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503話 昭和51年1月7日 空巣に御用心 岡江久美子 田中幸四郎

お静がうっかり戸締りを忘れ、運悪く空巣に入られてしまう。が、なんと血染めの財布が残されていた。「それは、お父つあんの財布!下手人は平次!」と殺された久五郎の娘久代は叫ぶ。特ダネとばかり、瓦版が江戸の町を舞う。平次は世間を騒がせたと十手を自ら返上する。万七たちのお陰で下手人を突き止めたものの、十手の無い平次は何もできない。そんな平次を見下し、高笑いする悪人共。「十手さえ、十手さえあれば…」平次はくやしさに唇をかむ。

 ゲスト 岡江久美子さん(久代)、田中幸四郎さん(長次)、幸田宗丸さん(角造)

 1976年お正月最初のエピソードですが、新年らしい背景はありませんでした。

 タイトルは冒頭の場面(お静の気が変になった?)からコミカルな話かと思いましたが、平次が殺人の疑いをかけられ、十手を返上するというシリアスなものでした。

 見所は一杯(お正月サービス?)。お静が縫い物の内職で一両貯まったので、おいしいものを食べにいこうと嬉嬉としていますが、事情を知らない平次はお静の気がふれたと勘違い。健太が事件を知らせに来ますが、平次は「朝っぱらから寝言ばかり言ってっからめしもくえねぇや」と捨て台詞で出かけてしまいます。一両じゃ八百膳で三人分の食事は無理かも。

 「お父つあんを殺したのはおまえだ」と久代に詰め寄られる平次。樋口様が考え直せと言って頭を下げても十手を返上する平次の実直さ。責めは誰でもない俺にあるという責任感の強い平次。十手がなけりゃ身動きできないと八五郎を頼る平次。それに答える八五郎。平次の十手を受け取るのも受け取るほうだと樋口様に詰め寄る万七。俺も十手を返上すると言ったら「万七はドジだから」と本当に樋口様に取り上げられそうになってあせる万七。
 平次の十手は預かっているだけと機転をきかす樋口様。真犯人を目の前にして捕えられない十手のない平次のくやしさ。平次の気持ちが痛いほどわかり、久代に頭を下げにいくお静。万七は久代に「泥棒の娘のくせに!」とつい言ってはいけないことを言ってしまいましたが、スカッとしました。などなど


* お静の様子が…

 平次の家。長火鉢のところでタバコをふかしている平次。

八五郎の声「おはようございます」

 八五郎が入ってくる。

八「おはようっす」
平次「おう、八、おめぇ、朝飯はまだかい?」
八「へへへ、例によって、例のごとく…まだなんすよ、イヒヒ」
平次「だったら、今日はあきらめな」
八「へっ?」
平次「やっ、うちのカミさんな、これ(キセルを頭のところでぐるぐる回す)になっちまった」
八「え〜っ」
平次「はっ」
お静「(お勝手から)八つあ〜ん」
八「へっ」
お静「おはよう」
八「おはようございます。親分、別に変わっちゃいませんぜ」
平次「まぁ、みてろ、今にわかるから」
お静「八つあん」
八「えっ」
お静「ごはん、まだでしょ?何食べる?天ぷら?それともうなぎ?」

 八五郎と平次、顔を見合わせる。

お静「あぁ、それよりこれから三人でどっか、食べに行こうか、え〜と山谷の八百膳か、木挽町の水月、向島のほら、あそこ、伊予膳もいいわね」
八「ね、姐さん、まだ朝ですよ」
お静「これから出かければ、お昼になっちゃうわよ」

 平次「ほうらな」という顔。八五郎も不安顔。

八「そりゃそうですがね。あの、もしお昼になってもね、今、姐さんがおっしゃったお店はね、お刺身一切れがいくらつこうというところなんですよ。ですから、姐さんの手作りのあったかいおみおつけとね、おしんこで…ね」
お静「(隣室で箪笥の小引き出しをあけて)ケチケチしたこと言わないで。八つあん、男でしょ?お金のことなら任せといて(帯をポンとたたく)」
平次「なっ」
八「へぃ」
健太の声「親分、殺しです!」

 平次と八五郎、玄関へ。

平次「えっ、何、どこだい」
健太「夕べ遅く、山王権現の横の川っ淵で男がグサッとやられて…」
平次「おぅ、十手だ!」
お静「はい(神棚から十手を持ってくる)」
平次「朝っぱらから寝言ばっかり言ってっから、飯も食えねぇや。おぅ(お静から十手を受け取り、腰に差す)こそ泥が流行っているようだから、戸締りに気をつけろよ」
お静「はい…」

 平次、八五郎、健太が出て行く。


* 心のたが

 平次の家。十手を返上してきた平次。平次、丸火鉢の前で腕組をして座っている。お静、平次に背を向け長火鉢のところに座っているが、肩を落としている。八五郎が来て、平次に聞き込みの報告をしている。

平次「もういいんだ…八」
八「えっ?もういいって…(異様な雰囲気に)姐さん!」
お静「うちの人は(涙ぐんで)十手をお上に返上したんですよ」
八「そんな馬鹿な!」

 八五郎、あわてて神棚のところへ行くが、十手がない。

八「はっ、畜生!あの小娘!」
平次「(声を荒げて)やめねぇかい!あの娘が悪いんじゃねぇ、あの娘は誰かにくやしさをぶっつけてぇだけだ」
八「だって…」
平次「まぁ、いいから聞け。さっきからお静は、私のせいだとめそめそしてやがるんだが、お静のせいでもねぇ、俺のせいだよ。心のたがが、どっかで緩んでやがったんだ。だから神様がバチを当ててくれたんだ」
八「じょ、冗談じゃありませんぜ。親分に比べたら、このあっしの心のたがなんてね、はなから緩みっ放しのガタガタですよ。そんなあっしにバチが当たらねぇで、へっ、神も仏もあったもんじゃねぇや…わかりました。親分がその気ならあっしも、すっぱり足を洗いまさぁ」
平次「バカヤロー!世間を騒がしたのはこの俺だ。おめぇじゃねぇ。今、おめぇが十手を返ぇしたら、久五郎殺しの下手人は誰がお縄をかけるんだ」
八「じゃ(自分を指差して)」
平次「おめぇの十手に頼らなきゃ、身動きができねぇんだ」
八「わかりました。何でもおっしゃってください。何をしたらいいんですかい」
平次「朝になったら、奉行所から借りてきてほしいものがある」
八「へぃ」

* 万七の怒り

 久代の家。お静が帰ったあと、万七が入ってくる。

万七「やい、何てことしやがるんだ!平次を恨むのはてめぇの勝手だが、泥棒の娘のくせしやがって、少しは、てめぇの分際というのをわきまえろ!…てめぇのことよ。久五郎は泥棒の手下だったんだ…それを平次はてめぇだけには知らせめぇと心、配ってんのに…なんでぇ、はるばる神田くんだりから訪ねてきたお静さんを泣かせて帰ぇしやがって、てめぇみてぇのをな、外道の逆恨みっていうんだよ、てめぇも女の端くれなら、ちっとは人並みの心を持ちやがれ!」


* ラストシーン

 平次の家。久代がおみやげを持って平次の家にあいさつにきている。

お静「(おみやげの重箱の蓋を開ける。お萩が入っている)うわぁ、おいしそう…お茶でもいれましょうね」
平次「(タバコをふかしながら)おぅ、これから、どうするんでぃ、久代さんは」
久代「うんと働いて、お金を貯めて、お父つあんとおっ母さんが一緒に入れるお墓をつくるつもりです」
お静「えらいわねぇ」
平次「久代さんは、なかなかしっかりしてるから…やぁ、久代さんの亭主になる奴は幸せでだよ」
久代「いやん、親分さんたら…」
平次「おぅ、おぅ(お静に鉄瓶を渡しながら)熱いぞ」
お静「ねぇ、おまえさん、八つあんなんか、どうかしら」
平次「あん、ハハ、あいつじゃ尻に敷かれっぱなしだよ」
お静「うふふ」
久代「またぁ…」
八五郎の声「親ぶ〜ん」
平次「ほ〜ら、え、敷かれっぱなしの、おめぇ、花婿のご入来だ、ハハハ」

 八五郎が入って来る。

八「えっ、何すか?「
久代「何でもない、何でもないんです。何でも」
平次「おぅ、八、久代さんのおみやげだ。おめぇもひとつ、よばれたらどうでぃ」
八「そうですかぁ、へ〜え、な、何ですかねぇ」
平次「何かな?」
八「(重箱の蓋を開け)あらぁ〜、うわぁ、こいつはうまそうですね、へへへ。あっそうだ、親分大変ですよ。いえね、夕べ、柳原の堤に辻斬りが出ました。かわいそうに集金帰りの番頭がバッサリですよ」
平次「はっ、バカヤロ〜!なぜ、それをもっと早くいわねぇんだ。おぃ、お静、出かけるぜ」
お静「はい」

 お静、神棚から十手を取り、平次に渡す。平次、十手を腰に差す。腰の十手のアップ。


504話 1月14日 闇に立つ虚無僧 弓恵子 藤間文彦

  今はすっかり堅気になり、妻おゆきと息子庄太郎と幸せに暮らしていた庄吉。しかし、偶然、江戸の町に押し込み強盗黒雲(?)組の一味をみかけ、ねぐらを突き止めたことで妻と共に殺されてしまう。息子だけが残された。平次たちは黒雲逮捕に奔走するが、怪しげな虚無僧がうろつく。そして庄吉夫婦亡きあとなぞの女、おもんが庄太郎の面倒を見始める。

 ゲスト 弓恵子さん(おもん)、藤間文彦さん(庄吉)、佃和美さん(おゆき)

 チラッとですが、平次と八五郎の旅姿が見られました。

 万七親分、また軽率なことをして、庄吉夫婦殺害の要因をつくってしまいました。
 庄吉は黒雲のねぐらを突き止め、恩ある平次親分に早く知らせようと平次の家に行きますが留守。万七親分にねぐらを教えるはめになります。
 お陰で黒雲の片割れを御用にしたまでは、よかったのですが、樋口様からご褒美をもらった万七親分、いい気になってひょうたんに居合わせた一味の伊兵にまんまと乗せられ、ねぐらを突き止めたのが庄吉だとうっかり、しゃべってしまいます。そのため、一味に庄吉夫婦は殺されてしまいます。

 平次はもと街道荒しの霞のおもんをお縄にしませんでした。おもんは庄吉の姉で、もし、お縄にしたら庄吉の遺児正太郎がひとりぼっちになってしまうからです。おもんも平次の情けをしっかり心にとめて、庄太郎とともにしっかりと生きていくでしょう。

* ラストシーン

 精心ヶ池の畔の林。捕り物のあと。
 庄太郎を抱いているおもん。

おもん「銭形の親分。なぜ、なぜ、霞のおもんをお縄になさらないんです?」
平次「霞のおもん?そんな女に会ったこともねぇぜ」
おもん「えっ?」
平次「俺の知っているおもんは、弟夫婦の残していった可愛い坊やを親に代わって育てようというやさしい女だ」
おもん「親分さん…」

 平次、空を見上げる。

平次「見ねぇ、からすでさえ、我が子の待つねぐらに帰ぇっていくぜ。(おもんの方に振り返って)おめぇもその子をしっかり抱いて、暖けぇねぐらに帰ぇっていきな」
おもん「親分さん、ありがとうございました」
平次「いい子に育てるんだぜ」

 おもん、平次に会釈して去っていく。見送る平次。平次もゆっくりと去っていく。庄太郎の入っていた駕籠のアップ。


505話 1月21日 上方から来た男 花沢徳衛 川合伸旺

 上方から孫の三吉を連れ、押し込み強盗、蝮の五郎蔵一味を追って江戸に来た目明し辰造。ふとしたことで平次たちと知り合うが、手出しをさせず、ひとり頑固に捜査を続ける。平次は辰造の動きをみながら、五郎蔵たちの行方を追う。賊が次に狙う大店に目星をつけた平次たちは、そこで賊を待ち伏せするが…。

 ゲスト 花沢徳衛さん(辰造)、岡本崇さん(三吉)、川合伸旺さん(蝮の五郎蔵)

 上方から来たスッポンの辰造と異名をとる目明し辰造に出会ったのは、またまた万七親分のドジからでした。五郎蔵一味と間違えて辰造を捕えてしまったのです。もっとも、一味のあとを黒装束で追いかけ、捕まって申し開きもしないので、仕方のないことかもしれません。

 賊を捕まえるだけでなく、騙されて娘夫婦を殺された恨みもあるので、頑固に一人で捕まえようとします。でも岡っ引き根性に理解を示す平次に心を開き、命を助けてもらったこともあり、ラストは岡っ引きをやめ、子供相手の店でもやって三吉を育てていくと決心し、上方へ帰ります。

 辰造役の花沢さん、頑固親父がぴったりですね。そんな役柄も多い気がします。それと五郎蔵役の川合さん、久々の登場でその悪役ぶりを発揮していました。

☆ 劇中で近江屋が襲われたと八五郎が平次の家に飛び込んできます。平次は「大伝馬町の呉服問屋近江屋といや、掛け値なし、現金安売りで評判の店」と説明します。
 この画期的な商法で成功したのは、呉服商「三井越後屋」です。これを江戸中に広めようと考えたのが引き札(現代の宣伝用チラシ)で、これを配布したそうです。

☆ 現金掛け値なし…当時は「節季払い」といって、年に二、三度まとめて商品の代金を支払う方法が一般的だった。価格には「掛け値」、つまりその間の利息分まで含まれていたため、現金による即日支払いにすれば、掛け値の金額分だけ安価になった。(小学館 江戸時代館より)


* ラストシーン

 番屋。賊に斬られ、寝ている辰造。

辰造「(うわ言)三吉…」
三吉「おじいちゃん!」
辰造「(気がついて)あぁ、三吉!」

 平次と八五郎も来ている。

平次「おぅ、父つあん、気がついたかい。おぅ、蝮の一味は召し取ったぜ」
辰造「あぁ、あぁ、親分、すんまへん。えらい嘘ついてしもて…堪忍しておくんなはれ。わいは三吉を助けたい一心で、あほなことをして…」
平次「もういいんだ。俺が父つあんだったら、同じ様なことをしたかもしれねぇぜ」
辰造「あぁ、そない言ってもうたら、わいは、これでいつ死んでも…」
平次「バカなこと言うんじゃねぇや。父つあんが死んだら、坊やはどうなるんだ」
辰造「わいは…わいは…まだ死ねませんな」
平次「いや、傷も幸い急所をはずれていて、十日もすりゃ歩けるそうだよ」
辰造「さよか…あぁ、よかった。わいは、あんとき三吉のことも何もかも忘れて夢中で叫んでしまいましたんや」
平次「それが父つあんの目明し根性だよ」


 街道。茶店の近く。 辰造、三吉を連れ、上方へ帰る。平次、八五郎、おちよ、健太が見送る。

辰造「ほな、これで」
おちよ「はい、お弁当(三吉に渡す)」
辰造「あぁ、すんません。おおきに」
八「父つあん、これでまた十手が持てますね」
辰造「いや、二度まで親分さんに助けてもろた命や、大事にして子供相手の商いでもして、この三吉を育てていきまっさ」

 頷く平次。

三吉「健太兄ちゃん、また魚の売り方、教えたるから、いつでもおいでや」
健太「お、おい、よせよ。上方まで行けるかい」
平次「こいつはいいや」

 皆、笑う。

辰造「ハハ、何言うてんのや、おまえは、アハハハ、ほな、お世話になりました、へぃ、…おおきに」

 辰造、三吉、頭を下げ、帰っていく。しばし、歩いて振り返る。

辰造「おおきに、どうも」
三吉「(手を振って)さようなら」
八「達者でなぁ〜」

 平次たち、辰造と三吉をずっと見送っている。


506話 1月28日 十一年目の父 夏純子 渡辺やよい 大丸二郎

 おふうは妹おたかの幸せだけを願ってふたりで生きてきた。おたかの祝言も決まり、ほっとしたところへ、父、嘉平が十一年ぶりに現れた。捜し求めていた娘たちとの再会に喜ぶ嘉平。おたかも素直に喜ぶが、おふうは、自分たちを捨てた父が赦せなかった…心底ではゆるしたかったのだが。自分を頑なまでも受け入れないおふうに嘉平はやけになり、昔の悪仲間民三にそそのかされ、再び悪の道に入ろうとしていた。平次は叫ぶ「なんとかおふうの本心を嘉平に伝えたい!罪を犯させてはならない!」と。

 ゲスト 夏純子さん(おふう)、渡辺やよいさん(おたか)、下元勉さん(嘉平)、長谷川弘さん(民三)

 寒鰤も平次の大好物なんですね。

 平次の言葉はいつも説得力があります。今回も「バチがあたるぜ。年寄りを連れて新助さんのところにお嫁に行けますかって、あの娘(こ)は言った。そう言ったんだぜ、父つあん」という平次の言葉に嘉平は心を動かされ改心します。

 おふうは、心を寄せている新助のことをあきらめ、日頃新助宛に書いていた恋文(書くだけで本人には届けません)を火鉢で燃やしはじめます。そこへ平次。平次はその中のひとつを読みますが、おふうは動揺しないんですね。平次が来た時点で手紙を隠すのかと思っていました。そこで新助をあきらめて、嘉平と暮らすことを平次に言うのですが。平次はおふうが見ていない隙にちゃっかり、一通を懐にしまい、嘉平に読ませ、おふうの本心を伝えます。

 「俺は親父を信じてるんだ」と言って、嘉平の改心にかけるのも平次ならではですね。


* ラストシーン

 おふうの家。おたかの祝言当日。おたかに花嫁のこしらえをしている、おふうと手伝うお静。平次と八五郎も来ている。八五郎、おたかに見惚れている。

お静「綺麗だわぁ!ねぇ、おまえさん」
平次「うん、全くだ」

 相模屋。 与吉とおたかの祝言シーン。

 おふうの家。  おふう、酒に燗をつけている。それを平次たちのところに運ぶ。

おふう「さぁ、親分さんも八五郎さんもどうぞ、あけてください」
平次「おぅ、すまねぇな、え」
おふう「さぁ、どうぞ(平次に酌)」
八「じゃぁ(お静に酌)」
平次「今度はおふうさんの番だな、え。お父つあんから頼まれたんだ。おめぇと若旦那と結ばせてくれってな。新助さんが喜んでたぜ、ハハ」

 おふう、八五郎に酌。

お静「この日を嘉平さんに見せたかったわね」
平次「うん、いや、見ているさ。あの世から。嬉しそうな死に顔だったよ」
おふう「お父つあんって、一言だけでも言ってやりたかったわ…それだけが今は心残りだわ」
平次「いやぁ、おめぇのその気持ちだけで父つあんも浮かばれるさ。まっ、これでおめぇさんの大役も済んだんだ。おめでとう」



507話 2月4日 消えた証人 谷村昌彦 桜井浩子

炭問屋越後屋の主人が亡くなり、跡継ぎの道楽息子、亥之吉に暇を出された岩吉、お花夫婦。行くあてもなく、心中しようとして、平次と八五郎に助けられる。そこへ亥之吉が斬られて重傷だと万七が飛び込んでくる。亥之吉を恨むでもなく看病する岩吉夫婦。岩吉は主人から預かり、亥之吉に渡した五人分の証文が紛失していることに気づく。平次は亥之吉を斬った者が証文を盗んだと確信して、地道に借金をした者を捜す。証文がないことをいいことに嘘をつくもの、借りた恩を感じて、少しでも返金しようとするもの、証文を盗もうと家捜しするもの…平次は人の心模様をまざまざと見せ付けられることとなる。

 ゲスト 谷村昌彦さん(岩吉)、西 朱実さん(お花)、小野武彦さん(亥之吉)

 冒頭、岩吉夫婦が心中しようと川に飛び込みます。通りがかった平次と八五郎。八五郎が飛び込んで助けた設定になっていますが、八五郎ってかなづちじゃなかったかな?いつ練習したんでしょう。

 ひょうたんのおちよ。疲れた様子の平次を元気付けようと活きのいいお刺身を出そうとしますが、平次は八五郎に食べさせてくれと言って断ります。おちよ、がっくりしていたみたい。自分より八五郎に食べさせたい平次の思いやりでした。


* 平次の啖呵

 辰巳屋の店先。下手人、葛城源三郎を捕まえにきた平次。

平次「ふざけるねぇ!それだけ威(え)張れるようになったのは、いってぇ、誰のお陰だ。越後屋の情けがあったらばこそじゃねぇのかい。それになんでぇ、喉元過ぎれば何とやら、金を返すどころか、恩を仇で返すとは、赦せねぇんだ。…とぼけるねぇ!亥之吉を斬って証文を奪ったことは、とっくにばれちまってるんだ…やい、辰巳屋!よくもすっとぼけやがったな。ふたり揃って地獄へ送ってやるから神妙にしろい!」

* ラストシーン

 越後屋の一室。亥之吉を看病しているお花。そこへ平次、八五郎、岩吉が入ってくる。

岩吉「若旦那、助かったんですね!」
亥之吉「岩吉…お花からみんな、聞いた…」

 亥之吉、手を延ばし、岩吉の手を握る。

岩吉「若旦那、(涙ぐむ)よかったぁ」

 お花、八五郎、もらい泣き。

平次「(懐から手拭に挟んであった小判を出す)おぅ、こりゃな、とりあえず新次を留吉から返ぇしてくれと頼まれた金だ。証文からいやぁわずかな金だが、こうして恩を受けたことを忘れずに頑張っている者がいるんだ。おめぇも性根を入れ替えて、やる気にならなきゃいけねぇ、なっ、わかったな、亥之吉」
亥之吉「はい、ありがとうございます。必ず…」
平次「礼なら岩吉さん夫婦に言うんだ、えっ、へへ…おぅ(金を亥之吉の枕元に置く)」
亥之吉「はい、岩吉、お花、ありがとう…」
岩吉「(涙声で)とんでもない、そんな…」

 お花、また泣く。

平次「何といっても岩吉さん夫婦は、越後屋さんが残してくれたりっぱな財産なんだ。大切にしなくっちゃいけねぇよ」
亥之吉「はい…岩吉、お花、これからも越後屋を頼むよ」
岩吉「そんな…もったいない」

 平次、満足そうな顔。


508話 2月11日 腕白坊主の目に涙 大村崑 近藤宏

飾り職人、勘次は男手一つで四人の子供を育てていた。ある日、幼子が病に倒れ、貧しさゆえに薬を盗んでしまった。そこへ通り合わせた銀蔵が助けたが、それが悪への誘いだった。それから勘次は子供達を残して行方知れずになる。父の悪事を見ていた長男、重太は父の身を案じながらも何も言わず、弟、妹の面倒をみていた。一方次々と土蔵が破られ、手口は先の越前屋同様、合鍵も使わず、蔵の鍵が開けられていた。そのことから、平次は勘次のことが脳裏に浮かんだ。

 ゲスト 大村崑さん(勘次)、上屋健一さん(重太)、吉久高広さん(良太)

 越前屋押し込みの現場に遅れてきた平次。のっけから万七親分、嫌味を。「(遅れて)すまねぇで済みゃ、岡っ引きは楽なもんだよ」「簡単に目星がつきゃ、苦労はしねぇや」と。八五郎は万七にくってかかりますが、平次親分は例の如く、じっと耐えます。
 そこへ餅屋が餅を盗んだ犯人と重太を連れて来ますが、万七ったら重太のことは平次に任せるといって重太を平次のほうへ押しやります。

 番屋に連れてこられた重太は何もしゃべりません。平次も無理強いせずに「気の変わるまで待つとするか」と一服しようとします。万七親分だったらしびれ切らして、怒鳴り散らしそうですが、こういうところが平次のいいところなんですよね。

 でも急に4人の子供達を家に連れてきちゃって、お静さんもたいへん。八五郎は「一生面倒みることになるかも」なんて脅かすし。

 餅屋が重太のことを下手人と言って連れてきますが。「下手人」とは刑罰のひとつのこと。人ではないんです。殺人の刑罰です。人を指したとしても殺人者の事で盗人には使いません。時代劇でどうして下手人というようになったかとか当時犯人と言っていたのかどうかとか私にはわかりませんが。

☆ 死罪(下手人)…死罪は斬首のうえ、死骸は様斬(ためしぎり)にされる。罪状により引き廻しを付加。下手人は死罪に準じるが、様斬はなく、死罪より刑は軽い。死罪は10両以上の盗みなど、下手人は喧嘩、口論による殺人などに適用。(小学館 江戸博覧強記 より)


* ラストシーン

 平次の家。お静が子供達に旅支度をさせている。八五郎がまだかとやきもきして、庭先で待っている。

八「姐さ〜ん、まだですかぁ」
お静「ちょっと待って頂戴。ねぇ、久しぶりにちゃんと会うんですものね、きれいにして行かないと…はい、出来たわよ。…はい、三太ちゃん、おてて上げてね…いいわよ、下ろして…はい、出来ましたよ」
重太「おい三太!ちゃんと座れよ」

 お静を前に四兄妹が正座。

兄妹「お世話になりました(頭を下げる)」
お静「やだわぁ、改まって…」
おみよ「おばちゃん、田舎に遊びに来てね」

 お静、子供達の顔を見回し、頷く。

 道端。樋口、平次、勘次が子供達が来るのを待っている。八五郎が大八車に三人の子供を乗せ、重太と走ってくる。

平次「おぅ、遅かったじゃねぇか」
八「いやぁ、これでもね、大急ぎで来たんですよ」
平次「で、お静は?」
八「へぇ、別れが辛いからって」
平次「おぅ、そうか」

 三人の子供達(除く重太)「ちゃ〜ん!(勘次に駆け寄り、抱きつく)」

 勘次、涙ぐんで喜ぶが、重太を不安そうに見つめる。重太、じっと勘次を見つめ、立ったまま。勘次が重太のところにくる。

勘次「重太…すまんかったな」

 重太と勘次しばし見つめ合う。

重太「ちゃ〜ん!(勘次に抱きつく)」
勘次「重太…(泣く)」
樋口「勘次、江戸払いという軽いお裁きで済んだのも平次の働きだ。子供達へのお上のお慈悲があったらばこそだ」
勘次「へぃ。(平次に)この恩は一生忘れません(頭を下げる)」
平次「そんなことより、これからは子供達に辛ぇ思いをさせるんじゃねぇぞ」
勘次「へぃ」

 勘次、大八車に三人の子供たちを乗せ、重太とともに去っていくが、平次たちに頭を下げ、手を振って田舎へと帰って行く。見送る樋口、平次、八五郎、安堵して戻っていく。


509話 2月18日 男の意地に花一輪 麻田ルミ 赤塚真人

両替商升屋の一人娘、お冴は父親の人形になりたくはなかった。その気持ちに踏ん切りをつけるためにも伊佐吉からの誘い出しの手紙に賭けた。勘当も覚悟の上で。ひとりの女として強く生きていきたい。伊佐吉への愛がそうさせた。平次はお冴の気持ちを理解し、応援する。店の乗っ取りを企んでいた白ねずみどもは、お冴の意外な行動に大慌て。伊佐吉は今までの生き方を改め、お冴の愛に恥じぬよう、必死に働くのだった。

 赤塚真人さん(伊佐吉)、麻田ルミさん(お冴)、猪俣光世さん(お喜和)

 お冴役の麻田ルミさん、テレビドラマ「おさな妻」(昭和45年東京12チャンネル)の玲子役で一躍有名になりましたね。愛を貫いた点では、共通ですね。

 万七親分、お梶を捕まえる際、左頬を引っかかれたとかで、左頬に血が滲んだ爪あとが…。
お梶に「町のカワイ子ちゃんにどう説明したらいいんだぃ!このアマ!」と怒鳴っていました。そばで八五郎が、吹きそうになって口を手で押さえてました。

 細かいことですが、平次が暖簾を分ける仕草が素敵です。今回は飯屋で伊佐吉と浅次たちが取っ組み合いの喧嘩をしていると、外から平次と八五郎が入ってきます。そのとき、平次が縄のれんを分けて入ってくるのですが、その手付きが綺麗!全体の格好も決まっています。舞踊の素養があるからなんでしょうね。


* ラストシーン

 普請場。壁土をこねている伊佐吉。

平次の声「伊佐吉!」
伊佐吉「あっ、親分…」

 平次と八五郎が来る。

平次「随分、続いているようだな」
伊佐吉「いえ、賭けでさぁ」
八「えっ!おぃ、また賭けかよォ」
伊佐吉「てめぇとの勝負。どこまでやれるかという」
平次「うん、おぅ、ところで升屋の旦那が、おめぇに会うと言ってなさるんだが…」
伊佐吉「えっ」
平次「無論、お冴さんと一緒にな」
伊佐吉「お冴さんと…まだ今のあっしにゃ、恥かしくて…親分、升屋の旦那にそう言ってくれませんか?男としての性根が座ったと自分で得心がいったときにゃ、そのとき改めてお冴さんを頂戴に伺います」
平次「(しばし考える。そして満足そうな笑みを浮かべ)その心意気(伊佐吉の肩をポンとたたく)お冴さんにも伝えておこう」
八「しっかりやれよ」

 平次、八五郎、去っていく。


510話 2月25日 頑固おやじ 桑山正一 河原崎健三

 源太の恋人、お春が湯島天神下で殺された。その近くで、廻船問屋平戸屋の一人息子、佐太郎を目撃した源太の父、熊五郎。平戸屋で働いている手前、主人のことを思って、佐太郎のことは平次たちには黙っていた。そのために佐太郎が殺され、源太が捕まってしまうが、平次が調べを進めていくとなにやら、平戸屋がうさんくさくなってくる。

 ゲスト 桑山正一さん(熊五郎)、河原崎健三さん(源太)、神田隆さん(平戸屋清蔵)

 今回は父子関係がテーマ。もうひとつのテーマは葱ま鍋。昔は鮪がとっても安かったので、気軽に食べられたのでしょう。当時の放送は2月25日。平次が「そろそろ、葱ま鍋が食い納め」と言ったのも頷けます。

 今回は万七が学のあるところを披露。論語の「吾日三 省吾身」と書かれた紙を清吉たちに見せて「反省のないところに進歩なし。捕物も同じ」と教えます。皆、びっくりですが、そのため、反省の日々となってしまいます。
 その論語は万七の息子、万介が手習いで書いたもの。平次が褒めると、万七「どこに行っても万介はできがいいといわれる」と親バカぶりを発揮。

 ラストの立ち回り。平戸屋清蔵が部屋から逃げようとすると、目の前の障子の桟に投銭が飛んできて刺さります。体に当たらなくても観念してしまいますね。


* ラストシーン

 江戸町奉行所の門前。熊五郎が息子の源太を迎えに来ている。そこへ平次、源太、八五郎が出てくる。

熊五郎「源太、よく帰ぇってきたな。親分さんたちによ〜くお礼を申し上げるんだぞ」
源太「(とまどいながら)あぁ」
熊五郎・源太「ど〜も(頭を下げる)」

 会釈する平次と八五郎。熊五郎と源太が帰っていく。

源太「親父」
熊五郎「あん?」
源太「わざわざ、迎えに来てくれたのか?」
熊五郎「ちょっとこの近くを通りかかったもんだからよ」
源太「は〜ぁ、平戸屋が潰れて失業しちゃったんだってな。心配すんなって。俺が養ってやるよ、うん」
熊五郎「(前を歩いていた源太の背中をたたいて)馬鹿野郎!やせても枯れても熊五郎様だ!まだてめぇみてぇなひよっこに養われるほど、もうろくしちゃいねぇや。何言ってんだ、この野郎!木っ端、片付けたり、弁当、運んだりしてやがったくせによォ〜!」
源太「でもよォ、大工って仕事は、どうやら俺の性にあってるらしいや。見てな、あと二、三年もすりゃ一端の棟梁だ!」
熊五郎「馬鹿野郎!(源太を張り倒す)いいか、世の中そんな甘ぇもんじゃねぇぞ!(源太の胸ぐらを掴んで)仕事一筋、その道に励んでこそ、初めてものになるんだ、この野郎!いいか、今日って今日は、俺がてめぇの根性ってもんをたたきこんでやるから、そう思え!いいか、こっち来い!今畜生!」
源太「わかったよ、わかったよ、なっ、親父、やるよ、やりゃいいんだろう」

 源太、無理やり熊五郎に引っ張られて行く。奉行所門前から、その様子を見ていた平次と八五郎、笑う。

八「親分、もうすぐ春ですねぇ」
平次「ん、葱ま鍋もそろそろ食い納めかな。おぃ、今夜辺りどうだ?」
八「えっ?こいつはありがてぇや、イヒヒ」
平次「ハハハ」

 平次と八五郎、帰路に着く。二人の後姿。八五郎の仕草から夕飯の話題になっているよう。


511話 3月3日 愛憎流転 志麻みずえ 小林芳宏 黒沢のり子

 愛した人が親の仇の息子だった…何という運命のいたずら…材木問屋才賀屋の女中おきさは、どうにもならない心の痛みに川へ身を投げた。幸い、通りがかった平次と八五郎に助けられたが、胸のうちは明かさなかった。翌日、才賀屋の主人市兵ヱが急死する。殺しか?自殺か?そして、同じく女中のおのぶが殺される。平次はおきさにかかる黒い雲を払おうと捜査を続ける。やがて複雑に仕組まれた才賀屋乗っ取りの企てが明らかになっていく。

 ゲスト 志摩みずえさん(おきさ)、小林芳宏さん(市太郎)、黒沢のり子さん(お艶)

 才賀屋市兵ヱの恩人の子ということで、惣次郎は手代の職を与えられ、すき放題に暮らしていましたが、本当はイイモンでした。お店乗っ取りの企みを暴きました。

 過ぎたるは何とやら、手の込んだ細工をし過ぎて、返って平次の不審を募らせ、お艶は捕まりました。

 お艶を捕まえるとき、平次が「その声で トカゲ食うかよ ほととぎす」と言いますが、川柳でしょうが、有名なものでしょうか?


* ラストシーン

 平次の家。おきさ、庭で植木の水遣り。

平次「おめぇが、死のうとしたのは、若旦那の市太郎さんが、憎い仇の子と知らずに恋をしたばかりか、わりない仲にまでなっていたからだ。市兵ヱ旦那を憎いと思う気持ちと市太郎さんを恋しいと思う気持ちの板ばさみ。さぞ、辛かったろう」

 おきさ、泣き崩れる。そこへ、裏木戸から市太郎が入ってくる。

市太郎「おきさ…」

 驚くおきさ。

市太郎「私を京にあるおまえのご両親の墓の前に連れて行ってくれないか?父の代わりにお詫びをしたい。なぁ、おきさ、頼む、この通りだ(頭を下げる)。そして…そして私は、一生をかけた償いをさせてほしい。おきさ…私はおまえが必要なんだ」

 おきさ、泣くばかり。

平次「市太郎さん、おきささんの心が和らぐまでにゃ長い時がかかるかもしれねぇ。それまで待てますかい?」
お静「待ってあげてくださいますよね、若旦那…」
市太郎「はい。待ちます。たとえ一生かかっても…」
おきさ「若旦那…」
市太郎「(おきさの肩を抱いて)おきさ…」

 平次とお静、もう大丈夫という表情で顔を見合わせる。寒椿の花のアップ。


512話 3月10日 男は度胸か愛嬌か 桜井健一 吉野佳子 住吉正博

風来坊の猪之吉が久々に江戸に戻ってきた。幼馴染の健太とおちよは大騒ぎ。猪之吉が帰ってくると必ずひと騒動が起き、めっぽう女に惚れっぽいので、手を焼くのだ。案の定、猪之吉が江戸に着いた早々女の死体と出くわしてしまう。しかも、その女、おみよ殺しの下手人として追われている房吉の女房、おとせに岡惚れ。なんとか、おとせとその息子、太一のために一肌脱ごうと大奮闘。平次は猪之吉を見守りながら、真犯人を追い詰めていく。

 ゲスト 桜木健一さん(猪之吉)、吉野佳子さん(おとせ)、宮ヶ原淳一さん(太一)
     住吉正博さん(房吉)

 猪之吉のキャラ…フーテンの寅さんがモデルでしょうか、よく似ていますね。旅に出ていて年に一、二回帰ってきては、ひと騒動起こす。惚れっぽくて、お金は無さそうだし、惚れた女には、情けをかけて、親切で…さしずめ、健太とおちよはひろしとさくら?

 ラスト、猪之吉は旅に出るといいながらお静に出会うと一目ぼれ。旅に出るのを延期してしまいます。これから大変、平次親分!

 平次はおとせに夫の房吉を自首させるよう説得します。「人間、相手に信じてほしいと思うときにゃ、まず、自分がその相手を信じることだ」と言って。


* ラストシーン

 ひょうたん。旅姿の猪之吉。健太と酒を酌み交わす。

おちよ「本当に行っちゃうの?」
猪之吉「あぁ、おちよ坊、世話になったな」
健太「もうしばらく、いいじゃねぇか」
おかつ「そうよ、まだ来て十日も経っちゃいないというのに」
猪之吉「いや、この十日は俺にとっちゃ、一年、いや十年にも思えるよ(振り分け荷物を肩に掛け、三度笠を手に取る)辛い思い出は早く旅の空で忘れなきゃなぁ」
健太「無理には引きとめねぇけど、まぁ、また帰ってきてくれよ」
おちよ「本当よ、いつでも帰ってきてね」
猪之吉「ありがとう。(おかつに)おばちゃん」
おかつ「うん」
猪之吉「おばちゃん、太りすぎに気をつけてな」
おかつ「うん」
猪之吉「おちよ、健太、達者で暮らすんだぜ。あばよ」

 猪之吉が店を出ようとすると平次が入ってくる。

平次「おぅ、やぁ、間に合ってよかった」

 お静と八五郎も入ってくる。

お静「猪之吉さんね?」
猪之吉「へぇ(何か様子がおかしい)」
お静「あり合わせで作ったお弁当なんだけど、よかったら途中で食べて頂戴(猪之吉に弁当を渡す)」
猪之吉「へぇ」
お静「ほかに寄る所があって、送れませんけど、お元気でね」
猪之吉「へぃ」
お静「(平次に)じゃ、私…」
平次「おぅ」

 お静、店を出る。猪之吉、ぼ〜っとしている。

健太「(猪之吉の目の前で手を振ってみるが、反応なし)やばいよ!また始まった!」

 平次と八五郎、わけがわからないという表情。

猪之吉「(急に元気になって)あの、健太、おらぁ、もう暫くやっかいになる!(荷物を飯台の上に置き、椅子に座る)いやな、まだ、考えてみたら、十日も経ってねぇもんな。旅に出るのは早ぇやな。ばばぁ、茶、茶…」

 猪之吉、弁当を食べ始める。

健太「あの人はな…」
おちよ「そうなのよ!お静さんっていってね…」
八「うちの親分のなぁ〜」
おちよ「ねぇ、ねぇ、どうしよう、八つあん!」
健太「おちよ…」
猪之吉「(八五郎をどかして)ちょい、ちょい、(外が)見えねぇよ」

 平次、店の奥に落ち着いて座っている。あわてた八五郎が平次のところにいく。

八「どうしますか、こらぁ…」

 平次、苦笑い。猪之吉の荷物とおにぎりのアップ。


513話 3月17日 闇からの声 黒沢洋子

恋仲の芸者小芳に甲州屋の娘婿、藤兵ヱはつい、愚痴を言ってしまった。気の強い女房、お栄に頭が上がらない、いっそ、死んでくれたら…。
 江戸の町では、金で殺しを請け負う「闇がらす」なる者が横行していた。藤兵ヱに頼んだ覚えはないが、女房を殺したのだから、金を出せと闇がらすから脅迫状が届く。動転する藤兵ヱ。娘スリ、お蝶が絡んでの仕組まれた罠…闇がらすの正体は誰?

 ゲスト 黒沢洋子さん(お蝶)、花上晃さん(藤兵ヱ)、根岸明美さん(お栄)、外山高士さん(波切の長五郎)

 平次親分、菊五郎縁の「斧、琴、菊」の模様の半纏を着ていました(冬の定番)。

 芸者小芳は藤兵ヱに「三日に一度はたよりを聞かせて」と指きりします。闇がらすとの金の受け渡しが「指きり地蔵」小芳の指きりには御用心。

 万七親分、樋口様と平次が闇がらすの手がかり(投げ文)が掴めたと喜んでいるとき、二人に背を向けていじけていたみたい。火鉢の蓋(?)の淵を指で尺をとってみたり、指を舐めてみたり…。大きな体で可笑しかったです。

 平次はお蝶を二度ビンタ。一度目はおちよの財布を盗んだとき、おちよをぶったのでその仕返し。二度目は番屋。お蝶が捕まったのですが、真実を言う勇気を持たなかったから。

 おちよはお蝶に「(平次)親分さんは、どこかにいてくれるだけで、安心して生きていける感じ」と話します。わかりますね、その気持ち。ほんとの姿はもう見られないけれどどこかにいらっしゃると信じましょう。元気になります。お蝶は「きざな奴」と言ってましたが。

* ラストシーン

 ひょうたん。 お蝶、町娘姿になっている。店の品書きをたどたどしく読んでいる。

お蝶「さけ…つ・く・だ・に…さしみ…えだ、あっ、え〜と、えだ?」
おちよ「ふふ…あら、もうあんた、こんなに読めるようになったの?頭、いいのね」
お蝶「あたりまえだい!バカにすんない!」

 そこへ平次と藤兵ヱがくる。

平次「こら!年頃の娘っ子がそんな言葉使いをするもんじゃねぇ」

 お蝶、バツの悪さもあり、プイと横を向く。

平次「(藤兵ヱに)このとおりの娘でござんすが、どうか早く人並みになれるように厳しく躾けてやっておくんなさい」
藤兵ヱ「よろしゅうございますとも。お蝶さんは、いわば、私の恩人、妹のつもりで面倒をみさせて頂きます」
平次「くれぐれもよろしくお頼み申します」
藤兵ヱ「かしこまいりました(お蝶に)じゃ、行こうか」
お蝶「はい。おちよちゃん、それじゃ」
平次「お蝶、堅気の生活は、またそれなりに苦労が多いもんだ。辛抱するんだぜ、いいな?」
お蝶「(頷いて)親分さん…(涙ぐむが強がって)みそこなっちゃいけねぇよ!そんなことへっちゃらだい!」

 お蝶、外へ出る。

藤兵ヱ「ありがとうございました(平次に頭を下げる)」

 藤兵ヱも外へ出て、お蝶と去る。

おちよ「よかったですねぇ。お蝶さん」
平次「うん、いや、お蝶とおめぇとどっちが先にいいご亭主をみつけるか、おらぁ、楽しみにしてるんだ」
おちよ「まぁ、いやだぁ親分さんったら(恥かしがって背を向ける)」

 平次、笑顔でおちよをみつめる。おちよ、調理場へ逃げる。平次の笑顔のアップ。


514話 3月24日 子の刻参上 松本聖 北村英三 北条清嗣

そんなバカな!父、重兵ヱが脱獄して、料亭分浜善を襲い、人殺しをするなんて!本家浜善の板前伊之吉は悩む。確かに浜善の主人久兵ヱを恨む大きな理由がこの父子にはある。そのため、重兵ヱは盗人にまで成り下がった。しかし、二十年も前のこと恨む気持ちも薄れる。なぜ、今さら…。久兵ヱは重兵ヱからの「子の刻参上」の脅し文に震える。平次は重兵ヱの手口が今までと違うことに不審をいだく。そして重兵ヱの過去をどうしても利用したい奴がいることを確信する。

 ゲスト 北条清嗣さん(伊之吉)、北村英三さん(十六夜の重兵ヱ)、松木聖さん(お園)、村田正雄さん(久兵ヱ)

 人は見かけに寄らぬもの。腰の低い、優しそうな浜善の主人、久兵ヱ。話が進むうちに怪しくなってやっぱり、一番の悪でした。しかも捕まる寸前に悪あがき。報いが来て、手下の浪人にばっさりと斬られてしまいました。

 番屋が襲われるとは前代未聞。お奉行はご立腹。3日以内に重兵ヱを捕まえろとのお達し。出来なければ、樋口様は切腹かも。日頃の恩返しとばかり万七親分は張り切ります。もし、捕まえられなくて十手返上になったらどうしよう、清吉が心配すると万七は、駕籠かきでもするかと。おちよじゃないけど、でこぼこコンビじゃ、駕籠がななめになっちゃって、お客さんが乗れませんね。岡っ引き以外なにができるのかな?

 朝飯、昼飯抜きで、聞き込みをしてきた八五郎。すきっ腹をかかえて、平次の家でやっとご飯に…と思ったら、親分、八五郎の情報を聞いて「出かけるぜ!飯はいつでも食える!」八五郎、たくあんだけ銜えて、また出かけます。ラスト、八五郎が伊之吉が持ってきた料理をつまみぐい。お行儀は悪いけど、食べられる時に食べなくっちゃ、親分、赦してやってね。

* ラストシーン

 平次の家。平次、庭で盆栽の手入れ。お静がお茶を持ってくる。

お静「はい、おまえさん」
平次「おぅ」
お静「重兵ヱさん、島送りで済んだんですってね」
平次「ん、今度の一件にゃ、何の係わりもねぇってんでな。罪一等を減じられたんだ、うん」
お静「そう、よかったわぁ」
平次「あぁ」
伊之吉の声「ごめんくださいまし」

 木戸から伊之吉とお園が入ってくる。

平次「おぅ、なんだ伊之さんにお嬢さん」
お静「まぁ」
平次「あっ、まぁ、まぁ、まぁ、こっちに入んなせぇ。え、さぁさ」
伊之吉「お陰さまで、昨日から分浜善に移りやした」
平次「そうか、そりゃよかった」
伊之吉「本家の方は闕所になってしまいましたが、分家の方…あのぅ…お園さんと継ぐことになりましたんで…」
お静「あらっ、祝言あげるの!そう、おめでとう」
お園「(神妙に)親分さん、父が世間をお騒がせしました」
平次「おっと、済んだことは早ぇこと忘れちまうこった。おめぇさんたちが、一緒になることで昔の悪い夢はきれい、さっぱり消えちまったんだ。そうだろ?伊之吉さん」
伊之吉「へい。ふたりで新しい浜善を創ってみせやす」
平次「うん、うん。さぁさ、おめぇたち、あがってお茶でも飲んでってくんな」
お静「さぁ、どうぞ、そうぞ」
平次「さぁさ、お園さん、こっち来なせぇ」

 伊之吉、持ってきた岡持ちの蓋を開ける。おいしそうな料理が入っている。

伊之吉「これは、あっしが作った料理なんですが、どうぞ召し上がってください」
平次「(覗き込んで)あぁ、こいつは豪華な料理じゃねぇか」
お静「あら、おいしそ〜う!私、こんな料理食べたことないわ」

 そこへ座敷の方から、八五郎が来る。

八「あれ?いい匂いがしますね〜」
平次「やっぱり来やがった。こういうときには、必ず姿を現しやがるんだから」
八「へへへ…(小鉢を手に取り)うまそうだな、こりゃ(つまみぐい)」
お静「あらっ、ちょっと…」
八「あ、あの、さ、三人前あるんでしょ?」

 皆、大笑い。


515話 3月31日 鬼っ引きの涙 川合伸旺 荒砂ゆき

また平次が!平次の手柄を報じる瓦版を読みながら、おせきは苦々しく思う。鬼っ引きとまであだ名がつくほど厳しい佐久間町の玄三だが、女房おせきに叱咤されてばかり…。そんなとき、お峯が殺される。いち早く駆けつけた玄三。平次は冷たくなったお峯のそばで、玄三が涙を浮かべるのを見逃さなかった。万七はお峯が玄三の浮気相手と知るや、玄三が下手人だと決め付け、鬼の首でもとったように喜んでいる。しかし、平次は玄三の涙がひっかかっていた。

 ゲスト 川合伸旺さん(佐久間の玄三)、荒砂ゆきさん(おせき)

 冒頭、平次の手柄を報じる瓦版売りの場面。平次が手柄をとるのは、当たり前、珍しくないと思うのか、買う人はありません。なんだか、寂しいですね。

 唯一買ったのはおせき。岡っ引き玄三の女房ですが、平次を見習えと夫を叱咤(激励なし〜)。メイクもきついし、お峯殺しを依頼するし、彰吉を殺そうとするし、挙句平次を殺そうと鳶口を振り上げます。鬼は玄三でなくおせきです。夫婦の気持ちがよく通じていたら、こんなことにはなっていなかったでしょうが。

 お静がお峯の第一発見者。玄三がたれこみに多額の金を使うと聞いて、私に甲斐性があったら、平次に好きなだけお金を使わせてあげられるのにと嘆きます。が、平次はそんなことはいい、仕立物をさせていることだけも、すまねぇと思っていると言います。お静は優しい平次の言葉にぐっときて、少しでも御用の役に立ちたいと反物の出所をつきとめようと聞き込みを始めます。


* ラストシーン

 廻船問屋の裏手。彰吉とおせきがお縄になったあと、玄三が来る。

玄三「すまねぇ、明神下の(懐から十手を出し、平次に差し出す)」

 平次、しんみりとした顔。

玄三「十手ってもんが、これほど重てぇもんだとは、今の今まで気がつかなかった。俺はもうこれ以上これを持っていることはできねぇや。すまねぇが、樋口の旦那に返ぇしてくれねぇか」
平次「(十手を受け取り)おめぇさんの十手をこうして受け取った以上はおめぇさんの分まで働かなくっちゃならねぇ(寂しそうに微笑む)」
玄三「あぁ、ありがとよ、明神下の(哀しそうに目を伏せる。涙が浮かんでいる)

 平次の家。平次と八五郎が酒を飲んでいる。平次が八五郎に酌をしようとする。

八「いえ、もう結構です」
平次「なんで」
八「(手に持った盃を飲み干して飯台に置く)あ〜ぁ、やりきれねぇなぁ。これから誰もいねぇところに帰るのかと思うと」
お静「そうね、早いとこお嫁さん、何とかしなきゃね」
八「へい…いや、しかし考えもんですね、おせきみたいなのにぶつかったらと思うとぞっとしますからね」
お静「やさしい人がいいわよね」
平次「うん、しかし、鬼っ引きも、そう思っておせきさんと一緒になったんだろうよ」
八「そうすると女ってぇのは、途中で化けちまうんですか」
お静「相手によりけりよ。男次第っていうことも、あるわよねぇ」
平次「うん」
八「へぇ〜、あっ、じゃ姐さんが優しいってぇのは、やっぱり親分のせいですか、ということは。お惚気ですね、イ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒ…」

 照れるお静。

八「へっ、たっぷりあったまりました。それでは、あの冷えた所に帰ります。どうも、おやすみなさい」
平次「おぃ」
お静「ちょっと、八つあん」
八「えっ」
お静「ん〜、まだいいじゃないのォ」
八「でも…」
平次「飲んでったら、いいじゃないか!」
八「たんと頂きましたから、これ以上飲むとね……そうですか、親分、まぁ、一杯いただきましょ(盃を差し出す)」
平次「(あきれたように)な〜んだ、やっぱり飲むのか(酌をする)」
八「ええ、まぁ、おっとっとっと…」

 八五郎、一気に飲み干し、お代わりを要求。平次、あきれ顔でまた酌をする。


516話 4月7日 やわ肌鉄火 藤間紫 京春上

女だてらに駕籠かき相手に啖呵をきる、おこま。十年ぶりに平次はこの幼馴染と再会し、喜びを分かち合う。おこまは母の墓参と恩ある材木問屋の政五郎の橋の架け替え工事落札祝いに嫁ぎ先の京都から駆けつけたのだ。しかし、政五郎が事故死。橋から落ちたのだが、腑に落ちないおこまと平次。橋の架け替え工事が絡んだ殺しではないのか?おこまは政五郎のあとを継ぎ、架け替え工事に着手すべく、奔走する。異常とも思えるその執念には、恩だけではない深いわけがあった。

 藤間紫さん(おこま)、京春上さん(おみの)

 藤間紫さんとの共演第6作目。舞台化もされています。

 橋蔵さんとは気心が知れた仲の紫さん。このふたりのために書き下ろされたようなエピソードですね、ツーショットも多い。お二人だけでしゃべっている場面は、現実でもこうだったんだろうなと思わせるほど自然。

 久々にお静のやきもちシーンあり。意地悪ですが、こういうときのあたふたする平次も好きなんです。八五郎とおちよは平次とお静が夫婦喧嘩をするのではと井戸に隠れて様子を窺います。心配というより野次馬根性。

 平次はやきもちを妬いたお静に「(おこまとは)そんなんじゃねぇ」と言っていたけど、おこまに「私が京都に嫁ぐって聞いた時どう思った?」と聞かれ、平次は口ごもっていましたよね、まんざらでもでもなかったんじゃないかな。

 ラスト、おこまは亡くなった政五郎が実父だったことを平次に告げ、今までの緊張が切れたように平次の胸に顔を埋めて泣き出します。平次は「小さいときから、さんざんおめぇの泣くのを見てきたから、遠慮せずに気の済むまで泣け」と言います。実年齢は橋蔵さんの方が紫さんより6歳年下。紫さんとは本当に幼馴染だったそうです。泣くのをみたのは紫さんの方ですね、きっと。橋蔵さんは泣き虫だったそうですから。


* お静のやきもち

 平次の家。

平次「おい、お静!帰ぇったぜ。おい、お静…あれ?いねぇのかな…な〜んだいるじゃねぇか」

 お静、夕日に染まり、針仕事の手を休めてボーッとしている。平次に背をむけたまま。

お静「(つっけんどんに)早かったんですね」
平次「そうかな」
お静「無理して帰ってこなくてもよかったんですよ」
平次「あん?」
お静「(涙声で)平さん、帰っちゃいや、平さん、平さん、おこまさんっていう人に、そう言われたんでしょ」
平次「あっ、八の野郎だな、あの野郎、余計なこと言いやがって、ほんとに…あのな…」
お静「(立ち上がり、襖のところで泣き崩れる)おまえさん、ひどいわ!」
平次「あっ、えっ…そうじゃねぇんだよ(お静の背を軽く叩いて)そんなんじゃねぇんだって…おめぇが、そう泣くことねぇじゃねぇか」

       −−−−−間ーーーーー

 平次の家の外。八五郎、中の様子をうかがい、おちよのところに来る。

おちよ「どう?始まった?」
八「いや、ま、まだだけどよォ」

 八五郎、おちよの手を引っ張って井戸の蔭に隠れる。平次とお静が家から出てくる。

お静「おまえさん、ごめんなさいね。私としたことが、ご飯の仕度もしてなくて」
平次「ううん、いいんだ、いいんだ、こんな折でもなきゃ、ふたりで出歩くこともありゃしない。あっ、うなぎでも食いに行こうか」
お静「えっ、嬉しい!」
平次「アハハハ、行こう!」
お静「あっ、でもいいのかしら、そんなに散財しちゃって」
平次「あぁ、いいんだよ。事の起こりは八五郎なんだい。あいつの手当てから差っぴいてやる、アハハハ」
お静「うふふ」

 ふたり、連れ立って去る。

八「え〜っ!冗談じゃねぇよ」

 おちよ、笑いこけている。

八「(おちよを小突いて)笑うな!バカヤロー!ほんとに…」


* ラストシーン

 材木置き場。平次とおこまが並んで材木に腰掛けている。

おこま「やっと、やっとこれで帰れる…」
平次「ん?帰ぇるのか?」
おこま「うん、明日」
平次「明日?」
おこま「うん」
平次「いやに急ぐじゃねぇかよ」
おこま「亭主が待っているからね」
平次「へへ、初めて女房らしい、女らしい言葉を聞いたぜ」
おこま「ふふふ」

 木遣りが聞こえてくる。

おみの「おねえさ〜ん」
佐助「親分さ〜ん」

 少し離れたところにおみのと佐助。平次とおこまに頭を下げる。

平次「おぅ」
おこま「平さん、あのふたりを頼みますよ」
平次「あぁ」
おこま「おみのさんはね、あたしの妹だったんだよ」
平次「ん?」
おこま「お父つあんだったんだよ、あの人…」
平次「わかってたよ。うすうすだがな…」
おこま「どうしてだい」
平次「おめぇが、おみのちゃんにかこつけて何べんか、お父つあん、お父つあんと言った。あの声にゃ、生きているうちにその人をそう呼びたかった、おめぇの思いが、くやしさが、悲しさが、そして懐かしさがこもっていたんだ」
おこま「平さん…(思わず、平次の胸に顔を埋め、涙を流す)」
平次「(おこまの肩を抱く)泣きなよ。小せぇときに、さんざん、おめぇの泣くのを見てきたこの俺に遠慮するこたねぇや。いいから気が済むまで、泣いていな」

 おこま、平次の胸の中で泣く。

佐助「さぁ、みんな、しっかり頼むよ」

 木場人足たちが、集まってくる。


517話 4月14日 江戸に降る雨
 なみだ恋
山田吾一 梶三和子

 降り始めた雨の中、岡っ引きの新助は手配中の犬目の勘八を目撃する。勘八が逃げ込んだ先は花屋…恋人お吟が働いている店だった。そこにいたのは、勘八がお頭と呼ぶ徳三郎、お吟の兄!驚いたのは新助だけではない。お吟も全く知らなかったのだ。兄も、花屋の主人も押し込み強盗稲妻の一味だとは!徳三郎は、俺を売るか、妹をとるかと新助にせまる。平次は新助の態度が一変したのを不審に思う。そしておちよが行方知れずとなり、平次は捜しに出かけるが…。

 ゲスト 山田吾一さん(徳三郎)、梶三和子さん(お吟)、南城竜也さん(新助)

 タイトル通り、雨に始まり、雨に終わりました。番屋で八五郎が降りだした雨に「遣らずの雨というが、この雨はなんだろう」と平次に聞きます。平次は、しばし考えて「知らずの雨」と答えます。そのこころは「知らねぇ」だって。

 平次がお静の糸巻きを手伝っている場面がありました。このシーンも久々。

 徳三郎の兄弟思いが、曲がった形で現れた話でした。徳三郎の弟が平次に捕まり、獄門となったことが、平次への憎しみとなり、殺そうとするのです。それもただ、殺すのではなく、押し込みの片棒を担がせ、汚点をつけてからという卑劣さ。しかもおちよの命がかかっています。平次は徳三郎にビンタまで受けます。

 ラスト、平次の説得に改心した徳三郎は、ある意味かっこよく自分の幕を引きました。これも平次のシナリオだったのですが。


* 親分となら

 花屋の物置。平次とおちよが捕えられている。

平次「どうしたい?」
おちよ「(泣きながら)親分さんと一緒に私も死にます」
平次「お、おい、何を言い出すんだい」
おちよ「親分さんとおかみさんに親切にしてもらったお陰で、私とお兄ちゃん、今日まで楽しく暮らしてこられたんですもの。親分さんと死ねるなら本望です。だから、お願いします。あいつらの手先にだけはならないで」
平次「ありがとよ。だが、おちよちゃんは何も考えねぇでいいんだ。な〜に、そうやすやすと向こうの注文通りになってたまるもんか!」
おちよ「でも…」

* 平次対徳三郎

 花屋の裏庭。平次と徳三郎が言い合っている。偶然、通りかかった新助とお吟が、死ぬ覚悟をしていることを耳にする。

平次「おめぇにも人の情けはあるはずだ。いや、それが人一倍強いからこそ、亡くした弟への思いをこの俺に恨みとしてたぎらせ続けたに違ぇねぇ。だが、妹と死の淵に追いやったのは、他の誰でもねぇ、おめぇ自身だ。まっ、この俺を殺して弟の無念晴らしができたとしよう、だが、新助と手を携えて死んでいく妹の恨みつらみは一体、誰にぶつけるんだ!」
徳三郎「うるせぇ!ここまできたら、もう引き返すことは、できねぇんだ」
平次「だから、死んでいく妹には目をつぶろうっていうのかい」
徳三郎「やかましい!(平次の左頬をビンタ)」
平次「(口端から血が流れている)ひたすら妹の幸せを願う、それゆえにこそ、盗犯業(?)の裏に身を沈めたおめぇじゃなかったのかい」

* ラストシーン

 街道。旅姿の新助とお吟。平次、お静、八五郎が見送りに来ている。

新助「親分、ぜひ一度越中富山へ」
平次「あぁ、きっと訪ねていくよ」
お静「その頃には、もうかわいい赤ん坊ができてるわよね」

 照れる新助とお吟。

新助「それじゃ(お吟とお辞儀をする)」
平次「お吟さん」
お吟「はい」
平次「徳三郎にとっちゃ、妹のおめぇさんが全てだったんだ。だから俺の指図通り、ああして自分の最後の幕を引いたんだ。決してそれを忘れるんじゃねぇぞ」
お吟「はい」

 新助とお吟、お辞儀をして、去っていく。

八「おぅ、元気でなぁ」

 新助とお吟、振り返ってお辞儀。

お吟「はい」

 暖かいまなざしで見送る平次とお静の顔のアップ。新助とお吟、再び、頭を下げ、先を行く。


518話 4月21日 戻り狼 赤座美代子 石橋蓮司

  大工の佐平と相思相愛のおくみ。幸せの真っ只中にいるが、佐平の所帯を持とうという言葉におくみの顔は曇る。そして、おくみの不安は現実となった。さんざん苦労させられた浅吉が伝馬町の牢から出てきたのだ。もう佐平と会えない、会ってはいけない、自分の過去を知られたら…浅吉に引きずられるおくみ。一方、浅吉は辰次殺しでお上に追われ、三年前の二千両と仏像の強奪を巡って仲間に追われていた。

 ゲスト 赤座美代子さん(おくみ)、石橋蓮司さん(浅吉)、原口剛さん(佐平)

 11年目突入を目前におちよと健太は、もう出ていませんでした。ラストの挿入歌はありましたが。

 おくみの過去を気にせず、今のおくみが好きだから所帯を持ちたいという佐平。お静の言葉ではないけど、ほんと男らしくて、優しい佐平です。

 平次が「相手の一から十まで知っておきたいと思うのは、人情だろう」と佐平に問うと佐平は「そいつは男の身勝手だ」と。親分、一本とられました。

 ラスト、「だるま」で奮発して刺身を注文した平次。八五郎は嬉しくてはしゃいだら、平次の拳骨が!グッドタイミングで、もしかしてアドリブ?八五郎の痛がりようは大げさでしたよね。


* 女の哀しさ

 平次の家。おくみを案じて佐平が来ている。

平次「おめぇ、あの女が以前、どんな暮らしをしていたのか、知ってんのかい」
佐平「知りません。いや、知ろうとも思いません」
平次「何故だ?女房にしようとまで思う相手だぜ、一から十まで知っておきてぇと思うのは人情だろう?」
佐平「親分、親分のお言葉ですが、そいつは男の身勝手というもんだ。あっしは今のおくみに惚れたんです。だるまで働く、優しくて明るいおくみと一緒になりてぇんで。それが、あれだけの器量だ。今までに男の二人や三人、あるのは当たり前でしょ。だが、そんなことは一向にかまわねぇ。俺たちが知り合う前のことは、一切水に流して俺のとこに来いって、言ってやりてぇんで。親分!おかしいでしょうか」
平次「いいや、おまえの気持ちはよくわかったぜ」
佐平「だったら、教えてください。一体おくみに何があったんで?」
平次「…」
佐平「親分!」
平次「いや、待ちな。こいつは俺の口から言うことじゃねぇ。おめぇが、そこまで考えているなら、おくみと腹をわって話し合うのが一番だ。俺からもよく伝えておくよ。おめぇならあの女を救ってやれるだろう。見捨てないでやってくれ。な、頼むぜ」
佐平「わかりました。明日にでも長屋を訪ねてみます」
平次「ん」
佐平「それじゃ、あっしはこれで…」
お静「あっ、お帰りですか」
佐平「へい…仕事が残ってるもんで。ごめんなすって」
八「(お静が佐平を送ろうとするのをとめて)姐さん、あっしが…」
お静「いい人なんですね、男らしくて優しくて…」
平次「あんな男に思いを寄せられながら、何故おくみは浅吉と思い切ろうとしねぇんだろうな」
お静「初めての人だからなんでしょうね、きっと」
平次「ん?」
お静「それが女の哀しいところなんですよね。別れた方がいいと心に決めながら、別のところで引きずられていく…この気持ちだけは、男の人には、わからないでしょうね、その浅吉って男はそういう女の弱味を知り抜いているんですよ。何とかして、おくみさんの目を覚まさせてあげないと…」

 平次、感慨深げな面持ち。


* ラストシーン

 小料理「だるま」

おくみ「(客に酒をもってくる)おまちどうさまでした」

 佐平が入ってくる。

おくみ「(満面の笑顔で)いらっしゃい!お刺身にごはん、一丁!」
店の親爺「あいよ!」
おくみ「さぁさぁ、はい(佐平を座敷に座らせる)」
佐平「おぃ、そんな高ぇもの…」
おくみ「いいんだってば。今日は親方が特別にしてやるって、言うんだから」
佐平「困るな…」
親爺「気にしなくていいんだよ」
佐平「どうもすみません」
おくみ「いらっしゃい!親分さん」

 平次と八五郎が入ってくる。

平次「おぅ、やぁ、お揃いだな。そりゃそうとおめぇたちは、祝言はいつするんだ?」
おくみ「ふふふ」
佐平「へぃ、今の仕事が終わって、あっしが一本立ちしましたらすぐに」
平次「そうかい、まっ、しっかりやんなよ」
佐平「へぃ」
おくみ「はい」
親爺「おくみ〜」
おくみ「は〜い」
親爺「あがったよ」
おくみ「あいよ!(お膳を佐平のところに運んでいく)さぁ、はい」
八「エ〜へへへ、デレデレしちゃって、仲のいいこと!(お膳を見て)あっ、お刺身!へぇ〜」
佐平「よかったら、どうぞ(刺身の鉢を八五郎に差し出す)」
八「そうかい。贅沢なもん食ってんな(刺身を一切れ、手でつまんで食べる)俺なんかよ、芋の煮っころがしが、せいぜい関の山だよ」
平次「おぃおぃ、八、みっともねぇ…〇×△*…よし、今日はひとつな奮発して、おぅ、こっちも刺身を二人前に酒をくんな」
八「あいよ」
おくみ「あいよ」
八「ハハハ、こいつはありがてぇや、親分。ごちそうさまで(頭を下げたとたん、平次の拳骨が)痛ぇ、痛ぇ、痛ぇ〜」

 そこへ万七と清吉が入ってくる。

万七「よォ、銭形」
平次「おぅ」
万七「例の仏像が戻ったお陰で、あの唐津屋、また暖簾が張れるそうだぜ」
平次「そうか、そりゃよかったな」
万七「ハハ…(佐平のお膳を見て)あっ、お刺身!うまそうだな、俺たちももらおうか」
清吉「冗談じゃありませんよ。たった今ね、ひょうたんで飯食ったばっかりじゃありませんか」
万七「な〜に、店が変わりゃ、また食えるよ」
清吉「これだぁ、ほんとかなわねぇな」

 皆、大笑い。


519話 4月28日 騙しちゃいけねえ 安東綾子 吉田義夫

小悪党の年老いたイカサマ師、六兵ヱ。なぜか憎めない奴だが罪は罪。平次は堅気になってもらいたいと六兵ヱを諌める。そんな平次の言葉に六兵ヱは改心する。が、ふと知り合った入船の女中お波。若旦那の清太郎と恋仲だが、女主人のお島に大反対され、店を追い出されたという。この娘に今は亡き娘の姿が重なって、六兵ヱは、お島を騙して、金を巻き上げようとする。それを知ったお波は六兵ヱに罪を犯させてはならないと入船へとひた走る。

 ゲスト 吉田義夫さん(六兵ヱ)、安東結子さん(お波)、利根はる恵さん(お島)

 放送開始10年目最後のエピソードです。おちよと健太の姿が前のエピソードから見えませんが、いなくなった理由はありませんね。タイトルバックの挿入歌もありませんでした。

 チョイ悪爺さんの六兵ヱ。その舌先三寸に操られ、見事に万七と清吉は騙されました。欲を出しちゃったから。

 押し込み強盗を捕える際、平次は一味の浪人に左手を斬られてしまいます。お静はごはんをお口にあ〜んと平次に食べさせています。左手を三角巾で吊った平次の姿も痛々しいけれど、利き手の怪我じゃないし、ちょっとやりすぎかなぁ〜(やきもちが入ってますがー笑ー)。
 八五郎も一緒に食事をしていますが、なんだか、お邪魔虫に感じて早々に帰ろうとするとお静が「ほんとは感謝してるのよ。これで浅草にでも行って遊んできて」とお小遣いをあげます。八五郎はとたんに上機嫌。ラストで八五郎は平次に刀傷に効く薬をみつけたといって、平次に持ってきますが、もしかして、親分思いの八五郎だもの、お静のくれたお小遣いで買ってきたのかも。

 平次は六兵ヱにまっとうになってもらいたく、お見舞いにきたときも冷たく帰そうとします。でもそのあと、「堅気になったら、一緒に菓子も食べるし、酒も飲もう」と付け加えます。厳しさとやさしさ。六兵ヱも涙があふれます。
 ラストも平次は六兵ヱを牢屋へ帰る道を回り道して、お波の花嫁姿を見せるのです。ほんと情けが一杯の親分ですね。


* 平次の諌め

 木賃宿「甲州屋」の庭

平次「いいか、見逃してやるのも、これが最後だ。いつまでもこんなことが続けられると思ったら大間違い。おめぇもその年になって、牢屋暮らしじゃ身にこたえるだろう、えっ、きっぱりと足を洗うんだ、わかったな」

* 平次の厳しさと優しさ

 平次の家。玄関先。六兵ヱが平次の怪我の見舞いに菓子折りを持って来る。

六兵ヱ「あぁ、親分さん、この度はとんでもねぇことで」
平次「おぃ、こりゃ一体何の真似だ。こんなもので目こぼししてもらおうっていう魂胆かい。おぃ、俺はな、そんな男じゃねぇんだ!いいから、これをもって早く帰ぇんな!」
お静「おまえさん、お返しするにしても、もうちょっと言いようが…六兵ヱさんだって、きっと本当に改心するつもりで、それで来てくれたんですよ」
六兵ヱ「そ、そうですよ、親分さん」
平次「いや、信用できねぇな。あれから三日たつ。おめぇ、その間何して働いたんだ?どうだ、答えられねぇのか?それでも心を入れ替えたといえるか!俺はそんな男にな敷居をまたいでもれぇたくないんだよ!」
六兵ヱ「あっしゃ、親分さんのお気持ちに甘えていたようです。目が覚めました。ええ、今度こそ、きっとお約束します」

 菓子折りを持って帰ろうとする。

平次「(しばし考えて)おぃ、ちょっと待ちな。おめぇ、身寄りはいねぇのか」
六兵ヱ「十年前に女房と娘をはやり病で…」
平次「そうかい、まっ、おめぇが堅気になったら、そのときは一緒に菓子もつまむし、おめぇがいける口だったら、一緒に飲もうじゃないか、楽しみに待ってるぜ」
六兵ヱ「(涙を浮かべて)へぇ」

 六兵ヱ、帰る。

お静「何かいい仕事があればいいんだけど」
平次「うん、森川町の火の番小屋の親爺が株を安く譲って、田舎に引っ込みてぇと言っていた。決まったかどうかわからねぇが、よし、明日にでも聞いてみよう」
お静「そうね、そうしてあげられたら…」


* ラストシーン

 夕暮れ。平次と六兵ヱが路地を歩いてくる。

六兵ヱ「お白州から牢屋へ戻るのにいつもと道が違うようでございますね」
平次「裏道を通ったって、お咎めはあるめぇよ」

 ♪高砂や〜

六兵ヱ「(驚いて)ここは」
平次「入船の横手だ。あの頑固なおかみさんが、やっと折れてふたりの仲を許してくれたんだ」

 六兵ヱ、嬉しそう。

 入船の裏庭。祝言の様子が道から見える。花嫁姿のお波を六兵ヱがじっと見つめる。

六兵ヱ「そうですかい、お波ちゃんが若旦那と…」
平次「恐らくあの娘が晴れの姿を誰よりも一番先に見てもらいたかったのは、父つあん、おめぇさんだったろうよ」
六兵ヱ「(涙ぐんで)もう思い残すことはありません。ありがとうございました、親分さん」
八「親分!」

 八五郎が来る。

平次「おぅ」
八「あのね、刀傷によく効く薬をね、見つけやしたぜ。これを塗りゃぁね〜(平次の手をみて)あっ」
平次「ありがとよ、八。だが、この通りすっかり元通りだぜ」
八「あぁそうですか。やっぱりあっしゃ、間が抜けてるんですかね…でも治ってよかった、へへへ」
平次「また忙しくなるぜ、え」

 お波を見つめている六兵ヱ。

平次「さぁ、行こうか」

 八五郎が六兵ヱを連れていく。平次、お波の幸せを願ってか、祝いの席に目を移してから去っていく。


出演者(レギュラー) 大川橋蔵 香山美子 林家珍平 遠藤太津朗 池信一 永田光男 田淵岩夫 海原万里 海原千里
520話 5月5日 天まであがれ鯉幟 三上真一郎 佐野厚子
 頻発する辻斬り。今度は骨董屋の宗之助が殺された。家の中は、何を探そうとしたのか、地震でもきたような有様。宗之助と言い争ったという浪人磯村勘兵ヱが、疑われる。が、平次の調べで無実と判明。しかし、平次の帰宅を待ち受けていたのは、勘兵ヱの白刃だった。一体、勘兵ヱの身に何が起こったのか、宗之助の荒れた部屋から見つかった書付が物語ることとは…。

 ゲスト 三上真一郎さん(磯村勘兵ヱ)、佐野厚子さん(お駒)、潮万太郎さん(丹波屋)

 放送開始11年目に入りました。主だった変わったところを挙げてみます。

 @オープニング  平次の投銭から始まります。場所は屋内。
 Aテーマソング  大幅にアレンジが変わりました。銭マークがでるところも。
 Bクレジット   ほとんどシルエットに(「必殺」を意識したのかしら)平次が、キッ
          と目線を変えるときの顔がいい!!それからシルエットに。
 C暖簾      青地から緑地へ。檜扇の柄も大胆に。
 Dレギュラー   「ひょうたん」から「喜らく」へ。主はおせん、おつる姉妹、板前の
          長吉。

 「喜らく」は上方から来た姉妹。一段と賑やかになりそうです。平次は「おつるちゃんにおせんちゃんか、鶴は千年ってわけだな、ハハ、こいつは縁起がいいや」と。お店自慢のうどんも気に入ったようです。

 おせん、おつるを演じるのは上方の姉妹漫才、海原千里、万里さん。現在、妹さんは、上沼恵美子さんの名前(本名かな)で活躍されてますね。

 勘兵ヱは亡き殿への恩を返したいという気持ちを悪用され、罠に嵌まってしまいます。それにしても家老の堀田は自分の悪事を隠すため、全く関係のない辻斬りまで利用するとは、すごい悪知恵。


*ラストシーン

 勘兵ヱの長屋。鯉のぼりをあげる準備をしている八五郎。まわりに、平次、勘兵ヱ、大吉、お駒、長屋の連中。

平次「いや、勘兵ヱの旦那、これは武者人形の代わりですぜ」
勘兵ヱ「いやぁ、こんな高価なものを…祝っていただいては、あんまりに…」
八「な〜に、うちの大家がね、坊やがもう大きくなったんでね、いらねぇからって、ただみたいに安く譲ってくれたんですよ」
勘兵ヱ「そうか、いや、感激です(大吉を抱き上げて)大吉、よかったな」
大吉「うん、おじちゃん、ありがとう」
平次「お侍の堅っ苦しいしがらみをしょっていた磯村勘兵ヱは、腹を切って死んじまった。今日から新しい旦那に生まれ変わった」
勘兵ヱ「いや、私もそのつもりです」
お駒「まぁ、嬉しい!(勘兵ヱに抱きつく)それじゃ、私の気持ちも叶えてもらえるのね」
勘兵ヱ「いやぁ、それとこれとは、また別の話で…」
お兼「何言ってんだい、男らしく覚悟をお決めよ」
お駒「そうよ、鯉のぼりだって、緋鯉と真鯉がいるじゃないの、ねぇ」
八「さぁ、あげるぞ!」

 鯉のぼりが屋根の上高くあがる。皆、笑顔で見上げる。大空に泳ぐ鯉のぼり。

521話 5月12日 平次一番勝負 真部一男 菅貫太郎 汐路章
 将棋のめっぽう強い六助。その娘おみよが殺され、六助は、首を吊って亡くなった。おみよの残した血文字の「ろく…」とは父親のことだろうか。六助はおみよのために一世一代の賭け将棋に挑戦していた。相手は賭け将棋荒らしの医師算哲。平次はこの勝負中におみよが殺されたことに疑問を抱く。そして、平次は証拠を掴む為、六助、同様に算哲に賭け将棋を申し出る。

 ゲスト 真部一男さん(天野宗歩)、菅貫太郎さん(算哲)、汐路章さん(六助)

 将棋好きの人にも楽しめるような、かなり本格的な将棋を扱った珍しいエピソードだと思いました。封じ手の「六九の歩」とか「遠見の角」とか、私にはわかりませんでした。

 天野宗歩役の真部さん、演技が素人ぽいので、もしやと思ったらやはり本当の棋士だったそうです。当時は五段だったとか。(私、無知ですみません)

 いつのまにか、平次は八五郎より将棋が格段に上手くなっていました。八五郎は将棋だけは親分に勝っていたのに。

 惚れたおみよに将棋が習えると大喜びの八五郎、その矢先に殺されたおみよ。おみよの死体の前で大泣きの八五郎。平次は「バカ野郎、こんなところで泣いてたって、仏さんは喜びゃしねぇぞ。約束するんだ、下手人は必ず、お縄にしてみせると」と言って励まします。八五郎はおみよに誓います。ラスト、下手人の算哲を平次は八五郎に「おみよの仇だ」と言ってお縄をかけさせます。八五郎は泣きながら、算哲を十手で何回も叩きます。

 菊之助の投げた手裏剣を平次は十手をグルグル回して弾き飛ばしました。久しぶりの技。

 ラストは、平次と万七の大勝負。ナレーションが入って面白かったです。日本史上稀にみる名(迷?)人戦だとか。どっちが勝ったかわからないなんて…平次親分ですよね。


* 八五郎の花嫁候補?

 平次の家。平次と八五郎、植木の手入れ。

平次「そうか、女にも(将棋の)強ぇのが、いるんだな」
八「ええ」
平次「(縁側に腰を下ろして)あぁ、よしっ、それじゃ俺も一緒に習おうじゃないか」
八「えっ!(あせって)いや、そ、そいつは、いけませんや」
平次「どうしてだい」
八「ど、どうしてって。あっしが習って、あっしが親分に教えるのが、これが、あの…物事の筋ってもんですよ」
平次「な〜にが筋だい。おまえなんかに習ったってしょうがねぇじゃねぇか」
八「だってぇ…」
お静「(お茶を出しながら)おまえさん、ちょっとは、気を利かせてあげたらどうなんですか?」
平次「あん?」
お静「八つあんは、ふたりっきりで習いたいんだって言ってるんですよ」
八「そ、そんな〜姐さん」
お静「あ〜、だめだめ、好きだって、ちゃんと顔にかいてあるんだから」
八「えっ(真に受けて、両手で顔をさわる)あっ、また〜」
平次「そうかい。それじゃどうしたって、俺も一緒に習わなきゃならねぇな。花嫁の人柄を知らなきゃ仲人役は務まらねぇ。おぃ、お静、おめぇも一緒に習いな」
お静「あっ、そうですね、じゃ三人一緒に」
平次「あぁ、三人、三人」
お静「八つあん、よろしくお願いしますよ」
八「(あわてて)そ、そんなぁ(困って両手で顔を覆う)ウェ〜ン」

 平次とお静、大笑い。


* ラストシーン

 喜らく。本日休業の札が下がっている。

ナレーション「それから、数日後、天野宗歩、立会いのもとに日本将棋史上稀にみる名人戦が行われた」

 平次と万七との対局。見守る八五郎、清吉、おせん、おつる、長吉

八「親分、待ったなしですからね、あせっちゃいけませんよ、あせっちゃ」
清吉「(万七に)よく考えてくださいよ、考えて」
八「考えたって、わかるような頭かよォ」
清吉「何を!この野郎!」
八「何だい!」
清吉「何だ!」
八「まぁ、みてろよ」
清吉「ふん」
おつる「三輪の親分、この間みたいにイカサマやれへんやろか」
おせん「あ〜、あれはひどいわ。自分の王様をふんどしの中まで詰ませるわけにいかんしなぁ」

 平次と万七、真剣な顔で何手か打つ。天野宗歩、退屈なのか、よほどへぼであきれているのか、扇子で顔を隠して大あくび。

ナレーション「互いに男の意地と名誉を賭けたこの名人戦は、延々と続き、一旦は入玉した双方の王将が、再度自陣に舞い戻り、手数にして二百数十手をもって、終了したと伝えられているが、残念なことにいずれが勝ったかについては、いかなる記録にも記されていない」

 平次と万七の勝負を見守る八五郎たち。

522話 5月19日 錆びていた十手 近江佳世 黒部進 山本麟一
 岡っ引きの島蔵は廓の桔梗屋と組んで女を送り込んでいた。どうしても、ものにしたい小雪を借金を楯に執拗に追い回す。小雪をかばった伊之吉は、島蔵に怪我をさせてしまい、寄せ場送りに。一年後に寄せ場から戻った伊之吉にほっとする小雪だが、幸せを目の前にして、またもや島蔵に阻まれる。平次は島蔵の悪事を暴く為、籐八殺しの一件から島蔵を追い詰めていく。島蔵の錆びた十手に平次の十手は怒りに燃える。

 ゲスト 近江佳世さん(小雪)、黒部進さん(伊之吉)、山本麟一さん(島蔵)

 岡っ引きの風上にも置けない島蔵。借金を楯に女を売るわ、殺人を指示するわとなまじ十手を持っているだけに始末が悪い。風貌からして、悪人そのものですね、顔も見たくないなぁと思ったけれど、出番が多かったですねぇ。

 おせんとおつるに挑発されて、万七は小雪を桔梗屋から救おうと一大決心をします。大尽のふりをして、幇間に扮した清吉と長吉を従えて。でも贋金がばれて捕まってしまいます。命があってよかったです。

☆女泣かせの非道な岡っ引き島蔵ですが、江戸時代の目明しは、こんな人も多かったようです。犯罪者やその周辺の人の情報に精通していたため、犯罪歴のある人や、賭け事を好む人が多かったとか。目明しが町の人々から金品を脅し取るなどの問題も後を絶たず、目明し廃止令が繰り返し発令されました。それでも犯罪の捜査に役割を果たしたのでしょう、存続したようです。(参考 小学館 江戸博覧強記)


*平次の怒り

 桔梗屋。自殺した年季奉公のおふじの死体を改めた平次と八五郎。

徳兵ヱ「え〜、てまえが、主の徳兵ヱでございます。年季奉公のおふじでございますが、故郷(くに)の好きな男にでも心中だてしたのか、首をくくりましてな、全く迷惑なことでございますよ」
平次「(カチンときて)この店に奉公人なら線香の一本でもたむけて、葬ってやるのが、人の情けってぇもんだ。それを迷惑なんて、何ていう言い草だ!!」
徳兵ヱ「その…」
島蔵「銭形!(家の中から現れる)そりゃ言いすぎっていうもんだぜ。自分から死ぬような道をはずれた死人は手厚く葬らねぇのが、廓のしきたりなんだよ」
平次「他の者なら、いざ知らず、この廓に女を送り込んでいるという噂のあるおめぇには、この仏をねんごろに葬ってもらいたかったぜ」
島蔵「何だと!」
平次「おめぇの縄張りうちのことだ。丁度いい、おぅ、桔梗屋さん、夕べこの家に籐八を呼び込んだのは一体誰だ?!」
徳兵ヱ「籐八っていうと…あの太鼓もちの…」
八「桔梗屋へ行くってね、長屋を出てるんですよ」
徳兵ヱ「とんでもない!籐八なんぞ、来ていませんよ」
島蔵「平次!ここは俺の縄張りだ!こりゃ一体なんの真似なんだ」
平次「山谷堀に籐八の死体があがった。首を締められてな」
島蔵「ふ〜ん、旦那は知らねぇとおっしゃってるんだ」
平次「そうかい、いや、おめぇが桔梗屋さんと親しいとわかっただけでも無駄じゃなかったぜ。邪魔したな。おぅ、八」
八「へぃ」

 平次と八五郎、去る。


*平次の啖呵

 桔梗屋の一室。島蔵を捕えに来た平次。

島蔵「平次!御定法を破って廓ぬけしようって奴に手を貸そうというのかい!」
平次「弱い者の味方になってやるのが、十手持ちの務めだ。女の涙と殺しの血に染まって錆びたてめぇの十手が御定法とは、聞いてあきれるぜ」
島蔵「何だと!」
平次「十手を傘に非道の数々、全てお調べがついてるんだ」


* ラストシーン

 平次の家。伊之吉と小雪のために祝いの席を設けている。おせん、おつる、八五郎がいる。お静は酒の準備。

長吉「(庭から手を振って)来はった、来はった、来はったよ!」

 伊之吉と小雪が入ってくる。

伊之吉「どうもお待たせしてしまって」
お静「さぁ、上がってくださいな」
伊之吉「どうも」

 伊之吉と小雪、皆にお辞儀をする。

おつる「うわぁ、ええわぁ〜」
おせん「さぁ、どうぞ、どうぞ」
八「どうぞ」

 伊之吉、小雪、長吉、座敷に上がる。

お静「それにしても、うちの人、遅いわねぇ」

 戸の開く音。

八「あっ、親分!帰ぇってきましたよ。おかえんなさい!」
お静「おまえさん、おかえんなさい…どうでした?」
平次「うん、樋口様のお話じゃ、島蔵に売られた娘たちは、近く故郷(くに)に帰れるようにお奉行様がお計らいくださるってことだ」
お静「よかったぁ」
平次「うん…(皆のいる方を向いて)おぅ」
おせん「ふるさとで、みんな元通り幸せに暮らせるんやね、だけどほんまに親分さんて、イカスお方やわぁ」
おつる「おおきに、親分さん」
平次「あ、ハハハ(伊之吉と小雪を見て)さぁ、今度こそ、おめぇたちふたりが、本当に幸せになる番だぜ」
伊之吉「は、ありがとうございます」

 顔を見合わせる伊之吉と小雪。

平次「うんうん、さぁさぁ、やってくんな、えっ、おぃ、お静、酒、酒もってこい」
お静「はい」

 お静、酒の燗をつけ始める。

523話 5月26日 おいらが親父日本一 フランキー堺 磯村みどり 松田洋治
 一緒に川に飛び込んだのは、松次郎のはず、なぜ和平の水死体があがったのか…心中をはかった尚古堂のおかみ、お絹。運よく、気のいい落語家金平亭とん馬に助けられたが、自分でもわけがわからない。しかも松次郎は、生きていて心中などするはずがないとけんもほろろ。やがて、その松次郎が毒殺される。益々混乱するお絹。とん馬父子と平次がお絹にかけられた罠を解き明かしていく。

 ゲスト フランキー堺さん(金平亭とん馬)、磯村みどりさん(お絹)、松田洋治さん(新吉)

 とん馬の息子、新吉がしっかりしていて、大人顔負けでした。役を演じた松田さんも見事な演技でした。
 しじみ売りで稼ぎ、売れない落語家の父親に落語を教え、愚痴も言わずに、励まして…
助けたお絹に気を遣ったり、ラストは父親とお絹のキューピッドに(本当は、母親がほしかったのですね)
 新吉がお絹が飛び込んだ川の橋で、平次と八五郎からさりげなく、心中相手の男の生死を確認するなんて、凄いですね。平次も思わず「気にいらねぇな、あの坊や」なんて言ってました。
 尚古堂の尾行をしていたという新吉、「レコ」がいるなんて、ませたことを言って、平次も八五郎もタジタジでした。

 とん馬が練習していた落語は「たらちね」だそうです。


*ラストシーン

 番屋。外でお絹と新吉が待っている。中から、八五郎、とん馬、平次と続いて出てくる。

とん馬「(新吉を見つけて)あっ!」
新吉「お父つあ〜ん!(とん馬に抱きつく)」
とん馬「新吉!」
お絹「親分さん、本当にありがとうございました(涙ぐんで)ありがとうございました(深く頭を下げる)」
平次「お絹さん、これからどんなことがあっても、命を粗末にしちゃいけねぇよ」
お絹「はい、二度と馬鹿な真似は…」
平次「うん」
新吉「親分、今晩、おばさんがね、うんとご馳走を作ってくれるんだってさ」
平次「ん」
新吉「お蔭さんで、三人揃って飯が食えるんだ」
平次「(沈んだ声で)三人、揃ってかい…ん」

 平次、視線を遠くに移す。その視線の先には、お絹を迎えに来た実家の駿河屋の人たちが待っている。

平次「いやぁ、おばさんはな、これから…」
お絹「(平次の言葉を遮って)いえ!私、実家へは帰りません!」
平次「えっ」
お絹「なまじ身代のある商家のの暮らしにつくづく愛想が尽きました。もし私のようなものでよかったら、いつまでもとん馬さんたちと一緒に…とん馬さん、お許し頂けますか?」
とん馬「えっ、そいじゃ、あっしたちといつまでも!…はい!頂けますよォ、お許しでも何でも頂けますよォ〜」
新吉「わぁ〜(お絹のところに行って)じゃ、おいらのおっ母さんになってくれるんだね!」

 おおきく頷くお絹。

新吉「(とん馬のところに行って)うわぁ〜、お父つあん、今度は逃げられないようにするんだぜ」
とん馬「がってんだ!ん、今度は逃げられねぇように名前まで変えちゃう、芸名まで変えちゃう」
新吉「今度は何ていうの?」
とん馬「金平亭付け馬」
平次「ハハハ、こいつはいいや」

 皆、大笑い。新吉、とん馬とお絹の手をとって、重ねる。照れるふたり。皆、嬉しそう。

524話 6月2日 あの日雨の日 小畠絹子 河原崎長一郎
 間違いない!十年前のあの雨の日、助けてくれた芸者八重柳姐さんに。故郷の小諸に帰ってまっとうになると約束したあの姐さんに。八重柳の笑顔が小諸馬子唄とともに鮮明に蘇る。長次郎は仲間の二人と米問屋福島屋に押し入り、三千両を盗んだ。平次から福島屋の女将が柳橋の芸者だったと聞き、もしやと思い、確かめに来たのだった。そして、今、お八重はその三千両のため、倒産の危機に瀕し、泣いている。あの人の笑顔が見たい、長次郎は三千両を福島屋に返そうと決心をする。

 ゲスト 小畠絹子さん(お八重)、河原崎長一郎さん(長次郎)

 平次の家の暖簾が前の紺地に戻っていました。放送日が後先になったのでしょう。

 故郷の唄が流れるエピソードがいくつかありますが、情緒があって、しみじみしていいですね。
 ラストでは、平次が「小諸馬子唄」をちょっとだけですが、口ずさみます。お八重の目の前で、長次郎が平次にしょっ引かれて行きます。お八重には正体をばらさないでくれと頼んだ長次郎ですが、平次への「ありがとうございました」のお礼はお八重にも向けられたものだと思います。それを察して平次はお八重が気づくかも知れない、気づいて欲しいと馬子唄を口ずさんだのではと思いました。

 町方の威信を賭けた事件でもありましたが、4日という期限内に平次が解決して、樋口様はよほど嬉しかったのか、平次に「ありがてぇ」と頭を深〜く下げたのには、ちょっと驚きました。

 小諸馬子唄 ♪小諸出てみよ 浅間の山に 今朝も煙が三筋たつ


* ラストシーン

 米問屋福島屋。店先に千両箱が三つ置かれる。

奉公人「番頭さん!番頭さん!女将さんを早く!」
番頭「女将さ〜ん!女将さ〜ん!」
樋口「平次、助かった、ありがてぇ、ありがてぇ(平次に深く頭を下げる)」
万七「(千両箱を叩いて)さぁ、大事にしまっとけ!」
奉公人「ありがとうございます」
番頭「(お八重に)銭形の親分さんが」

 お八重、店の奥から出てきて、千両箱を見て驚く。

お八重「親分さん!…ありがとうございました」
平次「いや、女将さん、涙はいけねぇよ。よくやってくれたとお思いなさるなら、笑顔、表にいる(長次郎と言えず、口ごもる)…いや…あの…八五郎にも見せてやっておくんなさい」
お八重「は、はい」
平次「さぁ」
お八重「(表に出て、八五郎に)ありがとうございました」
八「へぃ」

 捕えられている長次郎、悲しそうな顔でお八重を見る。十年前に出会ったお八重の笑顔を思い浮かべる。小諸馬子唄のメロディが流れる。涙を浮かべているお八重、長次郎の視線を感じ、不審な顔で長次郎を見る。思わず、顔を背ける長次郎。野次馬が「え〜い、悪党!」などと言って石を長次郎たちに投げる。

下っ引き「どいて、どいて」

 長次郎の仲間の金兵ヱと久助を先に引っ立てていく樋口。少し遅れて、平次と八五郎が長次郎を引っ立てていく。振り返る長次郎。見つめるお八重。

平次「♪小諸出てみよォ〜」
長次郎「ありがとうございました」
平次「♪浅間の〜」
お八重「(長次郎と気づいたのか)あの人…」

 小諸馬子唄をくちずさんでいく平次。

525話 6月9日 盗っ人の遺産 今福正雄 伊吹友木子 沼田曜一 原健策
 千鳥の千造は、頭の煙の長兵ヱの言い残した通り、木彫りの大黒を長兵ヱの妻子に届けるべく、京都から江戸へ入った。千造を追って頭を殺した手下も江戸へと入る。千造は、平次に捕まるが、木彫りの大黒に仕込まれていた、隠し金のありかを示した書付を見せられる。謎めいた文だが、千造はすぐに理解し、頭の仇をとるため、牢を破って、手下を誘い出す。

 ゲスト 今福正雄さん(千鳥の千造)、伊吹友木子さん(およし)、沼田曜一さん(甚十郎)、原健策さん(煙の長兵ヱ)

 キーワードは大阪弁でした。長兵ヱが木彫りの大黒の中に仕込んだ金のありかを記した書付「おたやんの ゐどのかみさま みずはなし」 平次は空井戸ということは、わかっても「おたやん」がわからず、四苦八苦。ひょんなことで、「喜らく」のおつるが「おかめ」は「おたやん」のことと言ったので、謎は解けました。
 「(お)かめ いどのかみさま みずはなし」→「亀戸天神の空井戸」(ちょっと苦しい?)

 これには伏線がありました。八五郎が「喜らく」の長吉の大阪弁が気に入らないって言っていたし、盗賊煙組は上方と江戸をまたにかけて、荒らしまわっていたという設定。

 平次に御用となった千造、平次が八五郎に「大番屋に連れて行け」と命じますが、八五郎、ひとりだったし、お縄もかけていませんでした。牢破りしなくても行く途中で逃げられたのに(笑)。

 盗っ人とはいえ、長兵ヱと千造の強い信頼の絆を思い、千造の死に直面した平次の目に涙が光りました。


* ラストシーン

 亀戸天神の空井戸(金の隠し場所)甚十郎たちを捕えた後、平次、瀕死の千造を抱く。

平次「千造、よく聞けよ。およし母子は長兵ヱやおめぇには、何の係わりもなかった。それでいいんだな?」
千造「あ、ありがとう…ござんした」

 平次の腕の中で千造、絶命。平次の目に涙。

 往来。おみのの嫁入り行列。

おたつの声「どうだい、え、おみのちゃんの衣裳や荷物のりっぱなこと!さすが、伊勢屋さんだ。玉の輿っての、あのことだね」

 小料理「およし」の店内。おたつが来ている。およし、開店前で忙しくしている。

おたつ「でもさ、おみよちゃんとここの長次郎さんといい仲だって噂だったけどね。本当にこのごろの娘ときたら、お宝のある方にすぐ乗り換えるんだから、あきれちまうよね」
およし「もう、帰っておくんなさいよォ」
おたつ「何だって!」
およし「お店開けるのに邪魔だから帰ってくれって言ってんだよォ」
おたつ「ふん、何だい!せがれが、ふられたからって、人に当たることはないだろう!ふん」

 おたつ、店を出て行く。およし、やりきれない表情。

長次郎「母さん、そろそろ店、開けるぜ」
およし「あっ…長次郎…勘弁しておくれよ。おっ母さんに甲斐性がないばっかりにおまえに辛い思いをさせちまって」
長次郎「な〜に、おいら小さい時から、おっ母さんとふたりで苦労したお陰で、たいていのことじゃ負けはしないよ、へっ、気にすることはねぇって」
およし「長次郎!(涙を拭く)」
長次郎「泣いちゃいけねぇよ。これから、店開けだぜ。景気のいい顔して暖簾でも出してくんな」
およし「そうだね…あいよ」

 およし、暖簾をかける。

およし「あっ、親分さん」

 平次が来る。

平次「聞かしてもらったぜ。おめぇさん、なかなかいい息子さんを持って幸せだな。これから母子でしっかり、がんばんなよ」
およし「ありがとうございます」
平次「それから、こいつは、おめぇさんたちには、何の係わりもねぇことなんだが…千造って男が死んだ」
およし「えっ」
平次「肩の荷を下ろしたように、にっこり笑って死んでいったが、考えてみりゃ哀れな男。もし、そんな男がいたかと思い出したら、線香の一本もあげてやってくんな」
およし「はい」
長次郎の声「おっ母さん、何してんだい、早くこっちを手伝ってくれよ」
平次「おぃ、呼んでるぜ、じゃぁな」
およし「はい、では…」

 およし、店の中に入る。平次、暖簾ごしにおよしたちの様子をちょっと窺う。この母子はどんな苦労も乗り越えて、まっとうに幸せに生きていくだろうと確信したかのような表情で店をあとにする。

526話 6月16日 あにとおとうと 中尾彬 藤江リカ 寺泉哲章
 とうとう、人殺しまで!亡き母は、最期まで兄の栄吉に小間物屋再建を託していたのに。ぐれってしまって、あげくに…もう顔も見たくない!佐吉は店を再建しようとこつこつ小間物の行商をしている。一方、平次はおきみ殺しの下手人として捕まった栄吉が自白をしたものの、どうも腑に落ちない。栄吉が下手人だと投げ文をしたのは、誰か、栄吉のいきつけの小料理屋の女将おせいの不可解な行動…しかし、そのおせいも殺されてしまう。

 ゲスト 中尾彬さん(栄吉)、藤江リカさん(おせい)、寺泉哲章さん(佐吉)

 おせいが、一番哀れな気がしました。平次の言葉どおり、おせいを殺したのは、栄吉ともいえます。栄吉を唯一理解をしていた人なのに。

 栄吉がぐれたのは、母の願いに報いたいというプレッシャーからでしょうか、でも弟に店を持たせたいがため、お金で犯人の身代わりとなるというのは、考え違いですよね。弟を思う気持ちは、尊いですが、たとえ、それで店を持ったとしても佐吉は一生殺人犯の弟という十字架を背負って生きていかなければなりません。もちろん、一番の悪は真犯人ですけど。

 おせいが、たずねて来た八五郎を見て「ふかしまんじゅう」と言ったのには笑ってしまいました。


* ラストシーン

 おせいの墓。墓の前で栄吉が手を合わせている。そばに平次と八五郎。佐吉が来る。

栄吉「佐吉…」
佐吉「赦してくれ、兄さんの気持ちも知らずに…俺…」
栄吉「謝んなきゃならねぇのは、俺の方だ。結局おめぇのために何もしてやれなかった」
佐吉「兄さん…」
栄吉「親分さん」
佐吉「このたびは、いろいろと…」

 栄吉と佐吉、平次に頭を下げる。

平次「礼をいう相手は俺じゃねぇ、おせいさんだ。おせいさんは、おめぇたちの間にあった垣根を取り払ってくれたんだ」

 栄吉と佐吉、並んでおせいの墓に手を合わせる。

527話 6月23日 八丁堀異変 島田順司 和崎俊哉 町田祥子
 抜け荷を探っていた筆頭与力進藤主馬。八丁堀会所で無残に殺されていた。なぜか、遺体のそばで眠っていた同心樋口一平。凶器はなんと樋口の刀!当然、下手人と疑われ、樋口は切腹を覚悟する。平次は、与力服部欽吾に樋口のぬれぎぬを晴らそうと捜査を申し出る。しかし、服部は冷たく言い放つ。月番の代わるあと5日の間に解決しなければ、事は公になる、平次に手は貸さない…厳しい状況のなか、平次は樋口のため、殺された進藤のため、必死に真実を追い求める。

 ゲスト 島田順司さん(稲垣右源太)、和崎俊哉さん(服部欽吾)、町田祥子さん(お葉)

 樋口様のぬれぎぬを晴らすため、「嫌な岡っ引き根性を丸出しにして…誰も信用しねぇ男になって」真犯人を追う平次。今回は、平次親分、出ずっぱり!嬉しいですね。

 厳しい状況の中(冷たい与力服部は、犯人の裏をかくためのものでした。ちゃんと平次を見守ってくれていました)で、平次は、ついお静に「うるせぇな!」なんて怒鳴ってしまいますが、ちゃんと心のなかでは、謝っていました。

 樋口様にとって、平次様様ですね、命の恩人にもなりました。

 進藤様が殺された小網町付近の橋、「あらめ」とか「あられ」とかに聞こえました。江戸切絵図を見ていたら「荒布橋」というのがありました。場所的には小網町の近くで合っています。読み方がわかりませんが、この橋でしょう。現在は高速道路が走っていますが、どこかに名前が残っているのでしょうか

* 平次の説得

 樋口様の家。切腹寸前に樋口の家を訪ねてきた平次。

平次「旦那、あっしだって、今日の日までとんでもねぇしくじりをやらかして、こいつは、十手をお返し申し上げなきゃならねぇ、腹を切らなきゃならねぇと切羽詰まっためをみたのは、一度や二度じゃござんせん。だが、そのとき、その度ごとに旦那は、何とおっしゃいました?死ぬのは易く、務めは重い、そんなことで十手持ちが勤まるかとおっしゃったのは、どこのどなたでござんす?そりゃ、今の場合、おめおめ生きているのは、お辛うござんしょう、いっそ死んだほうがましだとお思いでござんしょうが、だが、そうと承知の上で申し上げているんです。旦那、死んじゃいけねぇ。一旦の生き恥を忍んでおくんなさい。そしてその辛さ、その怒りを進藤様を殺し、旦那にそんな憂き目をみせやがった野郎にぶつけておくんなせぇ」
樋口「平次!俺はじっとこうしてなきゃならねぇんだ!動けねぇんだよ!何もできねぇんだよ!」
平次「あっしがやります。はばかりながら旦那に代わって、あっしがやらせて頂きます。ですから、旦那、この場でお捨てになろうって命をあっしに頂かせておくんなせぇ。あっしは旦那をむざむざ殺したくはねぇんですよ」

 固く手を握り合うふたり。目に涙を浮かべて見つめあう。

樋口「平次!」
平次「旦那!」


* ラストシーン

 平次の家。平次、庭で盆栽の手入れ。お静、お茶とお茶菓子をもってくる。

お静「それじゃ、その十三造っていう小網町の親分が同じ町内のお葉さんと進藤様のことをかぎつけて、で、あの稲垣っていう同心に注進したんですね」
平次「野郎は進藤様の使いだと偽って、え〜、お葉をひでぇ目に遭わせ、その弱味につけこんで、お葉の口から、おめぇ、この次は旦那はいつ来ると探って、それを能登屋に知らせて、能登屋は、その旦那の帰りを待ち伏せて、闇討ちを仕掛けようとする寸法だ」
お静「まぁ!」
平次「やぁ、あの晩も旦那、八丁堀会所からお葉のところへ回りなさった。その代わり、とうとうな…やぁ、野郎たちはな、その旦那の遺体をこっそり会所へ運び込んだ。連日の疲れで眠り込んでいる樋口の旦那の仕業だとみせかけたんだ。全てはあの稲垣が企みやがった」
お静「ひどい話」
平次「あぁ、ひでぇ話だ。俺も今度ばかりは、ほとほと…で、おめぇに怒鳴ったりもしたが、勘弁しなよ」
お静「うふふ、いいんですよ、そんなこと。でもやっと片が付いてよかったわ」
平次「どうでぃ、久しぶりの休みだ。今日はのんびりとふたりでどっか行こうか」
八五郎の声「親ぶ〜ん」
平次「あっ」
お静「うふふ…」

 玄関の戸が開く音。八五郎が入って来る。

八「親分」
平次「ほ〜ら、来た」
お静「うふふ」

 平次とお静大笑い。

八「ちょ、ちょっと何が可笑しいんですよォ」
お静「何でもないのよ、うふふ」

 八五郎、お茶菓子をつまむ。


528話 6月30日 怪盗ざんげ 葉山良二 田中えりか 灰地順
 殺されたやくざ風の男。仲間割れだろうか?死体をみた米問屋遠州屋の手代利七は驚く。たしか、店に入った盗人のひとり…しかし、番頭の加平は否定する。平次は遠州屋徳兵ヱと加平の態度が気にかかる。徳兵ヱは仏の徳兵ヱと言われるほどの人物なのだが。そして、加平が殺され、その養女おてるがかどわかされる。徳兵ヱの正体を確信した平次だが、証拠がない。おてるを救出するには、天窓から犯人に気づかれずに入るしか方法はない。それが可能な人物とは…徳兵ヱは平次に取り縄を貸してくれと申し出た。

 ゲスト 葉山良二さん(遠州屋徳兵ヱ《ましらの辰》)、田中えりかさん(おてる)、灰地順さん(加平)

 以前は盗賊ましらの辰、今は改心して遠州屋徳兵ヱ。10年前、上総屋に押し入ったとき、盗みはしても殺しはしないはずが、手下が上総屋夫婦を殺めてしまったのです。徳兵ヱは償いに娘のおてるを加平の養女として、今日まで育て、懺悔の思いで、人のために尽くしましたが、心は晴れません。ラスト、自ら、ましらの辰であることを平次に告白し、最後のましらの辰としての仕事…おてるを助け、絶命します。

 ましらの…というふたつ名はよく出てきますね。

 おてるの踊りの師匠の名は藤間流藤間初之丞。橋蔵さんも藤間流で藤間勘之丞という名前をお持ちです。さりげなく、アピール。おてるの踊りのけいこを見ている平次。嬉しそうな顔をしていました。橋蔵さんの前で踊るのも緊張するでしょうねぇ。


* ラストシーン

 踊りの師匠藤間初之丞の家。おてるがけいこをつけてもらっている。それを見ている、平次、お静、八五郎。平次、あごをしゃくる。お静がその方をみると八五郎が、踊りの手振りをしている。

初之丞「ちょっと待って」

 八五郎、はっとする。

初之丞「(おてるに)下手から、ずっとすくって、ひとつ、ふたつ…ね、さぁ、やってみよう」

 おてる、また踊り始める。

初之丞「左からすくって、ひとつ…そうそうそう、じゃ、初めからいこう」
お静「本当にいい娘さんだこと。でも、ひとりぼっちになって、寂しいでしょうね」
平次「うん、まぁ、早ぇとこ、いい婿さんを捜して、上総屋の暖簾を張らしてやらなきゃいけねぇな」
八「任せてくださいよ!あっしが、見つけますから…へい」
平次「ちぇっ」
お静「自分のお嫁さんも見つけられないくせに、何言ってんの」

 八五郎、頭をかく。

お静「うふふ」
平次「フッ」

 平次とお静、八五郎、引き続き、おてるのけいこを見ている。

529話 7月7日 死神参上 本山可久子 野村昭子 近江俊輔
 一体、この非常時をどのように切り抜けたらよいものか、平次は思案する。沼田の小さな船小屋に閉じ込められた男女八人。島抜けをした鳴神の吉兵ヱとその一味に包囲されてしまったのだ。彼らの狙いは六阿弥陀参りに来ていた越後屋母娘。全くの逆恨みだ。吉兵ヱは、思いもよらない平次の出現に驚きもせず、平次を消す機会が出来たとほざく。平次はこの危機をどう乗り越えるのか。

 ゲスト 本山可久子さん(お幸)、野村昭子さん(お寅)、近江俊輔さん(徳松)

 当時、7月7日の放送ですが、お彼岸の設定でした。

 平次親分、樋口様の命で西新井へ。旅姿です。平次ばかり、御用が多いといじける万七親分、樋口様はうまくおだてて、万七は気分をよくします。樋口様もたいへんですね。

 悪党に船小屋を包囲され、ほとんど船小屋内での場面。緊張感がありました。その中で、語られるお寅や船頭の徳松の人生、越後屋の娘おきぬと鳶の巳之助の恋が発覚したり…平次が鉄砲を撃つ場面もありました。自分のことしか考えていなかったお寅や徳松の気持ちが変わっていくところもよかったです。お寅さんの演技が光っていました。

☆六阿弥陀参り…春と秋のお彼岸の行事として、江戸庶民が行楽を兼ねて行ったもの。
        由来…足立村の長者の娘、足立姫が嫁ぎ先で、嫁いびりにあい、五人の侍
           女とともに荒川に身を投げた。それを憐れに思った僧侶が阿弥陀仏
           を彫って六つの寺に祀り、供養したという。
        一番 西福寺(豊島区)
        二番 延命寺(恵明寺?)(足立区)
        三番 無量寺(北区)
        四番 与楽寺(北区)
        五番 常楽寺(台東区→多摩市に移転?)
        六番 常光寺(台東区)
                    (HPより)


* 万七親分のいじけ

 奉行所。樋口に呼び出された、万七、清吉、八五郎。島抜けした鳴神の吉兵ヱが江戸に入ったという情報を伝える樋口。

万七「それにしても、こういう肝心なときに平次は、顔も出さないというのは、どういうこった、えっ?八」
八「へ〜ぇ」
樋口「あぁ、いや、平次はな、調べごとがあって、俺が西新井まで行かせたんだ」
万七「へ〜ぇ、(嫌味っぽく)平次には、いろいろと御用が多いんでござんすねぇ」
樋口「ハハハ、万七、人にはな、向き不向きってことがあるんだよ。な、おめぇには、こういう大きなヤマの方が向いているんじゃねぇかと思ってな」
万七「そ、そりゃ、まぁ、へへへ…そんなにおっしゃって頂くと、どうも…へへへ…清吉!(張り切って)すぐ聞き込みに行こうか!じゃ、ごめんなすって」


* ラストシーン

 沼田。船着場。悪党一味を捕らえた平次、八五郎、万七、清吉。越後屋母娘、鳶の巳之助と悪党一味と舟に乗るべく、船着場へ。

清吉「おう、さっさと歩け…さぁ、乗るんだ」

 お寅が走って来る。

お寅「親分さ〜ん!親分さ〜ん!親分さん、また来ておくんなさいよォ〜」
平次「あ〜ぁ、来るとも、達者でいなよ」
お寅「へ〜ぇ」
平次「うん」
八「じゃ、どうも」
徳松「さぁ、時刻が遅れる。ぐずぐずしねぇで、早く乗んな」
平次「おぅ」
八「へへ」

 平次と八五郎が最後に舟に乗り込む。

八「親分、姐さんが、一本つけて待ってますぜ」
平次「八、言っとくがな、今日のことは、お静にしゃべるんじゃねぇぞ」
八「どうしてです?」
平次「二度と江戸の外へ出られなくなるだろう」
八「えっ、…あっ、なるほどね、へへ、わかりました、へへ」

 舟が出る。

お寅「親分さん、さようなら〜」
八「達者でな〜」
お寅「さようなら〜(手を振る)」

 平次たち、名残惜しそうに手を振る。


530話 7月14日 風前の灯 長谷川待子 高城淳一
 にせ小判が、大量に出回った。平次と八五郎は、探索に乗り出すが、その矢先、八五郎は病に倒れてしまう。平次は大坂から船で送られてくる米の中ににせ小判がまぎれていると確信し、船人足に扮して、内情を探る。しかし、にせ小判の受取人、徳兵ヱとその一味に目潰しを受け、投げ銭もできない暗闇に突き落とされる。そして、八五郎が一味にかどわかされてしまう。平次は目の回復も待たずして、徳兵ヱ一味を捕らえるため、八五郎を助けるため、にせ小判のために一家心中した直次郎のため、自分の命もかえりみず、悪に立ち向かっていく。

 ゲスト 長谷川待子さん(お紺)、高城淳一さん(徳兵ヱ)

 やくざや船人足に扮した平次がみられました。

 見所は、不覚にも目潰しを受けてしまった平次の見えない目での立ち回りと無理をしてまで御用に出かける平次と止めようとするお静の場面です。岡っ引きの…平次の女房は辛いですね、お静じゃないとつとまりません。

 珍しく八五郎が病に倒れます。インフルエンザみたいです。3日で回復とは、ほんと八五郎の身体は、特別ですね。


* 命がけの仕事…笑って見送ってくんな

 平次の家。徳兵ヱ一味に目潰しをくらった平次。医者が帰ったあと、平次良く見えぬ目で茶碗をつかもうとするが、取り損ねる。

お静「おまえさん!無理しないで」
平次「な〜に、でぃじょうぶだ、自分の気の持ちようで、かすかに見えるんだぃ」

 翌朝。お紺の家。病に伏している八五郎とお紺のやりとり。八五郎、お紺から平次の目が見えないことを知る。

八「親分、あっしのためにすまねぇ(泣きながら)お、親分、親ぶ〜ん」

 平次の家。

平次「(八五郎の声が届いたように)八、殺しやしねぇ、きっと助けてやるぜ」

 平次、神棚から十手を取り、腰に差す。

お静「(あわてて、お勝手から出てくる)おまえさん!行かないで!」

 お静、平次を引き止める。

平次「お静、にせ金を見逃すことは、できねぇ。それに八の奴が俺のくるのを待ってるんだい」
お静「ねぇ、待って!」

 お静、必死に平次の腕を掴んで引き止める。

お静「だけど、おまえさん、行かないで!」
平次「な〜に、心配いらねぇよ。え〜、おぃ、お静、俺の目はちゃんと見えているんだよ。ほら…(お静の顔を両手ではさむ)そこにおめぇの顔があるじゃねぇか、な、ほ〜ら、今にも泣きそうにめそめそしてやがるじゃねぇか」
お静「(涙を一杯ためて)おまえさん…」
平次「亭主が命がけの仕事に行くんだ、涙は不吉だ!笑って見送ってくんな、えっ、…お静、おめぇ平次の女房じゃねぇか」

 お静、涙顔で平次を見つめる。平次、玄関へ。

お静「おまえさん、待って」

 お静、切り火をする。平次、お静に背中を向けているが、それでいいんだとうなずく。涙で見送るお静。平次出ていくが、涙をのみ、歯をくいしばって、しばし、玄関前で佇み、歩き始める。お静、玄関の戸にもたれ涙を流す。


* ラストシーン

 平次の家。平次、あじさいの手入れをしている。

八五郎の声「親ぶ〜ん」

 八五郎、庭木戸から入ってくる。

八「ハハハ〜(元気そう)」
平次「お、おぅ、おぅ、おぅ、そんなに走ったりしちゃ危ねぇじゃねえか」
八「へっ?」
お静「うふふ、子供じゃありませんよ。で、体のほうは、もうすっかり治ったんですって?」
八「ええ〜、へへへ、あっしの体は特別なんですね、三日も寝たらもうケロッですよ。お
医者さん、びっくりしてましたぜ、へへへ」
平次「そりゃよかった。そうかい…いやぁ、上方にあったにせ金造りの根城も一味の白状でもって、お手入れになったそうだよ。うん、うん」
八「あぁ」
平次「八、見な、きれいにあじさいが咲いたぜ」
八「ひゃ〜、本当ですね!親分、目のほうはもうすっかりよくなったんですか」
お静「(涙声で)ええ、もうすっかりいいのよ」
八「はぁ〜(よかった)」
平次「あぁ、よく見えるぜ、え〜、おめぇのつまらねぇ顔までな」
八「えっ?」

 八五郎、もう勘弁してくださいよと平次に背を向ける。平次とお静、大笑い。

531話 7月21日 八五郎の約束 森次晃嗣 古賀真佐代 北原将光
 信濃屋の主が殺された。疑いは信濃屋の甥で、寄せ場帰りの真次にかかる。八五郎は必死に訴える、真次は下手人じゃない!と。だが、巧妙に仕組まれた罠が、八五郎にもかけられていた。そして、逃亡のため、お佐代を人質にとる真次…それでも八五郎は真次を信じるのだが…

 ゲスト 森次晃嗣さん(真次)、古賀真佐代さん(お佐代)、北原将光さん(藤兵ヱ)

 平次の家の暖簾が夏らしく、水色の地(前は緑)に檜扇になっていました。

 八五郎が主役、人を信じることがテーマでした。でも八五郎はぎりぎりまで、真次を信じていましたが、結局利用され、裏切られたのです。どんなにか悔しかったでしょう。

 八五郎だけでなく、巧妙な企てに平次も一旦は騙されました。万七は八五郎がお佐代かどわかしの犯人かも…なんていいますが、平次はきっぱり「俺は、八五郎を信じる」と言い切りました。
 八五郎もお佐代も無事戻り、真次も信濃屋に戻って、ここで、一件落着かのような場面に私も騙されました。

 タイトルの「八五郎の約束」とは、人質となった八五郎が、真次の裏をとってくるから、解放してくれ、必ず、帰ってくるからというもの。夜までになんとか、裏をとってきますが、賭場の胴元音吉の手下にみつかり、ボコボコにされ、大怪我をしてしまいました。

 真次はまっとうに生きていれば、黙ってても信濃屋の跡取りになれたのに…残念ですね。

* 八五郎の説得

 橋場の信濃屋の寮

八「なぁ、真次、こんなことは、おいらの言う柄じゃねぇけどよォ、だけど世間でよく言うじゃねぇか、人間、一生に中で一度は自分の生き方を決めなきゃいけねぇって。おめぇにとっちゃな、今がそのときなんだよ、このときをはずしたらな、一生日陰で過ごさなきゃならねぇんだ。な、わかるだろう?真次、うちの親分だってな、きっとおめぇのこと信じてくれるって」


* ラストシーン

 平次の家。信濃屋の番頭の藤兵ヱ、近藤佐内、お佐代父子が来ている。

八「親分、すいませんでした。あっしが、至らねぇばっかりに…あんな奴に騙されちまって」
平次「いいんだよ。これが、いい教訓になって一歩ずつ立派な岡っ引きになっていくんだ」
お静「本当に私、八つあんのこと、見直しちゃった。生まれたばかりの子供みたいにきれいな心の持ち主で…」
お佐代「私、八五郎親分のこと大好きです。父上と同じように優しい」
八「おや、今日は珍しく女の子にもてるな」
平次「馬鹿野郎、そんな茶化すから、すぐ嫌われるんだい」
八「そうですね(元気がない)」
平次「おぅ、お静、一本つけてやんな」
お静「はいはい」

 八五郎、平次たちの優しさにいたたまれなくなったのだろう、立ち上がり、隣室へ行き、手ぬぐいで涙をぬぐう。

532話 7月28日 女の花火 沢田雅美 宮口二朗 外山高士
 大好きだったお兄ちゃんにそっくり…川開きの花火があがる夜、お夏は平次に一目ぼれ。何とか会う機会を作ろうとそのことで頭の中は一杯。一方、平次は逃亡中の鮫吉を追っていた。鮫吉が、お夏の勤める茶屋の女将、おたかと馴染みだったことが、お夏の運命を変えたのかもしれない。平次親分の役に立ちたい!お夏はおたかの乗った駕籠の後をつけていくが…。

 ゲスト 沢田雅美さん(お夏)、宮口二朗さん(鮫吉)、外山高士さん(備前屋)

 男前で、強くって、優しくて…亡き兄にそっくりとお夏は平次に一目ぼれ。お夏の純粋さゆえにいろいろ騒動が起きます。

 万七はいらぬおせっかいをして、お静を不安にさせて、やきもちを妬かせたり、平次に会いたいからと盗みをしてくるお夏に平次は手をやくし(八百屋お七みたい)。

 ラストは意外でした。お夏は幼いころ、大火に遭い、兄が命をかけて、抱いてくれて助かりました。最後は、逆に兄に似た大好きな平次に抱かれて旅立ちました。悲しいけれど幸せでした。平次が手当てをしてくれた、お夏の右足の指に巻かれた包帯が印象的でした。

 お夏の平次に対する妙な態度に万七は「(平次に)あんた、あの娘(こ)のなんなのさ」ですって!平次はびっくり顔。なつかしい台詞ですね、ダウンタウンブギウギバンドの♪港のヨーコ、ヨコハマ、ヨコスカ〜♪に出てきます。1975年の曲だったでしょうか、放送は1976年ですから、まだまだ、流行っていたんでしょうね。

 万七親分のおかみさん、亡くなったとばかり思っていましたが、逃げたんですかぁ。

 平次は、定斎屋(薬屋)に扮して菊乃家に潜入しました。


* 平次が浮気?

 平次の家。万七が濡れ縁に腰掛けている。お静、平次の浴衣をたたんでいる。

お静「暑くなりましたねぇ」
万七「ああ」
お静「今日は何か?」
万七「へへへ、いや、ちょいと通りかかったんで…へへへ」
お静「麦茶、もう一杯持ってきましょうか」
万七「いやぁ、いいんだ、いいんだ、いや、それより実はな、お静さん、おめぇさんに亭主のことで、ちょいと話があるんだ」
お静「うちの人のことで?何でしょう」
万七「そう開き直られちゃ、困るんだが。ん、まぁ、本来なら、こういうことはね、男同士、ね、見て見ぬふりをして、黙ってやるのが、仁義なんだろうが、でも何も知らねぇで、一生懸命ご亭主に尽くしているあんたが、あんまり気の毒でねぇ」
お静「一体何の話なんです?」
万七「そいじゃ、本当に何も知らねぇのかい。ひでぇもんだな。今、十手仲間で噂をしねぇものは、ひとりもいねぇっていうのになぁ。八も八じゃねぇか、忠義面しやがって、なんでお静さんの耳に入れてやらねぇんだろうなぁ」

 お静、万七のところに駆け寄る。

お静「どういうことなんでしょう?うちの人が何かしてるんですか?」
万七「そりゃまぁ男だからね、浮気をするなとは、言わないよ。でも相手が悪すぎるよ」
お静「浮気?…」
万七「あ〜ぁ、仮にもおめぇ、明神下の親分とか、銭形とか言われている男じゃないか、えっ、それが、よりによって、龍眼寺界隈の岡場所の女をひっかけることはねぇと思うなぁ」
お静「うちの人が、どっかの岡場所の女と?うふふ、まさか」
万七「お静さん、そのまさかが、いけねぇんだよ。な、そりゃ誰だってね、自分の連れ合いのことは、疑いたくねぇ。俺だってね、俺だって、自分の女房が逃げ出す日まで、まさか、まさか(涙ぐむ)うちの奴に限ってとそう思ってたんだよォ」

 お静、不安になったか、万七に背を向けて座り、ぼんやりする。

お夏の声「ごめんくださ〜い」
お静「(玄関へ行く)はい」
お夏「あの…親分さんは?」
お静「留守ですけど、どなた?」
お夏「龍眼寺門前町のお夏…」
お静「(少しきつい口調で)どんな御用でしょうか」
お夏「あたいさぁ、親分さんに締めてもらおうと思って、こんなもん買ってきたのよ。博多の献上でね、きっとあの人に似合うと思うけど渡してくださいな」
お静「こんなもの、頂くわけには参りません!」

 お静、帯をたたきつけるように返す。

お夏「あんたにあげんじゃないのよ。親分さんに」
お静「うちの人の帯なら、私が買いますよ!」
お夏「うちの人?…そ、そいじゃ、あんた…」
お静「平次の女房です!」

 お夏の驚いた顔。

お夏「す、すいません…さようなら」

 お夏、あわてて、出て行く。万七、お静とお夏のやりとりを一部始終見ていて、こっそり庭から出て行く。

 その夜。平次の家。平次、帰宅するも、明かりがついていない。

平次「おぅ、今帰ぇったぜ。まてよ、どこ、行きやがった…おい、お静!」

 平次、行灯をつける。お静、部屋の隅ですねているように座っている。

平次「何だ、お静、いたのかい。明かりもつけねぇで、どうしたんだ、え?おぅ、おめぇ、塩梅でも悪いのか?おぃ、お静(肩をたたく)」
お静「触らないでくださいよ!汚らわしい」
平次「あん?」
お静「大方、龍眼寺門前町の岡場所にでも行ってきたんでしょ」
平次「おや、よく知ってんじゃねぇか、誰から聞いたんだい?」
お静「(目に涙を一杯ためて)やっぱり…やっぱり本当だったんですね、ひどいわ!(泣き崩れる)」
平次「一体何がどうなってんだい!いい加減にしてもれぇてぇな」


* ラストシーン

 川べり。精霊流し。平次とお静、お夏の灯籠を手にしている。

平次「何の嘘もねぇ、生まれたまんまの子供みてぇに心のきれいな女だった」
お静「やきもち妬いて、邪険にしてごめんなさいね」

 お静、そっと灯籠を流すが、石にぶつかって止まってしまう。

お静「よっぽど、おまえさんのそばにいたいとみえて、動きませんね」
平次「成仏するんだぜ」

 平次、灯籠をそっと押し流す。流れていく灯籠を見つめる平次とお静。お夏の灯籠がほかの灯籠といっしょに流れていく。


533話 8月4日 ぶっつけ仁義 寺田農 市地洋子 沢田勝美
 ふとしたことで、秀次郎に出会った政吉。やくざの世界に憧れている政吉は、秀次郎のかっこよさに一目ぼれ。何が何でも、子分にしてもらおうとつきまとう。しかし、秀次郎は思う。愛する女ひとり救えなくてどこが、かっこいいのだ。義理にしばられ、利用されただけだ。こんな汚い世界に政吉をいれては、いけない!秀次郎は決心する…。

 ゲスト 寺田農さん(秀次郎)、市地洋子さん(おあき)、沢田勝美さん(政吉)

 いくら育ててもらった恩があるとはいえ、愛する女も失い、大西屋のいいなりにならなければならなかった秀次郎。政吉に二の舞をさせまいと大西屋へ向かいますが、待っていたのは、死…あまりにも悲しいですね。


* ラストシーン

 向島、大西屋の寮付近。大西屋の手下に刺された秀次郎にすがる政吉。

平次「政吉!秀次郎はな、おあきの姉、おのぶと惚れあっていた男なんだ。おあきの惚れてるおめぇに自分の二の舞を踏ませたくなかったに違ぇねぇ。義理に縛られ、惚れた女を死なしちまうような二の舞をな。だからこそ、身をもっておめぇに教えようとしたんだ。おめぇが憧れているやくざの世界がどんなに薄汚ねぇものかを。その秀次郎の気持ちを。政吉!無にしちゃいけねぇよ」

 普請場。 大工仕事に精を出している政吉。同僚がおあきが来たと知らせる。

おあき「政吉さ〜ん、お弁当!」

 政吉、照れながら足場を降り、嬉しそうにおあきから弁当を受け取る。その様子を平次、お静、八五郎がほほえましく見ている。安心したように平次たちが去っていく。


534話 8月11日 男の涙 有吉ひとみ 佐々木勝彦 横光勝彦
 「に組」の火消し、小頭の孝助は、今夜も夜回りをしている。またもや半鐘がけたたましく鳴り響く。そして相次ぐ窃盗事件。誰が何のために孝助に火盗の罪を着せるのか。そんな折、偶然、孝助は幼馴染のおしんに出会う。二人の心をよぎるものは…そして、孝助に冷たい視線を向ける奴がいた。

 ゲスト 有吉ひとみさん(おしん)、佐々木勝彦さん(孝助)、横光勝彦さん(小市)

 平次の浴衣、冬場に着る半纏と同じ「斧 琴 菊(よき こと きく)」の模様でした。三代目尾上菊五郎が考案したものということは、もうご存知ですね。

 ひょうたんでの、おせん、おつると平次、万七のやりとりが、傑作でした。おせんたちは、平次がくると、すぐ注文を聞かず、平次の憩いの場所にしてくれればいいと言います。
 平次は「商売にならねぇ客ですまねぇな」(ちょっと皮肉?)と。でもフォローは忘れません。「おまえさんたちは、にぎやかだから、息抜きになるよ」って。

 そこへ万七と清吉が入ってきたら、おつるの「こちらすぐに召し上がる方」には、笑ってしまいました。万七が「何だ、そのすぐ召し上がる方ってぇのは?」ときくと、おせん曰く「息抜きするほど仕事もしていないし、稼がしてもらわないと割があわない」これには、万七も激怒「ろくなおかずも出さないくせに!!」万七は、はなから、機嫌が悪かったこともありますが。

 纏持ちは、「若くて、背が高くて、美男子」が条件なんです。江戸っ子の条件を兼ね備えた江戸の三男「与力 相撲に 火消しの頭」といわれたそうで、消火作業のよしあしだけでなく、容姿、性格も問われてたいへんだったのですね。

☆江戸っ子の七つの条件  @江戸に三代住んでいること
             A江戸の水(上水道)で産湯をつかったこと
             B正義感が強く、義理人情に厚いこと
             C粋であること
             D宵越しの銭はもたぬ(金使いは荒いが、物事にくよくよしな
              い)こと
             E朝湯が好きで気風がよく、喧嘩早いこと
             F勇み肌で、べらんめぇ口調であること

                    (遊子館 江戸っ子のイキ・イナセ より)


* ラストシーン

 平次の家。「に組」の文造と孝助が来ている。

文造「そのおしんという女は、孝助がうちのお京と一緒になると思い込んで、やけになったというんだな」
平次「まっ、そういう訳だ」
文造「話はわかりました。それで、おしんはどうなるんです?」
平次「訴えようにも脅されてできなかったということで、無罪放免に…」
孝助「親分さん、ありがとうございました」
文造「で、おまえは?」
孝助「へぃ、一緒になってせめて今までの償いをしてやろうと思ってます」
平次「頭、あっしからも頼むよ。孝助は、出世がしてぇばっかりに、おしんさんのことは、ついうっかり忘れていたと正直に言ってくれた。そのためにおしんは、悪につけこまれた。だから一生かかって、おしんさんの傷を治してよりてぇと…なぁ、男ならこの気持ちは、わかるだろう?」
文造「親分、わかるもわからねぇもあるもんか、孝助!よく言った、小頭のままで、に組みのために小市やお京の力になってやってくれるかい?」
孝助「へぇ、生意気を言うようですが、纏は火事場だけで振るもんじゃねぇ。心の中で振るもんだと」
平次「そのとおりだぃ。可哀想なひとりの女のために尽くしてやる、それもまた、りっぱな纏持ちの心意気ってもんだ」

 孝助、半纏をぬいで、畳む。

孝助「で、おしんは、今…」
平次「ん、それが、わからねぇんだよ」
お静「あの店にもお父つあんの長屋にも帰ってないらしいんですよ」
平次「恐らく、自分で恥じて、おめぇのまえから、身を隠すつもりかもしれねぇ」

 木やりが聞こえてくる。

孝助「きっと、あそこだ!」

 池のほとり。松の木の下でおしんが佇んでいる。孝助が近づいてくる。

おしん「孝ちゃん…」
孝助「どこへ行くつもりだったんだ?」
おしん「…私は、こんな汚れた女です…」
孝助「何も言うんじゃねぇ!おめぇには、もうどこへも行くところはねぇんだ。俺のそばだけだ、俺とふたりで…それしかねぇんだよ」
おしん「孝ちゃん…」

 おしん、孝助の胸に抱かれて泣く。

 平次の家。八五郎が入ってくる。

八「親分、おしんがどうしても見つかんねぇんですよ」
平次「いや、いいんだよ」
八「えっ?」

 お静、お銚子を運んでくる。

お静「あのふたりのためのささやかなお祝いなのよ。さぁ、おまえさん(平次に酌)」
平次「おぅ」
八「あのふたりといいますと?」
平次「まぁ、いいから、おめぇも盃をもちな」
八「へぇ?そうですか、へぃ」
お静「はい、八つあん(八五郎に酌)…おめでとう〜」
平次「おめでとう」
八「(わけがわからず)…へへ」

 孝助とおしんが並んで橋を渡っている。


535話 8月18日 俺の十手は俺の手で 吉田日出子 天津敏 北条清嗣
 駆け出しの岡っ引き直次は、一本気で、怖いもの知らず。うさんくさい岡っ引き閻魔の伝蔵の縄張りうちですら、見回りに赴く。そこで発生した殺人事件。下手人を追う直次は、罠にはまって十手返上の憂き目を見る。「俺の十手は俺の手で取り返す!」直次は、この手で必ず、下手人を捕らえると固く決心するのだった。

 ゲスト 吉田日出子さん(お豊)、天津敏さん(閻魔の伝蔵)、北条清嗣さん(直次)

 直次の若い一本気な心に惑わされたのか、八五郎も同意して、万七親分まで、お豊を救おうと御法破りの囲い地破りを実行してしまいます。結果、十手持ちが十手持ちに捕まってしまって。まぁ、悪岡っ引きの伝蔵が、もともと仕組んだものだったから、よかったけれど。万七親分たちの心意気は、素晴らしかったのに勇み足となりました。

 岡場所の女、お豊。伊勢屋殺しの目撃者です。もしかして、直次を騙していて、伝蔵の弱味を握って何かを企んでいるのかもと思いましたが、考えすぎだったみたい。いいもんでよかった…


* おいらの十手は…

 番屋の前。肩を落として番屋から出てくる直次。平次と八五郎も続いて出てくる。

平次「直次、気を落とすんじゃねぇ。おめぇが包み金をもらうような奴でねぇってことは、俺たちが一番よく知ってるんだ」
八「うん、連中をひとりずつ調べてよォ、おまえの無実を晴らしてやるから。心配すんなよ」
直次「あの連中は、下手人の一味に違ぇがねぇんだ。こうなったら、必ず見つけ出して、おいらの十手はおいらの手で取り返してみせらぁ」
平次「その意気だ!見所があるぜ、直次、へへ、おぃ、八」
八「へぇ」
平次「おめぇもこの根性を見習わなくっちゃいけねぇな」
八「へ〜ぇ」


* 八五郎の勇み足

 平次の家。

平次「囲い地破りだと?!」
八「へぇ、訳を話しましたら、万七親分もすっかり乗ってくれましてねぇ(得意げに)」
平次「何!三輪までが!」
八「ええ、悪党を退治するようなことなら、ご法度を破ってもお奉行所も大目にみてくれるだろうなんて、言っちゃいましてね、へへへ」
平次「バカヤロー!」
八「えっ」
平次「すぐ行って止めさせて来い!」
八「へっ、あの〜、やっぱりいけませんかぁ?」
平次「あたりめぇだ!もうそういう必要はなくなっちまったんだ」
八「えっ」
平次「お豊には、明日会えるんだ。すぐ止めて来い!」
八「へ、へい、(あわてて、出て行く)」

 万七、清吉、直次