回数 放送日 サブタイトル ゲスト出演者
604話 昭和53年1月4日 五年目の真実(まこと) 十朱幸代 目黒祐樹 陶隆司 八名信夫

 おぶんと養父の加平は、スリ稼業から足を洗い、まっとうに暮らしている。しかし、町で偶然見かけた、元亭主の梅吉(加平の実の息子)に心が、乱れる。梅吉もスリで所ばらいになった身だが、今は真面目に廻船問屋上総屋の船頭として、働いている。が、上総屋の悪だくみに利用され、殺されてしまう。おぶんは、梅吉のため、上総屋の悪事を暴こうとスリの腕を再び使うことを決心する。

 ゲスト 十朱幸代さん(おぶん)、目黒祐樹さん(梅吉)、陶隆司さん(加平)、八名信夫さん(由造)

 季節はお正月。初詣から始まります(放送日 1978年1月4日)。 冒頭、八五郎の嫁の心配をする平次たちに始まり、ラストも八五郎の嫁の心配で終わりました。

 今回の万七と清吉。お正月から、由造を捕まえ、お手柄だったものの、ぼこぼこにされちゃって。 万七は十手を掏られるは、おなおやおゆみにからかわれ、羽子板で頭を叩かれるは、さんざん。

牢内の由造から手がかりを聞き出そうと八五郎はやくざに扮して、牢内に。むしりの髷に顔に大きな傷跡。 だみ声のおねぇ言葉で由造にせまります。可笑しかったけど、八にしては、上出来!

 おぶんが、由造の髷に隠された抜け荷の割符を掏ろうと後をつけ、機会をうかがいます。平次も承知ですが、掏るまでの緊張感が、よかったですね、このエピソードのクライマックス。

 ラストの立ち回り、平次はもちろんですが、樋口様、万七、八五郎、清吉と皆、いつも以上に張り切っていたみたい。お正月サービスですね。


* 初詣

 神社。 平次一家、参拝。

八「姐さん、長いこと拝んでいましたが、何、お願いしたんですか」
お静「今年も一年、無事に暮らせますようにって」
八「へへへ、それだけじゃないでしょ(お腹を大きくする仕草をする)」
お静「もうひとつあるわ。今年こそ、八つあんに、いいお嫁さんが、見つかりますようにって」
八「いやぁ〜へへ」
お静「うふふ」
平次「いや、俺もな、同じことをお願いしたんだ」
お静「おまえさんも!」
平次「おぅ、そうよ、できの悪いのが、そばにいるとお互い苦労するよな、アハハ」
八「それはないでしょ」


* ラストシーン

 つるや。 万七と清吉が、食事をしている。 そこへ晴れ着を着た、おなおとおゆみが入ってくる。

おなお・おゆみ「万七親分、おめでとうございます」
清吉「おめでとう」
万七「おらぁ、めでてかめぇんだよ!!」
清吉「どうしたんですよォ」
万七「なんで、おらぁ、ついてねぇんだろうな。だが、確かに平次がいなきゃ、上総屋は捕まらなかったけどよ」
清吉「うん」
万七「そもそもは、俺とおめぇが、たんこぶを作ってまでも由造を召しとったのは、俺達だよ。それが、どうして平次ばっかりが、手柄をたてるんだろうなぁ」
清吉「その悔しい気持は、よくわかりますよねぇ。親分は、ど〜してもどっか、足りねぇんだよなぁ(ほほ杖ついて、考える)」
万七「何が足りねぇんだよ」

 おなおとおゆみ、何やら、耳うち。

おゆみ「運が足りないのよ」
万七「なるほど……運か」
おなお「押しも足りないのよ」
万七「ここひと押しって、ところが、おらぁ、どうも我ながら、このォ足りねぇなぁ」
清吉「うんうん」
万七「ほかに、まだあるのかな」
壮吉「へへへ、もうひとつ、あるんじゃねぇんですかい」
万七「どこだよ」

 おなおとおゆみ、持っていた羽子板で、ふたり同時に万七の頭を叩く。

万七「(ご飯を口いっぱいに入れたまま)あ〜、そうかぁ」


* ラストシーン

 神社。 平次一家、参道を歩いている。

八「ねぇ、三輪の親分は、ちょいとここ(頭を指さして)が、足りませんからね、でもね、親分、ひとは、いいんですよ……」
平次「ハハハ」

 平次、お静、誰かに気づく。

お静「おぶんさんが、いる」

 おぶん、加平と参拝している。

お静「十手の件は、お咎めなしってことになったんですってね。よかったわね……おぶんさん、亡くなった人のこと、忘れられるかしら」
平次「まっ、時はかかるだろうが、あの人のことだ、心配ねぇ。そのうち、父つあんが、仲人を頼みにくるぜ。賭けてもいい」
お静「それなら、いいけど」

 おぶん、加平を労わりながら、参道を歩いて行く。

平次「おぅ、八」
八「へぇ」
平次「おめぇも早く、ああいう人を見つけてくれりゃ、こっちも気を揉まねぇで済むんだがな。(お静を見て)なぁ」
八「親分、勘弁してくださいよ。あたしも板前になろうかな、そうすれば、ああいう……痛っ(ぼんやりして、鉄柱に口をぶつける)」
平次「ハハハ、(バカだなぁ、八は)」

605話 1月11日 勤続三十年 金井大 長内美那子 成瀬昌彦
 書役同心、佃市兵ヱ。この道三十年のベテランだが、とにかく頑固で、些細なこともきちんとしないと気が済まない。さすがの平次も苦手なのだ。そんな折、若い娘が、大川に浮かぶ。乱暴されたあげくの自殺だった。 平次は、下手人が、板倉屋の息子、清太郎と確信する。が、板倉屋は、佃の弱みを握っていて、清太郎を逃がす手助けをしろと脅迫する。「あの佃様と板倉屋に何の関係が?」平次は、佃の妻、お篠が、長崎出身とわかるとある疑惑が湧いてくるのだった。

 ゲスト  金井大さん(佃市兵ヱ)、長内美那子さん(お篠)、成瀬昌彦さん(板倉屋)

 自分が掏られた財布が、目の前にあってもちゃんと書類を書き、お奉行所へ届けるという、融通のきかない書役同心、佃市兵ヱ。さすがの平次もちょっと頭に来ていました。

 偏屈な同心と思っていた平次ですが、佃夫婦を見て、佃の隠れたいいところがわかったようです。将来は、あのような枯れた夫婦になりたいと思うのです。お静は、喧嘩ばかりしている夫婦になるかもと半ば冗談に言いますが、きっといつまで経っても、お熱い夫婦でしょうね。


* 夫婦の見本

 平次の家。  佃の家から戻った平次。 お静はお茶を淹れ、平次は煙草。

平次「まぁ、人間なんてもんは、上辺だけじゃわからねぇもんだ。つくづくそう思うよ」
お静「そ〜う、いいご夫婦ね」
平次「まぁ、何というか、こうふたりで年を積み重ねてきた味とでもいうのかな。まっ、俺たちもあと二十年もしたら、あんな枯れた夫婦になれるかな」
お静「(お茶を飲んで)さぁ、どうかしら。案外、喧嘩ばかりしているかもしれませんよ、ふふふ。……あらっ、今日のお手当ては?」
平次「えっ、いや、それがだな、その、おめぇ」(つるやのつけとして、払ってしまった)
お静「おまえさん」
平次「おいおい、よせよ、おめぇ、さっそく喧嘩はねぇだろうが……いや、もっとお互いに枯れなくっちゃいけねぇな」
お静「ん〜、もう、おまえさんたら、もう、そうやって、すぐごまかして……嫌い(平次によりかかって)ふふふ」
平次「へへへ」


* ラストシーン

 つるや。  万七と清吉が、入ってくる。

清吉「へへへ」
万七「あのうるさ方の偏屈じいさん、お奉行所を辞めたそうじゃないか」
清吉「え〜え、ほっとしましたよ。いちいち、ガミガミ言われることもねぇし」
万七「まったくだぁ、おぅ、うどん、作ってくれ」

 おなおとおゆみ、万七たちに背を向ける。

清吉「あれ、どうしたの?」
おなお「佃様は、決してそんな人じゃないわよ」
おゆみ「人間味のある、とってもいい方だって、平次親分が、おっしゃっていたわ」
清吉「(あきれ顔)はぁ〜?」
万七「え〜」

 往来。  遺骨を抱いて、旅姿の佃市兵ヱ。 平次と八五郎が、見送りに来ている。

平次「はぁ、九州へ行って、お百姓をなさるとか」
佃「家内のふるさとですからね、ああ、これも(骨壺をみて)ふるさとへ、帰りたかろうし、長崎か、島原か、きれいな海の見える丘にでも葬ってやりますよ……では」
平次「道中、お気をつけて。どうか、お体を大切に」

 お互いに頭を下げる。 晴れ晴れした表情で旅立っていく佃。 見送る平次と八五郎。 踵を返す平次のアップ。


606話 1月18日 紀州の子守唄 岡崎友紀 倉野章子 伴直弥 大竹修造
 子守女をしながら、ふるさと紀州の子守唄を唄う、おしま。幼い頃別れた姉を捜すためだ。この子守唄を唄っていれば、きっと姉さんが、気づいてくれる……しかし、おしまは、窮地に立たされる。ちょっとした隙に預かった赤ん坊が、盗まれてしまったのだ。疑いの目は、おしまに集まる。 平次は、その赤ん坊の父親、山形屋の若旦那与吉の行動に不審を抱く。

 ゲスト  岡崎友紀さん(おしま)、倉野章子さん(おさと)、伴直弥さん(安松)、大竹修造さん(与吉)

 紀州の子守唄、いい唄ですね。でもかなりの歌唱力が、いるような。

♪ ねんねしゃっしゃりませよ 今日は二十五日
  明日はこの子の宮参りよ
  宮に参ったらよ なんというて拝むよ
  この子一代 まめにおくよ

  ねんねころいちゃ 天満の市やよ
  大根たばねて 舟に積むよ
  舟に積んだら どこまで行こによ
  いずや難波の橋の下よ

 冒頭、久々に平次と万七が、番屋で将棋。 束の間のくつろぎタイム。平次が、優勢でした。事件が飛び込んできて、結果はお預けでしたが、まず、平次の勝ちでしょう。

 「つるや」で八五郎が、山ほど料理を注文するので、平次が「バカの大食いだ」と言うと八五郎「親分ったら、すぐあっしを褒める〜」と勘違い(?)。その言葉に平次が、ガクッ!とずっこけて(肘を飯台からすべらせる)、平次親分もこんなリアクションをするんですねぇ、お宝シーンです。


* 束の間のくつろぎ

 番屋。 平次と万七が将棋

平次「王手だ!」
万七「逃げるなんてことは、ござんせんよ」
平次「三輪の、これで三手詰みだ」
万七「三、三手だと?」
八「へへへ、十手持ちが、三手先も読めねぇなんて、もうおしまいですね」
万七「しゃれ、言うんじゃねぇよ。まだ逃げられるじゃねぇか〜っと」
平次「それじゃ、また王手だ」

 茶店の女が飛び込んでくる。


* 平次、ガクッ!

 つるや。  平次と八五郎、聞き込みの結果を話している。

八「親分(箸立てから、箸を取って)走り回ると腹が減るもんですね」
平次「おっ、いけねぇ、うっかりしていた。あぁ、いいから、おめぇの好きなもん、注文しな」
八「あっそうすっか、え〜(品書きを見ながら)じゃ、何を食おうかなぁ」
おなお「天ぷらに焼魚なんか、どう?」
八「いいねぇ、いただきましょう」
おゆみ「煮豆にきんぴらは?」
八「いいねぇ、いただきましょう」
おなお「湯豆腐に芋の煮っころがしもあるわよ」
八「うまそうだね、いただきましょう」
壮吉「(調理場から出てきて)鮒の甘露煮に、それにおでんもうまいっすよ」
八「結構だね、いただきましょう、へへへ」
平次「おうおう、いかげんにしねぇかい」
八「ちょっと食いすぎですか?」
平次「バカの大食いってんだよ」
八「また親分、すぐほめる、あっしを〜」

 平次、お茶を飲もうとして、八五郎の言葉にガクッ(肘を飯台からすべらせる)とずっこける。 つるやの連中、大笑い。


* ラストシーン

 神社の境内。  おしま、しゃがんで、鳩にえさをやっている。そこへ平次と赤ん坊を抱いたおさとが来る。不思議そうに二人を見るおしま。

おさと「おしま……」
おしま「(驚いて、えさ袋を落とす)ねぇちゃん(おさとのところへ駆け寄る)」

 見つめあう二人。

おさと「ごめんね、おしま」

 涙をためて、首を振るおしま。

平次「さぁ、おしまにこの赤ん坊を渡してやんな」
おしま「えっ?」
平次「おしま、今日から、おめぇがこの赤ん坊の母親代わりだ。おめぇが、子守をしてきたこの赤ん坊は、誰の子でもねぇ、姉さんの子だ」

 驚くおしま。

平次「姉さんは、自分の子を取り返しただけだ。さぁ、預かってやんな」
おしま「ねぇちゃん」
おさと「お願いね、おしま(目に涙を浮かべながら、おしまに赤ん坊を渡す)……親分さん、ありがとうございました」

 頷く平次。

平次「姉さんが、戻るのもそう遠い日じゃねぇ。しっかり子守をするんだぜ」

 力強く頷くおしま。 遠くを見つめる平次。


607話 1月25日 岡っ引きの女房 寺田農 結城しのぶ 戸部夕子
 盗賊に父を殺され、岡っ引きになった音吉。しかし、その情け容赦ないやり方に、ほかの岡っ引きからも世間からも冷たい視線を浴びる。 そんなとき、音吉の女房、おとよが、かどわかされ、殺される。 下手人は、音吉に獄門台に送られた鬼夜叉の頭目の女、おふさ。逆恨みだ。 音吉は、おとよの仇とばかり、十手をドスに持ちかえ、おふさのもとへと急ぐのだった。

 ゲスト  寺田農さん(音吉)、結城しのぶさん(おとよ)、戸部夕子さん(おふさ《おふみ》)

 平次は、お静とおとよの墓参り。 平次は「穏やかな死顔だった。まるで、覚悟の自殺でもしたみてぇに」とぽつり。 かどわかされたのだから、自殺ではないと、思いつつ、どこかで、ひっかかっていたんでしょう。 平次の言った通りだったのです。

 ラスト、平次が、音吉におとよの哀れさ、苦しみを延々と述べ、音吉の情けのなさが、招いた自殺だったと叱ります。この長台詞も平次の手にかかるとあっという間ですね。
 音吉が、平次親分のような、情けのある、立派な親分になってくれることを願います。


* ラストシーン

 夜更けの裏道。  おふさにドスを振り上げた音吉に投げ銭。 平次と八五郎が来る。

音吉「銭形の親分、邪魔しねぇでくれ! この女は、おとよを殺した仇なんだ! この女がおとよを……」

 八五郎、音吉からドスを取り上げようと必死。

平次「おとよさんを殺したのは、誰でもねぇ、音吉、おめぇだ!」
音吉「何ですって!」

 八五郎、おふさを連行していく。

平次「あの女の言うとおり、おとよさんは、自分で自分の喉を突いたに違ぇねぇ。そうさせたのは、おめぇだ! 亭主のおめぇなんだ!」
音吉「どうして……どうして、あっしが!」
平次「おめぇは、どんな些細な悪事も、決して見逃さねぇ。そうなったわけも下手人から、何ひとつ聞いてやらねぇ。そういうおめぇだから、おめぇが、おとよさんを殺したんだ。音吉、おとよさんはな、昔、盗みを働いていたことがあるんだ」
音吉「えっ!!」
平次「木更津にいたころのことだ。博打狂いの父親に無理強いされてな、旅籠の客の金を盗んだんだ。おめぇが、鳶のままなら、いつかそのことを白状していたろう。だが、おめぇは岡っ引きになった。その日から、おとよさんの苦しみは、はじまったんだ。その隠し事のために、おとよさんは、そいつを知ってるならず者に金を払った……。おふさの目の前で、縄目を解かれたとき、おとよさんは、きっと逃げりゃ、逃げられただろう。だがな、音吉、おとよさんは、もう逃げ場は、どこにもなかったんだ。憎いかどわかしの連中をおめぇの手で、挙げてもれぇてぇのは、やまやまだったろうが、そんときゃ、おとよさんの罪もばれるときだ。昔の隠し事を知ってるならず者が、かどわかしの連中と顔見知りだったからだ。女房が、盗っ人だと知ったら、おめぇが、どんなに苦しむか、おとよさんには、それがたまらなかった。だから何も言わず、死んでいったんだ。薬研堀の音吉の女房としてな」
音吉「(泣き崩れて)あ〜あ、おとよ……」
平次「(音吉の肩をたたき)じゃ、行こうか」

 平次、腰から、十手を抜き、音吉に渡す。

平次「こいつを忘れちゃいけねぇよ。死んだおとよさんの気持ちを生かすたったひとつの道は、おめぇがりっぱな十手持ちになることじゃねぇのか」

 平次の顔を見る音吉。 頷く平次。 音吉、十手を腰に差す。 ふたり、連れだって歩き出す。ふと、歩みを止める音吉。 振り向いて音吉を見る平次のアップ。


608話 2月1日 九両盗っ人 柴田p彦 新海百合子 石山律雄
 伊勢屋に押し込みが入り、九両が盗まれる。十両盗めば、首が飛ぶことを考えてのことだろう。平次は、五年前の同様の事件を思い出す。そのとき、自首してきたのは、鳶の繁次。今度も繁次の仕業だろうか。繁次の不可解な行動が、疑いを深めていく。しかし、繁次は、頑なに口を閉ざす。平次は、誰かを庇ってのことだと確信する。その陰で、繁次の親方の娘、お涼の命が、消えようとしていた。

 ゲスト  柴田光(人偏がつきます)彦さん(繁次)、新海百合子さん(お涼)、石山律雄さん(佐吉)

 平次が、八五郎が、尾行に失敗したことも、それで、平次の家に入れず、戸口にいたこともお見通しなので、八五郎は、平次の勘の良さに敬服。八五郎の勘の良さは、食べ物だけのようです。

 ラスト、平次は、お静の膝枕で、耳掃除をしてもらっています。八五郎は、その様子をうらめしそうに見ながら、あんころもちを食べていました。寂しい……


* ラストシーン

 牢。

八「(牢の鍵を開け)おい、出なよ」

 出ようとしない繁次。

平次「佐吉を捕めぇたぜ」
繁次「えっ、佐吉を!(思わず、立ち上がる)」
平次「伊勢屋の旦那が、命を取り留めたと知って、殺しに行ったんだ。そして、みんな吐いちまったぜ。佐吉は、金に困って五年前の九両盗っ人のことを思い出した。そしてまた、あの手を使やぁ、俺達の目が、おめぇに向くと読んだ。繁次、おめぇは、お涼さんが、親方のお嬢さんだと思って、一生懸命、尽くしたんだろうが、それが佐吉にとって、目ざわりで、ならなかったんだ。おめぇの優しい気持はわかるが、それが佐吉には、まともに伝わらなかったんだ。そして、ひがんで、図に乗りやがったんだ」
繁次「親分、あっしは、あっしは、ただ……」
平次「いいんだよ、繁次、おめぇの優しさは、大切だ。これからは、もう昔のことは忘れて、一生懸命、生きるんだ。おめぇは、もう十分、親方には、尽くしたんだぜ、いいな」
繁次「へい」


 平次の家。  平次、お静の膝枕で、耳掃除をしてもらっている。

平次「罪を憎んで、人を憎むなと言うが、今度ばかりは、心から佐吉を憎いと思ったぜ」
お静「本当ね、繁次さんの優しい心を弄ぶなんて、人の皮を被った鬼ですよ」
平次「はぁ〜」

 八五郎、襖の陰から、顔を出す。

八「(そっとお静のところに近づき、大声で)ご両人!」
お静「はっ! あん、もう八つあんたら、茶化さないでよ」
八「へへへ、あの、親分、姐さん、あの繁次はね、あれから、すっかり立ち直って、一生懸命、働いてまさぁ」
お静「あ〜そう、よかったわね、おまえさん」
平次「あぁ、本当によかったなぁ」
八「よかったと言えば、こないだのあんころ餅もよかったな。あれは、確か、そこの戸棚に残っていたはずなんだけどな〜」
平次「こいつぅ、こんなときに勘がいいや」
八「いや、どうも〜へへへ」
お静「八つあん、私ね、今、ちょっと忙しいのよねぇ〜。自分でとって、食べてくれる?」
八「あ、忙しい? ……でしょうねぇ〜」

 八五郎、戸棚から、あんころ餅ののった皿をとりだし、平次たちをうらめしそうに見ながら、ひとつ、口に入れる。

お静「おまえさん、このへん?」
平次「う〜ん、……あ痛っ!」
お静「あっ、ごめんなさい、おまえさん」
平次「ん〜(お静を見上げて)痛ぇじゃねぇかぁ」


609話 2月8日 幽霊から来た結文 垂水悟郎 遠藤真理子 山本清
 唐物問屋井筒屋の娘と手代の心中死体が、あがった。そして、平次の家に「私たちは、殺された」という結文が、投げ込まれる。結文の真偽を確かめるため、平次は動き出す。井筒屋の跡目に番頭の圭助が、決まりかけていたが、勘当されていた先代の弟、徳次郎が、急に名乗りをあげてきた。殺しの疑いがかかるのを、承知のうえで、跡目に名乗りをあげるとは、深いわけがあるに違いない。 そんなとき、井筒屋の娘の幽霊を見たという、お新が、殺される。

 ゲスト  垂水悟郎さん(徳次郎)、遠藤真理子さん(おきよ)、山本清さん(圭助)

 勘当されて、周りの評判も悪い徳次郎が、実は、店を一番大事に思っていて、先代に可愛がられ、忠実だと思われていた番頭が欲の突っ張った非情な悪でした。平次は、店を大事に思う徳次郎の気持ちに免じて、抜け荷の咎を見逃しました。

 平次の家の玄関に結文が、落ちていました。八五郎が、拾い、平次への付け文と勘違い。にたにたしながら、平次にちらっとみせたり、もう、八五郎の仕草が、抜群に面白かったです。


* 付け文?

 平次の家。 玄関に落ちていた結文を八五郎が、平次への付け文と勘違い。手の中に隠して、部屋へ。

平次「な〜んだ、おめぇ、目尻なんか下げちまって」
お静「うふふ」

 八五郎、お静に背を向け、もったいぶって、平次に手の中をちらっと見せる。

平次「気味が悪いな。どうしたんだい?」
八「(手を広げ)これです。イヒヒヒ」
お静「八つあん!」
八「えっ」
お静「ちょっと! お出しなさい!(八五郎の手から、結文をもぎ取ろうとする)」
八「あ、あの、ち、ちがう、なんでも、こりゃ」
お静「(結文をもぎとり)八つあん、どこの、どなた様からの付け文なの!」
平次「付け文だ?」
八「(つぶやくように)だから、親分、気をきかせてやったのに……」
平次「(八五郎の胸ぐらを掴んで)お、おい、八、どうしたんだい、おめぇ!」
八「(頭の横に両手の人差し指を立てて、鬼の真似)こわい〜」
お静「(文を読んで)あっ、おまえさん、ちょっと!」

 平次、付け文を読む。「私と久吉は、心中ではありません。殺されたのです。恨みを晴らして成仏させてください。 とし」


* ラストシーン

 井筒屋の一室。 親戚が、集まっている。徳次郎が来る。

徳次郎「遅くなっちまって……」
近江屋「圭助が、まだなんだが、知らないかい」
徳次郎「圭助は……」

 そこへ、平次と八五郎が、圭助を連行して入ってくる。

近江屋「親分さん」
平次「番頭圭助は、お嬢さん、手代、それと手代さんと付き合っていたお新さん殺しの下手人として、お縄にいたしました」
近江屋「えっ、圭助が!」
平次「詳しいことは、徳次郎さんからお聞きになすってくださいまし。徳次郎さんは、命を張って、井筒屋の暖簾を守りなすったんです」
徳次郎「とんでもない! 親分のお情けが、なかったら井筒屋は、抜け荷の咎で……」
平次「おっと、徳次郎さん、抜け荷って、何のことだい。冗談にもそんなこというと、十手の手前(腰の十手に手をかける)黙ってるわけにいかねぇぜ」
徳次郎「親分さん!」
平次「おっ、皆さん、さしでがましゅうございますが、井筒屋さんの跡目には、徳次郎さんが、一番じゃねぇかと思いますが、皆さんもひとつ、よくお話合いになっておくんなさいまし……おぅ、八、じゃ、どうも」

 平次、八五郎、圭助、部屋を出て行く。見送る徳次郎、深く頭を下げる。

 井筒屋の前。 店から平次たちが、出てくる。徳次郎の娘、おきよが待っている。おきよ、目に涙をいっぱいためている。平次に何か言いたそうにしているが、言葉にならない。じっと見つめあうふたり。 平次、ゆっくり歩き始める。

610話 2月15日 姉妹 左時枝 清水めぐみ 辻萬長 石浜裕次郎
 幼い頃、両親と死に別れ、二人だけで生きてきた、おせん、おたえ姉妹。おせんは、生活のため、金の亡者となっていった。おせんは、おたえが憎かった、邪魔だった。おたえは、そんな冷たい姉の仕打ちにも、温かい優しい心を失うことはなかった。そんなとき、おせんに思いを寄せていた与吉が、殺された。疑いはおせんに。一時は、おせんに不利な証言をしたおたえだが、おせんは、おたえの本心を知って、今までの仕打ちを詫びる。だが、平次は、おせんの目が、冷たく光るのを見逃さなかった。

 ゲスト  左時枝さん(おせん)、清水めぐみさん(おたえ)、辻萬長さん(弥助)、石浜裕次郎さん(泉屋)

 清吉は、万七が、常磐津の師匠に鼻の下をのばしているのに、イライラ。つるやで、うどんをやけ食い(八五郎に言わせると、やけうどん)八杯目を注文。八五郎、顔負け。前回から、清吉は、万七にイライラしっ放しですね。

 万七の常磐津、だみ声で(八五郎は、いのししの遠吠えと揶揄。 ドラえもんのジャイアンみたいです)自分だけ、気分よく歌いますが、ハタ迷惑!

 ラスト、おせんが、妹おたえに刃を突き付ける場面。平次は投げ銭に手をかけます。アップになりますが、投げ銭の、下から2,3枚目の銭が半分以上、横にずれていました。(説明が悪いですが、わかりますか?)やっぱり、仕組みがどうなっているのか、わかりません。

* ラストシーン

 神社の裏手。  弥助とおせんが、捕まり、八五郎が連行していったあと。

おたえ「(涙を流して、うずくまる)姉さんが、悪いんじゃない、誰も私たちのこと助けてもくれなかった。姉さんが、悪いんじゃない」
平次「おめぇのその気持ちは、きっと、おせんにも通じる。そして、お上にもな」

 おたえ、顔をあげ、平次を見つめる。頷く平次。


 つるや。

清吉「ねぇ、親分、川越まで行って、無駄足だったですね」
万七「ご丁寧に、二度まで、騙された。もう女は、こりごりだよ。ほんとうにもう」
八「親分、あんな姉妹(きょうだい)って、いるもんですかね?」
平次「うん、いかに金の亡者になったとは、いいながら、あそこまで、きょうだいを恨むとは思わなかったなぁ、ん、まっ、世の中には、いろいろあるぜ」
万七「それにしても、いい女だったなぁ」
清吉「またぁ〜!」
万七「ねぇねぇ、常磐津、聞かせようか」
清吉「およしなさいよォ!」
万七「いいじゃねぇか、今度、ものになったら、この常磐津が……」
清吉「みんな、迷惑するよ!」
万七「(だみ声で)♪旦那の おまえで おじぎとせ、え〜、ころりとせぇ、ころりや ころりや ねんころり〜」

 壮吉、おなお、おゆみ、こっそり調理場へ逃げて行く。 八五郎、見ちゃいられないと飯台にうつぶす。 平次、指で耳栓をする。



611話 2月22日 おたみの江戸見物 大関優子 宗方勝己 山本昌平
 江戸見物をしながら、兄、弥之吉と暮らすため、田舎から出てきた、おたみ。しかし、弥之吉は、すでに亡くなっていた。しかも、押し込み強盗鬼面組の一味だったという。おたみは、信じなかった……そんな、兄さんが、盗っ人なんて、あのお金だって、富くじが、当たったものだと言っていた。平次は、鬼面組の残党と盗んだ金のありかを探るため、やくざに扮して、捜査する。弥之吉の通夜に集まった怪しげな男たち。そして、なぜか、火盗改めが、平次の動きを見張っていた。

 ゲスト  大関優子さん(おたみ)、宗方勝己さん(栄三郎《安田栄之進》)、山本昌平さん(庄三郎)、

 久々、平次のやくざ姿。しけのないむしりの髷でしたが、奇麗でしたね。偽名は平吉。
八五郎は、飴屋に扮します。

 やくざの男が平次の庭に! お静は、不審人物だと万七たちに助けを求めます。「鉢植え泥棒かしら」なんて、最愛の旦那様なのに。平次の鉢植えは、安物かと思ったら、万年青は、値打ちものですって。

 ラストの立ち回り。 庄三郎の投げ縄に足を取られて転げてしまう(明らかにスタントマン)場面から、スローモーションになります。

☆「江戸名所図会(絵)」……おたみが、持っていた旅行案内書。天保年間(1830〜44)刊行。斉藤幸雄・幸孝・幸成の三代にわたって編まれた。天保五年(1834)に3巻10冊、同7年に4巻10冊を刊行。寺社・名所旧跡を紹介した記事は、ずべて実施調査に基づいたもの。絵で見る案内書の集大成ともいえる。(小学館 江戸博覧強記 より)

* 鉢植え泥棒

 番屋。 お静が、飛び込んでくる。

お静「あっ、八つあん!」
八「あっ、姐さん、な、なんですか、あわてて」
万七「なんだい、なんかあったのかい」
お静「ええ、いえね、あのぅ、買い物から帰ったら、家の中に何だか変な人の影が……」

 平次の家。  庭木戸の隙間から庭をのぞく、万七、清吉、八五郎。男の後ろ姿が見える。皆、お静の周りに集まる。

お静「ねっ、いるでしょ」
万七「確かに」
お静「鉢植え泥棒かしら」
清吉「銭形の親分の万年青(おもと)は、ちょっとした値打ちもんですからね」
八「だけど、岡っ引きの家にへぇるとは、図々しいにもほどがありますね」
万七「まぁ、見てろ、お静さん、俺達が、ぎゅうのめにあわせてやるからな(腕まくりして、たいへんな意気込み)おぅ!」

 万七を先頭に庭木戸から、清吉、八五郎が、飛び込む。

万七・清吉・八五郎「(十手を男に向けて)御用だ!!」

 振り向く男。

平次「三輪の、おいらだい」
万七「銭形……」
清吉「親分」
八「どうもすいません(右手こぶしを作って、額にあてる→林家三平師匠の真似かな)」
お静「はっ!」

 家の中。

平次「いやぁ、こともあろうに、おいらが植木泥棒とはな」
万七「あったりめぇだよ。そんな、なりをしてっからだよ。なぁ、お静さん」
お静「そうですよ、おまえさん。一体どういうつもりなんですか」


* ラストシーン

 弥之吉の長屋。  平次と八五郎が来る。 井戸端のおかみさんたちに会釈。 弥之吉の家を訪ねる。

平次「ごめんよ」
八「ごめんなさい」
平次「おたみさん!」
八「あれ?(机の上の手紙を見つけ、部屋にあがる)親分、置き手紙ですよ」
平次「えっ(あがりかまちに腰掛け、手紙を読み始める)『平次親分さん、いろいろお世話になりました。旅立つ前にご挨拶をと思いましたが、恥ずかしいのでやめました』

 道中のおたみ。

おたみの声「私の田舎は、筑波山のふもとで、とってもよいところです。お暇があれば、遊びに来てください。いなせな平吉さんによろしく」

 平次、ほほ笑んで、手紙を八五郎に渡す。外に出て、遠くを見つめる。



612話 3月1日 娘十手が恋に泣く 泉晶子 亀石征一郎 早川保
 平次の下で、岡っ引き修行をすることになった、お京。思った以上の才能に、平次は、一本立ちの日も近いと太鼓判。折しも、アヘンが、市中に出回りはじめ、その元締め探しにお上は、躍起となる。アヘン密売で捕まった、仁吉が、口入屋の若狭屋と係わっていたことから、若狭屋の若旦那、仙次郎が、元締めと疑われる。驚いたのは、お京。まさか、あの仙次郎さんが……十手と恋にはさまれたお京の出した結論とは?

 ゲスト  泉晶子さん(お京)、亀石征一郎さん(仙次郎)、早川保さん(辰造)

 父親が、岡っ引き、そのあとを継ぐことになった、お京。女目明し、お品さんを思い出します。お品さん、いつのまにか姿を消してしまいましたが。

 若狭屋に探りをいれた帰り道、平次は三人の浪人に襲われ、左腕に怪我をしてしまいます。平次は、途中から、逃げに回ったので、珍しいなと思っていたら、急に止まって、振り向き、追いかけてくる浪人たちに投げ銭。投げ銭が当たった一人が、転び、はずみで、後の二人も転倒。そうかぁ、こういう手があったんですね。もちろん、三人は、平次がお縄に。


* 稲荷の前。 旅姿のお京。 平次が見送りに来ている。

平次「それじゃ、十手をあきらめるというのか」
お京「はい」
平次「はぁ、残念だな」
お京「私には、やっぱり、向かないようです」
平次「これから、どうする」
お京「信州行きます」
平次「信州?」
お京「死んだおっ母さんの里です。お父つあんの足によく効く湯治場があるので……」
平次「で、佐兵ヱ父つあんは?」
お京「先の茶店で、待ってます。親分さんには、ご挨拶もしないで」
平次「はぁ、そんなことは、いいんだが……しかし、父つあん、よく決心したな」
お京「なかなか、うんと言ってくれなかったんですけど、ようやく私の気持ちをわかってくれました」
平次「それじゃ、仙次郎さんとは……」
お京「私……どうしても自分を赦せないんです」
平次「赦せねぇ?」
お京「私、疑っちゃったんです。あの人を好いていたのに……どんな顔して会えますか? あの人に……」

 仙次郎と八五郎が、来る。

仙次郎「お京さん!(お京のところに駆け寄って)お京さん、俺は何とも思っちゃいねぇぜ」
お京「ありがとう。そう言ってくれて、心のしこりが、取れたみたいだわ」
仙次郎「もう一度、考え直しちゃくれねぇか」
お京「(首を振って)ごめんなさいね」
仙次郎「(目を伏せ)そうかい。おまえが、そこまで言うなら、無理押しはよそう。陰ながら幸せを祈ってるぜ」
お京「それじゃ、私は、これで」
仙次郎「うん」
お京「いろいろとありがとうございました(平次と八五郎に深く頭を下げる)」
平次「道中、気をつけてな」
お京「はい」
八「お京ちゃん、たまには、便りをくれよな」
お京「はい。(逃げるように去っていく)」
仙次郎「厳しい人だ」
平次「いやぁ、やさしすぎるのさ。だから、十手を捨てたんだ。時が経てば、張りつめた気持ちも緩む。ころあいを見計らって、訪ねてやるんだな。きっと、喜んでくれるだろう」
仙次郎「(力強く)へい!」

 往来を歩いて行く平次と八五郎。


613話 3月8日 忠義者 荻島真一 松本留美 西田健
 子供のころから、苦労を重ねてきた宇助。呉服問屋国分屋に拾われ、忠義を尽くし、番頭
にまで、昇りつめた。しかし、その心が、晴れることはない。幼い頃から、虐げられ、若旦那には、いいように扱われる。積み重ねられた世間への憎しみ、若旦那への憎しみ……その抑圧された心が、ついに暴かれる時が来る。

 ゲスト  荻島真一さん(宇助)、松本留美さん(おせん)、西田健さん(房吉)

 角兵衛獅子で、共に苦労してきた宇助とおせん。宇助の心情を思うと、偽証したと言えないおせん。しかし、平次の「これだけは、忘れねぇでくれよ。宇助が、世間への憎しみが、捨てられねぇ限り、奴は、まともな人間らしい気持ちになる日も決して、来ねぇってことを」の言葉に目が、覚めます。

 「つるや」に居た万七、投げ文が、ちょうど額に当たって……思わず、笑ってしまいました。

* ラストシーン

 地蔵堂の前。 房吉と宇助が、揉み合い、宇助が、房吉にドスを向ける。そこへ投げ銭。平次と八五郎が、来る。

平次「宇助、これまでだ。これ以上、おめぇに罪を重ねさせるわけにはいかねぇ」

 宇助、落ちたドスを拾い、平次に向かっていく。平次と揉み合うが、、平次はドスを取り上げ、宇助を突き放す。

平次「宇助、おめぇが、どんなに辛ぇ、悔しい思いをしてきたにしろ、おめぇのやったことはな、おめぇに飯を食わせなかった親方よりも、もっと人の道に外れたことなんだ。それを考えたことがあるか」

 宇助、はっとして、その場にへたりこむ。

宇助「雪が……」
八「えっ(空を見上げるが、晴れている)」
宇助「雪が降る寒い日だった……旦那に拾われて、初めて国分屋に連れていかれたのは。寒くて、ひもじくて、俺は生きた気がしなかった。そんとき、若旦那は、あったかそうな、派手な布団に座って、大勢の奉公人にちやほやされながら、まるで、犬っころでも見るように俺を……あのときから、あのときから、俺は……(涙ぐむ)」
平次「(茫然としている房吉のところにくる)房吉、もしも、おめぇが、人として恥ずかしくない生き方をしていたら、宇助は、こんな大それた真似をしでかさずに済んだんだ。そいつをしっかり胸に刻み込んでおくんだな」

 房吉、小さく頷く。

平次「おぅ、八」
八「へい(房吉に縄をかける)」

 いつのまにか、おせんが来ている。

おせん「宇助さん……ごめんなさい……私、どうしても黙ってられなくて」
宇助「わかってる……親分さん、おせんさんは、俺が力づくで、嘘を言わせたんです。あの人には、何の罪もねぇんですよ」
おせん「宇助さん」
平次「(制するように)おい、おせんさん!……おめぇ(宇助)のその気持ち、無駄にはしねぇ、お奉行様だって、情けはある」
宇助「(驚いたように)親分さん」
平次「さぁ、行こうか」

 平次は、宇助を、八五郎は、房吉を連行する。見送るおせん。歩いて行く平次のアップ。

614話 3月15日 狙われた女 永島暎子 剣持伴紀 西山嘉孝 山本清
 荷車にぶつかり、記憶を失った娘。平次と八五郎は、居合わせたこともあり、娘の身元捜しに奔走する。両替商和泉屋の看板に見覚えがあるという娘。おたえと書かれたわら人形が投げ込まれる。娘への恨みか。この狙われた娘と和泉屋との関係は、あるのだろうか。

 ゲスト  永島暎子さん(お妙)、剣持伴紀さん(政吉)、西山嘉孝さん(和泉屋吉左ヱ門)、山本清さん(徳造)

 お妙の狂言には、びっくり、意外でした。さすがの平次もだまされました。行方知れずの姉の捜索を岡っ引きの吉蔵に頼んだものの、納得のいくものではありませんでした。今度は平次に、記憶喪失のふりをして、怪しい和泉屋を調べてもらおうとしたのです。正直に話せばよかったのですが、また、見放されるのではとお妙は、危惧したのです。

 立ち回り、平次は、久々に十手を風車のように、眼前でクルクル回しました。何かをよけるためでなく、威嚇でしたね。

 お妙に協力をしていた、政吉。 切れ者って感じがしていたのに、ラストは、お妙に首ったけで、デレデレ。 八五郎も平次もこの先、尻に敷かれると案じます。


* ラストシーン

 平次の家。 庭先にお妙と政吉。

お妙「はい、これから、お墓参りに」
平次「あぁ、そうか、ん〜」
お妙「本当にありがとうございました」
平次「うん、うん」
お妙「政吉さんからも、お礼を言って」
政吉「(ぎこちなく)あっ、どうもありがとうございました」
平次「あぁ」
お静「また来てくださいね」
お妙「はい、じゃ、これで」

 政吉、率先して、庭木戸を開ける。お妙、お辞儀をして、外へ。政吉、にやにやして、お辞儀をして外へ出て行く。

八「今からあれじゃなぁ、この先、尻の下に敷かれっぱなしですよ」
平次「あぁ、かもしれねぇな、ん」
八「いや、もっともね、あんだけの狂言をする娘ですから、無理もありませんがね(腕組をする)しかし、女ってぇのは、何をしでかすか、わかったもんじゃないですねぇ。親分、ほれ、よく言うでしょ、女と子供は、あのガタガタ……ガタガタ……」
平次「いや、そうじゃねぇんだよ。女子と小人は、養い難しっていうんだよ」
八「あ〜、そうそう、それそれ、つまり、女は扱いにくいってわけでしょ、ねっ、へへへ」
平次「(お静の顔色が、変わっていくのに気づく)おい、八!」
八「(全く気付かず)いや、上手い言葉ですねぇ、女子と小人か……親分、つまりね、女ってぇのは、男よりここが、こう……」
お静「(ムッとして)八つあん!」
八「えっ、何すか?」
平次「おら、知らねぇよ(立ち上がって、隣室へ逃げる)」
お静「お、おまえさん!」
平次「俺じゃねぇよ、八が言ったんだ、俺じゃない、俺じゃない」
お静「八つあん!」
八「えっ」
お静「私ね、これでも女のつもりなんですけどね」
八「(やっと失言に気づき、あわてる)あっ、いけねぇ、親分、助けてくださいよォ(平次を拝む)ねぇ、……アハハ、姐さん、どうぞ(座布団を勧めて、ごまかそうとする)」
お静「(座布団を拒否)おそいんですよ! もう……」
八「イヒヒ、いいじゃないですか……」

 平次、暖簾を分けて、お静と八五郎の成り行きを笑って見ている。


615話 3月22日 雨の音 夏目雅子 下塚誠 青山良彦
 亡き父、喜久三の跡を継ごうとおのぶは、十手を放さない。父が世話になった、同心木崎の役に立ちたいと。なぜか、おのぶの命が、狙われる。狙ったのは、なんとふたりの岡っ引き。いわれのない強請の罪を着せられるおのぶ。 おのぶの推理は、ある人物を浮かび上がらせた。同じころ、平次もおのぶの推理した人物を真犯人と断定していた。だが、その真相は、おのぶにとって、辛いものとなる。

 ゲスト  夏目雅子さん(おのぶ)、下塚誠さん(幸助)、青山良彦さん(木崎)

 ゲストの夏目雅子さん、若くて、可愛くて、綺麗でした。橋蔵さんが亡くなった翌年、27歳の若さで、亡くなられました。この放送の6,7年後にお二方が、いなくなるなんて、誰が想像したでしょう……、まさに美男、美女、薄命です。

 #612「娘十手が恋に泣く」のときも、今回も、女岡っ引きは、一人前になるのを待たずして十手を捨てました。やはり、女岡っ引きは、難しいんでしょう。お品さんは、すごい?

 ラスト、幸助を迎えに出たおのぶ、髪型を変えていましたね、活発な若い娘のものから、落ち着いた島田風。幸助のおかみさんになる決心だったのでしょう。


* ラストシーン

 路地。 木崎を連行する八五郎。

おのぶ「親分さん」
平次「ん?」
おのぶ「今日から、私、この仕事、辞めます」
平次「いいだろう、だが、それは、明日からだ。おめぇには、まだ仕事が残ってる」
おのぶ「仕事が?」
平次「おのぶちゃんを助けようとして、自分から罪を被った幸助をほっといていいのかい?牢屋敷へもらい下げに行くんんだ。 十手を捨てて身を引くにゃ、いい花道になるじゃねぇか」
おのぶ「親分さん」

 頷く平次。


 伝馬町牢屋敷。 門前。 降りしきる雨の中、おのぶが、傘をさして、待っている。幸助が、出てくるが、おのぶを避けるように、歩きだす。

おのぶ「(幸助に傘をさしかけ)濡れるわ」
幸助「俺は、いいよ(傘から出て行く)」

 おのぶ、幸助の後を追う。 相合い傘で、歩いて行くふたり。


 平次の家。  平次、煙草をふかしながら、雨に濡れる庭を見ている。 物思いにふけっている様子。 お静は縫物。

お静「おまえさん、何、見てるんですか」
平次「いや、雨の中から、おのぶちゃんの声が、聞こえてくるんだ」
お静「おのぶちゃんの声が? おまえさんには、何でも聞こえるんですね。何て言ってるんですか?」
平次「幸助に言ってるんだ。私、十手を捨てましたってな。きっと、いい夫婦になるだろうぜ」

 平次、ほっとした表情を見せ、お茶を飲む。 降りしきる雨を見つめる。

616話 3月29日 旗本襲撃 林与一 志乃原良子 大林丈史 福山象三
 次期南奉行との噂の高い、牧野備前守。牧野の乗った駕籠に「ゆきえの仇!」と刃を向けた源八。その場で無礼打ちで、命を落とす。 この噂が広まり、源八の評判は、高まり、牧野の評判は、下がるばかり。奉行の就任も危ぶまれる。しかし、これこそが、やくざ達の仕組んだ罠であり、狙いであった。平次の心意気が、牧野の心に響く。

 ゲスト  林与一さん(牧野備前守)、志乃原良子さん(お仙)、大林丈史さん(島村準一郎)、福山象三さん(観音の長兵ヱ)

 自分たちにとって、都合の悪い次期南町奉行を引きずり落とそうとする、やくざたちの思惑に万七の進退問題が、からむ作品。 平次の台詞が、見どころ、聞きどころ。

 少しですが、平次の木刀での立ち回りが、見られました。華麗な剣さばき!

 悪党たちと戦闘開始「花のお江戸の大掃除だ! 八、行くぜ!」「がってんだ!」の台詞回しが、よかったです。よっ!江戸っ子!待ってました!って声をかけたい。

 役立たずの岡っ引きは、首にした方がいい、なんて、万七が、うっかり言ってしまいますが、その万七が、リストラの有力候補。落ち込む万七に、平次は、わざと冷たくして、万七を奮い立たせます。しかも、万七の手柄になるように、捜査のヒントを何気に与えて。

 捕り物の後、平次が万七に「おめぇの手柄だ」と言うと「何の役にも立たなかったが、平次の情けに報いるためにひとりでもふたりでもやっつけたかった……もう思い残すことはねぇ」と泣かせる台詞の万七。清吉ももらい泣き。

 首の繋がった万七、「俺は奉行所になくてはならない男らしいな」と減らず口。でもだんだん、泣き顔に。戻れてよかったですね。でも平次が、十手をかけて、牧野備前守に頼んだことは知ってか、知らずか。


* ラストシーン

 牧野備前守邸。 同心島村と平次が、庭でひざまずいている。

牧野「平次、よくやってくれた。礼を言うぞ。わし、ひとりの汚名を晴らしてくれたのみではない。危うく、江戸の町が、やくざどもの思いのままになるところであった。そちは、未然に防いでくれたのだ」
楠「殿には、本日、御老中より、南町奉行就任のご内命が、あった」
平次「おめでとう存じます」
牧野「今後とも、わしの手足となって、一層、役目に励んでくれ、頼むぞ」
平次「へい……、まぁ、私ごときに身に余るお言葉では、ございますが……、いや、実は、ご辞退したいと存じます」
牧野「何?」
平次「本日限り、十手をお返しいたします」
牧野「十手を返す?」

 しばし、見つめあう牧野と平次。

牧野「なぜだ?」
平次「私と苦楽を共にしてきた、三輪の万七が、お役御免と漏れ承りました。十何年、御用一筋に勤めてきた万七でございます。見捨てるわけには、まいりません」
島村「平次!」

 牧野と平次、再び、視線を合わせる。

牧野「あいわかった。島村、万七とやらが、御用を勤められるよう、計らえ」
島村「はっ、はぁ〜」
平次「(表情が明るくなって)えっ! あっ、そいじゃ、あの、ありがとう存じます。平次、微力では、ございますが、万七共々、懸命に勤めさせていただきます」
牧野「わしは、よい部下を持つことが、できそうだのぅ。島村! 人は適材適所、それぞれをうまく使いこなすのが、そちの腕であろう」
島村「は、はぁ〜、恐れ入り奉りまする」

 ほほ笑む牧野。 決意を新たに顔を引き締める平次。


 木戸。  源次の遺骨を抱いて、旅姿のお仙。 見送る平次、八五郎、おなお、おゆみ。

お仙「お世話になりました」
平次「な〜に、おめぇのお陰で、事件が解決したんだ。ありがとよ。源八は、いい男だった。故郷(くに)に帰ぇって、丁重に葬ってやんなよ」
お仙「はい」
八「もう一遍、やり直すんだよな」

 うなずく、お仙。

おなお「元気でね」
おゆみ「道中、気をつけて」
お仙「では、これで」

 お仙、去る。 万七と清吉が、走ってくる。

万七「よォ〜」
平次「おぅ、三輪の、ん」
万七「へへ、俺、困っちゃってんだよ」
平次「えっ」
万七「お奉行所に呼ばれてよ」
平次「うん」
万七「どうしても、御用を勤めてくれって言われてんだよ」
清吉「せっかく、いい仕事ぐちが、見つかりそうなのに、ねぇ、親分」
万七「そうだよ。が、まぁ、頼まれれば、断りきれねぇしよォ。ハハハ……どうしても、おりゃ、奉行所になくてはならない男らしいな」
八「(あっけにとられて)ひょ〜〜!」
平次「(八五郎にそれ以上言うなと制する仕草)そうかい、そいつは、よかった。まぁ、ご苦労だが、今後ともよろしく頼むぜ」
万七「おぅ、仕方ねぇよ(だんだん、泣き顔になって)銭形……」
平次「わかってる、わかってるよ」
万七「(涙を手で拭き、周りを見る)へへへ、(口に手を当て)ハハハ、ハハハ」

 皆、大笑い。

 往来。 平次と八五郎が、歩いている。 平次が「一杯やろう」八「そうこなくちゃ」とでも言っているようす。


617話 4月5日 おゆき 中田喜子 富川K夫 立花直樹 小栗一也
 養父茂助のためにも……おゆきは、必死にこの豆腐屋を守り続けてきた。立ち退き問題が、おゆきの肩に重くのしかかる。 団結していた近所の者も、嫌がらせや、相次ぐ付け火にひとり、またひとりと去っていき、とうとう、おゆきの店だけになった。そこへ、茂助の実の息子、太一が、百両もの借金を作ってきた。もはや、手だてはない。これまでだ! 平次は、あこぎな土地売買業者、又五郎の罠に太一が、はまったことを確信するが、その黒幕は、あまりにも意外な人物だった。

 ゲスト  中田喜子さん(おゆき)、富川徹(さんずいです)夫さん(太一)、立花直樹さん(与吉)、小栗一也さん(茂助)

 今回、万七は、出ていましたが、清吉は、出ていません。 万七とのやりとりがないと、寂しいですね。

 土地問題を扱った作品ですが、「地上げ屋」が横行していたのは、このころ(放送時)だったのかしら。

 それにしても、地主の久佐ヱ門は、善人ぶって、土地は売らない! と威勢のいいことを言いながら、その実、手の込んだ細工をした一番の悪でした。 自分の売った土地を嫌がらせなどで、安く買いたたき、それを高く売って儲けようとしました。


* ラストシーン

 豆腐屋。

茂助「まぁ、待て、与吉、話ごとの途中で、逃げ出す奴があるか、おめぇ、今の話はな、石川島の太一から、言ってきたことなんだ。いいんだな、この店は、おゆきと一緒に守ってくれるんだな」

 平次と八五郎が、来る。 おゆきと与吉、お互いに見つめあい、ほほ笑む。

与吉「俺、おゆきちゃんさえ、よかったら……(商売に)行ってくらぁ(走り去る)」
おゆき「いってらっしゃい!」
平次「(与吉を見送って)おぅ、父つあん、おゆきちゃんの式の日にゃ、俺達も呼んでくれよな」
茂助「そりゃもう〜」
平次「うんうん」
八「へへへ」

 平次、茂助も笑う。 おゆき、照れて店の奥へ。

八「はぁ〜、羨ましいなぁ〜」

 平次、お雪を見つめる。


618話 4月12日 男の勲章 黒部進 新田昌玄 北原将光
 鉄砲組試練場から盗まれた、イスパニアの六連発銃。的は、平次。兄を獄門台に送られた逆恨みで、利助は、鬼面をつけ、心まで復讐の鬼と化していた。平次のみならず、捕方や無関係の町人に銃口を向け、八五郎を晒しものにして、じわじわと平次を追い詰める。果ては、お静をかどわかす。平次の右腕を貫いた弾丸は、投げ銭を不可能なものとした。平次は、この危機を乗り越えられるのか。

 ゲスト  黒部進さん(仙造)、新田昌玄さん(利助)、北原将光さん(藤田老人)

 八五郎が、晒しものにされ、そのことで、謹慎処分になります。心配して、お静が、八五郎の家を訪ねます。八五郎は、男の意地を通すと言って、戸を開けることなく、お静を帰します。八五郎の家は、また、駄菓子屋の二階になりました。#310「死ね! 八五郎」では、長屋になっていて、引っ越したのかなと思いましたが。

 万七は、ひとりで湯治場に行ってしまい、八五郎は、謹慎中なので、平次の下っぴきは、清吉が、勤めます。万七が、帰ってきて、もとに戻りましたが、清吉は、嫌そうでしたね。

 お静の身を案じて、樋口様は、奉行所に身を寄せるようお静に言いますが、お静は「怖くて逃げだしたなんて、言われるのが嫌なんです」と断ります。樋口様は「奉行所に女房の身柄を頼まねぇ、おめぇ(平次)も立派だが、それを断わるお静さんも偉ぇ。目明しの女房の鏡と言っていいだろう」と褒めます。

 平次と八五郎のお互いを思いやる関係に清吉は「あの親分あってのこの子分だよ。おらな、今度ほど、おめぇたちの間柄を羨ましいと思ったことは、なかったよ」と。万七親分、もう少し清吉のことを考えてやって!

 平次は、右手を負傷したため、投げ銭が、使えず、藁人形を的に左手で投げる練習をします。それを見ていたお静は、協力を惜しみません。でも、#12「狂った火」では、浪人相手に右手に十手、左手で、投げ銭をいとも簡単に投げていたんですけどねぇ。

 平次の左手からの投げ銭が、見事利助の左目に命中。ぐさりと刺さったままで、ちょっと残酷な場面でした。

 八五郎が、平次のところに来たときのことを思い出していました。若き平次は、ちょん髷をうんと曲げて、やんちゃな感じ。お静は、可愛かったです。八五郎は、前髪の丁稚のような髷でしたが、ちょっと無理があったような。八五郎、下っ引きになる前、#71「稲妻組御用」で、悪の勘次の気の弱い使い走りをしてましたよね。

* 男の意地

 八五郎の部屋。  謹慎処分となった八五郎を心配して、お静が、訪ねてくる。

お静「八つあん! 開けてよ!」
八「姐さん、後生だ、開けねぇでおくんなさい。このまま、帰っておくんなさいよ」
お静「(激しく戸を叩いて)開けてったら!」
八「(必死に戸を押えて)い、いやだ! 姐さん、あっしゃね、お上から、叱られちゃったんですよ、親分に赤っ恥、かかせて(涙ぐんで)どの面さげて、のうのうと……」
お静「八つあん!」
八「姐さん、たったひとつ、お願いがございます。十手だけは、とりあげねぇように親分に頼んでおくんなさい。あっしっがね、自害、しないで、生きてんのも、男の意地を通してみてぇからです」
お静「八つあん、うちの人は、返って、あんたに気の毒なことをしたって、言ってるの、八つあんの気持ちはわかるから、帰るけど、思いあまったことは、しないでね、それだけは、約束よ!」
八「へぇ(泣きながら)、好んで死ぬような真似は、しませんよ」

 お静、後ろ髪をひかれる思いで、帰る。


* ラストシーン

 平次の家。  家の前で、万七と清吉が、平次の帰りを待ちわびている。

万七・清吉「あっ、おぅ、帰ってきた!」
万七「(お静に)平次が、帰ぇってきたよ!」

 お静、神棚に手を合わせていたが、急いで外へ出る。平次が、ゆっくり、歩いてくる。駆け寄るお静。

お静「(泣きそうな顔)おまえさん……」

 頷く平次。

 御鉄砲百人組屋敷。 樋口、平次、八五郎が、出てくる。

樋口「謝礼金に五十両とは、さすがに鉄砲百人組だな」
平次「へぇ、旦那、いや、この金ですがね、鉄砲のために命を落とした捕方や、木戸番の遺族のために分けてやっておくんなさい」
樋口「いいのかい?」
平次「へい」
樋口「へへへ、さすがにおめぇだな」
平次「いえ」
樋口「いや、じゃ、早速手配しよう。八、謹慎が解けてよかったな」
八「へい(腰の十手に手をやる)ありがとうございました」
樋口「じゃ、俺は行くぜ」
平次「どうも」
八「あっしにも、一両ぐれぇ、もらえると思ったんですがね」
平次「へへ、八、やっと、おめぇらしくなってきたじゃねぇか」
八「ど、どういう意味ですか、そりゃ、へへへ」

 ふたり、笑いながら、往来を歩いて行く。



619話 4月19日 母子笛 月丘千秋 藤間文彦 幸田宗丸
 極悪非道のきさらぎの重蔵一味が出没。その重蔵の女、おまき。おまきは、二十年前別れた息子の行方を捜していた。平次の予感は当たった。まさか! 平次は、若き同心沢村源次郎から実母の行方を捜してほしいと頼まれていたのだ。まさにおまきが、源次郎の母……子を思う母と母を思う子……再会を信じて、源次郎の吹く、形見の鳩笛の音が、川面を流れていく。

 ゲスト  月丘千秋さん(おまき)、藤間文彦さん(沢村源次郎)、幸田宗丸さん(灘屋長五郎《きさらぎの重蔵》)

 十手預かる町方役人が、捜し求めていた実母は、犯罪に係わっていた。母と子の葛藤を描いた作品ですが、#540「わくら葉の女」や#887「母の涙のおわら節」などと大筋は、同じですね。

 八五郎は、おまきを見張るのに易者に扮します。偶然、おまきが、息子の行方を聞きにきます。あてずっぽうに占ったら、当たっちゃった。八五郎、曰く「易者のほうが、合ってるかも」

 平次が、八五郎と交代するためにやってきますが、おまきが店から出てきます。おまきに顔を知られている平次は、急いで、顔をかくし、あたかも手相を見てもらっているかのようにふるまいます。そのときの仕草が、色っぽくて、素敵。

 万七親分、今回もずるかったですね、自分で考えて、捜査をせず、平次の跡をつけてばかり。しくじると平次のせいにする。清吉には、理不尽な怒り方をして、突き飛ばしたり。だから、つるやのメンバーが、万七を責め立てます。清吉は、こっそり、煽ってました。


* ラストシーン

 矢切りの渡し。 船着き場の茶店。

おまき「親分さん」
平次「なぜ、逃げたんです?」
おまき「ええ、親分さんが、私を無実にしてくださるお気持ち、本当に嬉しく思います。それでも、私が、きさらぎの重蔵の女だったってことは、消えません。こんな私じゃ、あの子のためにも……」
平次「しかし、それは、知れねぇでいたことだ」
おまき「親分、これでいいんです。あの子、あんなにりっぱに育ってくれました。もう何も心配することはありませんわ」
平次「そりゃ、いけねぇ、せっかく巡り合ったんだ。母子一緒に暮らさなきゃ、嘘だ」
おまき「でも今は……」
平次「それじゃ、その気になったら、いつでもいい、必ず沢村様のもとに帰ってきておくんなさい。あっしからも、よく伝えておきましょう」
おまき「ありがとうございます」
船頭の声「お〜い、舟が、でるぞォ〜」
おまき「親分さん(足早に舟に乗り込む)」
平次「(はっとして、懐から鳩笛を出す)おまきさん!」

 源次郎が、走ってくる。おまきは、顔を隠すようにして、舟に乗っている。

源次郎「平次、今の人は、母上じゃないのか」
平次「沢村様、どうか、お見逃しを」
源次郎「ならぬ! 私は、たとえ母上と重蔵のことで、お役御免になろうとも、一緒に暮らしたい! (桟橋へ駆けていく)母上〜! 母上〜!」

 顔をそむけるおまき。

源次郎「母上〜! 母上〜!」
平次「沢村様、お心は、よくわかりますが、ここは、母上の気持ちを察して……」
源次郎「平次!」
平次「が、必ず帰ぇってきます。そのために、この鳩笛を力一杯、吹いてあげておくんなせぇ(鳩笛を差し出す)」
源次郎「うん(笛を受取り、吹き始める)」

 川面に流れる笛の音。悲しげなおまきの顔。笛を吹き続ける源次郎。


 つるや。

万七「バカ野郎!」
清吉「えっ」
万七「なんで、平次をつけなかったんだよ!」
清吉「しかし、親分が、それでいいって……」
万七「え〜い、うるせぇ、この野郎!(清吉をぶっ飛ばす)」
壮吉「こいつは、ひでぇや、親分、ひどいですよ! どんな理由があるか、知れませんけど、謝んなさいよ! 謝りなさい!」
おなお・おゆみ「謝りなさいよ!」

 清吉、壮吉たちを煽っている。 万七、皆に詰め寄られる。


 平次の家。

お静「そうでしたか(お勝手から、何やら運んでくる)沢村様も、おまきさんもどんなにか(涙声)」
八「ええ、ほんとに、泣けますね。あっしは、悲しくてね、たとえ、今ですよ、ここに、あんころ餅が、出たって喉には、通りません」
平次「えっ、おめぇ、ほんとうか!」
八「へっ」
平次「おい、お静、それをとって」
お静「はい(運んできた皿を長火鉢の上に置く)」

 あんころ餅の山が、八五郎の目の前に現れる。

平次「(小声で)これを見りゃ、何でも食うんだ」
八「はぁ〜はぁ〜(溜息)いくら、親分、あっしでも……(ガラッと元気な声に変わって)せっかくですから、頂きましょうか、へぇ(あんころ餅をひとつ、取って口の中へ)」
お静「まぁ〜」
平次「なっ」
お静「八つあんたら」

 平次、お静に何やら言っている(何でも食うとかなんとか)平次とお静、顔を見合わせ、笑う。


620話 4月26日 はぐれ絆 鳥居恵子 横光克彦 森幹太
 生い立ちの似た佐和吉とおみよは、幼いころから、兄妹のように一緒に暮らしてきた。佐和吉は、おみよに少しでも幸せな結婚をさせようと経師屋の店を構えたいと願った。しかし、小さな過ちから、悪の道に引きずられた佐和吉。おみよは、すでに佐和吉を兄とは、見ていない。別の感情が、芽生えていた。それを知りながらも、佐和吉は、罪を重ねざるおえない。

 ゲスト 鳥居恵子さん(おみよ)、横光克彦さん(佐和吉)、森幹太さん(梵天の仁兵ヱ)

 平次は、珍しく、自分で鬚を剃ってました。

 若いおみよと佐和吉の夢を聞かされた平次、お静に結婚前に夢を語ったことが、あるかと聞くとお静は、会えば、死体の話ばっかりなどと、嘆きますが、結局、最後はおのろけになっちゃった。


* 将来の夢

 平次の家。  お静は、アイロンがけ。 平次は、自分で髭剃り。

平次「おい、お静」
お静「はい」
平次「夢といや、所帯をもつ前、俺達、夢を話し合ったことが、あったかな」
お静「(平次のそばにきて)とんでもない」
平次「あっさり言うなよ」
お静「だって……死体に刃物を刺しても血は出ないだの、絞殺された死体は、必ず、パカッと口を開いて、目を見開き、目の高さが、上がってるものだとか、会えば、夢中になって、そんな話ばかり」

 八五郎、いつのまにか、襖の陰から、ふたりを見ている。

平次「そんなこと言ったのかい? 俺」
お静「言いましたよ。まぁ、そりゃ、たまには、違うことも……」
平次「へへ、そりゃそうだ」
お静「貧乏には、強い方か、ですって」
平次「何だ、そらぁ」

 二人で、笑う。 八五郎も笑う。

お静「あら、まっ、八つあんたら、いやだわぁ、もう、いつのまに」
八「(お静のそばにきて)姐さん、そんな親分とよく、ご一緒になりましたね」
お静「え〜え〜、もう、そりゃ、天にも昇るここち。うちの人と一緒になることが、私の夢だったんですもの」
八「え〜、へぇ〜〜……親分、事件だ!」
平次「バカ野郎! もっと早く言わねぇかい!」


* ラストシーン

 牢。  牢屋に佐和吉が、入っている。

佐和吉「浅はかでした」
平次「まっ、まじめに罪の償いをしてくるんだな」
佐和吉「はい」
平次「別れをするがいい」

 八五郎が、おみよを連れてくる。牢に駆け寄るおみよ。佐和吉と格子越しに見つめあう。平次と八五郎、その場を去る。おみよと佐和吉、手を握り合う。おみよの目に涙。


 牢の外。 平次と八五郎が、待っている。 おみよが、出てくる。

平次「おぅ、もういいのかい」
おみよ「ありがとうございました」

 おみよ、髷から、かんざしを取り、平次に差し出す(かんざしは、佐和吉が、万引きしたもの)平次、受け取る。

おみよ「親分さん、あのぅ……」
八「三年! いや、長くて四年の島送りですむよ」
平次「兄妹(きょうだい)が、はぐれて、今度会うときゃ、夫婦(めおと)ってわけだ。二人の絆が、切れるようなことは、ねぇよ」


 日本橋。  平次と八五郎、橋を渡ってくる。


621話 5月3日 しのぶ河岸 有川博 本阿弥周子 重久剛一
 優しい亭主に恵まれ、幸せに暮らしていた油問屋のおかみ、おその。店先で見かけた佐吉。昔の恋人だった。おそのの胸に六年前の思いが、蘇る。しかし、何も知らない亭主を裏切ることは、できない。そのころ、押し込み強盗を追っていた平次、突き止めた犯人は、佐吉だった。 おそのは、平次の言葉に亭主の嘉助との絆を改めて、強めることを決心する。

 ゲスト  有川博さん(佐吉)、本阿弥周子さん(おその)、重久剛一さん(嘉助)

 万七と清吉が、おそのと若い男が、会っているのを目撃。確信もないまま、「つるや」で、おなおたちに、おそのが、密通しただのなんだのと噂をします。平次が入ってきて「あて推量で、人の噂をするのは、あんまり感心しねぇな。そうでなくても、辛ぇことの多い世の中だ。お互い、人のつまらねぇ噂話をするのは、慎もうじゃないか」と万七を諌めます。万七親分は、いつも軽率なんだから。

 夫婦の絆が、テーマですが、おそのの亭主、嘉助は、全てを知っていながら、おそのを優しく包んでくれます。できた人です。

 ラスト、久々にお静のつねりが、出ましたぁ。平次の太腿と腕。平次は、痛いと言いながらも嬉しそう〜。


* ラストシーン

 掘割端。  八五郎が、佐吉を連行していったあと。 へたりこんでいるおその。

平次「さぁ、家へ戻りなせぇ」

 ゆっくり、首を振るおその。

平次「嘉助さんが、心配して、待ってるんですぜ」
おその「私……帰れません、この三年、私は、うちの人を騙していたんです。あの男のことを忘れられないまま、女房になって、今日まで、ずるずると、あんないい人を、あんな優しい人を、私は……」
平次「なるほど、おめぇさんは、佐吉に惚れた。嘉助さんにゃ、惚れちゃいなかった。だがな、おそのさん、嘉助にすまねぇ、傷つけたくねぇ、そう思う、おめぇの気持ちが、実は、惚れてるってことじゃねぇのかい。いや、そうやって、いたわりあい、温め合う、そいつが、夫婦ってもんじゃねぇのかい」
おその「(涙をためて)親分さん」
平次「嘉助さんは、何もしらねぇ。誰が、どんな噂をしようと中傷しようと嘉助さんは、心底おめぇさんを信じている。 今も、これから先もな。さぁ、立ちなせぇ(おそのの手をとって、立たせる)そして、嘉助さんと二人、もとの暮らしに戻るんだ」

 豊島屋。 夜明け。 上がりかまちで、ぼんやり座っている嘉助。そこへ、平次とおそのが、入ってくる。

嘉助「(驚いて立ち上がる)おその!」
おその「おまえさん……」
平次「(おそのを遮るように)い、いや、実は、うちのやつが、急に熱を出しちまってな、八五郎が、おそのさんを見かけたもんで、無理言って、看病を手伝ってもらったそうだ」
嘉助「(涙をおさえて)あ〜、そ、そうだったんですか」
平次「あぁ、早いところ、おめぇさんに知らせなきゃと思いながら、ついつい、朝になっちまって、申し訳ねぇや。おかげで、うちの奴の熱も下がったし、助かったい。おそのさん、いろいろ、すまなかったな」

 おその、涙を浮かべ、ゆっくり頷く。平次、おそのを元気づけるように肩をたたく。

平次「そいじゃ、俺は、これで」
嘉助「親分さん」

 嘉助、深々と頭を下げる。 平次、嘉助が、全てを知っていると悟る。平次、出ていく。

おその「おまえさん、私……」
嘉助「疲れたろう、店は俺がやるから、ゆっくり、休むんだ」

 平次、店の外で、ふたりの様子を立ち聞く。安心して、帰っていく。


 平次の家。

 お静、お茶を平次のところに持っていく。

お静「おまえさん、はい。嘉助さんとおそのさん、上手くいってくれれば、いいいけど」
平次「(お茶を飲んで)ん、でぇじょうぶだい。心配いらねぇよ」
お静「嘘も方便。 あの二人に幸せになってもらうためなら、私、いつでも病気になりますよ」
平次「嘉助は、見抜いているよ。俺たちの嘘をな」
お静「えっ」
平次「何もかもわかった上で、嘉助は、俺達の作り話に乗ったんだ。男として、おそのさんの亭主としてな」
お静「優しい人なんですねぇ。ほんとうに」
平次「この先、一生、あの二人は、堅ぇ絆で結ばれて行くだろう。夫婦という、堅ぇ絆でな」
お静「夫婦の絆……おまえさん、私たちは、どうなんでしょうね」
平次「ん?」
お静「おまえさんと私のき・ず・な」
平次「さぁ、どうかなぁ(立ち上がる)」

 お静、思いっきり、平次の太腿をつねる。

平次「あ痛っ〜、あ痛たた〜(尻もちをつく)痛ぇじゃねぇかよォ」
お静「おまえさん(今度は、右腕をつねろうとする)」
平次「あ〜あ、もう堪忍してくれよ、ほんとに」
お静「うふふ(平次に寄り添う)」

 平次と二人で、笑う。


622話 5月10日 おやじ 長澄修 加藤嘉 有吉ひとみ
 板前の幸吉は、父を尊敬していた。板前の師として。父の厳しい教えも守っていた。そんなとき、上方へ修行に行っていたはずの父が、役人に追われ、しかも、亡き母に酷似した娘を連れて、幸吉の眼前に現れた。幸吉の失望と怒り。真実を語ろうとしない父をしりめに、走り去る幸吉。父の真意は、何か、父子の溝は、埋まるのか。

 ゲスト  長澄修さん(幸吉)、加藤嘉さん(文造《嘉助》、有吉ひとみさん(お時)

 ラスト、日曜大工(?)で、棚作りの平次。八五郎が来て、「たいしたもんだ、器用だ」とほめながら、十手で、棚の下から、突っつき、十手を置いたとたん、棚がはずれて、落下。物をたくさん、載せるまえで、よかったですね、平次は将棋と大工仕事は、苦手?


* 平次の啖呵

 宿場役人に向かって。

平次「おぅ、大根、菜っ葉じゃあるめぇし、江戸の目明しにゃ、筋金が、へぇってるんだ、藤沢のお役人さん! この十手ってやつはな、弱い者を痛めつけるためのもんじゃねぇんだ。使い道を教えてやるから、覚悟しろい!」


* ラストシーン

 平次の家。  平次、踏み台に乗って、棚作り。かなづちをふるっている。

お静「じゃぁ、お時さんはな、もとより罪はねぇんだ。病の養生かたがたな、幸吉のいる船宿で、働かせてもらうことになった」
お静「まぁ、それは、よかったわ〜」
平次「うん」

 八五郎が、棚の下の襖を開けて入ってくる。

八「親分、あっ、いやぁ、幸吉のね、女嫌いも治ったようですよ」
平次「ほぅ、そうかい」
八「へぇ」

 平次、棚作りの続き。 八五郎、ほこりが、目に入ったか、目をこする。

平次「(踏み台から降りて)これで、みんな、収まるところに収まったんだな」
お静「幸吉さんとお父つあんの仲も昔通りになったし」
平次「それが、親子だ。人間にとって親と子のいがみ合いほど、むごいもんはねぇからな。な〜に、二、三年、すりゃな、二人揃って、包丁さばきが、見られる」
お静「はい、おまえさん(キセルを渡す)今、お茶を淹れてきますからね(隣室へ)」
八「すいませんねぇ……え〜、へへ、親分(立ち上がって、平次の作った棚を十手で下から突っつく)たいしたもんですねぇ、いや、器用なもんです、へへ」

 八五郎が、十手を棚の上に置いたとたん、棚が落ちる。


623話 5月17日 鶴吉の掟 三沢慎吾 井原千寿子 三島史郎
 みなしごの鶴吉を育てたのは、土蜘蛛の宇三郎、忍びしと言われる盗っ人の首領。宇三郎でなければ、鶴吉の苦しみはなかったかもしれない。足を洗いたくとも、育ててもらった恩がある。義理を立てるには、自分が、獄門台にあがるしかない……と鶴吉は、思う。しかし、死罪を逃れ、戻ってきた江戸で、待っていたのは、宇三郎が、裏切りに遭って、獄門台に送られてしまったという事実。裏切り者は、決して赦さない、それが、掟。鶴吉は、死を覚悟で裏切り者を探し求める。

 ゲスト  三沢慎吾さん(鶴吉)、井原千寿子さん(お幸)、三島史郎さん(勘八)

 一度は、自分の命は、平次に預けたと平次の言うことに納得したものの、育ての親が、裏切りに遭い、獄門台の露と消えたと聞くや、鶴吉は、親への恩、義理、掟にかたくなにこだわり、命を捨てようとします。 そこまで、かたくなにならなくても……と思ってしまいました。

 宇三郎を捕らえたという目明かしに藤尾純さんが、扮していました。初代の万七親分です。遠藤さんとの絡みは、ありませんでしたが、新旧の万七との共演でした。


* ラストシーン

 番屋。 万七と清吉が、番屋に向かって、歩いてくる。

万七「前代未聞だよ。こんなことって、あるかよォ」
清吉「あるかと聞かれてもねぇ、あっちゃったもんは、しょうがねぇでしょう」

 万七と清吉。番屋へ入る。  平次と八五郎が、お茶を飲んでいる。

万七「そういう単純な男だよ、おめぇは!」
平次「おぅ、三輪の、どうしたい」
万七「例の井筒屋の一件、今朝方、井筒屋の番頭が、俺んとこ、すっ飛んで来てな」
平次「おぅ」
万七「盗まれた八両が、そっくり、そのまんま、返ぇってきましったって、言うんだよ」
平次「あぁ、そいつは、まさに前代未聞だな」
万七「だろう、で、井筒屋の旦那が、大喜びでな、返ぇす気になった、その賊の気持ちが、嬉しい。ご詮議は、打ち切りにしてくださいと、こうだよォ」
八「わかる、わかりますねぇ、(平次に)井筒屋の旦那の気持ちが、よ〜く、わかりますねぇ」
平次「うん、まぁな」
万七「盗まれたもんが、返ってきても、やっぱり、これ、盗まれたことになるのかなぁ」
清吉「あてりまえでしょ、そらぁ」
万七「どうして、当たり前だって、言えるんだよォ、おめぇ、え〜、完全になくなっちゃってこそ、これ、盗まれたとわかるけど、ちょっとの間、場所が移動しただけでも、これ、盗まれたって、言えるか?」
清吉「知りませんよ、あっしに聞いたって!」
万七「そういう、バカなんだよ、おめぇは!」

 万七、清吉、出ていく。

清吉「二言目には、バカ、バカだって、もう〜」
万七「そうなんだよう……」

 ふたり、ぶつぶつ、言い合いながら、歩いていく。

八「あのふたり、一体どうなってるんすかねぇ、へへへ」
平次「全くだ」

 入れ替わりに、鶴吉とお幸が入ってくる。

八「あっ」
お幸「親分さん、(ひざまずき、両手を差し出す)」
平次「お幸さん、井筒屋は、盗難届をひっこめたよ」
お幸「えっ」
平次「だが、盗んだことに、変わりはねぇ。まっ、返ぇしたからといって、犯した罪は消えるもんでもねぇ。俺が、目をつぶっても、おめぇさんの気持ちが、赦すめぇ、そうだろ?」
お幸「はい」
平次「まっ、ほんのしばらくの間の辛抱だ。帰ぇってくりゃ、鶴吉との新所帯が、待ってる。それを楽しみに、つとめてくるんだな」

 頭を下げるお幸、鶴吉、そして、見つめ合うふたり。

鶴吉「親分、生きていてよかった。本当によかった。ありがとうございました」
お幸「ありがとうございました」
平次「じゃ、行こうか」
八「へい」

 平次を先頭に番屋を出ていく。


624話 5月24日 死の淵に立つ平次 野際陽子 蟹江敬三 手島雄作
 何かが、おいらの身辺で動き出している。見えぬ敵にお静も怯える。忌まわしい夢が、現実となるのだろうか。消えた死体……夫の亡骸を探せと執拗に平次にせまるおもん。敵が姿を現し、導かれた場所……ここは、あのときの……平次は、影の正体を見破った。

 ゲスト  野際陽子さん(おもん)、蟹江敬三さん(弥七)、手島雄作さん(嘉助)

 冒頭から、ショッキングな場面でした。右手を負傷した平次が、浪人たちに襲われ、なますのように斬られ、「お静……」と言い残して、絶命。夢でよかったけれど、夢でも見たくないシーンでした。 この右手の負傷が、正夢となります。
 浪人たちとの争いの中、降りしきる雨の中へ、出て行く平次。この場面は、スタントマンですね、後姿だし、小屋に戻ってきたとき、着物が濡れていませんでした。

 樋口様、いつも平次に頼りすぎだなって思うのですが、今回は、ちょっとひどいなと思いました。目撃者が、殺されて、平次が、非難されたり、挙句、自分にもとばっちりがきたからと腹がたち「明日の暮れ六つまでにけりをつける!」と役人たちに啖呵をきってしまったとか。それを平次に暮れ六つまでに解決してくれって命じて帰ってしまいました。平次にだけ、押しつけて、協力もしてませんよね、ちょっと頭にきました。こっちとら、命を狙われてんだぞ!

 影の正体との対決。 石切り場のような岩場で、迷路のようになっています。平次対弥七の一対一の対決もよかったですが、そのあと、平次が、立ちつくし、そばにおもんが泣き崩れています。その場面をカメラが遠くから撮っていて、ギターの音色と風の音が、マカロニウエスタンを見るようで、かっこよかったです。

 ラスト、平次は、自分の身を案じてくれたお静に大げさに泣く真似をして、「ありがとう」と。お茶目な平次です。お静は、笑いながらも、涙目だったようです。

* ラストシーン

 平次の家。  平次、庭で松の盆栽の手入れ。

お静「おまえさん、お茶がはいりましたよ」
平次「あっ、すまねぇ」

 平次、濡れ縁に腰掛ける。

平次「(湯呑を取ろうとして)おっと(とっさに出した右手をひっこめる)」
お静「あっ、まぁ、うふふ」
平次「アハハハ、つい、思い出しちまったぜ、えっ、へへ。それにしても、今度ばかりは、このおいらの右手が、どれほど大事なものか、痛いほど思いしらされたぜ、ハハハ」
お静「女は、魔物ですよ、気をつけてくださいよ」
平次「な〜に、世の中、魔物なんか、いやしねぇよ(お茶を飲む)」
お静「でも、ほんとに心配したんですよ、もう心の臓が、凍りついたと思ったくらい」
平次「そうか」

 平次、立ち上がり、お静の方に向く。 右腕を目に当て、大げさに泣く真似。

平次「ありがとう(頭を下げる)」
お静「まぁ、おまえさんたら、うふふ(泣き笑い)」
平次「アハハハ」

 平次の笑顔。



625話 5月31日 わが子わが女房 夏純子 剣持伴紀 永井智雄
 飲み屋で、暴れる宇吉。その女房、おそでと息子の正太は、宇吉の帰りを待ちわびていた。丸岡藩のお家騒動に巻き込まれていくこの親子に、気の休まることはない。平次は、思う、侍であろうとなんであろうと、仲睦まじく暮らしている親子を引き裂き、踏みつぶすことは、赦されないと。平次は、この親子を守るべく、命を張る。

 ゲスト  夏純子さん(おそで)、剣持伴紀さん(宇吉)、永井智雄さん(林田織部)

 13年目突入。 平次の家の暖簾が、紫地で、檜扇の模様になりました。オープニングは、レギュラー紹介の場面が変わりました。

 平次たちの行きつけとなる、小料理屋「かすが」が、開店。三吉(春日三球さん)、お照(春日照代さん)夫婦に看板娘は、お京(久永智子さん)です。
 見習同心として、榊兵助(下塚誠さん)が、加わります。

 捕り物好きで、平次親分に来てもらいたいからと、三吉は、開店の貼り紙を平次の家に貼ったようです。文面は「どうぞ、ごひいきに 小料理かすが 銭形の親分さんもお気に入り」 読んだ平次は、苦笑。 勝手に親分の名前を使っちゃって。でも繁盛間違いなし?

 見習同心榊兵助。丸岡藩を悪く言う平次に、侍というものを知らないとお冠。兵助の母に「身分に捉われて、真のありようを見失っては、町方のお役目は果たせぬ、そういう覚悟を持っているのは、平次の方が上」と言われ、考え直したようです。ラストは、侍に果敢に立ち向かう平次に手助けをします。


* 平次の啖呵

 料亭辰巳。

平次「林田織部様、あっしは、ただの岡っ引きでございます。ですが、林田様、身分は違っても、人の道には変わりはねぇ。あっしは、そう信じてお上の十手を預かって参りました……正太は、宇吉とおそでさんの子でございます。正太が、誰やらに生き写しと、ただそれだけのために、仲睦まじく暮らしている親子三人を引き裂き、踏みつぶす、そんなお考えの方が、もしいたら、この平次、命にかけても宇吉たち三人を守ってみせます。どうか、このことだけは、忘れねぇでおくんなさい」


* ラストシーン

 境内。 縁日であろう、 榊兵助、平次、八五郎が、歩いている。

榊「平次、いや、平次親分、すまん、今度の一件では、身の程も知らず、おぬしに大口をたたいてしまって」
平次「何をおっしゃるんです、榊さん。侍が、あっしらに詫びたりしたら、いけません」
榊「いや、俺は、まだ未熟だ。同心としても人間としても、まだまだ修行が、足らんのだ。母上に言われてしまった、刀を差す身にこだわらず、平次親分のもとで、みっちり修行しなさいとな、よろしく頼む」
平次「アハハ」
八「ようがす、そいじゃ、親分の代わりにあっしが、みっちり、しごいてあげますよ」
榊「はぁ、少しは手加減しろよ、八五郎」
八「いえいえ、そうは参りません、ねっ、親分」
平次「さっ、参りましょう」
榊・八「アハハハ」
平次「(誰かに気づく)おっ」
八「あれ?」

 出店の並ぶ中、団子屋の前に、宇吉、おそで、正太が、いる。

おそで「おいしそう」
正太「はい、母ちゃん」
店主「ありがとうございます」
おそで「すいません」

 三人、団子を食べる。

おそで「どう、おいしい?」
正太「うん」

 幸せそうな三人、去る。

店主「どうも」

八「こうしてみると、誰が見ても、正真正銘、本物の親子連れですね」
平次「親子の情っていうのは、血のつながりだけじゃねぇ、肌と肌を触れ合わせ、毎日の暮らしの中に育っていく、これが、本当の情ってもんだい」
榊「親子の情か……うん、なるほどな」
平次「おぅ、榊さん、うちのやつが、一本つけて、待ってるんです。一緒にどうです?」
榊「おぅ、そいつは、いいや。せっかくだから、ごちそうになるか」
八「これだ、修行は、足んねぇのに、図々しいのは、一人前なんすから……まぁまぁまぁ、堅ぇこと言わないで、旦那、ごちになりに行きましょうかね、へへへ」

 笑顔の平次のアップ。


626話 6月14日 見習同心心得帳 磯村みどり 御木本伸介 天王寺虎之助
 迷宮入りとなるのか、五年前の福山藩一万両強奪事件。 この事件を担当し、志半ばに倒れた亡き父のためにも、同心榊は、再捜査を申し出る。もちろん、迷宮入りをよしとしない平次も同じ思いだ。そして、八五郎の持ってきた、奇妙な死人からの手紙。その予告通り、浪人が、殺される。意外や、一万両強奪事件とこの殺人事件が、結びついて行く。

 ゲスト  磯村みどりさん(比佐乃《小比佐》)、御木本伸介さん(尾久帯刀)、天王寺虎之助さん(大仙)

 冒頭、榊は、十手を持つのが、嬉しいのですね、見せびらかすように往来を歩いていると、母子に出くわします。言うことを聞かない幼子に「そんな無理を言ってると、あの十手を持ってるおっかないおじちゃんに連れて行ってもらうよ」と叱りました。平次は「十手はしまっといた方がいい」とアドバイス。でも、現代もですが、こういう叱り方はよくないですよね、
 榊は、今回も、見かけだけで、尾久帯刀をいい人と思いこみ、不審を抱く平次に、ちょっとご立腹。まだまだ、修行が、足りません。

 お静が、平次の髭剃りをしているとき、浪人殺害の凶器が、かみそりだと閃きます。それも二丁かみそり(かみそりを二枚重ねる)だと。二丁十手が、ヒントになったのかな。

 「かすが」の三吉が、地下道の話をし、それがヒントになって、平次は、比佐乃の家に地下道があると確信し、そこに一万両も隠されていると断定します。
 春日三球・照江さんの漫才、流行りましたね〜「地下鉄の車両をどこから入れるのか、考えると夜も寝られなくなっちゃう……」


* ラストシーン

 早苗の長屋の前。

榊「親分、お陰で、亡き父のお役、無事に果たすことが、できた。ありがとう」
平次「あぁ、いやぁ、とんでもござんせん」

 八五郎と喜三太が、早苗の引っ越しを手伝っている。

八「(荷物を大八車に載せて)よっ、いいかい」
早苗「はい、すみません」
喜三太「お嬢さん、あっしのうちは、狭いんだ。ほどほどに願いますぜ」
八「バカだなぁ、おめぇは。てめぇのかかぁにお嬢さんていい草、あるかよ。ねぇ、お嬢さん」
早苗「ええ、ふふふ」
八「はっ! アハハハ」

 三人で、笑う。

八「行こうぜ」
喜三太「へい」

 早苗、榊と平次に会釈。

平次「榊さん、今度はいやな事件だったが、あの二人の笑顔で、すっきりしましたぜ」
早苗「うん、私もいい勉強させてもらった」

 おばあさんが、息を切らして平次のところに来る。

おばあさん「たいへんだよォ〜、親分さん、私の大事な、大事な、一両一分、誰かが取っていってしまいました。取り返してください(平次にすがりつき、半泣き)」
平次「おぅ、わかった、わかった、榊さん、大名屋敷の一万両より、このばあさんの汗水たらした一両一分、ひとっ走りいってきまっさぁ〜」

 平次、おばあさんと走って行く。


 往来。

おばあさん「親分さん、早く〜」

 平次のアップ。


627話 6月21日 兇悪犯護送 財津一郎 大関優子 沢村宗之助
 甲州石和から、江戸へ、大盗人、おろちの甚五郎を護送する平次。護送する経路を見抜かれているように、甚五郎の子分たちに、次々と襲われる。 奉行所内に情報を漏らした奴がいるに違いないと平次は、思う。しかも、甚五郎を奪回するのではなく、命を狙っている。そこへ、現れた娘。甚五郎に刃を向ける。 一体何者? 平次たちは、無事、江戸へ辿り着けるのか。

 ゲスト  財津一郎さん(甚五郎)、大関優子(現 佳那晃子)さん(お咲)、沢村宗之助さん(土屋主水)

 #95「一本の命綱」#252「地獄街道」同様、凶悪犯を、数々の苦難を乗り越えて、平次が、護送します。いつしか、凶悪犯の心がほぐれますが、今回は、犯人の娘が、登場。子分たちの裏切りは、定番。

 もちろん、平次は、旅姿です。

 上司に逆らうことが、めったにない万七ですが、今回は、平次のために、樋口様に啖呵をきります。清吉も見習同心榊も同調、平次の助っ人をさせてくれと樋口様に詰め寄ります。
 樋口様、後の責任は、俺がとる!と言って承諾。

 お静は、心の中では、平次のことが心配ですが、顔には出しません。平次が、無事帰ってきても、そっけない態度。 平次は、冷たいなぁとぼやきますが、神棚に置いてあった、お百度参りの棒を見つけて「やっぱり、お静だな」と、にんまり。
 若いときのお静なら、帰宅した平次の胸に飛び込むところでしょうが、今は、ベテランの岡っ引きの女房ですね。平次は、若い時のようにして欲しかったのかも。


* 万七の啖呵

 番屋。

榊「それじゃ、上席与力の土屋様は、平次親分の応援に駆けつけることは、罷りならぬとおっしゃるのですか」
樋口「(腕組をして)万七の情報を頭から、信じちゃいねぇ様子なんだ」
万七「そ、そんな、くでぇようですがね、あのネタは、金輪際間違いねぇんですよ」
清吉「そうなんですよ。うちの親分の話は、いつもね、まゆつばもんですがね、今度に限っては、本物なんですよ」
樋口「それは、よくわかってるんだ、だがな、命令には、逆らえねぇ。あとは、平次の無事を祈るより他はねぇな」
万七「お言葉ですがね、旦那、あっしは、承知できませんよ!」
樋口「万七!」
万七「旦那! あっしも江戸っ子だ! 仲間の苦労を知りながら、手をこまねいていては、末代までの恥だ! たとえ、お咎めを受けようとも、銭形の助っ人にめぇりますぜ!」
清吉「あっしもです! 八の野郎をみすみす見殺しには、できませんからね」
榊「私も同感です! 樋口さん、我々の勝手をお許しください!」
樋口「よ〜し! 行け! あとの責任は、俺がとる!」


* ラストシーン

 平次の家。  平次が帰宅。

平次「おい、お静、今、帰ぇったよ」
お静「お帰えんなさい」
平次「(あがりかまちに腰掛け)おぅ」
お静「思ったよりも早かったところをみると、楽なお仕事だったんですねぇ」
平次「(草鞋を脱ぎながら)何言ってやんでぇ、これでもいろいろあったんでぇ」
お静「あ〜、そうですか」
平次「あぁ」
お静「とにかく、おまえさん、お湯にでも行ってきてくださいな。その間に私、ごはんの支度しておきますから(さっさとお勝手に行こうとする)」
平次「お、おい、お静、そんな……いろいろあったと言ってるんじゃねぇか、俺のことなんか、気にならねぇのかな」
お静「ご冗談を。仕事のたんびに、いちいち気にしてたら、岡っ引きの女房は、務まりませんよ、うふふ(お勝手へ行く)」
平次「(部屋に入って)なんだよ……冷てぇな〜」

 平次、十手を神棚に置くが、そばにお百度参りの棒があるのに気付く。そして、その棒を握る。お静の気持ちがわかり、お静の方を見る。 お静、平次の視線に気づきながらも、笑みを浮かべ、素知らぬ顔で、包丁を持った手を動かしている。

平次「(微笑んで)やっぱり、お静だな」


628話 6月28日 江戸暮色 榊原るみ 内藤武敏 西山辰夫 坂田真三
 仏の勘助と言われた元岡っ引き。 今は、亡き息子の嫁と植木屋を営んでいる。皮肉なことに実の子供たちとは、心が、通わないが、この嫁のおさよを身内のように感じている。それゆえ、亡き息子の正体だけは、知らせてはならない、おさよを悲しませるようなことだけは。しかし、酌婦のおもんが、水死体となって、発見され、勘助は、じわじわと窮地に追い込まれていく。

 ゲスト  榊原るみさん(おさよ)、内藤武敏さん(勘助)、西山辰夫さん(美濃屋)、坂田真三さん(喜三)

 「かすが」で、勘助のことを話題にしています。 三吉は、世の中ってものは、上手くいかない。仏の勘助といわれた有能な人材の方が、十手を返上して、三輪の親分とか、(八五郎を見て)役に立たないのに、いなおってる……と。
 八五郎は、平次に助けを求めますが、平次は、笑ってお茶を飲むだけでしたね。

 勘助のことを何もかもわかっていて、口には出さない平次。その情けを身にしみてわかっている勘助。心が通じていることが、よくわかりました。

 立ち回りのときの音楽が、変わりました。でも、のんびりした感じがして、平次のスピード感のある立ち回りに合わないような。


* 人の情け

 墓地。 おさよの亡夫の墓参り。 迎えに来た勘助とおさよが、帰って行く。その後ろ姿を見送る平次と八五郎。

平次「人の情けっていうのは、おかしなもんだな、八」
八「えっ」
平次「実のせがれが、二人に娘が、一人。その誰とも心の通わなかった勘助父つあんにとっちゃ、何の血のつながりもねぇ、あのおさよさんが、この世のたったひとりの身うちなんだ」
八「へぇ、そう言われてみりゃ、本当の父娘(おやこ)みたいですねぇ……けど、親分、だからって、なんで……」
平次「わからねぇのか、あのおさよさんを一番傷つけるのは、死んだ勘太に女が、いたってことだ」


* ラストシーン

 川端。 勘助を襲ったチンピラ共を平次たちが、片付けたあと。いつのまにか、おさよが立っている。

平次「おさよさん、勘助父つあんはな、おめぇさんが、大切にしている思い出をぶち壊したくなかったんだ。何も知らねぇままで、おめぇさんを嫁がせて、それだけを考えていたんだよ」
おさよ「(泣き崩れている勘助のところに来て、手を握る)お父つあん、本当は、私、知ってました。あの人に女がいるんじゃないかって、亡くなる前には、薄々気づいていました」
勘助「おさよ、おめぇ……」
おさよ「でも、目をつぶりました。お父つあんが、おっしゃる通りのやさしいあの人だけを信じて、それだけを信じて、生きてきました」
勘助「おさよ……」
おさよ「これからも、そうします。やさしかったあの人の思い出だけを信じて、お父つあんののおっしゃることを信じて、私、お嫁に……お嫁に参ります」
勘助「おさよ……」

 勘助とおさよ、見つめ合い、再びしっかり手を握り合う。

平次「行こうか、父つあん」
勘助「あぁ(立ち上がる)、すまねぇ(平次の前に両手を差す出す)」

 平次、首を振る。

勘助「(驚いたように)銭形の……」
おさよ「親分さん……」

 平次、ふたりを見つめる。平次の後を勘助が、歩いていく。 おさよ、深く頭を下げ、二人を見送る。


629話 7月5日 源太の証言 土屋嘉男 吉沢由美子 中村英生 北原義郎
 島帰りの父を持つ源太。世間への反抗からか、いたずら、嘘つきの常習犯だ。その父、貞吉は、平次のお陰で備後屋に畳職人として、働けることになった。しかし、喜びも束の間、罠にはまって、備後屋殺しの下手人として、捕まってしまう。無実を叫ぶ源太、「本当の下手人を見たんだ!」平次は、源太を信じて、捜査を進める。 しかし、その証言に疑問が出てくる。

 ゲスト  土屋嘉男さん(貞吉)、吉沢由美子さん(おひさ)、中村英生さん(源太)、北原義郎さん(肥後屋)

 石を投げられ、人殺しの子と罵声をあびる源太。 助けに入った平次に思わず、「おじちゃん!」と泣きつく。平次は「男なら、からかわれたぐれぇで、泣くんじゃねぇ、泣くな」と元気づけます。一時は、源太の証言に疑問を持つ平次ですが、子供を信じてあげる平次は、源太の言葉じゃないけれど、ほんと、「カッコイイ」

 右ほほにあざのある、猪之吉が、ほんとの下手人。なんで、屋台のおじさんの証言をとらなかったのかなぁ。犯行当日、貞吉が、その屋台で、お酒を飲んでいて、猪之吉が、飲み代まで、払って、貞吉を連れ出したので、絶対、顔は、覚えているはず。証言をとれたら、もっとはやく、あざの男が、実在するかどうか、わかったのに。貞吉が、そのことを思い出すだろうって、期待してたんだけど。飲みすぎていて、覚えていなかったのかな。


* 不幸せな子

 牢。 罪を認めてしまった貞吉を平次が、訪ねる。

貞吉「島送りの五年間、あっしは、あの子のためにと思って、まじめにつとめてまいりやした。でも、帰ぇってみりゃ、あの子は、あっしのせいで、いじめられ、肩身の狭い思いばかり。あの子は、どっちみち、不幸せな生まれつきでさぁ。親がいてもいなくても、あっしゃね、どっちが、あの子の不幸せを軽くするか、考えて、爪印を……」
平次「どの道不幸せな子だと? 貞吉! 同じ不幸せなら、なぜ源太と一緒にそれに耐えてやろうとしねぇんだ」
貞吉「親分さん、あっしが、死んでも、寂しい思いをするのは、一時だけだ」
平次「てめぇは、何てバカ野郎だ! おめぇ、仕事が見つかって、何と言った? 源太のためにどんな辛ぇことでも、歯をくいしばって、耐えてみせると言ったじゃねぇか! ありゃ一体どうなってんだ!」

 貞吉、へいたりこむ。

平次「源太にとっちゃ、おめぇは、たったひとりのかけがえのねぇ、父親なんだ。日本一の腕自慢の畳職人なんだぞ」
貞吉「源太〜(床をこぶしで、叩いて、くやしがって、泣く)」
平次「貞吉、爪印を押したとあっちゃ、二、三日うちに打ち首だ。これから、おめぇの無罪を明かすにゃ、容易なこっちゃねぇぜ」


* ラストシーン

 伝馬町牢屋敷前。  八五郎と源太が、待っている。平次と貞吉が、中から出てくる。

八・源太「あっ!」
源太「おとう〜!(貞吉に駆け寄る)」
貞吉「おぅ……源太(源太を抱きしめる)」
源太「おとう」
貞吉「あぁ、よ〜く待っていたな、うん」

 おひさと奉公人が、駆けつける。

おひさ「貞吉さん」
貞吉「えっ」
おひさ「辛かったでしょう。もう一度、うちで働いてくれますね」
貞吉「お嬢さん」
平次「貞吉、お嬢さんはな、おめぇに小頭として、働いてもれぇてぇそうだ」
貞吉「あっしみてぇなもんを……」
おひさ「父は、貞吉さんの腕をほめていました」
貞吉「ありがとうございます。親分さん、お嬢さん、力一杯、働かせていただきやす」
平次「貞吉、お礼を言うなら、この源太の坊やに言ってくれ」
貞吉「えっ」
平次「源太が、本当の下手人を見ててくれなきゃ、どうにもならなかったんだ」
貞吉「源太(また、源太を抱きしめる)そうかい」
源太「おとう、おいら、大きくなったら、十手持ちの親分になるぜ。(平次を見て)カッコイイもん!」

 皆、笑う。

貞吉「そうかい」
八「こりゃ、こりゃ」
平次「こいつ、ハハハ」

 往来を歩いて行く平次と八五郎。


630話 7月12日 ドジな男の子守唄 なべおさみ 北林早苗 入川保則
 父の跡目を継いで、岡っ引きになった志斗吉。やる気はあっても、気の弱さが、たたってドジばかり。 女房のお仲にも愛想づかしをされて、男と逃げられた。息子を背負っての御用が、うまくいくはずもない。そんなとき、志斗吉は、ばったり、お仲と出っ食わす。お仲の冷たい態度と裏腹に、人のいい志斗吉は、今だにぞっこんだ。 平次は、お仲の動きに不審を抱く。やがて、お仲に、押込み強盗波切の半兵ヱの影がちらつき始める。

 ゲスト  なべおさみさん(志斗吉)、北林早苗さん(お仲)、入川保則さん(波切の半兵ヱ)

 ドジ続き、緊張するとしゃっくりが出る志斗吉。御用聞きには、向かないと樋口様は、親心で、十手を返上させようとします。しかし、平次は、自分も同感だが、気の弱い志斗吉は、十手を返上させたら、ぺちゃんこになって、立ちあがれなくなると考え、首を繋げます。人の心を奥深く読む平次です。

 お仲の刑罰も、平次は、お仲が、島から戻ったとき、志斗吉と太吉と幸せに暮らせるよう、はからいました。 波切の半兵ヱの情婦として、島送りにし、素性を不明としたのです。島から戻ったら、ただのお仲として、暮らせるように。先々まで考える平次です。

 志斗吉にぞっこんだった、千駄木村のお松さん、気のいい人だっただけに、ふられて、気の毒に思ってしまいました。

 ラスト、「妻恋坂か……」とつぶやく平次、平次もお静が、恋しくなったのでは?


* 平次の説教

 境内。

平次「その十手を貸しな」
志斗吉「十手? これですか(腰から十手を取り、平次に渡す)あっ、親分、これをまさか、取り上げよってんじゃないですよね。よォ、八、兄ぃ、そ、そうなのかい?」

 とまどい、目をそらす八五郎。

平次「(十手をじっくり眺めて)辰五郎父つあんのにおいが、しそうだ。この十手にゃ、父つあんの苦労の汗が、染み込んでいる。血も涙もある俺達、目明しのお手本みてぇな人だった。その父つあんにも、たったひとつ、ぬかりがあった」
志斗吉「そりゃ、初耳だなぁ」
平次「それは、おめぇだ」
志斗吉「えっ」
平次「四十を越して初めてできたおめぇをそれこそ、目に入れても痛くねぇほどのかわいがりようだった」
志斗吉「えっ、ええ、へへ」
平次「自分にあれほど厳しかった父つあんが、我が子のことになると丸っきりの親バカで、むしろ、それを楽しんでさえ、いなさるようだった」
八「(志斗吉を見て)そうでしたっけね」
平次「だが、所詮、人間は、ひとりなんだと父つあんが、そこに気づいたのは、自分の死期を悟ったときだった。自分が、死にゃぁ、いやがおうでも志斗吉は、一人歩きをしなきゃならねぇ。そういう育て方をしなかったことに父つあんは、やっと気がついたんだ……それで、この俺におめぇを男にしてやってくれと言い残したんだ」
志斗吉「わかってますよ。だから、お父つあんみてぇになれねぇまでも、せめて、足元ぐれぇまでは、ハハハ」
平次「おめぇ、本気でそう思ってんのか」
志斗吉「そりゃもう」
平次「なら、どうして、しゃっくりなんか出るんだ?」
志斗吉「だって……ありゃ……」
平次「性根だ。性根が、たるんでるからだ! そうじゃねぇか、普段、なんともねぇものが、気を張り詰めたときだけ、出るっていうのは。病気でも何でもありゃしねぇや。おめぇの気の持ちよう、ひとつってことなんだ」
志斗吉「そうかなぁ」
八「志斗吉!!」
志斗吉「ヒック!(しゃっくり)あ〜びっくりしたぁ……本当だ」
八「おい、お仲だよ。逃げた女房を見返してやろうと思わねぇのか、ター坊のためにも死に物狂いになって、やってやろうと思わねぇのか(志斗吉のおでこを指さし)少しは考えろよ!」
平次「いいか、志斗吉、男の性根は、面に出るんだ。目に出るんだ」

 志斗吉、手で顔をさわる。 平次、十手を志斗吉に戻す。

志斗吉「はい」
平次「いいか、俺は、おめぇが、男の顔になるのを見てぇんだ。死んだお父つあんの代わりにな」


* ラストシーン

 妻恋坂。  平次と八五郎、太吉を抱いた志斗吉。

平次「これで、おめぇも心おきなく新しい門出が、できるってもんだ」
志斗吉「へい」
平次「だが、覚悟はしてるだろうが、左官の修業も厳しいぜ」
志斗吉「へぇ、そりゃもう……ヒック(しゃっくり)!」
八「(あきれ顔で)おい、(平次に)いいんですか? これで」

 平次、苦笑い。 志斗吉、会釈して去る。

平次「あいつも、これから、妻を恋しく、帰りを待つんだなぁ」
八「そうですね」
平次「妻恋坂か……」

 平次と八五郎、歩いて行く。


631話 7月19日 殺しを頼んだ女 赤座美代子 香山武彦 新海百合子
 「なぜ、仇持ちの女が、殺しを頼んだか、これが一番わからねぇ」 殺し屋ふくろうの伝六を追う、平次たちの前に現われた、志乃。 父親の仇の殺人依頼をしたという。不審に思う平次だが、仇の柴田重三郎(当て字です)は、志乃、菊代姉妹に対する愛情が、複雑に絡んでいた。

 ゲスト  赤座美代子さん(志乃)、香山武彦さん(栄吉《柴田重三郎》)、新海百合子さん(菊代)

 平次の浴衣が、銭(裏側ですが)模様でした。

 複雑な人間模様でした。 志乃の許婚、柴田重三郎が、父親を誤って斬ってしまい、一瞬にして、仇となります。父親のほうが、先に刀を抜いたのですが、理由は、志乃との祝言を先延ばしにしていたから。柴田は、妹の菊代が、好きだったのです。志乃は柴田を好きでした。逃げた柴田を仇と追って、三年。 寺男の栄吉と名乗って、暮らしていた柴田に菊代が、偶然出会って、二人は恋中に。 そのふたりの仲を知っていて知らぬ振りをしていた志乃。 仇討するよりは、殺される方がいいと、殺し屋に依頼したのです。 三人の気持ちをそれぞれ、考えると複雑。 それに、殺人依頼した伝六は、偽物というおまけ付き。

 平次は志乃に「人、ひとりの命、闇から闇へ葬ろうなんて、了見は、どう、言いわけしても間違っている」と忠告。 必死仕事人、大否定〜!


* 平次の忠告

平次「(志乃に)ふくろうの伝六は、一旦引き受けた殺しは、誰が何と言おうとやり遂げる。人、ひとりの命、闇から闇へ葬ろうなんて了見は、そいつは、どう言いわけをしたところで、間違ってる。もうひとつ、栄吉さんが、死ぬ時にゃ、妹さんの命もありませんぜ」


* ラストシーン

 八幡裏の林。  伝六(本物)をお縄にしたあと。

平次「(栄吉と菊代に)でぇじょうぶか?」
栄吉「はい。吹き矢の傷だけです」
平次「あぁ、傷が、浅きゃ、それだけ、お志乃さんの罪が軽くなる」
菊代「親分さん、姉は、やはり罪に……」
平次「あぁ、こんな殺し屋に一度は金を包んだんだ。まるで、おかまいなしというわけには、いかねぇだろうが、そのぅ、おめぇさんたちを助けたのも、お志乃さんだ。お上にだって、お情けは、あらぁな」
菊代「(栄吉を見て)よかった」
栄吉「あぁ」

 栄吉と菊代、平次に頭を下げる。 平次、同心榊と顔を見合わせ、頷く。往来を歩いて行く平次と八五郎。 八五郎は、途中で出店により道?


632話 7月26日 土俵に賭ける二人 龍虎 佐藤仁哉 金子吉延 高田瞳
 巴川部屋の取り的、源太と安五郎。性格、取り口は、対照的な二人だが、友情は厚い。そんなとき、源太に金貸し治兵ヱ殺しの疑いがかかる。安五郎は、源太を庇うが、それゆえ、自分も捕まってしまう。平次は、治兵ヱのむごい殺され方に疑問を持つ。あの取り的たちにできることではない。やがて、事件は意外な顛末を迎え、若い取り的たちは、より強い友情で結ばれ、けいこに励むのだった。

 ゲスト 龍虎さん(巴川親方)、佐藤仁哉さん(源太)、金子吉延さん(安五郎)、高田瞳さん(お初)

 平次の家の暖簾が、水色地に檜扇になりました。平次は、「斧 琴 菊」模様の浴衣、お静は、笹の葉の大胆な模様の着物……夏らしいですね(放送日 1978・7・26)

 美男子力士として、人気のあった龍虎さんが、ゲスト。1977年に廃業して、タレントに。このころは、タレント一年生ですね。相撲の親方の役……実際に髷を結っていた方が、かつらを被るって、どんな気持ちなのかしら。

 冒頭、平次が、松葉ボタンの鉢植えを見て「松葉ボタンは、強ぇ花だ。どんな日照りにも負けねぇで、美しい花を咲かせている」と言いますが、殺人の疑いが晴れて、土俵に賭ける源太と安五郎の伏線となっています。

 ラスト 万七が、「俺達は、いつになったら、白星がでるのかなぁ〜」と羽織を繕いながら、ぼやきます。お針をする万七の仕草と口調が、可笑しくて、でも、哀れさが、漂います。

 平次は、紙相撲を作って、お静と勝負。お静が負けたようですが、無邪気な二人です。


☆取り的…一番下の階級の力士。 ふんどしかつぎ (三省堂 国語辞典より)

* ラストシーン

 橋。 安五郎が、橋に向かって走ってくる。河岸から三吉が、橋を渡って帰ってくる。

三吉「おぅ、安五郎! どうだった?」
安五郎「へい、今日は、勝ちました!」
三吉「勝った! そうかぁ」
安五郎「うちまかして、突き出しました。 源太は、上手投げで勝ちました」
三吉「そうかぁ、おぅ、これ、みんな、もっていけ(仕入れてきた魚を籠ごと渡そうとする)」
安五郎「いや、それじゃ、おかみさんが……」
三吉「女房が、なんだよ。江戸っ子だよ、持っていけよ、ほら」
安五郎「ごっつあん、ほんじゃぁ(籠を担いで、駆けていく)」
三吉「あぁ、これで、今夜ゆっくり、寝られる」


 「かすが」  お照、仏頂面。 三吉、星取表に白星を描いている。

お京「安五郎さんも、とうとう勝ったのね」
三吉「よかった、よかったなぁ」
お京「一勝四敗と四勝一敗」
三吉「な〜に、来場所ってことがあるよ……なぁ、お照」
お照「おまえさん、魚は、どうすんだい? 今日は、精進料理ばっかり売るつもりかい」
三吉「また怖い女房に、怒られて、寝られなくなっちゃう」


 万七の家。  清吉はごろ寝。  万七、自分の羽織を繕っている。

清吉「親分の怒涛の寄りにも、きれいに、うっちゃりを食いましたね」
万七「俺たちゃな、いつになったら白星が、出るのかなぁ〜、はぁ〜(溜息)ほんと(縫い針に髪の油をつける仕草)くさくさしちゃうな……」


 巴川部屋のけいこ場。

親方「安五郎、源太、おめぇら、二人は、場所が終わっても、息抜きなんかさせねぇ。山嵐、二人をたたきなおしてやれ」
山嵐「へい」

 相撲甚句が、流れる。 二人のけいこが、始る。 安五郎が、親方の前に転がってくる。

親方「(安五郎を立たせて)いいか、安五郎、おめぇにゃ押しの一手しかねぇんだ。それを貫き通すんだ。投げられても、よりきられても、押して押して、押しまくるんだ」
安五郎「(力強く)へい!」

 また激しいけいこが、始る。 見物人のなかに、お初がいる。

お初の心の声「安五郎さん、源太さん、強くなって、きっとりっぱな関取になって」
親方「安五郎、そうそう、その意気だ」

 けいこは、続く。


 平次の家。  お静、すいかを持ってくる。 平次、紙相撲を作っている。

平次「二人は、まだ若けぇんだ。これから土俵一筋、力一杯、打ち込んでいくだろう」
お静「そうですね」
平次「おっ、ささ、お静、来い。おっ、(将棋盤の上に紙相撲を載せる)」
お静「まぁ」
平次「こっちが、おめぇだぞ、いいか、よっ」
お静「負けませんよ」
平次「よっ」

 二人で、トントン、将棋盤をたたき始める。

お静「あ〜あ」

 お静の負けかな?



633話 8月2日 万七大いに売出す 島かおり 亀石征一郎 松田洋治 田島理司
 万七の一人息子、万助。奉公先のご隠居に養子に欲しいと言われるほど、気に入られている。 万七は、養子に出すつもりはなかったが、折しも、万七に、八丈島より遠い青ヶ島への赴任の話が持ち上がる。事実上の左遷だ。万七の心は揺れる。万助にどう言ったらいいのか、養子にだすべきか……。そんなとき、小間物問屋の庭番が、殺され、疑いは、元奉公人の孝吉にかかる。父親の無実を必死に訴える与一の姿に、万七は、万助の姿が重なり、父親の情けが、溢れ出る。

 ゲスト 島かおりさん(おしん)、亀石征一郎さん(孝吉)、松田洋治さん(与一)、田島理司さん(万助)

 万七の息子万助と孝吉の息子与一、ふたりの孝行息子と万七の左遷話を絡めた人情編。

 万助役が、また変わりました。7代目かな?

 万助は、「桶辰」に年季奉公に出ていたのですね、万七の御用が、忙しいとき、一人でどうしているのかと思いましたが、安心しました。

 万七のおかみさんは、やはり、亡くなっていたのですね。仏壇も位牌もお墓も出てきます。 名前は、おたみ。 万七が、仏壇に向かってそう、呼んでいたようです。


* ラストシーン

 万七の家。  万七、女房の位牌を目の前に置いて、ごろ寝。そこへ樋口と榊。

樋口「万七! 青ヶ島行きが、決まったぞ」
万七「へいへい、腹は、とっくにできてますよォ」
榊「ハハハ、そうじゃないんだよ。喜べよ、青ヶ島行きは、当分の間、全員延期になったぞ」
万七「(起き上がって座る)延期?」
樋口「そうだよ、おめぇ、嬉しくないのかよォ」
万七「いや、延期ってことは、つまり、この……中止じゃなくって、いつまたぶり返すかしれねぇんでしょ?」
樋口「そんなこと俺が知ってるもんかい」
万七「な〜んだ」
榊「今度のおまえのあの手柄が、評判になってみろ……」
万七の心の中の声「ありゃ、平次に譲ってもらった手柄だ……でも、ひょっとするとこりゃ(顔が、ほころんでくる)イヒヒヒ」


 孝吉の家。  平次が来ている。

おしん「それでは、伊豆屋は、お取り潰しになるのでございますか?」
平次「まっ、一旦は、お取り潰しになるでしょう。それから、おめぇさんたち、ご夫婦は、お奉行所に呼び出されて、新しい御沙汰が、くだるはずです」
孝吉「新しい御沙汰と言いますと?」
平次「まっ、与一坊の親孝行に免じて、伊豆屋再興の御沙汰がね」

 孝吉とおしん、顔を見合わせる。

平次「おぅ、与一坊、足の具合はどうだい?」
与一「うん(すくっと立ち上がる)もう平気です(平次の前に来て正座)歩けるようになりました」
平次「そうか、それはよかった、ふ〜ん、あっ、そうだ、しじみが、へぇったらな、明神下の家に寄ってくんな。おいら、もうしじみ汁が、でぇ好きだんだ」
与一「うん、買ってね」
平次「いいとも」
孝吉「よかったな、与一、(平次に)本当にお世話をかけましてありがとうございました」
おしん「ありがとうございました」

 平次の笑顔。


 桶辰。  瓦版を持った職人が、入ってくる。

職人「おい、みんな、万助の父つあんが、手柄、たてたんだってよォ、見てみろ」
ほかの職人たち「え〜、ほんとかよ」

 皆、万助のまわりの集まり、瓦版をみる。

職人「いい、お父つあんだね」

 万助、嬉しそう。


 桶辰の隠居部屋。  万七が、来ている。

万七「だいたい、ご隠居はね、普段からそそっかしいんですよ。その癖は、早く直さなきゃいけませんね」
辰五郎「説教する気か! 帰ぇってくれ!」
万七「ああ、帰ぇりますよ! 何でぇ、他人の大事な息子を養子にしようなんて、とんでもねぇ了見だよ!」
辰五郎「ああ、帰ぇれ! 帰ぇれ!」
万七「ああ、帰ぇるとも! 何なら、万助も一緒に連れて帰りましょうか」
辰五郎「(万七を引っ張って)バカを言うんじゃねぇ! 万助は、うちのた、宝物だよ!」

 二人、顔を見あわせ、しばし無言。そして、お互いに笑い始める。


 平次の家。  八五郎と食事中。

平次「そうかい、それじゃ、養子の口は、断ったのかい」
八「え〜え、万七親分威勢のいいことっちゃありませんよ」
平次「三輪らしいぜ」
お静「はい、おまえさん(味噌汁の入ったお椀を差し出す)」
平次「おぅ」

 八五郎、自分のお椀をお静に渡す。

平次「あっ、しじみかぁ」
お静「そうよ(お椀に味噌汁を注ぎながら)与一ちゃんのしじみなの」
平次「ふ〜ん、そうかい(一口飲んで)うめぇ〜、おい、親孝行の味がするぜ」


634話 8月9日 若君とお京ちゃん 南城竜也 外山高士 村田正雄
 辻斬りが、発生。下手人は、深編笠の三人組の浪人か。 そして、若侍が、やはり深編笠の三人組に襲われる。先の辻斬りと同一犯だろうか。 調べを進める平次だが、どうも辻斬り犯と別人のようだ。 しかし、平次は、この二組の侍たちに繋がりがあることを否めない。襲われた若侍は、町人になりたいと、正体をはっきりさせないまま、平次の家に転がり込むのだが……。

 ゲスト  南城竜也さん(松平幸七郎)、外山高士さん(岩田帯刀)、村田正雄さん(吉村武左ヱ門)

 お家騒動に嫌気がさして、町人になりたいと市中に飛び出した若殿様。定番ですね。お京との恋が実らなかったのは、残念ですが、(町人だったらOKだったのに)平次が、よく言いますよね、人にはそれぞれ定めがあるって。それぞれの道で、がんばってください。

 お静、左手に包丁をもって、真桑瓜の皮を剥いていました。包丁は、左手、縫物は右手に針、ごはんなどをよそうときは、左だったり、右だったり……香山さん、器用ですね。


* お金は大事に

 平次の家。

お静「紅屋さんが、多くもらいすぎたからって、わざわざ返しに来たんですよ」
幸七郎「そうですかぁ、いいと言ったのに」
平次「幸七さん、いや、お金は、粗末にしちゃいけませんや」
幸七郎「でも、あれは、お京ちゃんにかんざしを……」
平次「いや、かんざしを買ったことをとやかく言ってんじゃねぇんで。幸七さん、余計なことかもしれませんが、あっしら、みんな、お金を稼ぐために一生懸命、汗を流して働いている。まぁ、あなたが、片身しか、食べることを知らなかったあの魚だって、漁師が、命がけで捕ってきて、棒手振りの魚屋が、一日、重い荷を担いで、売ってまわり、それをあっしらが、稼いだ金で買う。それが、庶民の暮らしってもんだ。どうか、いくらお金があってもそれを粗末に使ってほしくねぇんですよ」


* ラストシーン

 松平邸。

幸七郎「そうか、侍の幸七郎は、いやと申したか(立ち上がり、庭先へ。お京と花火見物に行ったことを思い出す)お京なら、そうであろうな」
平次「はい」
幸七郎「しかし、こうなった以上、侍をやめることは、もうできん」
平次「御心中、お察しいたしまする」
幸七郎「わかってくれるか」
平次「はい……幸七郎様、侍をやめることは、できなくても、庶民の心を持つことは、お出来になります」
幸七郎「うん」
平次「どうか、これからも町で過ごしたことを忘れず、庶民の心で奉りごとをなさってくださいまし。きっとお京ちゃんもそう願っていることでしょう」
幸七郎「(頷いて)平次、よくわかった。必ず、そういたそう」


 平次の家。  平次と八五郎、真桑瓜を食べている。 お静、瓜の皮を剥いている。

お静「お京ちゃん、本当は辛いでしょうね」
平次「うん、いや、幸七郎様は、もっと辛ぇだろうよ。本気でお侍を捨てる気でいなすったからな」
八「はぁ〜、あっしゃね、そこんとこは、どうもよくわかりませんが、でも、これだけは、わかりました。十万石のお殿様でも女にふられることが、あるんですからね。あたしが、ふられるのは、あたりまえだと……アハハ」
お静「まっ、八つあんたら……うふふ」


635話 8月16日 死者を呼ぶ女 范文雀 荒谷公之 木村元
 死者を呼び出すと評判の言霊のお勢。
 呉服問屋越後屋に押し込みが入り、三人の店の者が、殺された。そのひとり、越後屋の弟だが、平次は、その死に様、腕の火傷の跡に疑問を持つ。しかも行方知れずだったのを、お勢のお告げにより、最近、見つかり、家に戻ったという。平次は、お勢を胡散臭く思い、背後に犯罪の匂いを感じ取る。そして、お勢は、薬種問屋相模屋の姪を捜す依頼を受けるが……。

 ゲスト  范文雀さん(お勢)、荒谷公之さん(仙次)、木村元さん(宇吉)

 平次親分、「斧 琴 菊」の判じ物の浴衣を着ていました。

 ラストの立ち回り。平次の十手さばきのパフォーマンスが、目立ちました。十手をクルッと回してから、相手に見せつけるようにしたり、二丁十手を両手で、一度にクルクル回したり……。

 お勢役の范文雀さん、テレビドラマ「サインはV」「アテンションプリーズ」などで、人気を博しました。2002年11月5日に若くして亡くなられたのは(享年55歳)記憶に新しいところです。女優の余貴美子さんとは、従姉妹だそうです。


* ラストシーン

 相模屋の前。  相模屋から、お勢が出てくる。 平次とお勢の弟、仙次が、出迎える。

仙次「どうだった? 相模屋夫婦は、喜んでいたかい」
お勢「ええ、それはもう。 私も目がしらが、熱くなったわ(平次を見る)」
平次「そうかい、そいつはよかったなぁ」
お勢「(頷いて)私が、道を踏み外ずさずにすんだのも親分さんのお陰です。ありがとうございました」
平次「な〜に、礼を言うのは、こっちの方だ。おめぇが、宇吉とのつながりを言ってくれたお陰で一味をお縄にすることが、出来たんだからな」
仙次「親分、姉ちゃん、これからどうなるんです?」
平次「一応、番所へ送らなくっちゃならねぇだろう。だが、罪は軽くて済むだろうよ」

 仙次とお勢、顔を見合わせて、ほっとした表情。

平次「さぁ、行こうか」
お勢「はい」

平次、お勢を連行する。 見送る仙次。

往来。 平次とお勢が、歩いて行く。
636話 8月23日 ひとつぶの涙 鮎川いづみ 佐々木勝彦 清嶋智子
 ちんぴら共に追われていたおゆき。居合わせた同心榊が、おゆきを助けるが、おゆきは、何も言わず、ただ涙を流して、その場を去って行った。落していったかんざしをたよりに恋心もてつだって、榊は、おゆきを捜し求める。が、再会したところは、なんと番屋。水茶屋の主人、嘉助を殺したと自首をしてきたのだ。そして、庄吉という男の死体があがる。嘉助を殺したという遺書を持っていたことから、おゆきは、庄吉の身代わりになったと判断され、解放しとなる。落着したかに思えるこの事件、平次は、どこか腑に落ちない。

 ゲスト  鮎川いづみさん(おゆき)、佐々木勝彦さん(巳之吉)、清嶋智子さん(おはな)

 万七と清吉に言わせると、まだ乳離れしていない同心榊。その榊に惚れた女が、出来たという噂話で、「かすが」が、盛り上がっていました。

 裏切ったつもりが、裏切られ……。薄幸な生活をしてきたおゆき、所帯をもって、小さくてもいい、幸せになりたかったのでしょう。榊を罠にはめた、そら涙から始まったこのエピソード、ラストは、真実の涙で締めくくりました。

 おゆきが、犯罪と絡んでいて、ショックを受けた榊ですが、平次に諭され、同心の仕事に意気込みを新たにします。


* ラストシーン

 薬師堂。  巳之吉とおはなをお縄にしたあと。
榊「おゆき……おまえのあの涙は、やはりそら涙だったのか」
おゆき「涙? ハハハ、どこまで甘いんだろうね、旦那は。涙なんてね、出したくなくたって、流せるんですよ。いえね、悲しくないから、たいして辛くないから、いくらでも泣けるのさ。死ぬほど辛けりゃ、涙なんて、一滴も出やしないよ。ふん、女の涙に、いちいち、いちいち、騙されてりゃ、旦那、そんな商売、やっちゃいけないよ」
平次「そいつは、どうかな……いいかげんに強がりは、やめるんだ、おゆき」
おゆき「強がりだって! ふん、何言ってんのさ、なんで、私が……」
平次「榊さんはな、おめぇを心の優しい女だと今でも信じているんだぜ。確かにおめぇは、人殺しの片棒を担いだ女だ。だがな、おゆき、そのおめぇよりも榊さんが、信じているおめぇの方が、本当のおめぇじゃねぇのか、おいら、そう思っているんだよ」
おゆき「……(榊の顔を見る。そして、涙をあふれさせる。平次の顔を見て)親分さん……」
平次「(あごでしゃくって)八」
八「へい……さぁ」

 八五郎、おゆきを連行していく。  榊、後を追おうとするが、平次が、留める。

榊「親分、なぜだ、なぜ、あの女が、ここまで……」
平次「悪いのは、あの女だけじゃねぇってことですよ、榊さん、そいつに目を光らすのも、おいらたちの仕事じゃねぇんですかい」
榊「うん、親分、やるぞ、俺は。十手を預かる同心として、私は、今日ほど生きがいを感じたことはない」
平次「さぁ、行きましょうか。まっ、大方、今頃はもう次の事件が、おいらたちを待っているでしょう」

 平次と榊、顔を見合わせ、おゆきたちが去って行った方を見つめる。
637話 8月30日 地獄の影 阿藤海 三浦真弓 鶴田忍 伊沢一郎
江戸所払いとなった仙次が、なぜ、舞い戻ってきたんだろう。散々、食いものにされてきた、おゆうは、仙次の影に怯える。浅吉という伴侶を得て、やっと幸せを掴んだところなのに。仙次のことが、知れたら幸せは、あっという間に崩れてしまうだろう。それが、おゆうには、怖かった。小間物屋の桔梗屋が、刺殺された。下手人は、仙次で、浅吉と間違えての犯行とみられた。しかし、仙次をよく知る平次は、桔梗屋の傷口に不審を抱く。

 ゲスト  阿藤海(快)さん(車坂の仙次)、三浦真弓さん(おゆう)、鶴田忍さん(浅吉)、伊沢一郎さん(高田屋)

 平次の夫婦観、時々、出てきますが、納得はするものの、私にとっては、難しい(笑)です。

 平次の浴衣は、紺地に、白線が、入った大胆な模様でした。


* 夫婦とは

平次「(おゆうに)夫婦ってぇのは、そんなもんじゃねぇ。心の中にある古傷や、しこりをさらけ出して、お互ぇが、赦し合い、いたわりあうのが、本当の夫婦ってもんじゃねぇのかい」


* ラストシーン

 番屋。 万七、清吉、八五郎、お茶を飲んでいる。

清吉「まさかなぁ、高田屋が、下手人とは、夢にも思わなかったよォ」
万七「いや、俺もな、くせぇとは、思ってたんだがな、なんせ、確かな証拠が、ねぇもんだから」
八「え〜っ、万七親分も高田屋に目をつけてたんすかァ」
万七「あたりめぇよ!」
八「ハッハッハァ〜、でもちょっと手遅れでしたね、イヒヒヒ」
万七「まっ、桔梗屋殺しは、平次に先を越されたが、仙次の奴は、必ず、俺がお縄にしてみせるぞ!」
八「仙次?」
万七「そうとも。奴は、まだ、この江戸にいるはずだ。清吉! 行くぜ!」
清吉「へい……あ〜ぁ(溜息)」

 万七と清吉、出ていく。

八「やれやれ、ご苦労なこった〜」


 浅吉の家。  浅吉が、飾り職の仕事に精を出している。 傍らに、幸せそうな面持ちのおゆうがいる。 外で、様子を窺っていた平次、安心して帰っていく。
638話 9月6日 なみだ橋 池上季実子 八木昌子 小畠絹子 北条清嗣
 人間の定めは、一体誰が糸を引いているのだろう。十五年ぶりに突然、上方から、お加代を訪ねてきた、実母、お米。養母のおせきとの間で、戸惑い、涙を流すお加代の姿を見て、平次は、そう思う。一方、平次たちは、押し込み強盗を追っていた。その手口から、上方を荒らしまわった盗賊の片割れの仕業と断定されたが、盗っ人宿と思われる米問屋にお米が、泊っていた。お米が、盗賊の一味なのか?

 ゲスト  池上季実子さん(お加代)、八木昌子さん(おせき)、小畠絹子さん(お米)、北条清嗣さん(島吉)

 冒頭、平次は、お静が家で待っているからと、「かすが」で、お弁当を作ってもらい、帰ろうとしたとたん、御用が入り、出て行ってしまいます。あのお弁当、どうなったのでしょう。お京ちゃんが、お静に届けたのかな。

 ラストは、平次と八五郎が、スイカを食べていました。よく熟したスイカで、おいしそうでした。

 タイトルの「なみだ橋」は、お加代が、実母と別れた場所、「甚兵衛橋」をそう名付けました。


* ラストシーン

 甚兵衛橋。

平次「お米さんがな、おめぇが、おっ母さんって呼んでくれたって、喜んでいたぜ。おめぇにとっちゃ、おせきさんもお米さんも母親に違ぇねぇしな」
お加代「私、あのとき、上方のおっ母さんに考えて返事を出すと言ってたんです。でも、正直に言って、自分で、どうしていいか、わからなくて、迷いに迷って、自分で自分の考えが、決められなくて、何の答も持たずにあそこに行ったんです。そしたら、あんなことになってしまって。私、上方のおっ母さんが、怪我をしたときに本当に素直におっ母さんって、呼べたんです。それが、島吉さんにおっ母さんが、倒れたと聞かされたとき、私、夢中で長屋に走って行きました。そのときの私には、今のおっ母さんしか、なかったんです。私の、私の母は、今のおっ母さん、たったひとりなんです。それが、わかったんです」
平次「おめぇの気持ちもよくわかっている。まぁ、おめぇの言うとおり、世の中にゃ、金で買えねぇものがあるってこともな。まぁ、本当の幸せってぇのは、目に見えるもんじゃねぇ。見えねぇものの中にそっと棲んでいるんだ。この中(たぶん、胸(心)を指して…画面に映らず)にな」

 お加代、神妙な様子。

平次「なぁ、お加代ちゃん、おめぇもおせきさんが、丈夫になったら、庄太を連れて上方にも出かけたらどうだい。お米さんだって、きっと、また、江戸に出てくるに違ぇねぇ。そんときゃ、お加代ちゃん、おめぇも気持ち良く迎えてやるこったぜ」

 お加代、うなずく。 橋の袂に咲くあざみの花のアップ。

平次の家。  平次と八五郎、長火鉢をはさんで、スイカを食べている。

平次「若けぇ娘に母親をどっちか、選べったって、酷な話だい。答えを出せったって、無理なことだよ」
お静「(うちわで、二人を仰ぎながら)ほんとよね、他人(ひと)の口からは、何も言えないもの」
平次「でも結局は、娘自身が、答えを出すしかねぇんだい。お加代ちゃんは、ちゃんと自分で答えを出したんだ」

 頷くお静。

八「お加代ちゃんには、、幸せになってもらいたいですね」
平次「そうだ! お静、え、そのうち、おめぇ、島吉とお加代の仲人を頼まれるかも知れねぇぞ」
お静「そうなんですか!」
平次「うん、きっとそうなるだろう」
お静「八つあんとどっちが早いかしら」
八「いや、あっしは、まだ相手がいませんから、へへへ」
平次「えっ、おめぇ、まだ、いねぇの?」
八「え、ええ……」
平次「誰も? ふ〜ん」
八「いや、あっしゃ、女よりどっちかっていうと、スイカが好きなんです」

 平次とお静、大笑い。
639話 9月13日 人情女白浪 藤間紫 下元勉 田口計
船宿「ちどり」