水入らず…

 平次の家。平次、お静の膝枕で耳掃除。

平次「あ痛ぇ」
お静「あっ、ごめんなさい。だっておまえさん動くんだもの」
平次「痛ぇなぁ、猫の耳掃除してるんじゃあるめぇし、おめぇ、手荒に扱われたんじゃ、たまったもんじゃねぇ」
お静「うふふ、愚痴っぽい人…」
平次「あたりめぇだぃ。この耳、この体、俺ひとりだけのもんじゃねぇんだぞ、おい」
お静「ええ、江戸八百八町の人々のもの」
平次「あ〜あ、粗末に扱ったらバチが当たるぜぇ」
お静「それじゃ、明日から十手と一緒に神棚に祀っておきますからね」
平次「何を言ってやがんでぇ」
お静「うふふ」

 引き戸の開く音。

八の声「親ぶ〜ん!」

 八五郎が部屋に入ってくる。

八「あらっ、へへへ、朝っぱらから仲のいいことで、イヒヒヒ…」
平次「バカ野郎(起き上がって)」
お静「八つあんたら…お茶でもいれましょうね」
八「すいません…どうも〜、はぁ〜、あっ、いけねぇ!」
平次「なんだい」
八「殺しですよ、谷中の墓地で」
平次「ん?あの辺りは、池之端の仁兵ヱ父つあんの縄張りだが」
八「へぇ、ところがね、樋口の旦那がすぐ出張るようにって…」

* ラストシーン

 菊池十蔵の屋敷。水桶のトリックを解いた平次。十蔵と対決。

平次「(十手を銜え、羽織を脱ぐ)おのれの欲のためにゃ、どんなこともやってのける血も涙もねぇ非道な人間には、この平次の十手は赦しゃしねぇんだ。神妙にしろい」

 十蔵と一騎打ち。平次、首を絞められたりして苦戦。そこへ樋口たちがやってくる。

 「御用だ!御用だ!」

樋口「十蔵、神妙にしろ!」

 十蔵、お縄になる。

八「いやぁ、親分、今度の事件ほど手の込んだ事件は、まぁねぇでしょうね」
平次「さぁ、そいつはどうかな」
万七「あぁ、これからは、おめぇ、もっと悪知恵の働く奴が出てくるかもしれねぇぞ」
清吉「は〜ぁ、でもまぁ親分にゃ無理でしょうな」
万七「うん」
清吉「捕まえるのは」
万七「よけいなこというな、この野郎!」
樋口「平次、赤い犯科帳もおめぇたちの働きでまたひとつ日の目をみることができたぃ」
平次「へぃ」
樋口「今夜、?だが、おごるか」
平次「お供いたしやす」
八「へへへ、あれ?(空を見上げる)親分、ほら、きれいな夕焼けだ」

 樋口、平次、空を見上げる。夕焼けのアップ。

平次「ほぅ、明日もどうやらいい天気のようだな」

 捕り方が家の中から、千両箱を三つ運び出してくる。十蔵が連行されて行く。

458話 2月19日 ある母の願い 柴田美保子 石山律雄

病の床にあるお峰。気がかりなのは、娘のお直の消息。一年半ぶりに届いた娘からの手紙…しかし、それは書置きともいえるものだった。どうしてこんなことになったのか、お峰は命が尽きる前に娘の真実を知りたかった…お峰は平次にお直の足跡をたどってもらおうとする。

 柴田美保子さん(お直)、石山律雄さん(佐吉)、内田朝雄さん(音羽の弁蔵)、北村総一郎さん(利喜太郎)

 本当に哀れなお直の一生でした。母が夫に苦労させられたのに、なんの因果か娘まで。短い間だったけれど幸せと思えるときがあったのがせめてもの救い。

 今はユニークな役どころの北村総一郎さんですが、このころって(何回かゲストで出られています)悪役が多いですね。

 長火鉢を囲んで平次、お静、八五郎が湯豆腐を食べていました。おいしそうでしたが、唯一、心の安らぐ場面でした。

* 娘から母への手紙

「おっ母さん、この手紙を読んでも泣かないでください。お直は今、幸せ一杯なんです。でも私にその幸せをくれた人は利喜太郎ではありません。おっ母さんが正しかった。私はバチが当たったんです。暗くて遠い回り道でした。でもお直はやっと光を見つけたんです。光を。その人の名は佐吉さんといいます。絵描きさんです。今に日本一の絵描きさんになる人です。その人のためにお直は今、幸せに死んでいきます。この幸せはもう壊れることはない。誰も壊すことはできないんです。おっ母さんには、わかってもらえると思います。どうか先立つ親不孝を赦してください。この手紙がおっ母さんの手元に届いた頃には、お直は幸せに息を引き取っているでしょう。泣かないで、おっ母さん、さようなら、おっ母さん」

* お直とお峰の思い

 佐吉の家。お直の手紙の内容を聞いた佐吉。思わず、酒をあおり、泣き崩れる。

平次「佐吉さん、おめぇさんがそんなことで、どうなるんだ。そいじゃ何の為にお直さんが死んでいったか、わかりゃしねぇや。おめぇさんにいかさま賽なんぞ、使わしやしねぇ、りっぱな絵描きになってもれぇてぇと、それに命をかけたんじゃないかと。おめぇさんの胸にお直さんの声として聞こえちゃ来ねぇのか!佐吉さんよ、俺からも頼む。なっ、りっぱな絵描きさんになっておくんなさい。それが何よりのお直さんの供養なんだ」

 平次、手にしたお直の位牌を仏壇に戻して、手を合わせる。

八「それにしても親分、お峰はなんだって親分に無駄足を踏ませたんでしょうか?」
平次「わからねぇか」
八「はっ」
平次「お峰が知りたかったのは、お直が手紙に書かなかった真実だ」
八「手紙に書かなかった真実…」
平次「そうだ、幸せだというお直がなぜ死んでいかなきゃならなかったのか、この俺の目で見極めさせ、娘を死に追いやった者への裁きをつけてほしかったんだ」


* ラストシーン

 料亭 ひさご。お峰がふせっている部屋。女将と医者の朴庵が見守っている。

女将「どうしたんだろうね、親分さんは」

 そこへ平次、八五郎、佐吉が入ってくる。

女将「はっ、お峰さん、銭形の親分さんだよ」

 お峰、うっすらと目を開ける。

平次「おぅ、お峰さん、佐吉さんだ」

 お峰、驚いて、佐吉を見つめる。

佐吉「佐吉です」
女将「(八五郎に)お直さん、お直さんは?」

 八五郎、平次と顔を見合わせ、女将に手でいないという仕草をする。佐吉、お直の位牌を出し、お峰に見せる。女将、それを見て驚く。お峰、位牌を手に無念そう。

平次「お峰さん、この佐吉さんの涙をみりゃ、お直さんがどんなに幸せだったか、これでわかるだろう」

 お峰、位牌をしっかり抱く。

平次「利喜太郎は地獄へ落ちたよ」

 平次と八五郎、そっと部屋を出ていく。お峰を見つめる佐吉。平次と八五郎、店を出ようとする。

女将の声「お峰さん!お峰さん!」

 その声に店の女中たちがお峰の部屋へ走っていく。八五郎、あわてて、部屋に戻るかどうか躊躇している。平次は感慨深げな面持ちで立ちつくしている。そして、そのまま、店を出て行く平次と八五郎。


459話 2月26日 からくり殺人 荒谷公之 服部妙子

木曾屋の木場人足が次々と殺される。大工の伊之吉はこの人足たちと言い争っていたことと凶器ののみから下手人と疑われる。伊之吉に面会に来た木曾屋の妹お咲と伊之吉がかわす会話から平次は自分の推理が正しかったことを確信する。そして、容疑者のアリバイを崩していく。

 ゲスト 荒谷公之さん(伊之吉)、服部妙子さん(お咲)、小沢忠臣さん(喜三郎)

 すぐ、見ている側には下手人の目星がつきましたが、犯人探しというより、タイトル通りからくりの面白さを楽しむエピソードだと思います。

 ラスト、平次が喜三郎につきつけた果たし状の燃え残りの罠が意外で面白かったです。

 万七親分、また誤認逮捕でした。


* ラストシーン

 番屋。清吉、牢から伊之吉を連れて来る。

清吉「やぁ、すまなかったな、伊之吉。うちの親分がドジなばっかりに苦しい思いをさせちゃってよォ」
伊之吉「いやぁ、わかってもらえりゃ、それでいいんですよ」
万七「(バツが悪いので小さくなって炉辺に腰掛けている)まぁ、これも人生の…まっ、修行だと思って勘弁してくれな」

 八五郎がそっと番屋に入ってくる。

伊之吉「へへ」
八「へへへ…三輪の親分、随分苦しいいいわけですね、へへへ」

 平次、お咲、為吉も番屋に入ってくる。

伊之吉「お咲ちゃん!(お咲のところに駆け寄る)」
お咲「伊之さん!(手を取り合うふたり)」
為吉「(伊之吉の肩をポンと叩いて)よかったなぁ、伊之、これもみんな銭形の親分さんのお陰だぜ」
伊之吉「わかってるよ、為さん。親分、このご恩は一生忘れません」
平次「いやぁ、礼はいらねぇ。それよりおめぇたち、これから二人で木曾屋の旦那に会いに行くんだ」
お咲「兄さんに?」
平次「先のある若けぇ者が駆け落ちなんて考えちゃいけねぇよ。二人の気持ちを包み隠さず話しゃ、あにさんも必ずわかってくれるはずだ」
為吉「そうとも、伊之、親分の言うとおりにしてみな、きっとうまくいくから」
お咲「ありがとうございました」

 お咲と伊之吉、平次に深く頭を下げる。そして、万七たちにも頭を下げ、番屋を出て行く。見送る平次、八五郎、為吉、清吉。なぜか、万七は番屋の中で座ったまま、見送りに出てきませんでした。


460話 3月5日 歌吉怨み節 宮園純子 稲葉義男 速水亮

盗人の疑いをかけられた島帰りの市太郎。居合わせた芸者の歌吉は、なぜか市太郎を匿う。市太郎に亡き夫の影を見たのだろうか。翌日再吟味で番屋に呼び出された歌吉と市太郎、担当の同心相良伝兵ヱを見た歌吉は相良に悪態をつきながらも涙を見せる。平次は憎しみ以上の深いものがふたりの間にあると感じ、歌吉の身元を調べ始めた。

 ゲスト 宮園純子さん(歌吉)、稲葉義男さん(相良伝兵ヱ)、速水亮さん(市太郎)

 ちょいとあばずれな芸者お歌吉姐さんだけど、あれだけ啖呵が切れると小気味がいいですね。

 久々にお静が平次の襟足を剃っていました。

 ラスト、平次は思わず市太郎をビンタ!平次の真剣な顔に思いがひしひし伝わってきました。

* きっといつかは…

 歌吉の家の前。相良が佇んでいる。そこへ平次と八五郎。

平次「相良様」
相良「な、なんだ、平次じゃねぇか」
平次「へぃ…お嬢さんに会いに来なさったんで?」

 相良、驚いた顔。

平次「いやぁ、びっくりなさることはござんせん。あっしらには、もうわかっておりますんで」
相良「そうか、いずれはわかることとは思っていたが…笑ってくれ…平次」
平次「とんでもござんせん、相良様。こんなことをあっしらが言ったんじゃ、出すぎた真似かも知れませんが、所詮親子は切って、切れるもんじゃござんせん。どんなに離れていて憎みあっていてもきっといつかは呼び合うもんだと思いますよ。こうして会いに来なすった…それだけできっと通じますぜ」
相良「平次、俺は八年このかた、娘に会おうとしなかった。どこにどうしているのかも知ろうとはしなかった。おまえのお陰で娘に会えて俺は自分がどんな父親だったか、初めてわかったよ。ゆきえをあんな女にしたのは、この俺だ。それを思うと堪えきれなくなっちまってな、どんな暮らしをしているか、それとなく様子を見たくて来ちまったよ」
平次「わかりますとも」

* ラストシーン

 チンピラに刺され、瀕死の歌吉を相良が抱きかかえている。

相良「ゆきえ!しっかりするんだ!しっかりするんだ!」

 茫然と立ち尽くす市太郎。平次が駆け寄り、いきなり市太郎をビンタ。

平次「バカ野郎!おめぇって奴は歌吉のあったけぇ情けがわからなかったのけぇ!」

 歌吉の前でうなだれる市太郎。

歌吉「(苦しい息の中で)親分さん、その子を叱らないで…あたしゃ何ひとつしてやったわけじゃない…足を洗うんだよ…」
歌吉「これでいいのよ。あたしのような女は…ねぇ、相良の旦那?」

 相良、切ない表情。

平次「歌吉!お父つあんと呼ぶんだ!お父つあんと!相良様、勘当を赦してやっておくんなさい。息のあるうちに早く!」
相良「もう遅い…何を言ってももう遅いんだ、勘弁してくれよ、ゆきえ、おまえをこんな悲しい一生を送らせたのは、この俺だ。勘弁してくれよ」
歌吉「(最後の力をふりしぼって、相良を見上げ)お父つあん…」
相良「ゆきえ…」

 歌吉、息絶える。

相良「ゆきえ!」

 泣き崩れる市太郎。平次、合掌。

 畳屋備前屋の店先。畳職人たちが忙しく働いている。平次と八五郎が来る。

八「親分、やってますよ、市太郎も」

 平次たちに気づいた市太郎、店の主人に断って平次のところに来る。

市太郎「こりゃ親分さん」
平次「おぅ、どうだい、少しは慣れたかい」
市太郎「はい、お陰さまで」
平次「そうか、そりゃよかった…ところで今日はいい話を持ってきたんだ…相良の旦那がな、おめぇが一人前になったら、店を持たせてやりてぇと言ってきてくださったんだ」
市太郎「本当ですか!」
平次「あぁ、だから一生懸命がんばるんだぜ」
市太郎「どうもありがとうございます。それじゃ」

 市太郎、仕事に戻る。

八「ハハ、親分、嬉しそうですね」
平次「うん、これで歌吉も浮かばれるだろうよ」
八「そうですね」
店の主人「それじゃ頼みましたよ」
職人たち「へ〜い」

 青空のアップ


461話 3月12日 佐渡の恋唄 高田美和 松本聖 永井秀明

日光詣りの帰りに佐渡おけさを歌い踊る旅芸人小浜太夫一行と道ずれになった万七と清吉。江戸の土を踏んだお浜は昔の辛い思い出を蘇らせることとなる。母、妹と離別させた憎い喜助と売られた先の越後獅子の親方富蔵に出くわしたのだ。今や、阿漕な金貸し雁金屋となり、平次たちに目をつけられている富蔵。呉服問屋の大店越後屋となっている喜助。
 そんな折、かねてから越後屋の過去をばらすと強請っていた富蔵が喜助の娘、お美代をかどわかす。この事件でお浜は自分の過去の真実を知ることとなる。果たしてその真実とは。

 ゲスト 高田美和さん(お浜)、松木聖さん(お美代)、永井秀明さん(越後屋喜左ヱ門)

 万七が活躍するエピソード。

 万七は一度捕まえた悪を取り逃がし、樋口様に大目玉。お美代のかどわかし犯人もその場に居合わせたのに取り逃がしました。出くわした平次にまた樋口様に叱られるから内緒にと拝んでいたのが可愛かったですね。今回は平次に悪態をつきません。

 樋口様が万七を叱ったあと、「雁金屋をとっ捕まえて吐かせろ!」と命令。平次が「しばらく泳がして証拠を掴んでからでも遅くはない」とアドバイス。樋口様、素直に「なるほど、おめぇのいうとおりだ」とすぐ納得。樋口様、往々にして平次に頼ってしまいます。

 越後屋が真実を話すまで、絶対悪者だと思って見ていましたが、いい意味で裏切られました。

* 世知辛い世の中

 平次の家。平次、八五郎、朝ごはん。万七と太夫の話題。

お静「でも旅先で困っている見ず知らずの人の面倒をみるなんてなかなかできないことよね」
平次「ん、当たり前のことが、見過ごされている世知辛い世の中でこそ、暖っけぇ人の情けが身にしみるってもんだい」
八「ええ」

* ラストシーン

 往来。

万七「旦那、さぁ〜」

 越後屋、お美代、乳母、番頭が小走りに来る。平次、お静、八五郎、清吉はすでに来ている。旅支度の小浜太夫一行。

お浜「皆さん、いろいろとありがとうございました」
越後屋「いやぁ、体には気をつけて」
お美代「お達者で」
お浜「(平次に)どうかお店(たな)のことはよろしく」
平次「いいとも安心して旅を続けるんだ」
お静「はい、お弁当(お浜に弁当と水筒を渡す)、あのぅ、皆さんで食べてくださいな」
お浜「ご親切は忘れません」
万七「そうか…行っちまうんだな」
お浜「ええ、佐渡おけさを聞きたがっている大勢のご贔屓様が待っていらっしゃいます。それに亡くなったおっ母さんもおけさを歌い続ける私をきっと佐渡の見える丘から見守っていてくれるでしょう」
平次「巡る春にゃ、またこの江戸で太夫のおけさが聞かれるさ」
万七「きっとだぜ」
お浜「ええ、親分さん」
万七「うん」
お浜「では、これで」

 小浜太夫一行、お辞儀をして去ろうとする。お美代が走り出てくる。

お美代「おねえさん!」
お浜「(振り返って)お美代ちゃん!」

 お浜に深く頭を下げるお美代。去っていく小浜太夫一行を見送る平次たち。


462話 3月19日 幼心に大きな秘密 三好美智子 永野達雄

限りなく黒に近い海産物問屋天川屋のご禁制の麝香の密輸疑惑。しかし、どんなに調べても証拠の品は出てこない。そんなとき、天川屋に出入りしていた加助が殺される。直前まで一枚の白い紙をなくしたと大騒ぎして、捜していたという。そして、加助の妻子まで命の危険がせまる。平次は加助の義理の娘、おまつが八五郎にくれた姉様人形を思い出す。それに使われた白い紙から浮かび上がった文字とは…。

 ゲスト 三好美智子さん(お幸)、永野達雄さん(天川屋)、広瀬登美子さん(おまつ)

 今回はお静の糠みその知識がヒントになって、麝香のありかが判明。

 平次親分、プチ家出したおまつを家に一旦連れ帰ります。「今夜ひとつ川と言う字になって寝てみようじゃないか」と。実現はしなかったけれど、やっぱり憧れてるんでしょうね。

 証拠品が見つからないことをいいことに、天川屋は調べに来た万七をさんざんバカにして可哀想。「目のない目明しは…三輪とか、万七とか…」なんて言われてしまいます。

 天川屋の捜査打ち切りの知らせに平次は怒り心頭、「お武家なんて町人のことを考えない!」と樋口に十手を返上。八五郎も続きます。平次の置いていった十手を見て樋口様はニヤリ。「平次の奴、相変わらずだな」ちゃんとあとで平次の十手を万七に託して届けます。

 密輸の黒幕堀田屋敷におまつたちを助けに入る平次と八五郎。出入りの八百屋に扮して、頬被りして、潜入。頬被りの仕方が、平次と八五郎とは違いますね。平次のはカッコイイ。頬被りもよく似合います。

 平次の脱ぎ捨てた着物や手拭を丁寧に畳むおまつ。偉いですね、出来たら私もしてみたい(笑)。

 糠床から麝香を見つけ、取り出す平次。平次の額、左眉、鼻先に糠が飛び散っていました。立ち回りのとき、地面にこぼれた糠、誰か踏むんじゃないかとハラハラしましたが、さすが、誰も踏まずに立ち回り。


* 川の字

 平次の家。家出したおまつをひとまず、平次の家に連れてきて。

平次「あっ、そうだ、そいじゃ今夜ひとつ川という字になって、寝てみようじゃないか」
八「あっ、こりゃ大変だ、早くおまつ坊を送って行かなくっちゃ」
平次「何言ってやんでぇ」
お静「いやだぁ、八つあんたら、いやねぇ」


*糠みそ

 平次の家。お静がお勝手で糠みそをかき回している。戸の開く音。

平次の声「戻ったぜ」
お静「お帰んなさい。ごめんなさい、今、手が離せないの」
平次「何してんだ」
お静「男の人の嫌がるものよ」
平次「あん、(お勝手で足を止め、匂いをかぐ仕草)ちっとも匂わないぞ」
お静「おまえさん、私だからいいけど、よそいってそんなこと言ったら、そこのおかみさんに失礼だわよ」
平次「失礼?(お静の顔を見て、言うことをしっかり聞こうとしている)それはどういうことだ」
お静「糠みそっていうのはね、嫌な匂いがしないのが、当たり前なの。毎日こうやってこまめにかき混ぜているだけで、そんなに匂わないものなのよ。だから我慢ができないほど糠みそが臭いってことは、そこのおかみさんが不精だって印なのよ。
平次「なるほど〜」
お静「今のおまえさんたら、嫌な匂いが当たり前みたいだったわよ、ふふふ」
平次「(頭をかいて)ちっとも知らなかった…」

* ラストシーン

 番屋。樋口様、平次、八五郎、万七、清吉が盃を持って輪になって立っている。

樋口「(皆に酒をつぎながら)ご公儀ではな、ほぼ決まっていた堀田殿の老中については立ち消えになるらしいということだ。もっとも七十五日過ぎてみなけりゃわからねぇがな」
平次「ええ、しかし天川屋の一件じゃ、あっしゃ、それ以上に嬉しいことがふたつもある」
樋口「そりゃなんだ?」
平次「へぃ、ひとつは樋口様が三輪にことづけてくださった十手、もうひとつは捕り物のとき、石を投げてあっしたちの味方をしてくれた名もない人たち。旦那、あっしたちの心意気はそんな人たちに支えられているんで」
樋口「うん、しかし、平次、糠みそについちゃえらい詳しいらしいな」
平次「えっ!」
八「へへへ、旦那、そいつはね、姐さんに小言を言われながら、お手伝いをしている証拠ですよ、へへ」
平次「バカ野郎」
万七「おりゃ、小言くったっていい、そんな相手がほし〜い」

 皆、大笑い。


463話 3月26日 燃える浮世絵 真山知子 富田浩太郎

両替商伊賀屋から六本の掛け軸が盗まれる。奥絵師になる日も近いと噂される岡谷英信。その英信の過去の過ちを巡って一枚の浮世絵が死を招く。捜査を進める平次の目に映ったものは尊い女心だった…。

 ゲスト 真山知子さん(お歌)、富田浩太郎さん(岡谷英信)、梅津栄さん(北田屋)

 平次は時々、女心とか、女でしかわからないことなどよくお静に意見を求めます。今回もです。それが手柄に繋がったりしますが、万七が手柄がなかなかたてられないのは、男ヤモメのせいもあるかな。

 ラスト、三吉殺しの下手人、辰造を捕まえるとき、なんと襖越しに十手に仕掛けた縄を投げ、見事辰造の首にからまりました。スゴッ!


* 女心

 平次の家。

お静「(料理を運びながら)久しぶりに早く帰って来てくれるんですから、一本つけて待ってたんですよ」
八「へへへ、ありがてぇ…ごっつあんです」
お静「はい(八五郎におかずを載せた皿をわたす)」
八「はい、どうも…ねぇ、親分、そのおしげっていう女ですがね、偽物と知ってて高いお金を出したんですかね」
平次「そいつは女心だ。言ってみりゃ、お静の領分かな」
お静「あら、何のことですか?一体」
平次「いやぁ、こういう場合、おめぇならどうする?」
お静「藪から棒に…何のことだか、さっぱり」
平次「ひとりの女がある男に献身的に尽くした」
お静「そのある男の人っていうのは、女の人の亭主なんですか?」
平次「いや、そうじゃねぇ、だが、ある意味では亭主以上にその男を愛していたかもしれねぇ…その女は、随分昔、たったひとつの過ちを犯したその男のために過ちをきれいにしてやろうと必死になった」
お静「女なら誰でも好きだった人のためだったら、どんなことでもしてあげたいって思うんじゃないかしら」
平次「ん、そうだよな、いや、おしげは二十年前の英信の過ちを隠し通そうとした。銭、金じゃ代えられねぇ、尊い女心だ」


* ラストシーン

 ひょうたん。

おせん「伊賀屋の掛け軸泥棒、捕まったんですってね」
おかつ「そりゃ親分さんに睨まれたらどんな事件だって…ねぇ、姐さん」
お静「ん、岡谷先生は奥絵師をご辞退なさったそうよ。これからは町の人たちに喜んでもらるような絵を描くんだって」
おせん「そしたら、あの絵はどうなるの」
お静「ふふ、そんなことどうでもいいじゃないの。大切なのは、人の心じゃないかしら」
おかつ「そうですよねぇ、ふふふ」

 小料理 歌仙

お歌「(おせいに)おまちどうさま(掛け軸を抱えている)」

 そこへ平次。

平次「お歌、この軸は歌麿だな」
お歌「…」
平次「絵の行方を知らねぇとおめぇは言ったが、家財を売ってまで手に入れた軸だ。おめぇが知らねぇわけはねぇと思っていたが…」
お歌「隠していたことは、お詫びします」
平次「それで、これからどこへ行くんだ?」
お歌「今日は、おしげさんの祥月命日なんです。それで、これからお参りに…」
平次「母の…とどうして言わねぇんだ。おせいからみんな聞いたよ。先生と父娘(おやこ)の名乗りはしねぇのか」
お歌「一生日陰の花として暮らした母のことを思うと…とても…」
平次「それでいいのかもしれねぇ」

 おしげの墓。墓前に岡谷と娘の琴江、おせい、お歌がいる。少し離れたところに平次。

お歌「(掛け軸を広げて)この絵、あの世に送ってやりたいんです」
岡谷「すまん、みんな、みんな私が悪かったんだ(うなだれる)」

 お歌、掛け軸を燃やし始める。

平次「おしげさんへの供養のともしびだ…」

 涙を流して手を合わせるお歌。去っていく平次。


464話 4月2日 熱血の十手 志垣太郎 渡辺やよい

弱い者を助けたい、味方になりたい!念願の十手を手にした伝吉は大張り切り。先走りすぎて、清吉や八五郎たちに生意気だといわれるほど。そんな時、船頭の留造が斬り殺される。名乗り出た旗本河田源三郎、留造に非があり、斬り捨てたという。主を亡くし、残された妻子に降りかかる不幸。侍の前では十手は何の意味も無いと伝吉は、嘆きいらつく。岡っ引きとは?十手とは何なのだ!しかし、平次に諭され、伝吉は再び十手を握り、悪に立ち向かっていく。

 ゲスト 志垣太郎さん(伝吉)、渡辺やよいさん(おさよ)、西山嘉孝さん(伊蔵)

 岡っ引きとは?十手とは?伝吉を諭す平次が、見所です。結構な長台詞ですが、橋蔵さんは一回で覚えてしまったのかな。

 そんな平次もこと将棋となるとムキになるし、子供っぽくなりますね。ラストでは八五郎と将棋を指していますが、八五郎に王手をされて5回も「待った!」をかける。八五郎がダメというとダダをこねるし、八五郎に手をあげようとまでします。ちょうど伝吉たちが訪ねてきたのをいいことに平次は「これは止め〜」と。親分ったらぁ。

 またまた仲人を頼まれた平次夫婦。何度目でしょうか?八五郎がまたいじけてしまいます。

* 平次、伝吉を諭す

 伝吉の家。

平次「伝吉、話は聞いた。まぁ、おめぇのくやしい気持ちはもっともだが、留造の方に非があるなら仕方のねぇことなんだぃ…なんだ、気にいらねぇようだな」
伝吉「あたりめぇだぃ!(平次に背を向け)納得できねぇ!」
平次「まぁ、いい。それじゃおめぇの思っていることを洗いざらい言ってみな」
伝吉「あ〜ぁ、言ってやるとも。だいたい岡っ引きてぇのは何なんだい?十手を腰にぶちこんで、弱ぇもんの味方だとか何とか言ってるが、侍にゃ手も足も出やしねぇ。侍ってぇのはな、いばってりゃ、それでいい連中だってことぐらい、俺だって知ってらい。けどよ、あああっさりと無礼打ちで済まされたんじゃ町人たちは、たまったもんじゃねぇんだ。違いますか?親分」
平次「それで?」
伝吉「岡っ引きってぇのは、そういう町人が泣き寝入りしねぇで済むように力を貸すのが仕事じゃねぇんですかい?」
平次「そうだとも。その通りだ」
伝吉「けどよ、仕方がねぇからあきらめろって、親分だってそう言ったじゃねぇか」
平次「そうは言ってねぇ。無礼打ちっていうのは、おめぇの言う通り、腹にすえかねることだ。だが、それがお上で認めたしきたりなら、逆らってみたところでどうなるものか、俺たちは町方だからな。しかし、斬られた町人の方に間違いなく落ち度があったかどうか、また、たとえ斬り捨て御免とはいいながら、人間ひとりの命を奪った侍だ。そこにいささかの見くびり、侮りがあったとしたら、決して赦されることじゃねぇ。今度の一件をもしおめぇが心から悔しいと思うのなら、今言った真相を自分の手で調べるんだ。その勇気を持つ者が本当の岡っ引きなんだ。まぁ、十手を土間に叩き付けたおめぇの悔しさは(腕組みをする)この俺だって何度味わってきたことか…」
 伝吉、ゆっくりと振り返って平次の顔を見る。平次と目が合う。

平次「だがな、それを乗り越えて自分を捨てたとき、道は必ず開かれるんだ。その根性があってこそ、人のため、世のために働くことができるんだ。わかるかい?俺が言いてぇのは、それだけだ。どう考えようとおめぇの勝手だが、十手を生かすも殺すも自分次第ってことを忘れるな」

 平次、立ち上がって去る。


* ラストシーン

 平次の家。平次と八五郎が将棋を指している。八五郎、もち駒を見てニヤリ。

八「王手!へへへ…」
平次「おぅ、八、八、待ちな、ちょっと、ちょっと待ちな!」
八「待てって、親分、もう待てませんよ。五回目ですよ、これでぇ〜」
平次「そこを何とか頼むって言ってんじゃねぇか、おめぇ」
八「ダメだ、ダメだって、こりゃ王手!」
平次「そんなこと言わねぇでよォ〜」
八「待てませ〜ん」
平次「何を言ってんでぇ、おめぇ…(八五郎に手をあげようとする)」
お静の声「ちょっと、おまえさん」
お静「(鯛の入った桶を持ってくる)これを見てください」
八「わぁ〜、すごい鯛ですねぇ、こりゃ」
お静「ね〜ぇ」
平次「おぃおぃ、こんな高ぇもの、買ってきたのか?」
お静「ふふふ、とんでもない、伝吉さんが届けてくれたんですよ」
平次「何?」
お静「伝吉さん!どうぞ」
伝吉の声「へぃ」

 伝吉が勝手口からおさよと共に入ってくる。

平次「おぅ、伝吉、おさよさんも一緒かい。まっ、こっち来な、こっち来な。八、これは(将棋)やめだ(もち駒を将棋盤に投げる)」
八「えっ、そんなぁ」
平次「まぁ、いじゃねぇか」
伝吉「親分、八兄貴、いろいろありがとうございました。その鯛は俺たちのほんの気持ちなんで」
平次「そうかい。まぁ、遠慮なく頂くぜ。うんうん」
伝吉「それから、ひとつお願いしてぇことがあるんです」
平次「なんでぇ?」
伝吉「はい、これから十手に命をかけて、お上の御用を勤めさせてもらいます。そして一人前になったら、親分さんに仲人をお頼みしてぇと思いまして」
平次「ほぅ、そうかい。よくわかった。喜んで引き受けるぜ、なぁ、お静」
お静「ええ、そりゃもう」
伝吉「ありがとうございます。それじゃ俺たちはこれで」
平次「がんばるんだぜ」
お静「その日を楽しみに待ってますからね」
伝吉「へぃ、じゃ」

 伝吉とおさよ、お辞儀をして帰る。

お静「似合いのふたりですね」
平次「あぁ、きっといい夫婦になるぜ、え〜」
八「え〜え、それに引き換え、この八五郎さんは、いつまで経っても嫁の来てがないとこうおっしゃりてぇんでしょ?へっ、わかってますよォ(平次たちに背を向ける)」
平次「ハハハ、わかってるなら、結構だ」

 鯛のアップ


465話 4月9日 地獄の死者 倉野章子 野口ふみえ 二瓶秀雄

のべつ幕なしお上の手をわずらわせる源太。そんな源太を妻のお品は懸命に尽くす。しかし、とうとう伝馬町の牢に入ることになる。それが、きっかけとなって、牢役人や牢番の悪事が明るみに出る。平次は無法、非道が罷り通っているこの状況を打開しようと自ら入牢し、悪事を公にして、正そうと決心する。だが、へたをすれば、生きては帰れない。いつか誰かがやらなきゃならないんだ!そう樋口に言い残して平次は伝馬町へと向かっていくのだった。

 ゲスト 倉野章子さん(お品)、野口ふみえさん(おさえ)、二瓶秀雄さん(源太)、穂積隆信さん(伝次)

 入牢する平次、名前は甲州無宿の長次。左目にアイパッチ、のびた月代、乱れた髪、腕には三本の入れ墨、かなりの汚れ役でした。
 お静も御高祖頭巾姿で牢番伝次を誘いにかけるというやくざな役どころ。八五郎はくず屋さんに扮しますが、この役多いですね。

 平次はお静に「穏便にとりはからってくれると思ってるんだろう。情けは情け、法は法!」と言って叱ります。その実、平次は源太のために減刑の嘆願書を一生懸命書いていたのでした。

 ひょうたんのおせんちゃん、平次親分の悪口を言う者は赦せません。今回も涙ながらに万七にくってかかります。同じ仕事なのに平次親分の気持ちがわからないのかと。挙句「だからいつまでたってもぺーぺーなんだわ!」だって。(思わず、笑ってしまった)清吉も「うん、その通りだ」なんて言って…。


* 平次の心中

 平次の家。夜更け。平次、机に向かって何やら書き物。お静がお茶を運んでくる。

お静「お品さん、今頃ひとりぼっちで心細いでしょうね。おまえさんに捕まったんだから、ひょっとしたら穏便に取り計らってくれるんじゃないかと…」
平次「何だと!!」
お静「いえ、そう思っていたでしょうね、お品さん…」
平次「お品じゃねぇ、おめぇがそう思ってんだろう」
お静「おまえさん…」
平次「お静、いくらお品が哀れでも情けは情け。法は法。このけじめをはずすわけにゃいかないんだ…もういいから、さっさと片付けて寝ちまいな!」
お静「おまえさんは?」
平次「…(書き物を続ける)」

 お静、溜息をついて去る。平次の書いていたものは、源太の減刑嘆願書だった。

平次の声「恐れながら、格別のお慈悲をもって、なにとぞ、源太にご寛大なるご裁決を賜りたく…」平次と書く。

* いつか誰かが

 奉行所。樋口様に平次は不正を正すために入牢すると申し出る。反対する樋口様。

平次「同じお奉行様のご支配下にありながら、町方の道理が牢屋敷に通じねぇ、それで無法、非道が罷り通っていると、みすみすわかっていても、あっしらはおろか、旦那方にもどうにもならねぇ。そういう決まりだ、ご法度だと言われりゃそれまでだが、いつまでもこれでいいもんでござんしょうかね、樋口様…樋口様、いつか誰かがやらなきゃならねぇんです。これが最後になるかもしれねぇ、あっしの我儘、どうか勘弁しておくんなさい」

* ラストシーン

 伝馬町牢屋敷の前。源太が百敲きの刑を受けている。大勢の野次馬。中に平次とお品。

役人「(源太に鞭を打っている)八十一、八十二、八十三、八十四、八十五、八十六…」

 目をそむけるお品。

平次「辛ぇだろうが辛抱しな。源太の性根を敲き直してもらっているんだ…これであいつは、まっとうになるだろう」
お品「ええ」
役人「九十、九十一…」
平次「あとわずかだよ…」

 頷くお品。

役人「九十二、九十三…」


466話 4月16日 兄(あ)んちゃん 松山英太郎 大門正明

 両替商大和屋の息子、新助が殺された。植木職人の金太郎が妹、お清と新助の結婚に猛反対していたことと凶器が植木職人のはさみだったことから、金太郎が疑われる。金太郎が重い口を開いて結婚の反対理由を平次に話す時、平次には仕掛けられた罠が見えてくる。

 ゲスト 松山英太郎さん(金太郎)、大門正明さん(銀太郎)、紅景子さん(お清)

 兄弟愛を描いた作品。

 万七は平次に「金太郎が下手人だったらどうする?」と聞く。平次は「下手人じゃなかったら、おめぇ、どうする?」と逆に質問。万七「おめぇの回りを三遍回ってワンと吠えてやらぁ」と自信満々。清吉が「いいんですかぁ・親分」と心配した通りの結果に。
 平次は切り替えしたけれど、万、万が一、下手人だったらどうするつもりだったんでしょう?

 金太郎と銀次郎、お互い、相手を思いやって、亡くなった父の遺言を相手のためになるよう言い換えて、平次に伝えます。ラスト、平次は平次の考えで作った遺言を兄弟に伝えます。本当の遺言は何だったのかな。もしかして、そんなのはなかったのかもしれませんね。

 ラストの立ち回り。平次、二丁十手を同時回しのパフォーマンス。「時代劇専門チャンネルガイド」誌5月号で、橋蔵さんの次男の貞仁さんが以下のようにかかれています。
「ジョン・ウェインが好きな父は、よく西部劇を見ていました。…二丁拳銃がカッコイイと。自分も平次の舞台でやってみたいと思ったようです。…二丁拳銃みたいに十手を指でクルクル回して決めれば、お客さんが歓声をあげて喜んでくれると思ったんです。…」

 あぁ、この成果が今回のエピソードに登場したんですね。実際に見たかったです。


* ラストシーン

 平次の家。玄関から平次とお静が出てくる。

お静「おまえさん」
平次「ん?」
お静「遺言、どうします?」
平次「ん、いやぁ、それがな、金太郎は見込みがねぇんだと昔、絵の師匠がそう言ってたんだよ。だから弟の銀太郎は、手放せないんだ」
お静「そ〜う」

 ふたり、出かけていく。

 金太郎の家。

お清「金にいちゃん、おばさんから聞いたわ。私、バカだった、堪忍して…」

 金太郎、洟をすする。

太吉「ちぇっ、大人のくせにみっともねぇぜ」
八「そ、そうだよな、おぃ、へへへ…」

 そこへ、平次とお静。

太吉「あっ、おじちゃん!」
平次「おぅ」
銀太郎「あっ、こりゃ、親分、ありがとうございました」
平次「おぅ、おぅ、あぁ、あぁ、祝いに一杯やろうと思ってな。ひょうたんへ行こう、ひょうたんへ」
八「そいつは、いいや。さっ、行きましょうね、さっ、早く」
平次「あっ、ちょっと待ってくんな。その前にちょいと話があるんだ。死んだ親父さんの遺言のことでな」

 固唾を飲んで、平次の顔を見つめる金太郎と銀太郎。

平次「いや、いつまでも兄弟仲良く助け合って植金の店を盛りたててくれ、間違っても絵師なんかになるんじゃねぇって、そう言ってたよ」
金太郎「はっ?」

 銀太郎、複雑な表情。そこへ万七が申し訳無さそうに入ってくる。

万七「あっ…」
平次「おぅ、三輪の」
万七「銭形…面目ねぇ、やっぱり、おりゃ三遍回るよ(その場で回ろうとする)」
平次「えっ、まっ、まっ、いいんだ、いいんだ、そいつはな、そいつは奉行所でやってくれ」
万七「奉行所!…そんな、おめぇ…」
平次「まぁ、いいから。それよりもな、ひょうたんに乗り込もうじゃないか、えっ、…三輪の、おめぇも一緒に行こう」

 皆、金太郎の家から出て行く。


467話 4月23日 瓦版騒動記 三ツ木清隆 竹下景子

 海産物問屋播磨屋の番頭が殺された。瓦版売りの三平は、番頭が三平と同じ長屋に住むお吉のことを調べていたことを知り、番頭の死と絡めて瓦版の記事にしたから、さぁ、大変!三平もチンピラ共に襲われる羽目になる。恋人、お吉が播磨屋の娘と確信した三平はお吉の幸せを願い、別れなければならない辛さを胸に平次の家にその証拠となる守り袋を投げ入れるのだった。

 ゲスト 三ッ木清隆さん(三平)、竹下景子さん(お吉《お艶》)

 平次の植木職人姿が見られます。ラスト、お吉の養父仁造の振りをする平次ですが、チンピラが家の中を覗いた時点では、平次っぽくなかったと思いました。代役?

 境内でチンピラに襲われる三平を助けようとひょうたんのおせんが一芝居。投銭をして「親分!早く、早く」と大声出してあたかも平次が来ているように。チンピラはびっくりして、逃げます。おせんが、お金は何処へいったのかしらと捜すのが面白かったです。

 平次を中傷した瓦版屋に万七が怒り心頭。万七「たしかに平次は未熟だ(これはちょっと、いただけませんが)しかし、仮にも平次は可愛い弟分だ。弟分をこけにされて黙っていられるか!」と。清吉じゃないが今日の親分はいいこと言う!お酒を出されて誤魔化されるかと思いきや、「しばらくの間、商売差し止め!」だって、スーッとしました。

 平次とお静が仲良く晩酌。お静一口飲んで「はぁ〜、おいしい」と。お酒が強くなりましたね。最初のころは、「飲めない」とか「一口だけ」なんて言っていたのに。


* お熱い晩酌

 平次の家。平次、お静に酌。

平次「おぅ、いいか」
お静「すいません」

 ふたりで酒を飲む。

お静「はぁ〜、おいし〜い」
平次「おぃ、お静、おめぇと一緒になって、どのくらいになるかなぁ」
お静「いやですよ。急にそんなこと言い出したりして」
平次「な〜に、忙しさにかまけて、ここんとこおめぇと出歩くことも少なくなったからな」
お静「いいんですよ。私はおまえさんのそばにいられるだけで(平次に寄り添う)」
平次「こいつぅ」

 そこへ八五郎。

*ラストシーン

 平次の家。丸火鉢を挟んで、平次とお吉。平次は煙草。お静と八五郎が心配そうな顔。

お吉「親分さん、私、どうしても播磨屋さんへ行かなきゃいけないんでしょうか」
平次「そうだな」
お吉「私、行きたくない。お父つあんや三平さんと今まで通り…」

 仁造の家。思い詰めた面持ちで仁造を訪ねる三平。

三平「父つあん」
仁造「三平、ありがとうよ」
三平「えっ?」
仁造「話はみんな銭形の親分さんから聞いたんだ。よ〜く思い切ってくれたな。お吉も行きたくない、ここにいてぇと言うんだが、俺はどうしても行けと言ったんだ」
三平「父つあん、おいら弟子にしてくれねぇか」
仁造「いいとも、おいらもお吉がいなくなると寂しくていけねぇ」
三平「ありがとよ、お父つあん(涙ぐむ)」
仁造「その代わり、厳しい修行だぞ」
三平「(大きく頷いて)おいら、一生懸命頑張る」

 再び平次の家。お吉、立ち上がり、縁側のところへ行き、座る。

平次「なぁ、お吉ちゃん、播磨屋さんは、おめぇを捨てたが、親は親だ。それとおめぇが行かなくっちゃ播磨屋は絶えてしまう。なっ、おめぇは行かなきゃいけねぇ。わかったかい?お吉ちゃん…三平だってあの守り袋をおいらに返ぇすときにゃ、そりゃ辛かったろう、しかしそのとき決心したんだ。おめぇを播磨屋にけぇそうと。その方がおめぇにとって、幸せだろうとね、三平は言ってたよ。父つあんの弟子になって出直すんだ、まっとうに働くんだって」
お吉「(涙を流して)本当ですか」
平次「本当だとも、お吉ちゃん。(お吉のところに来て)三平も時には、やけになることもあるかもしれねぇや、その時にゃ、おめぇがそっと見守ってやってくんねぇ。なっ、そうすりゃ、おめぇ、播磨屋さんの婿にへぇるってことも考えられなくねぇや。そんときはおいらも力になるぜ」
お吉「親分さん、ありがとうございます」
お静「よかったわね、お吉さん。大店のお嬢様になったって、何も遠くに行くわけじゃないんですもの。それと三平さんは、お父つあんの家にいるんだし、いつだって会えるじゃないの」
お吉「はい」
八「羨ましいな、へへ」
平次「おぅ、八、おめぇも何でもいいから早いとこ、いい人を見つけるんだぜ」
お静「本当よ」
八「何でもいいからって…そんな無茶言っちゃいけねぇ、親分…全くね…」


468話 4月30日 打首待った! 横山リエ 南原宏治

江口屋庄兵衛殺しとして、唐津屋のお園が捕まった。しかし、夢遊病の発作ゆえの犯行だという。女牢の女囚たちは、お園が殺人を犯すような女ではない、助けてくれと平次に訴える。平次も不審を抱き始める、その矢先、お園に差し入れられた弁当に毒が入っていたことが判明する。お園を誰かが殺そうとしている!が、お園の処刑の日が決まる。平次はお園の無実の確たる証拠も掴めない。残る手段はただひとつ…平次は首切り役の山田朝右ヱ門に直談判しようと心に決める。

 ゲスト 横山リエさん(お園)、南原宏治さん(山田朝右ヱ門)、加賀邦男さん(石出帯刀)

 朝右ヱ門役の南原さん、形相も口調もすごみがあって、恐いくらいでした。冷酷非情と思っていたけれど、最後は平次の言うことを聞いていてくれたのですね。

 お静が平次の肩たたき。平次がお園を再調査してくれるのではと期待してうきうきしていました。平次がお静を実験台に。しっかり者のお静でさえ、寝ているところを急に起こされたら記憶が曖昧になることを証明しました。

 ラストの立ち回りで、平次は宙返りをしました。

 平次と馴染みの女囚、お鉄と子分のお政、火事で切り離しになり、貴重な時間を裂いて、平次にお園を助けてと頼みにきます。女だてらにヤクザの口調ですが、不自然な感じがして、逆に滑稽な感じがしました。

 次回から、10年目に突入。林寛子さんが平次一家に仲間入りするので、その紹介が最後にありました。

* 公方様の判

 平次の家。お静、平次の肩揉みをしている。

お静「そ〜う、じゃ、おみねさんの言ってた通りの人だったんですねぇ」
平次「ちらっと見たところではな」
お静「それじゃ、いよいよ大変ですね(ワクワクしている様子)」
平次「何?」
お静「いえね、いよいよおまえさんが乗り出して、一から洗いなおしってことになるんでしょ?」
平次「おぃ、お静、おめぇ、八の口癖がうつったんじゃねぇのか」
お静「えっ」
平次「なにが、いよいよだ!いよいよも何も今日のお調べを最後として江口屋殺しの決着はついたんだ」
お静「それじゃ、やっぱりそのお園という人がやったんだと…」
平次「そうだ、口書きにもな、素直に爪印を押したそうだ。それで、お園は下手人と決まり、あとは公方様のお許しを待つばかりなんだ」
お静「公方様の?」
平次「うん、たとえ罪人とはいえ、人、ひとりの首をはねるについちゃ、公方様の判がいるんだい」

* 直談判

 山田右ヱ門宅。平次、山田にせめて5日間、病気になっているふりをしてくれと頼む。

平次「旦那、それじゃ旦那は、ただの人斬り、血に飢えたけだものじゃござんせんか!」
山田「(刀の手入れをしている。平次をキッと睨む)なにぃ!」
平次「たとえ首切りがお役目でも人間なら人間らしい赤い、暖たっけぇ血が流れているはずだ。人の情けがあるはずだ」
山田「ほざいたな!下郎!」

 山田、立ち上がり、庭先にいる平次の顔前に刀を突きつける。平次、じっと山田を見つめる。

* ラストシーン

 江口屋庄兵衛の墓がある墓地。捕り物のあと。八五郎が由次郎を縛っている。

平次「旦那!」

 山田が現れる。

山田「(頷いて)しかと見届けたぞ、平次」
平次「へぇ、おぅ、お園さん、悪いが一旦、旦那とご一緒に牢屋に戻ってもらわなくっちゃならねぇんだ。な〜に、今度は心配することはねぇや。すぐ今日のうちにでも戻ってこられるさ」

 お園、無表情。

平次「(お園を促し)旦那、お願いいたしやす」

 山田とお園が去ろうとする。

由次郎「お園!待ってくれ!助けてくれ!」

 八五郎、由次郎を十手で叩く。

山田「おぅ、俺が待っててやるからな、早く来な。(お園に)さぁ、行こうか」

 お園、平次に頭を下げる。

八「どうしたんですか?あの女、むっつりしちゃて、何が気に入らねぇんで」
平次「無理はねぇさ。生まれてこの方、はじめて人間の恐さを知ったんだ。人の心の地獄を見ちまったんだからな」
八「へっ?」
平次「これからだ、あの人の生涯はこれから始まるんだ」

 山田とお園が歩いていく。見送る平次の顔のアップ。再び山田とお園が歩いていく姿。

出演者(レギュラー) 大川橋蔵 香山美子 林家珍平 遠藤太津朗 池信一 永田光男 神戸瓢介 武田てい子 吉田次昭 林寛子
469話 5月7日 謎の脅迫状 林与一 黒川弥太郎

 あいつぐ放火事件。町方と火盗改めは早く犯人を挙げようとお互いにしのぎを削っている。そんなとき、奉行所に投げ込まれた脅迫状…平次から十手を召し上げ、恥ずべき事で追放すること、そうすれば、火付けはやめる…江戸の人々を守るため、与力笹野と同心樋口はやむなく実行に移すが…。

 ゲスト 林与一さん(大山外記)、黒川弥太郎さん(笹野新三郎)、金井大さん(熊五郎)

 久々に笹野新三郎の登場。2年目に神田隆さんから黒川さんに代わり、3年目に根上淳さんになり、また黒川さんになりました。

 10年目に入り、豪華なゲストですが、内容は平次がいきなり十手を召し上げられるというピンチ。平次になんら落ち度はなく、ただ火盗改めの恨み、妬みによるもの。火盗改めと町方って本当に対立していたんでしょうか。

 十手がなくても投銭があると、平次は家の中で投銭。火鉢に置いてあったキセルの吸い口に見事にひっかかりました。

 十手がなくては、生活が出来ません。平次は木場人足となって働き始めます。もっともこの職場に決めたのにはちょっと考えがあってのことでした。

 新しく、平次一家の仲間いりした、健太(魚屋)とおちよ兄妹。平次親分を見て
おちよ「すてきね、銭形平次親分…」健太「へ〜え、いかすね〜」と。ごもっとも!平次親分のご近所に住みたいですね!


* 脅迫状

 火付けはやめる
 それには三つのじょうけんがある
一、岡っ引、平次より十手を召し上げること
一、ついほうには、最もはずべき けいばつをあたえること
一、むろん、この申し入れは、平次にきかせぬこと


* ラストシーン

 ひょうたん。 平次と八五郎がのれんをくぐる。万七、清吉がいる。健太が手前の食卓で食事をしている。

平次「おぅ」
八「あっ」
万七「よォ〜、銭形、よかった、よかった」
清吉「銭形の親分、ほんとうによかったですね、まっ、一杯(平次に酌)」
平次「おっ、すまねぇな」

 調理場からおちよとおかつが出てくる。

おちよ「親分さん、おめでとうございます」
平次「おぅおぅ、おちよちゃん、おめぇ、ここで働くようになったのか」
おちよ「ええ」
八「へへへ、これで明神下一家の勢揃いですね」
清吉「ほ〜んと」
平次「いや、大黒柱がいねぇや。お静がここに来るはずなんだがなぁ」
万七「それが、おめぇ、泣かせるじゃねぇか、久しぶりに昼風呂につかるってんだ(片手で目を覆って泣く)」
おちよ「あらいやだ、男のくせに泣いたりなんか…」

 熊五郎の家。熊五郎の位牌に手を合わせるお静。

おまき「おまえさん、銭形の親分さんが仇を討ってくださったんだよ…仇を…」


 挿入歌「夕月白く」

 さよならばかりを  見つめて来たの
 悲しみにふるえる  うしろ姿を
 夜明けの橋は    別れ橋
 泣いては駄目だと  ささやく声を
 きいた気がする   どこか近くで


470話 5月14日 甲州獄門坂 山形勲 戸部夕子 睦五郎

 甲州の岡っ引き紋次からの情報で平次は逃亡寸前の疾風組の頭、政五郎をお縄にする。しかし、その紋次が疾風組の一味に連れ去られたという知らせが平次のもとに届く。早速、甲州へ向かう平次と八五郎。紋次の家に着いた平次は何となく不自然さを感じ取る。やがて、紋次の正体が白日の下にさらされる。

 ゲスト 山形勲さん(儀十)、戸部夕子さん(お島)、睦五郎さん(紋次)

 仕事をさぼってばかりの兄、健太をまた叱ってほしいと平次に頼むおちよ。今回はちょっとおちよを脅かしますが、平次親分、また仕事が増えますね。為吉たちの夫婦喧嘩の仲裁がなくなったと思ったら、健太のお説教をすることになりました。

 甲州へ旅立つ平次と八五郎。珍しく八五郎が道中かぶり(平次は手拭なし)。それを見たおちよ。「丁稚姿がよく似合う」だって。笑。

 ラストの立ち回り。足元に小石がごろごろしていて、やりにくかったでしょうね。かなりの人数の悪者ども相手に平次はひとりで大奮闘。終わったあと、肩で大きく息をしていました。

 ラストシーンでは、平次の前で息絶える儀十。映画「新吾十番勝負」を思い出してしまいました。武田一真の白刃に倒れた梅井多門(山形勲さん)を目の前にして、復讐を誓う葵新吾(橋蔵さん)…。


* ラストシーン

 甲州獄門坂。たすき掛けで大立ち回りの平次。終わって肩で大きく息をつく。仙太に刺され、瀕死の儀十。八五郎とおるい(桑原多仲の娘)の肩を借りて、平次の方へと来る。

平次「おう、父つあん!」
儀十「(もう目が見えない様子)親分、あっしは、そいつを…弟を指しやがった…その野郎を斬ろうと…(体の力が抜ける)」
平次「おぅ、父つあん!紋次は石和から江戸へ回してもらって、俺は必ず、締め上げてみせるぜ」
儀十「親分、弟に…政五郎に…もう手数をかけるんじゃねぇ、せめて、せめて死に際だけはきれいに潔く死ぬんだと、そう言って…そう…」
平次「言ってやる、聞かせてやるぜ」

 儀十、こと切れる。

八「あっ」
平次「父つあん!」

 平次、儀十が下げていた守り袋に目をやり、手に取る。

 夕焼け。桑原と儀十の墓が並んでいる。桑原の墓に手を合わせる、娘のおるい。佇む平次と八五郎、儀十の墓にかけられた守り袋のアップ。


471話 5月21日 一人だけの約束 葉山葉子 山岡徹也

 晦日まであと2日。愛する源太に会える日を夢見て、この2年間ひたすらに待っていたお葉。両替商伊勢屋を襲った一味が町方に追われ、お葉の家に逃げ込んだことから、一転悪夢と化す。その男、忠治はお葉と昔係わっていて、お葉の過去を楯に居座ってしまう。はずみで忠治を傷つけてしまうお葉。運悪く忠治は死ぬ。平次たちに下手人と疑われても申し開きができないお葉。忠治の仲間がお葉に迫る。八方塞がりのなか、お葉は源太に会えるのだろうか。

 ゲスト 葉山葉子さん(お葉《おてる》)、山岡徹也さん(市兵ヱ)

 銭形平次では常連の葉山葉子さんがゲスト。

 平次の情けで、お葉をお縄にするのを一日延ばします。そう、江戸ところ払いとなっていたお葉の恋人源太が江戸に戻ってくるので、会わせる為です。お葉が次の日自首をすれば、罪も軽くなるでしょう。

 三度笠を深く被って源太が帰ってきますが、顔が見たかったですね。


* やもめの切なさ

 番屋。お弁当を持ってお静が入ってくる。

お静「皆さん、お役目、ご苦労さん」
清吉「あぁ、こりゃどうも」
平次「なんだ、お静、何か用かい」
お静「陣中見舞いですよォ…はい(清吉に弁当を渡す)」
万七「へ〜ぇ、これは、これは」
清吉「(風呂敷をほどきながら)では、頂こうかな。どんなおかずが…(弁当の蓋を開ける)あら」
万七「うめぇこと言って、本当は亭主の顔が見たかったんじゃねぇのかい」
お静「実はそうなんですよ。ふふ、いえね、このところ憎い押し込み強盗のお陰で、さっぱり…」
万七「こりゃ、ごちそうさまだぁ。ハハハ、食う前に腹が一杯になっちまう、ハハハ」
平次「そんなこと言わずに遠慮なく、食ってくんな」
お静「どうぞ」
清吉「いや、頂きます」

 下っぴきたちも弁当に手を出す。

清吉「ん、こりゃうめぇや」
万七「本当だぁ、くやしいが、やもめの切なさをしみじみ感じるよォ」
お静「まぁ、うふふ」

* ラストシーン

 街道で源太が来るのを待っているお葉。

 平次の家。 長火鉢のところで、平次とお静がお茶を飲んでいる。

お静「もう会えたかしら」
平次「ん?」
お静「お葉さんに源太さん」
平次「あ〜ぁ、うん、さぁな」
お静「会えればいいんだけど」

 おちよの歌声「♪さみしさばかりに〜」

お静「おちよちゃんだわ」

 おちよ、洗濯物を取り込みながら歌っている。

おちよ「♪悲しくなって
     まごころを傷つけ  誰も泣いている
     ふりむく坂は    別れ坂
     小さな灯火     心にともし
     生きてほしいと   そっとふりむく」

 街道。かなり長くお葉は待っているのか、腰をおろす。遠くに人影を見る。三度笠を被った旅姿の男が近づいてくる。見つめるお葉。

お葉「(嬉嬉として走り出す)源太さ〜ん!」


472話 5月28日 母の裁き 南城竜也 工藤堅太郎 野村昭子

金貸し利兵ヱが殺された。疑いをかけられた文太は逃げ回る。見習い同心青柳新八郎は、独りよがりな策略…文太の母、おげんを囮にして文太をおびきだす…を考える。樋口や平次の諌めも虚しく、結果は平次たちの恐れていたことに。母が両国橋にさらされるという噂を耳にして文太は怒り心頭。青柳の母幾世を人質にとり、母を取り戻そうとする手段に出た。

 ゲスト 南城竜也さん(青柳新八郎)、工藤堅太郎さん(文太)、野村昭子さん(おげ
ん)

 身分、立場は違えども子を思う母、母を思う子の心は同じだと教えてくれたエピソードでした。

 それにしても同心青柳新八郎の独りよがりで、同心風をふかして、その態度は目にあまりました。平次を目の仇にしているのをいいことに万七は青柳の腰巾着のようになっていました。

 樋口様が堪忍袋の緒が切れて、青柳同心に「喝!」八五郎じゃないけど、すーッとしました。「平次たち岡っ引きが俺たちの手足になって働いてくれる。すぐれた岡っ引きがいなきゃ同心はただのごく潰し。平次たちの聞き込みを大事にしてその上でどう動くか決めるのが同心!」

 平次はいつも青色のパッチだけど、今日はグレーのもはいていました。着物の色とあわせたのか、品があって素敵ででした。

 真の下手人、九兵ヱを捕まえるため、九兵ヱ宅へ行きますが、つま先で畳をひっくり返して手下をやっつけました。

 平次が青柳をいさめるシーンがよかったですね。長台詞もすごかったですが。青柳と平次の目がぶつかりあって、超アップ!迫力満点。

 今回、カメラアングルですが、下から見上げるような絵が多かったですね、映画のような。


* 平次、同心青柳をいさめる!

 番屋。母を人質に取られ、茫然として座っている。

平次「…あなたにとって、大切な母上様をかどわかした文太。さぞ、憎い奴と腹も立ちましょう。しかし、文太にとっても大事な母親に違いありません。それをさらしものにすると聞きゃ、やはりくやしいと思うのは当たり前だ!母を思う心にお侍も町人もかわりはねぇはずだ。違いますかい?文太はまっとうな奴なんです。ただ、島送りの父親をもったばっかりに辛ぇ思いをしてきたんだ。あっしゃ、そういう思いをしている家族を何とかして、力づけて、くじけねぇよう手を差しのべてやるのも、あっしら町方の仕事だと思っているんだ。それを今度のように頭から下手人扱いしちまっちゃ、救えるものも救えなくなるんじゃありませんか」
青柳「平次、勘弁してくれ、俺が間違ってたんだ」
平次「いいえ、とんでもねぇ、わかっていただけりゃ、それでいいんで。それともうひとつ、もし文太が母上様を楯に出てきたら、青柳様、あなたはどうなさいます?」
青柳「俺は、俺は、母さえ無事なら…」
平次「しかし、文太はどうなさいます?文太はあなたの母上様をかどわかした。それだけで、やはりお縄になさいますか?ここは、はっきりお答え願います」

 平次と青柳、目と目がぶつかり合う。

樋口「それは、俺に任せるな?新八郎」
平次「青柳様!」
青柳「わかった、樋口様の裁量に任せます」


* ラストシーン

 浜町河岸。文太、青柳の母、幾世と舟に乗っている。岸で説得にあたっている青柳。見守る樋口、平次、八五郎、万七、清吉。

幾世「私は息子の言葉を信じましょう。そしてもし、やっぱりあなたを捕まえるための嘘だとわかった時には、私の命、あなたにあげましょう」

 平次、文太の母おげんを連れて、走ってくる。

平次「(文太に)おっ母さんだよォ〜」
文太「おっ母ぁ、無事だったんだな」
おげん「そうだよ!だから早く上がってきておくれ、もしちょっとでも、その人に怪我でもさせたら、おっ母さん、生きてないんだよ!」

 舟上の文太と幾世、顔を見合わせる。

文太「おっ母ぁ〜」
おげん「(泣きながら)わかったね、早く乗り付けておくれ!文太!」
文太「うん」
おげん「そんな物騒なもん、早くお捨て!」

 文太、ドスを捨てる。

文太「さぁ、早く(幾世を背負う)」
青柳「母上!」

 文太、幾世を背負って、舟から降り、岸に向かって川の中を歩いていく。岸から青柳が文太たちの方へ向かっていく。

青柳「母上!…母上!…母上!…」

 青柳、文太から幾世をおろし、抱きかかえる。

幾世「ありがとう、文太さん」
文太「おめぇさんには、負けたよ」
幾世「そうじゃないわ。あなたは、本当は、おっ母さん思いの優しい人なのよ」

 そこへ、おげんも川の中を歩いてくる。

おげん「文太!」
文太「おっ母ぁ!(おげんと抱き合う)おっ母ぁ」
青柳「母上!」

 その様子を見て、樋口、平次、八五郎、万七、清吉、安心して引き上げる。

樋口「平次、いろいろとよく辛抱してやってくれた。礼を言うぜ、え」
平次「とんでもござんせん」
樋口「いやぁ、新八郎にゃ、いい勉強になったはずだぃ」
平次「きっと心の暖ったけぇ同心になっていかれると思いますぜ」
樋口「さぁ、行こうか」
平次「へぃ」


473話 6月4日 風が恐怖を呼ぶ 水島道太郎 森川千恵子

強い風が吹くたび、三島屋の娘およねの心は乱れ、その都度万引きをしてしまう。一体何故?自分でもわからない。それにつけこみ、およねを強請る悪徳同心沢木平之助。平次は沢木の動きに不審を抱き、およねを調べる。平次が真実を突き止め、およねの父、茂平が過去を語るとき、およねにとって、残酷だが越えなければならない試練となる。

 ゲスト 水島道太郎さん(茂平)、森川千恵子さん(およね)、剣持伴紀さん(文吉)

 強風のなか、幼いおよねが見た恐ろしい場面。それが大人になっても消えず、印象的だった強風だけが強く残っています。風が吹くたび、心が乱れるのです。現代にもあることでしょう。

 ラスト、およねの養父(実は、実父)茂平が、死に際に語った真実は意外でした。

 真実を聞いたおよねが、ショックを受けるシーンに流れる曲が気になりました。橋蔵さんがお気に入りだったリチャード・クレイダーマンの曲のような気がします。どなたか、お分かりの方教えていただけたら幸いです。

* ラストシーン

 縁日か、出店の並ぶ道を歩いている平次とお静。

平次「相変わらず、賑やかだな」
お静「ええ…(ふと、振り返る)あら?ちょっと御覧なさいな、あそこ(指差す)」

 文吉とおよねが店で何やら買おうとしている。

平次「ほぅ、文吉もすっかり三島屋の二代目が板についてきたじゃないか」
お静「ええ、ふふふ」
平次「夫婦仲もうまくいってりゃ、いいんだが」
お静「大丈夫ですよ。だって、ほら…買ったものが…」
平次「あっ、ハハハ」

 文吉、でんでん太鼓を買い、およねと去っていく。

平次「三代目も、もうじき生まれるってわけか」
お静「あの様子だったら、それこそ太鼓判を押せますよ。ふたりの夫婦仲。槍が降ろうが…」
平次「風が吹こうが…か?」

 ふたりで笑う。平次、お静の背中を押して雑踏の中へ。


474話 6月11日 おみくじは凶と出た 柴田p彦 中田博久

 富くじが当たるようにと何度もおみくじを引く万七親分。やっと「金運来る」のくじを引いたものの、ほかは全て凶。そのおみくじ通り、万七の家からボヤを出したり、銃で狙われたり。金運と言えば、なぜか材木商松木屋の主人が万七に千両あげてくれと遺言する。平次はその千両を巡って松木屋の道楽息子京太郎が、万七の命を狙ったと推理する。しかし、松木屋との係わりを頑なに口を閉ざす万七に平次は疑問を抱く。そして、20年前、万七の係わった火事騒ぎの事件を見つけ出す。

 ゲスト 柴田光(部首変更が出来なくなってしまいました。にんべんに光です)彦さん(京太郎)、中田博久さん(幸助)、岩田直ニさん(松木屋)

 万七の息子、万助役が河崎直人さんに代わりました。5代目でしょうか?いつまで経っても大きくなりません(一回、急に大きくなったのですが、また小さくなりましたー笑)。

 口も顔も(平次は鬼瓦みたいな〜と言っていました)悪いけど、万七親分の心のやさしさがわかったエピソードでした。もちろん、平次はお見通しです。

 せめて、万七親分に富くじのひとつも当ててあげたかったですね。


* 万七とは

 万七は情けがないと憎んでいる丈吉に

平次「おめぇみたいな男をお縄にするときにゃ、万七は本当は辛くてならねぇんだ。辛ぇから、よけい鬼瓦みたいな顔で毒づいたりするんだ。万七はそういう男なんだ」


* ラストシーン

 ひょうたん

清吉「え〜っ、京太郎も親分もおかまいなし!本当ですか」
平次「あぁ、お奉行様のおっしゃるには、京太郎には何分、子供のときのことゆえ、また万七はすでに十分苦しんだってんでな」
おちよ「よかったぁ」
健太「本当によかったですね、親分」
万七「(涙をぬぐって)ふん、このへんでせっかく骨休みする気になったのによォ、気が利かねぇお奉行様だぃ」
八「あ〜あ。これだぁ、ねぇ親分、お奉行様が十手をお召し上げにならなかったのは、ほら千両箱を潔く、ポンと小石川の療養所に寄付しなさった、あれが効いたんですよォ」
万七「なんだと!それじゃ、おめぇ、あの金、ありゃ、ほんとに寄付しちまったのか!」
清吉「本当だって、親分。はっきりそう言ったじゃないですか。今は銭どころじゃねぇ、寄付するように頼んでこいって」
万七「バッカだな〜、こいつ、正直にそのまま伝えたのか!何てことするんだよォ、おめぇ、せめて百両、いや十両だっていいんだよ、残しといてくれりゃなぁ〜。畜生!富くじは総はずれだし、おりゃ、やっぱり銭にゃ縁がねぇんだなぁ。ほんとうにもう〜(飯台を叩いてくやしがる)」

 皆、大笑い。


475話 6月18日 十手を持った狼 赤座美代子 沢村宗之助

今年も無宿人狩りの日が来た。前科者ということだけで、捕えられ、この世の地獄、佐渡金山へと送られる。これに納得のいかない平次はこの日はいつもズル休み。しかし、無宿人狩りを逃れた源次郎と弥蔵が盗みを働いたとなれば、おちおち休んでもいられない。弥蔵は捕まったものの、源次郎は行方知れず。頼るは恋仲のお秋のところか?岡っ引きの橋場の久六は源次郎の行方を知るため、お秋を見張る。しかし、久六にはもうひとつの顔があった。

 ゲスト 赤座美代子さん(お秋)、沢村宗之助さん(橋場の久六)、亀石征一郎さん(源次郎)

 クレジットでは、源太郎になっていましたが、劇中では源次郎でしたね。

 冒頭、皆さん、お気づきになりましたよね?平次がお静のほっぺにチュッ!これって橋蔵さんのアドリブでしょうか、心なしか、お静、いえ香山さん、嬉しそうでした。
 平次が仮病を使い、お静の肩をかりて寝床に戻るところです。

 お秋を見張る為八五郎は、お秋の勤める店先に屋台そばを開きます。その素人っぽさに、すぐお秋に八五郎が目明しだとバレてしまいます。


* 平次が仮病?

 平次の家。八五郎、医者の手を引っ張り、為吉と共に家に入ってくる。

八「(大声で)親分!」
為「頭も上がらない重病なんだぞ、体にさわったらどうする!」
八「すまねぇ」
為「おめぇは、そそっかしくていけねぇんだぞ…先生、どうぞ」

 三人が中に入ろうとするが、目の前の光景に唖然。病気のはずの平次が長火鉢のところで平然とたばこをふかしている。

八「親分…やい!為公、よくもでたらめ言ってくれたな、やい!人を担ぐのにもな、言っていいことと悪いことがあるんだぞ!親分が命に係わる病気だと?…この野郎!(拳固をつくる)」
為「い、いや、おりゃ、確かにさっきお静姐さんから、そう聞いたんだもん」
八「この野郎、まだ言ってやがら、姐さんがそんな嘘を言う道理がない」
お静「ただいまぁ(勝手口から入ってくる)おや、八つあん、いらっしゃい。おまえさん、樋口様にお届けしてきましたよ。病気だからしばらく休ませて頂きますって」
平次「そうか、ハハハ、おぅ、せっかくお医者様にご足労願ったんだ、うん、お菓子でもお茶でもそれ、おもてなししねぇかよ」
お静「はいはい」
医者「いいや、私は水を…まだ、息切れがして…」
お静「すいません、今すぐに」
平次「いやぁ、こりゃ全くすまねぇことしちまった。まぁ、どうぞ、どうぞ、こちらへいらして…」
八「お、親分、これは、いってぇどういうことなんですか、えっ?頭も上がらねぇ重病人だっていうから、飛んで帰ってみりゃ親分はこうして、ピンピンなさっていらっしゃるし、かと思や、姐さんが樋口の旦那のところへ…」
平次「あん」
お静「(医者に水を持ってくる)どうぞ」
平次「仮病だよ、仮病」
八「仮病?!」
医者「プーッ(水を口から噴出す)」
平次「アハハ、つまりな、ズル休み」
為「冗談じゃありませんよ。仕事にかけちゃ誰よりも江戸一番にくそ真面目すぎるほど熱心な親分さんが、もう〜」
八「そうですよ、そんなべらぼうな話って…」
平次「おい、お静、寝床はまだそのままだな?」
お静「はい」
平次「そうかい、それじゃ、もうひと寝するぜ」

 平次、立ち上がろうとするが、八五郎と為吉の顔を見て、バツが悪くなったのか、

平次「(頭を手で押さえて)あっ、痛、痛い、頭が痛い、頭が…あぁ腹がしくしくする…ウェ〜ッ胸がムカムカするぞ。おい、こりゃ、大病だ、大病だ、ひょっとするともう治らねぇかもしれねぇよ、あ〜痛い、大分熱が出てるぞ、熱が…」

 平次、立ち上がり、お静の肩を借りて、隣室へ。

平次「おい、お静(お静の左頬にチュッ!)」
お静「あら(嬉しそう)」
平次「こりゃいけねぇや」

 平次、寝床に潜リ込む。


* ラストシーン

 千住の手前の街道筋。久六を罠にかけたお秋。死んだはずの源次郎が旅姿で現れる。源次郎と久六が争う。そこへ平次と八五郎。

平次「(投銭で久六から十手を飛ばす)久六!てめぇには、十手をもつ資格はねぇ。お上の威光を笠に着て、弱い者いじめする、てめぇのような奴は十手持ちの風上にもおけねぇが、色と欲とに目がくらんで、とうとう自分から墓穴を掘りやがった。おい、久六!盗人を殺して、二百五十両の大金をネコババしようとした、てめぇの罪は源次郎以上に重ぇんだぞ」

 平次、十手に怒りをこめて、久六をたたく。金包みが落ちる。八五郎が久六を縛る。

久六「痛てて…畜生」
八「(金包みを拾って)親分!」

 源次郎と平次が見つめ合う。お秋が平次の前で土下座。

お秋「親分さん、源さん、懸命に立ち直って、まじめに働こうとしてたんです。おの久六さえ、いなかったら…」
平次「わかってる。あのうじ虫が、いなかったら…それに佐渡送りというご政道がなかったら、こんな悲しい事件は起こらなかったかもしれねぇ」

 泣き崩れるお秋。

源次郎「親分さん、(両手を平次の前に差し出し)あっしは、大罪を犯しちまった。覚悟は出来ておりやす。ただ、親分さんの情けにすがって、このお秋だけは、何とか助けてやってください」

 平次、源次郎に縄をかける。それをみて号泣するお秋。

八「おい、源次郎!親分はな、できることなら、おめぇを捕まえたくなかったんだい。その苦しい気持ちがおめぇにわかるかよォ!」
平次「さぁ、行こうか」

 お秋、連行されていく源次郎と久六を見送る。が源次郎の三度笠と荷物が置いてあるのに気づき、それらを抱えて後を追う。

お秋「源さ〜ん」

 源次郎と平次、その声に立ち止まり、振り返るがすぐ歩き始める。

お秋「源さ〜ん」

 お秋の声がこだまする。街道のかなたに消えてしまった源次郎。お秋、泣き崩れる。


476話 6月25日 殺しの罠 平井昌一 長谷川待子

伊勢屋のおかみ、お澄が殺された。疑われたのは、義理の息子の辰之助。なさぬ仲のお澄との折り合いが悪く、家を出ていた。しかし、辰之助のことを心から心配していたのは、乳母のおうめとこのお澄だったのだ。平次は辰之助が罠にはめられたと確信する。その証拠をつかむため、辰之助を敢えて牢へと送る。

 ゲスト 平井昌一さん(辰之助)、長谷川待子さん(お澄)

 悪女役の多い長谷川さん、今回は良妻賢母、いい役でした。

 平次が出会い茶屋のおかみ、おたきに聞き込みに行きます。おかみに巧みに鎌をかけますが、「刑事コロンボ」に似ていませんでしたか?一旦、帰ると見せかけ、額を叩いて、急に思いついたように質問する方法。口調もいつもの平次と違っていました。田村正和さんの「古畑任三郎」もこんな感じですね。「刑事コロンボ」は1968年〜1978年に第一シリーズが放送されました。今回の平次は1975年6月25日の放送ですから、真似てみたのもうなずけますが。

 八五郎はおこもさんに扮して才造(汐路章さん)を見張りますが、八つあん、おこもさんとか、くず屋さんが多いですね。

* 平次コロンボ?

 出会い茶屋「おたき」 平次、上がり框に腰掛けている。

平次「いやぁ、三輪の親分の又聞きじゃ、もうひとつ、はっきりしなかったんだが、これですっかり飲み込めた。ありがとよ」
おたき「いいえ、お役に立ちませんで」
平次「ああ、いやぁ、しかし、おかみさん、さすが商売柄、慣れたもんだ。話しをするにもそつがねぇや。まるで、こっちが聞くだろうってことを前もって承知していなすったみたいだ」
おたき「えっ!いいえ、そんな…」
平次「ああ、いやいや、大助かりだったよ。ああ、じゃ(腰を上げる)」
おたき「まぁ、私としたことが、お茶も差し上げないで、おさん!おさ〜ん」
平次「あぁ、いいんだ、いいんだ」

 平次、玄関の戸のところで立ち止まり、額を手で叩く。

平次「あっ、そうだ!実は伊勢屋のおかみさんの履物のことだがな〜」
おたき「えっ」

 平次、おたきのところに戻る。

平次「ここの家へ玄関から上がって二階で殺され、そのまま、役人の手で運びだされたんだ。してみりゃ〜(顎をなでて)履物はまだここになくっちゃいけねぇんだが…どこにある?」
おたき「さぁ〜、それは…」
平次「ねぇのかぃ?」
おたき「いえ…たしか(あせって)そのへんにあったはずですよ」

 おたき、あわてて玄関に降り、床下を覗いたり、下駄箱の中を探し出す。

平次「あ、おかみさん、もういいや。ねぇならねぇでいいんだ」
おたき「だ、だって…」
平次「まぁ、いいってことよ。大方どっかの犬でもくわえていったんだろう。(おたきの顔を見るが、お見通しだよという目つき)じゃぁな」

 店を出る平次。おたき、落ち着かない様子。平次のいないのを確認するとすぐ店を出る。
物陰から見ていた平次。

平次「どうやら効いたらしいな」


* ラストシーン

 伊勢屋。仏壇の前に辰之助と巳之吉(お澄の実子)

辰之助「おっ母さん、ただ今戻ってまいりました。今日からは、巳之吉と力を合わせてきっとりっぱに…いいですね、おっ母さん、巳之吉は私の片腕、どこへもやりませんよ。どうか、どうか見てておくんなせい(涙ぐむ)」

 そこへ、おうめ。

おうめ「若旦那、若旦那がお戻りになったのを祝って内輪で盃をしようと大旦那様がお待ちかねでございますよ」
辰之助「巳之吉、行こうか」

 祝いの席。

おうめ「さぁさ(巳之吉を座らせる)」
伊勢屋「遅いね、銭形の親分さんは。どうなすったんだろうね」

 あいたままの平次の席のアップ。

 平次の家。

お静「(お茶を持ってくる)おまえさん、せっかく呼ばれているのにどうして行かないんです?」
平次「いいんだ。今日は、あの人たちだけで、しみじみ祝わしてやりてぇ。それがいいんだ」
お静「伊勢屋さん、これから、ご繁盛でしょうね」
平次「そうともよ、あのおかみさんが、草葉の陰から守っているんだからな」

 平次、煙草を一服。

 仏壇の中のお澄の位牌のアップ。


477話 7月2日 死人の復讐 戸浦六宏 潮万太郎

次々と三人の男が殺される。凶器は毒が塗られた吹き矢。大工、左官、松前屋の番頭…この三人に共通するものは何なのか。三人にはそれぞれ、娘の嫁入りなど祝い事が控えていた。そして、平次の家に投げ文が…あともうひとり殺す…松前屋がひとつの共通点であることに気づいた平次。その隠居善兵ヱが還暦の祝いを控えている。次の犠牲者は善兵ヱに違いない。なんと殺しの目的は復讐だった。この男たちが意識もしなかった言動に対しての。平次は下手人の目星をつけたが、すでに病死をしていた。だが平次は確信する「下手人は生きている!」

 ゲスト 戸浦六宏さん(弥七《もぐらの辰》)、潮万太郎さん(松前屋善兵ヱ)

 冒頭、平次が歯磨きをしながら井戸端で出てきますが、手にかわいい竹筒に入った歯磨き粉入れをぶら下げていました。そのかっこうが可愛かったです。

 殺しの手口は吹き矢。平次は家の中で吹き矢のけいこ。それをみてお静が「さっきからそんなことばかりして〜」と小言。庶民的な会話で、平次が子供っぽい感じもして、何故か笑ってしまいました。

 平次の家に投げ文があり、お静の袖に吹き矢が刺さっていました。そのあと長火鉢のところで、平次とお静が事件の話などしますが、お静、平次の飲み残しのお茶を飲んでましたよね。平次がお茶を飲んだ後、お静に湯のみを渡すとお静は何気なくそのまま飲んでしまいました。#475ではほっぺにチュッ、今回は間接チュッですが…

 もぐらの辰はやっぱり生きていました。死んだ双子の弟になりすましていたのです。辰と平次の対決。辰の吹き矢を平次は畳を返して楯にし、阻止しました。

 平次の家に久々に十姉妹、登場。


* 吹き矢

 平次の家。平次、紙で作った吹き矢を飛ばしている。

お静「やめて、おまえさん、さっきからそんなことばっかりして〜」
平次「わかった、わかった」
八「やぁ、それにこう…さすが親分ですね、よっ(柱に刺さった吹き矢を抜きながら)ちょっと間にこんな腕前になっちゃうんですから」
お静「いやですよ、八つあん、そんなこと言って。ねっ、お茶にしますから、もう止めにしてくださいな」
八「へぃ」

* お静のお陰

 平次の家。  長火鉢のところで、平次、殺された三人のことについて思案中。お茶を飲む。

お静「おまえさん、今度の一件からおまえさんに手を引かせようとして…」
平次「なんだ、おめぇ、知っていたのか」
お静「いえ、ただそうじゃないかと思っただけ」
平次「(湯のみを置いて)な〜に、おめぇまで心配することねぇんだ」
お静「ええ、でも私だったら、大丈夫ですよ。たとえ命を狙われても十手持ちの女房ですもの、覚悟しています」
平次「お静、おらぁ、おめぇのそういう気持ちがあればこそ、今日まで危ねぇ橋を渡ってこられたんだ。ありがとよ」
お静「そんな…どんな脅しを仕掛けてきたって、どうせ手を引くおまえさんじゃないもの」
平次「違ぇねぇ」

 ふたりで笑う。平次、お茶を飲む。

お静「だけど、おまえさん、一体誰が…」
平次「ん、それよ(湯のみをお静に渡す)、お駒はすでに江戸にはいねぇし、伝造は証がたつとなると…」

 お静、平次から受けとった湯のみからそのまま、飲み残しを飲む。

平次「ほかにもあれだけの吹き矢をつかえるものがいるということか…」
お静「でもその心当たりは、ないんでしょ?」
平次「俺の知る限りじゃな…まさか、もぐらの辰…いや奴はたしかに死んだはずだ」

 玄関の戸が開く音。八五郎が入って来る。

お静「ごくろうさま、八つあん」

 お静、また平次の湯のみで残ったお茶を飲む。

平次「おぅ、どうだった?」
八「へへへ、姐さん、すいませんが、お茶一杯頂きたいんですが」
お静「あっ(平次に湯のみを返して)ごめんなさいね、気が利かないで」


* ラストシーン

 平次の家。平次、かごの中の十姉妹と戯れている。

八「は、しかし親分、今度の事件ほど人の気持ちが恐ろしいと思ったことはありませんよ」
平次「そうよ、殺された三人だって、まさかと思ったろうが、世の中、いろんな人間がいてあたりめぇ。お互いにうっかりしてたら、どんな目に遭うかわからねぇ」
八「そうですねぇ」
平次「ふん、まっ、特に殺された三人のように日頃、生真面目な奴が一旦、解放された気持ちになると間違いを起こしやすいもんだ。まっ、人間、あまり調子に乗りすぎるとよせばいいことまでやってしまうもんだ」
八「なるほど、そういうもんですね」
平次「ふとした心の緩みが命とりになる。おぅ八、おめぇ、今日は気をつけた方がいいぜ」
八「えっ!あっ、そうですね。今日は改めて、おちよ坊たちを誘って芝居見物に行こうってんで、日頃生真面目なあっしにとっては、確かに用心しなくっちゃいけませんね。ほら、人混みで十手持ちのあっしが、すりに財布取られなんかしたら、こりゃたいへんです、へへへ」
平次「ちえっ」
お静「(隣室から出てくる)お待ちどう様。…行きましょうか」
八「あら、やぁ、姐さん、今日は一段とお美しい、ねぇ親分」
お静「もう、八つあんたら、知らない!(玄関のほうへ行く)」
八「ほんとうに…イヒヒヒ」
平次「おぅ、八」
八「へぃ」
平次「八、今日は本当に危ねぇぞ」
八「また冗談を。脅かしっこなしですよ…行きましょ」
お静「はい、おまえさん(十手を平次に渡す)」

 おちよの歌声がきこえてくる。

お静「おちよちゃんだわ」
おちよ「♪さよならばかりを みつめてきたの 悲しみにふるえる 後姿を 夜明けの橋は
別れ橋」

 玄関から平次たちが出てくる。

平次「おちよちゃん、行こうか」
おちよ「ええ」
お静「あら、健太さんは?」
おちよ「ふふ、いっぱいにならないうちにって、親分さんたちの席をとりに行きました」
八「へぇ、なかなかいいとこあるじゃないか、あいつ、ねっ親分、へへへ」
おちよ「まっ、八つあんよりはね、うふふ」
八「あっ、こいつぅ〜」

 八五郎、おちよを追いかけ回して、走り去る。

お静「うふふ」
平次「お静、これじゃ、今年も八の相手は見つかりそうもねぇぜ」
お静「本当ですね」

 ふたり、揃って去っていく。


478話 7月9日 影の女 大丸二郎 高木二郎

密室の蔵の中で殺されていた、金貸し岩戸屋亀造。毒を塗られた千枚通しのようなもので首を刺されたと思われたが、凶器も手立ても皆目掴めない。その亀造を取り巻く四人の妾たち。その妾たちをはじめ、亀造の因業さに恨むものは数知れず。そして、妾たちが次々と襲われる。遺留品は下手人が女だと思わせるものばかり。平次は返ってそのことに不審を抱く。やがて、平次に下手人の影が見えてくるが、どうしても密室のトリックが解けない。

 ゲスト 大丸二郎さん(岩戸屋亀吉)、高木二郎さん(田原大之進)

 亀造を取り巻く四人の妾たちと借金をした御家人の奥方を通して、欲張り女、健気な女、強かな女などさまざまな女性を描いていました。

 八五郎が妾がたくさんいて羨ましいという話につい、平次もニヤリ。お静のふくれっ面が恐かったですね。

 妾たちや平次たちを襲った三度笠を被った渡世人風な男。その目線でのカメラワークが斬新でしたが、笠が邪魔で見ずらかったです。実際、笠を被っているとあのように見えるのでしょうけど。

 密室の謎解きのヒントは凧でした。子供が糸を手繰って、凧を引き寄せるのを見たとき閃きました。毒矢を亀造に当て、その矢に糸がついているので、手繰れば、矢が手元に戻るわけです。

 それにしても、亀吉が真犯人とは意外でした。最後までわかりませんでした。浪人の田原か番頭の庄助かと思っていました。


* やばい

 平次の家。殺された亀造の身辺を調べてきた八五郎。

八「なんとね、お妾さんが四人もいるんです」
お静「四人も!」
八「それもね、揃いも揃って…」

 平次、お静の顔色を気にしている様子。

八「泥亀をよく思っちゃいねぇんですよ。それにしても羨ましいじゃありませんか、女房は三年前に死んじまったし、誰に遠慮もいらねぇ。次から次へといい女を…あやかりてぇですね、親分」

 平次、つられて、ニタニタするが、お静に視線を移すとあせる。

平次「(声を落として)おぃ、八…〇×△※…」
八「へっ?」

 お静、ふくれっ面。八五郎、頭をかく。


* ラストシーン

 花屋(亀造の妾、ひなの店)。

ひな「(客に)ありがとうございました」

 平次と八五郎が来る。

八「おぃ、姐さん!」
ひな「あら〜、こんにちは」
八「へへ、おめぇ、知ってるか?岩戸屋が財産没収されて、闕所になったこと」
ひな「ええ、聞きました」
八「惜しいことしたな、子供を産んだって一文にもならねぇぞ」
ひな「ふふふ、いいんです、そんなこと。お腹が大きいというのは、嘘なんですから、うふふ」
八「えっ、嘘?!」

 平次もあっけにとられた顔。

ひな「お金をたくさんもらえると思ってそう言っただけですよ。それより誰かいいお婿さん、世話してちょうだい、うふふ」

 ひな、笑いながら仕事に戻る。

八「へっ、へへへ、やぁ、女っていうのは全く恐ろしいですね」
平次「いや、俺も疑ぐっちゃいたが、女っていうのは信用できねぇ。全く恐ろしいや」
八「(平次の目の前に手のひらを出す)親分…」
平次「ん?何だい」
八「おこずかい」
平次「どうして?」
八「お静姐さんにいいつけますよ」
平次「何を言ってやがんでぇ、バカ野郎」
八「へへへ」

 二人、去っていく。


479話 7月16日 ある愛の終り 武原英子 蜷川幸雄

六年ぶりに島から帰った利助。出迎える平次に殊勝な態度を見せながらもその実、平次を憎み、殺意を抱いていた。島で知り合った時次郎から髪結いのお直のことを聞き、平次を殺させようと罠をかける。一方、質屋に押し込みが入り、主人夫婦が殺され、三千両が盗まれる。迷宮入りにもなりそうな難事件。平次はこの事件の翌日、平次の前に現れたお直が質屋殺しと係わりがあるのではと疑う。

 ゲスト 武原英子さん(お直)、蜷川幸雄さん(利助)

 今や、舞台演出家として名高い蜷川さん、役者としての映像は貴重ですね。#560「おひさという女」でもゲストで出られています。

 お宮入りになりそうな質屋殺し事件。万七は同心たちについ、俺と平次でホシをあげる!と啖呵をきってしまったよう。反省しきりの万七ですが、ラストの捕り物では、挽回するように頑張ってました。

 万七が誤認逮捕したヤクザ。開き直った態度に平次は「図に乗るんじゃねえや!」(このやくざ、アリバイは賭博をしていたことだったから)と敲き棒で一発ビシッ!珍しいですね。

 ラスト、絶命したお直に恋人時次郎の遺髪を握らせる平次。本当は時次郎は悪で、お直も騙されていたのですが、あえて「時次郎はいい男だったぜ」と声をかけます。哀しく切ない場面でした。

* 万七の見栄

 ひょうたん  万七と清吉がいる。万七、沈んだ様子で酒を飲んでいる。そこへ平次と八五郎。

万七「平次〜、待ち焦がれていたんだよォ」
平次「何かいい聞き込みでもあったかい?」
万七「そうじゃねぇんだよ。えれぇことになったんだよ」
八「えれぇこと?」
清吉「そうなんだよ。質屋殺しの下手人を俺が必ず挙げてみせると…」
万七「そうじゃねぇんだよ。俺と銭形の手で必ずと…」
平次「まだ、みんな皆目見当がつかないヤマだというのに、おめぇ、そんなこと言ったのかい」
万七「まぁ、聞いてくれよ。奉行所ではな、全く手がかりが掴めねぇから、このヤマはお宮入りだと」
平次「お宮入り!」
万七「おまけに同心の方々、俺の面を見ると『万七、おめぇの手じゃ荷が重過ぎる』と。おりゃカチンときたよ。だから言ってやった、なぁ、ほかの岡っ引きなら荷も重過ぎようが、俺と銭形の手で必ず取ってみせるとつい…」
清吉「大見栄きっちゃったんですよ」
八「親分、何もうちの親分までひっぱりださなくても、いいじゃありませんか」
万七「おら、どうしても…いや、俺はどうだっていいんだよ。うん、が、おめぇは銭形の名にかけてもホシを挙げなくっちゃ、なっ、銭形!」
平次「俺がそう言ったと言ったのか」
万七「う〜ん、すまねぇ、そうなんだ。つい、カーッとなって言っちまった。あとになって、えれぇこと言ったと…」
おかつ「まぁ〜、いくら謝ったって、しょうがないじゃありませんか」
おちよ「謝ることないと思うな。偉いわ、その意地。岡っ引きですもの、ねぇ、平次親分さん、当たり前ですよね、十手を差しているんですもの」
平次「はぁ、まっ、その通りだ」
万七「銭形、おちよちゃん、ありがてぇ。おまえが乗ってくれりゃ、もう…ほっとしたよ」
清吉「親分」
万七「えっ」
清吉「これに懲りて軽口はいけませんよ。軽口は」
万七「ほんと…清吉!てめぇの親分をみんなの前で恥かかすきか、バカ野郎〜」

* ラストシーン

 茗荷屋。 利助に刺され、瀕死のお直。時次郎の遺髪を取ろうとするが、届かず、絶命。捕り物が終わって平次が駆けつける。

利助「ちぇっ、くだらねぇ、小悪党の時次郎を信じて…」
平次「バカ野郎!言うな!」

 平次、冷たくなったお直の手に時次郎の遺髪を握らせる。

平次「お直さん、時次郎はいい男だったぜ」
八「親分…」
平次「見ろ、お直さんの顔は笑っているようだぜ」

 やるせない平次の顔。お直の顔のアップ。そして遺髪を握っているお直の手のアップへ。


480話 7月23日 三十六番目の若様 松山征二 川辺久造

公方様の子とはいえ、三十六番目の捨丸はその名の通り、ないがしろにされ、挙句、小さな藩の養子にされようとしていた。思いあぐねて、捨丸は城を出る。ひょんなことから、清吉と八五郎は身分も知らないまま、捨丸の世話をすることになる。はじめて触れる人の親切、情け、暖かい心に涙する捨丸だが、養子を快く思わない、養子先の大和高取藩の家臣たちが捨丸の命を狙っていた。

 ゲスト 松山省二(現 政路)さん(捨丸)、川辺久造さん(工藤監物)、今福正雄さん(樋口珊太夫)

 八五郎と清吉がとまどいながらも、捨丸を一生懸命面倒をみる姿がおかしくもあり、嬉しくもあり、胸にせまるものあり、よかったですね。ライバルであっても本当は仲がいいんです。捨丸が清吉の家を出て行っても、八つあん、清吉の家でゴロゴロしているのが、可笑しかったですね。

 お偉い方だから、庶民の気持ちはわからないと思いきや、捨丸はちゃんとわかっていてホッとしました。きっといいお殿様になるでしょう。

 平次の啖呵(高取藩の家臣に対して)や捨丸への諌めが光っていました。

 樋口一平の本家の当主が捨丸のお守役、樋口珊太夫。それを聞いた万七は驚いて、思わず「それにしちゃ、旦那、貧乏同心で〜」と失言。別に樋口の旦那は気にしてなかったみたい。番屋で万七は滑稽本「東海道膝栗毛」を読んでいて大笑いしてました。ほんとうに可笑しそうで、そばにいた平次もつられそうでした。


* 平次の諌め

 平次の家。

平次「捨さん、おめぇさん、どういうつもりで、八五郎と清吉に面倒かけなすったんで?まさか粋狂じゃありますまい」
捨丸「いや」
平次「あっしは、あなたがどういうお方が、知らねぇじゃねぇが…あの二人は、もとよりおめぇさんの素性は知りっこねぇ。ただ、人間同士として、おめぇさんをほっとけなかったんだ。だから年に何分という、おまえさんたちには、考えもつかねぇ厳しい暮らしの中からおめぇさんを世話してきた。そいつを当のおめぇさんが、どう受け取ってきたか…捨さん、三十何番目かに生まれたばっかりにないがしろにされる、ちっぽけなところへ養子にされる、面白くねぇと飛び出しなさるのは、そっちの勝手だが、その尻を何も知らねぇ町人のところへ持ってくるのは、筋違い。捨さん、お城じゃどうかわからねぇが、尻はてめぇで拭くもんですぜ」
捨丸「親分、これを見てくれ(帳面を平次に渡す)」
平次「(頁をめくって)これは?」
捨丸「私の覚書だ。私がどうして城を出たか、そしてあの二人の情け、真心を日々どうやって…口では言えぬ本心がしたためてある」
平次「それじゃ、おめぇさんは…(覚書をざっと読む)」
捨丸「親分の言うとおり、城を出たのは、そりゃ私の勝手だ。しかし、父に抱かれた覚えもなく、母の乳房を含んだことのない私が、初めて触れた人の親切、人の温かさ…これではいけない、すまないと思いながら、あと一日、せめてもう一日と心が鈍っていたんだ…親分、すまない」
平次「いや、よくわかりました(覚書を返す)。そうとわかりゃ、いつまでも居候でおいでなせぇ、…と言いとうござんすが、そいつは叶いっこねぇ話。今日にもあなた様をお送りしなきゃならねぇとは…せめてものはなむけに、それにお書きになっている母上のお墓へお連れもうしましょう」
捨丸「親分」
平次「捨丸様、人間、それぞれ持って生まれた星っていうものがございます。こいつばかりはどうしようもねぇ。ご辛抱なさいましよ」

 頷く捨丸。


* ラストシーン

 往来。捨丸を駕籠で城へ送る途中、高取藩の家臣に襲われる。平次たちが、取り押さえ、お縄にしようとすると

捨丸「待て!」
平次「何故、お止めになります?」
捨丸「親分、不服もあろうが、この者たちはいずれ、私の家臣となる者たち、家来の不徳は主の不徳、わしに免じて赦してやってくれ」
平次「へぃ、おぅ、聞いたかい、こんなお殿様の不服を言っちゃバチが当たるぜ」
家臣たち「ははぁ(平伏)」
平次「いいから、この二人(八五郎と清吉)に代わってお殿様の駕籠をかついで行きなせぇ」
八、清吉「えっ」
平次「後はご家来衆に任せてやんな」
八、清吉「え〜」
平次「えぃ、仏頂面してねぇで!」
八、清吉「へぇ」

 捨丸、駕籠に乗り、平次に会釈する。平次も会釈。

樋口珊太夫「お発ち〜」

 家来たちが駕籠をかついで行く。

清吉「へへへ、(八五郎の肩を叩いて)あれが、俺んちの居候だったんだからな、アハハ」
八「三十六番目にしちゃ、出来すぎですね、親分」
平次「大和高取の百姓、町人衆が羨ましい」

 捨丸の乗った駕籠を見送る同心樋口、平次、八五郎、清吉。

481話 7月30日 幸せの行方 関根世津子 保積ペペ

遠く信州から江戸へ働きに来ている若者たち。夜ごと甘酒屋に集まって夢を語り合っていた。しかし、仲間のおるいの姉が押し込みの手引きをした廉で御用になり、そのことから仲間がひとり、またひとりと抜けていく。卯七だけはおるいのことを思うが、それゆえに犯罪を犯してしまう。果たして、この仲間に再び明るい歌声が戻るのか、平次はこの若者たちが江戸の毒に犯されないよう奔走する。

 ゲスト 関根世津子さん(おるい)、保積ぺぺさん(卯七)、吉田義夫さん(甘酒屋 五平)

 悪役の多い吉田義夫さん、今回は、すっかり人のいい、優しい甘酒屋の親爺さんになっていました。

 今回の平次親分、若者の行く末を案じて、つっけんどんな、近寄りがたい態度が目立ちました。

 親分の浴衣、柏の葉を散らした模様でした。お静は定番の大胆な笹の葉もようの着物ですが、ここのところ続いてますね。

* 平次の説教

 甘酒屋。

平次「今夜は、おめぇだけかい?卯七やみんなはどうした」
米吉「知らねぇな。俺も今日きりでやめだ!集まったって夢みてぇなこと話したって始まらねぇもんな」
平次「夢だっていいじゃねぇか。慣れねぇ土地で生きていくためには、気心の知れた仲間同士が助け合うのが、大事なことじゃねぇのか?俺が初めておめぇたちに会ったときにゃ、みんなで手拍子打って、仲良く歌ってたりしたじゃねぇか、そうだろう?だからバラバラになっちゃいけねぇ。どんな小石だって、ひとっところに固まりゃ、流されずに済むんだ。そうじゃねぇかい?なっ、みんなで手を組んで輪になって江戸の毒に流されねぇように、まっとうに働くことだ。誰かが輪からはずれそうになったら、みんなで掴めぇてやらなきゃならねぇ、なっ」
米吉「親分、説教ならたくさんだ!」

 米吉、食卓に代金を投げつけ、店を走り出る。平次と甘酒屋の親爺が顔を見合わせる。

* ラストシーン

 甘酒屋。 平次と八五郎が店の近くを通りかかると、店のなかで、おるいたちが楽しそうに手拍子で歌っているのが見える。

平次「また手拍子で歌声が聞こえるようになったな」
八「はっ」
平次「(人が来る気配に)おぅ」

 勝次がトボトボ歩いてきて、甘酒屋に来る。入りにくそうだが、思い切って入っていく。

勝次「おるいちゃん、卯七、すまなかった。(おるいに金包みを渡しながら)五両二分ある。おめぇに渡すようにってうちの旦那から頼まれて来たんだ」
おるい「井筒屋の旦那様が?!」
勝次「三河屋さんに返せば、おるいちゃんの気持ちも晴れるだろうって」
おるい「勝次さん…ありがとう」
卯七「勝次!」
勝次「俺な、今度、旦那の世話で上方で修行することになったんだ。だからその前にみんなに会いてぇと思って…卯七、お嬢さんがよろしくって…」
卯七「お嬢さんが…お嬢さんも一緒に行くのか?」
勝次「いや、帰ってくるまで、待っててくれるそうだ」
長吉「勝次、よかったじゃねぇか」
勝次「ありがとう。けぇってきたら、また昔のように仲間に入れてくれるかい?」
長吉「あたりめぇだ。なぁ、みんな!」
みんな「いいとも」
卯七「さっ、勝次」

 勝次が輪に入って、また賑やかに手拍子と歌が始まる。

八「ね、親分、あっしらも行ってきましょうか」
平次「いや、今日だけはやめておこう」

 八五郎、甘酒屋を振り返りながら、平次と去っていく。


482話 8月6日 手裏剣を打つ女 八木孝子 加藤和恵

島から帰った元手裏剣打ちのお袖。そこに息子、正太の父親の姿はなかった。正太は牢番の伍助がしっかりと育てていたが、そこにも父親、仙太郎が立ち寄った形跡はなかった。それでもお袖は正太との再会に喜びを感じていたが、それも束の間、今度は弥五郎殺しの疑いがかかってしまう。人を信じて健気に生きてきたお袖に幸せはくるのだろうか。

 ゲスト 八木孝子さん(お袖)、加藤和恵さん(小春太夫)、北村英三さん(伍助)

 平次の仙太郎に対する怒りは凄かったですね。自分のことしか考えず、何の責任も取らない、薄情な仙太郎に平次はビンタをするわ、突き飛ばすわ…。見かねた万七親分「乱暴はいけねぇ」(万七親分は結構乱暴してますよ)と平次を止めようとしますが、逆に突き飛ばされてしまいます。清吉もびっくりです。そんな仙太郎をお袖は「一度は好きになった人だから」と平次から庇います。この言葉に今度は平次がびっくり。


* 平次の怒り

 番屋。

仙太郎「弥五郎に五十両持ってこいと言われて、仕方がなかったんです。私のお弟子は江戸でも大店の娘さんやお旗本のお嬢様ばかりです。卑しい芸人で、まして島帰りの女と係わりがあったとわかったら、私は破滅です。だから言われたとおりの金を持って、あの家の裏から入りました」

 平次、冷ややかに仙太郎を見ている。

仙太郎「そしたら、あの男は死んでいたんです。本当です。信じてください。私にどうして人殺しなんて恐ろしいことができるんです?悪いのは私じゃない!この女(お袖を指差して)です!きっと弥五郎とグルになって、この私を強請ろうとしたんです。金が目当ての女ですからね。おとといだって、私から二十両の金を…」

 平次、仙太郎をビンタ!

仙太郎「わぁ〜(土間の上に倒れる)」
平次「(仙太郎の胸ぐらをつかんで)この野郎!お袖はその金をどんな思いで、何のために作ったか、知ってるのか!てめぇって奴は、この野郎!」

 平次、また仙太郎にビンタ。

万七「おぃ、乱暴はいけねぇ、暴力はいけねぇったら…」

 止めに入った万七が平次に払いのけられる。

清吉「人を殴ったことのねぇ銭形の親分がなんてことを…」
仙太郎「そうですとも。(涙声で)あんまりひど過ぎますよ。あたしゃ何もしていないんです」
平次「そうだ、てめぇは何もしなかった。四年前、事情を明かしてお袖を庇うこともしなかった。島から帰ったとき、やさしく労うこともしなかった。約束を守って子供の責任をとることもしなかった。男として人間として、てめぇはやらなきゃいけないことをただのひとつもやらなかったんだ。てめぇは犬畜生にも劣る野郎だ」

 平次、仙太郎の胸ぐらをつかんで、突き飛ばす。お袖が仙太郎のところに駆け寄る。

お袖「止めて!赦してあげてください」
平次「(驚いて)お袖…てめぇって女は…こんな卑怯な男をまだ庇おうっていうのかい」

 平次、仙太郎に掴みかかろうとするが、八五郎が止める。

お袖「未練じゃありません…でも私が一度は好きになった人なんです」

 平次、お袖の意外なことばに茫然とする。


* ラストシーン

 お袖が座長となり、一座が旅回りに出る。荷車の上で正太が嬉しそうに座っている。

伍助「(正太に)体に気をつけてな」
正太「うん!」
お袖「いろいろお世話になりました」
伍助「また、江戸へ帰ぇってきなせぇよ。待ってますぜ」
お袖「はい」
伍助「房吉!(一座に加わった伍助の道楽息子)うんと苦労してな、性根を入れ替えてくるんだぜ、いいな」
房吉「あぁ、わかってるよ、父つあんこそ、体に気をつけねぇとな」
伍助「なま言うな、アハハ」

 荷車が動き出す。

正太「おじいちゃ〜ん」

 そこへ平次と八五郎。

お袖「親分さん」
平次「小春太夫のことは出来る限りしてやるつもりだ。おめぇにゃかわいい子供と一座のこれからの幸せがかかってるんだ。小春太夫の気持ちに答えるためにもしっかりやるんだぜ」
お袖「はい」
正太「おっ母ぁ!早く!」
平次「さっ、早く行ってやんな」
お袖「はい」
正太「おじいちゃん」
伍助「正太、待ってるぞォ」
八「お〜い、元気でな、さようなら!」

 平次と八五郎、手を振って一座を見送り、帰っていく。


483話 8月13日